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キャンプ場で行方不明の娘のため…母親のSNS投稿に誹謗中傷の嵐 それでも発信やめない理由

2020年12月14日 19:00 AERA/photo 片山菜緒子

 近年、ネット上の見知らぬ相手からの誹謗中傷が激しさを増している。8歳の娘がキャンプ場で行方不明になった、小倉とも子さんもその被害者の一人だ。ネット上で人格否定や脅迫を受けても、小倉さんは発信を続けている。その理由は何なのか。AERA 2020年12月14日号で話を聞いた。

*  *  *
「娘がいなくなって本当につらくて、こんなに苦しんでいるのに、さらにどうしてこんなに苦しめられるんだろうって」

 千葉県成田市に住む小倉とも子さん(37)は、スマートフォンを手に胸中を吐露する。娘の美咲さん(8)が昨年9月21日、山梨県道志村のキャンプ場で行方不明になった。以来、小倉さんはインターネット上での誹謗中傷に苦しめられている。

■匿名アカウントの発信

 発端は、美咲さんが行方不明になった直後に小倉さんが自身のインスタグラムに上げた投稿だった。

<ご存じの方もいるかもしれませんが、うちの次女が行方不明になっています。皆さん、無事を祈って頂けると有難いです>

 これを見て心配した小倉さんが経営する店のお客や友人たちが、この投稿を拡散してくれた。しかしそこには、小倉さんの自宅兼店舗の住所・電話番号、公開前の美咲さんの写真も載っていた。拡散を止めたいと思った小倉さんは、再びインスタに行方不明の現場に捜索ボランティアが連れてきてくれた白馬の写真を投稿した。そして、

<動物が大好きな美咲に見つかったら、たくさんの人と動物達も美咲の為に頑張ってくれたんだよと話してあげたいので、不謹慎かもしれませんが写真撮りました>

 という文章も添えた。だが、小倉さんの意図が伝わらず批判が殺到し、炎上が始まった。

<こんな時にインスタやっている場合じゃないよな。死に物狂いで娘を普通だったら探す筈なのに……本当に狂っているよ>
<母親が何か知っているんじゃないか。自白しろよ>

 人格否定、侮辱……。連日のように激しいコメントが寄せられた。コメントは多い時で1日5千件近くあり、大半は応援や励ましだったが誹謗中傷も少なくなかった。その多くは匿名のアカウントからの発信だった。

 恐怖を感じた投稿もあった。

<殺す><殺しに行くからな>

 とび職だという男(31)が、小倉さんのフェイスブックアカウントにこうしたメッセージを10回近くにわたりスマホから送ってきた。家族にも危害が及ぶことを心配した小倉さんは警察に相談し、8月に男は脅迫罪で逮捕され懲役6カ月執行猶予3年が言い渡された。また10月には、自身のブログに<今までの流れで親が関与し人身売買、臓器売買が真相だろう>などと書き込んでいた男(69)が名誉毀損の疑いで逮捕された。

 小倉さんは言う。

「どこかで美咲は家に帰りたいと頑張ってくれていると思うのに、そういうことを書かれるのは腹立たしかったです」

■人格侵害件数は増加

 小倉さんは今もインスタやツイッターなどSNSで発信を続ける。逮捕者が出たことなどもあり、最近は誹謗中傷のコメントはかなり減ったというが、ゼロではない。見るたびつらくなり、身内や友人たちからは、コメントを見るのもSNSでの発信もやめるよう何度も言われた。実際、つらくてコメント欄を閉じたこともあった。しかし、小倉さんはやめるわけにはいかないと話す。

「美咲に関する有力な情報があるかもしれません。誹謗中傷されてつらいことより、美咲が戻ってこない方がつらいから私は続けます」

(編集部・野村昌二)

【#先生死ぬかも…SNSで教師が悲鳴 オンライン授業で負担増「これ以上は地獄」】

※AERA 2020年12月14日号より抜粋

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スタンフォードで教える校長が語る 「不登校は才能、個性の一つの形」

2020年12月14日 19:00 AERA

 毎朝起きて学校に向かう。自分の子どもが、そんな「普通の子」と同じことができない時、「どうしてうちの子に限って、不登校になってしまったんだろう……」と悩み、学校に行きたくないと言う子どもを「我慢が足りない」「どうして皆と同じようにできないの?」と責めてしまうことがあるかもしれません。そのような悩みを抱える親御さんたちの悩みに応えるために、アメリカのシリコンバレーにある「スタンフォード・オンラインハイスクール」の校長、星友啓さんにインタビューしました。同校は、オンラインスクールながら全米の学校中でもトップ校として認知されています。

*  *  *
■成績が悪い、学校についていけない天才児たち

 私が校長を務める学校には、いわゆる「ギフテッド(天才児)」と呼ばれる子どもたちが多く在籍しています。「ギフテッド」と判定される子どもたちの中にも、学校での成績が低い子どもたちが少なくありません。

 通説となっている、「天才は成績が良い」というのは誤り。才能の開花は適切なサポートがあってこそです。

 天才かどうかにかかわらず、「成績が芳しくない」というのは、その子どもが才能や適性に見合った学習サポートを受けていない、あるいは受けてこなかったことを表しているに過ぎません。

 子どもたちの才能は多様です。その子ども自身が学校の枠組みに合わないと、勉強がつまらない、同級生とうまくいかない、社会性がない、成績が悪い、不登校などの形で表れます。

 特に「ギフテッド」の子どもたちは、早くから周りとは違った考え方をしたり、物事の本質を見抜いた疑問を抱いたりしがちで、「普通」の学校では「変わり者」や「不適合」のレッテルを貼られてしまいがちです。

 皆が同じ授業、同じ進度という公教育の「平等」が、「ギフテッド」の子どもたちの個性や才能を潰し、彼らにとって学校を生きづらい環境にしてしまいかねないのです。

「不登校」は現在の学校環境が子どもの個性や才能をサポートできないということの表れにすぎません。

「不登校」の子どもを「ダメ」と決めつけるのではなく、その子どもの個性や才能の「叫び」を受け止めて、適切なサポートを考えていく必要があるのです。

■「教育」はもう古い!? 子どもの学びをサポートする「学育」

 私は、子どもの「学び育つ」主体性に焦点をおいて学習をサポートしていこうと呼びかけてきました。

「教育」の「教え育てる」という視点が、教える側の視点に偏りがちなことに注意して、学ぶ側の子どもたちにいま一度焦点を向け直さなければならない。そのメッセージを込めて、「学育」という言葉を提唱してきました。

「学育」に視点をシフトすることは、才能を伸ばすための最重要ヒントです。子どもの主体的な学びを引き出すには、まず、教育方法や教材を決めつけず、子どもにフィットしたものを見つけていくことが必要です。

 どれだけ世間でいいと言われていても、あなたの子どもに合わなければ意味がありません。「いい教材のはずなのに、できないなんてお前はダメだ。」ではなくて、その子どもに合わない教材や学習環境を変えることに目を向けなくてはいけません。

 それから、ステレオタイプで子どもに「レッテルを貼る」のをさけましょう。

「あなたは国語ができるけれど、数学は苦手ね」

 こうした何げない声かけが、大きなマイナスの影響を与えてしまうことがわかってきています。

「不登校」「勉強嫌い」「落ちこぼれ」とネガティブなラベルで子どもを決めつけてしまうこと自体が、子どもの個性や才能をつぶして、子どもを本当にダメにしてしまうのです。

【人気講談師・六代目神田伯山の妻 子どもの性別を公表しない理由、ジェンダーへの思いを語る】

■自分の学びは自分でデザインする!「Design Your Learning」とは?

 スタンフォード大学オンラインハイスクールでは、子どもたちの可能性をみんないっしょの横並びの枠組みで制限せず、子ども一人一人が必要な学習環境をサポートできるような学校づくりをしてきました。私は、その考え方を「Design Your Learning」と呼んでいます。

 例えば、オンラインハイスクールでは、通常の「統一カリキュラム」や「学年」がありません。

 年齢でなく、学習進度や目標に合わせたカリキュラムを生徒それぞれにデザインしていくために、アカデミックアドバイザーがサポートします。そのため、13歳で歴史の授業は通常の中1レベル授業だが、数学は大学レベルのコースを履修なんていうことがザラです。

 また、通常の意味での「時間割」ありもません。

 例えば、同じコースをとっている生徒たちが、同じ時間の同じ授業に参加するとは限りません。毎年、スケジュールづくりの時期が来ると、子どもたちは、睡眠時間や、その他の課外活動などの予定を学校に提出します。生徒たちのスケジュール、国によって違うタイムゾーン、教員のスケジュールをデータ化してスケジュールをコンピューターで最適化。生徒一人一人に合った、授業スケジュールをはじき出します。

 世界の教育は、子ども一人一人に学習を最適化する「パーソナライズド学習」に向かっています。「Design Your Learning」は、自分に最適化されたカリキュラムをこなしていくという受け身の姿勢から一歩進んで、生徒が主体性を持って自分で自分の学習をデザインしていけるようサポートするという考え方なのです。

■子どもたちの可能性、才能を広げるために私たちができること

 子どもたちの才能、個性は一人一人違います。

 誰にでも万能な教育、学習方法は存在しません。学校も、学習形態の一つにすぎないのです。だととしたら、「不登校」「学校に行かない」も、それだけで「マイナス」にとらえてはいけないのです。

 可能性、目の前の子どもの才能、個性にもっと目を向けなおして、その子どもにあった学習の選択肢を見つけてみませんか。

 私たち大人、親の役割は、学ぶ主体である子どもの小さな変化や成長を注意深く観察し、彼らの学習条件を最適化するためのサポートを試行錯誤しながら行うこと。

 子どもたちの可能性を閉ざさないように、彼らがもともと持っている個性や才能を花開かせて、広げていくサポートを意識してみてください。

 ここに書いてあることが少しでも役に立ったなら、ぜひ先生、ママ友やご友人、教育に携わる方々、お子さんをお持ちの親御さんにシェアしてあげてください。

【学校再開で子どもの「コロナいじめ」増加 親にできる防止策「応答力」「共感力」が大切】

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奨学金は怖くて借りられない、国の支援は届かない 「年収5、600万円世帯」の苦境

2020年12月14日 19:00 AERA/(c)朝日新聞社

 コロナ禍の減収が教育費も圧迫している。苦境に喘ぐ親と学生たちの悲痛な叫びは、高等教育費の負担を家計に押し付けてきたこの国の根本の問題を照らし出す。AERA 2020年12月14日号から。

*  *  *
 政府は5月、コロナで学びの継続に支障が生じる学生の救済のため「学生支援緊急給付金」を創設、住民税非課税世帯の学生に20万円、それ以外で条件を満たす学生に10万円を給付した。4月からは「高等教育修学支援制度」で、住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の学生を対象に授業料・入学金の減免と給付型奨学金の支給が始まっている。

 だが、中京大学の大内裕和教授はこれらの制度で救われるのは「ごく一部の世帯」と指摘する。

「政府は修学支援制度を『大学無償化』などと喧伝(けんでん)していますが、減免対象は年収目安が4人家族で380万円未満です。これは全学生の1割程度に過ぎず、『無償化』には程遠い。緊急給付金も同じく全体の約1割にしか恩恵がなく、コロナ禍に苦しむ多くの学生には支援が届いていません」

 現在、4年制大学での奨学金利用者の割合は約半数で、2割程度だった1996年から倍増した。親が学費を負担できない中間層の家庭が相当数あり、コロナ禍でも放置されているのだ。

 今夏、全国の奨学金情報から条件に合うものを検索できるサービス「Crono My奨学金」を始めた高瀛龍(こういんろん)さんもこう話す。

「最も多い登録ユーザーは、年収500万~600万円で子どもが多い世帯です。この中間層がいま一番苦しい思いをしています」

 全国大学生活協同組合連合会 理事の矢間裕大(やざまゆうだい)さんによれば、11月から実施中のアンケートには、こんな声も届いている。

「コロナ禍で親の収入が激減。10月に募集のあった給付型奨学金を申請しようとしたが、審査基準が前年度の年収なので諦めた。今困っている人が利用できる制度にしてほしい」

■家計負担の割合が高い

 奨学金を受けていない層も楽とは言えない。大内教授は、数年前から奨学金返済の大きな負担が社会問題化し、「苦しくても親が貸与型奨学金を借りさせないケースが増えた」という。

「親からの経済的支援も受けられず、貸与型奨学金も利用できなければ、学生にとってはアルバイトが命綱です。それが第3波でさらに減少すれば、彼らはますます窮地に立たされます」

 根幹にあるのは、教育に対する公的支出がOECD(経済協力開発機構)の加盟国中最低で、高等教育の家計負担の割合が高いという日本の教育政策だ。

 学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」は、4月、国の責任で授業料を一律半額免除するよう訴えた。そのメンバーで東京学芸大学4年の奥田木の実さんと同大大学院1年の佐藤雄哉さんは、こう訴える。

「私たちが実施しているアンケートに苦境を訴える学生の個別の声は届いています。でも、全体を知るには限界がある。国として学生の置かれた実態を調査し、必要かつ抜本的な救済策を講じてほしい。教育を受ける権利を保障してください」

(編集部・石臥薫子)

【「水だけで3日」「冬なら死んでいた」コロナ禍に家を失う若年層増加の現実】

※AERA 2020年12月14日号より抜粋

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月収10万円減で住まい失い自己破産 急増する「任意売却」と21年住宅市場最悪のシナリオ

2020年12月11日 19:00 AERA

 コロナ禍の今、収入の減少で住宅ローンを払えない相談が増えている。AERA 2020年12月14日号の特集「住居喪失」から。

*  *  *
収入減から生活の収支が破綻し、住まいを手放さざるを得なくなった人もいる。建設関係の会社で働く千葉県在住の男性(49)は11月、35年ローンを27年きっちり返済してきたにもかかわらず、住まいを失った。

「残念だし、悔しいです」(男性)。35年ローンでマンションを買ったのは27年前、新築の3DKで、価格は2980万円、月々の支払いは約10万円だった。当時、2人暮らしだった父親とペアローンを組んだ。当初は父親も働き、支払いは順調だった。4年前、父親が病気で他界し、残ったローンを一人で支払ってきた。

■自己破産でアパートに

 そこにコロナ禍が直撃した。コロナ前の月収は約35万円だったが、仕事が減り、3月ごろから収入は一気に月25万円近くにまで減った。貯蓄はなく、諸々の支払いが厳しくなった。

 ローンの残高は900万円近く。男性は、ローンを組む金融機関に返済期間延長を相談したが、年齢や収入などを理由に断られた。金融ローンで借りて返済に充てたが、夏ごろには限界に達した。もうダメだ──。

 せめて少しでもいい条件でマンションを売りたいと、不動産屋を訪ねたが、最終的には裁判所に自己破産を申請した。自己破産すると信用情報機関の「ブラックリスト」に載り、住宅ローンは10年近く組めなくなる。それでも自己破産を選んだ理由を、男性はこう話す。

「マンションを売却しても残債が450万円近く残ります。それをローンで払い続けるのは、精神的にとても無理でした」


 全財産を失った男性は今、賃料月6万円のアパートに、近く結婚を考えている女性と暮らしている。家賃は折半だ。せめて県営住宅に住みたいと思うが、コロナさえなければあと8年で住宅ローンも払い終え、女性と一緒に幸せに暮らせたはずだったのに、と思いがよぎる。

「悪い夢のようです」(男性)

 こうした住宅ローン破綻は、今後さらに増えると考えられる。猶予期間の終わりが近づいてきているためだ。

 住宅ローンを払えない場合、銀行に相談すれば、まず返済条件の変更による一時的な猶予策を提案されることが多い。ただし、返済期間を延長しても、返済を始めたばかりだと月々の支払額はあまり減らず、収支改善しないこともある。

 だが、一定期間利息のみを支払うことにし、元金返済を先延ばしにすれば、返済額を劇的に減らせる。ただし、この猶予策には期限があり、それは概ね6カ月ほどだ。住宅ローンの支払いに窮し、6月頃に銀行に相談して返済猶予になっていた人々は、早ければ年末、あるいは21年年初から春先にかけて元通りの返済に戻すか、後述する「任意売却」かの選択を迫られることになる。

 また、前出の49歳の男性のように、年齢や収入などが理由で金融機関の審査が通らず返済期間延長などを断られるケースもある。通常、返済を2~3カ月滞納すると金融機関から「督促状」が送られる。こちらも6カ月滞納すると「競売開始」の通知が届く。一般的に競売価格は市場価格より割安になる。競売にかけられる前に、ローンが残っている状態で住居を売却して、ローンを清算する方法もあり、「任意売却」と呼ばれる。

■任意売却の相談が急増

 任意売却にはメリットもある。自分の意思で売却活動を進めることができるので、市場価格に近い価格で取引できる。競売と比べ、一般に3割近く高い値がつくという。身軽になるので、ローンを清算し再スタートを切りやすい。

 任意売却を専門に行う不動産会社「明誠商事」(東京都)の飛田芳幸社長によると、住宅ローンが払えなくなったという相談は、8月以降、急激に増えた。

「任意売却の相談だけで月30~40件あり、以前より10件近く増えました。30、40代からの相談が多く、業種はコロナ禍で打撃を受けた建築業や観光、飲食関係など幅広いです」


 すでに住宅ローンを滞納してしまった人にとっても、競売にかかるか、任意売却かを選ぶ期限の6カ月はやってくる。

「経営が悪化した会社も多く、冬のボーナスが減るという人は少なくない。年末にかけ、住宅ローンが払えなくなるという人はさらに増えると思います」(飛田さん)

 住居喪失の危機に見舞われる人がいる一方で、今年後半、首都圏の中古住宅市場は実は活況に沸いていた。東日本不動産流通機構が発表した10月における首都圏の中古住宅成約数は、中古マンションが3636件で前年同月比31.2%増、中古戸建てが1316件で前年同月比41.8%増と、同機構始まって以来の高い伸び率を記録した。

 新築の戸建て市場も6月以降、かつてないほど盛況だ。8月の同機構の調査によると、首都圏の新築戸建ての成約件数は573件と、前年同月を35.8%上回った。

 だが、こうした動きが来年以降、多くの住居喪失を加速させる恐れがある。

■深刻な不況これから

 深刻な不況が訪れるのは、おそらくこれからだ。北半球各国では新型コロナウイルス感染拡大の波が再び訪れ、ロックダウンなどの措置を取る国も出ている。日本でも経済活動に支障が出ることが十分に考えられる。さらなる懸念材料もある。それは、コロナ禍による収入減を見越した住宅ローンの駆け込み需要だ。もしも収入減があった場合、21年以降に住宅ローンを組むとなると、目減りした20年の年収を基準に審査される。

「それならば、19年の年収が基準となる今のうちに住宅を買ってしまおう、という動きが出ています」(専門家)

 21年以降に自分の年収が19年以前の水準に戻ることを前提にしているため、収入が戻らなければ、返済計画に無理が生じる可能性が高い。住宅ローン駆け込み需要による購入者たちは、数年後の任意売却予備軍になる。この駆け込み需要は、「ペアローンと同じくらい危険」だという。

 21年にコロナ禍が完全に消失するとは考えづらい。むしろ、世界的な景気後退は続き、日本でも一握りの業種にしか増収は望めない。つまり、多くの会社員の収入が19年以前の水準に戻るとは考えにくい。

 仮に東京五輪が開催中止になれば、経済へのマイナス影響は甚大だ。企業が恩恵を受けてきた雇用助成金や各種給付金などの効果も限界を超えつつある。日本経済は来年に本格的な不況に突入する恐れがある。今年、在庫を減らした首都圏の中古住宅も、一転して売り出し物件が急増するだろう。来年の住宅市場に明るい材料は見いだしにくい。12年の第2次安倍内閣誕生以来続いてきた異次元金融緩和による不動産価格の異様な高騰も、いつかは終わりが来る。そもそも個人所得が伸びない中での価格高騰が不自然だった。コロナ禍というきっかけを得て、一気に調整される可能性もある。

 不動産市場には、危険信号が灯っている。(取材・文/住宅ジャーナリスト・榊淳司、編集部・野村昌二)

※AERA 2020年12月14日号より抜粋

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陣痛中の妻よりスマホゲームに夢中 “共感性欠如”の夫に絶望する妻たち

2020年12月11日 19:00 AERA

 アスペルガー症候群をはじめとする障害や特性によって、夫と心が通い合わず「カサンドラ症候群」に陥る妻たち。悲痛な声に耳を傾けることが、彼女たちの回復の一助となるはずだ。

*  *  *
 ドタドタドタ。

 部屋の隅から走ってきた2歳の息子が視界に入った瞬間、リビングに横たわっていた女性(32)は、顔面に強い衝撃を受けた。口からボタボタ血が滴っている。前歯が折れたようだ。息子にけがはないが、大声で泣いている。

 しかし、夫は視線をテレビに向けたまま微動だにしない。日曜の夜9時。女性が救急外来のある病院を探し、電話し始めると、テレビはCMに切り替わった。ようやく夫が「何やってるの」と振り返る。だが、動じる様子はない。女性はひとり病院に向かい、応急処置をしてもらって深夜2時に帰宅した。その間一切連絡なし。そして翌朝、夫は開口一番、こう言った。

「どこの病院に行ったの? タクシー代は5千円くらい?」

 なんで私のけがのことよりタクシー代なの? 言い返す気力さえ失った女性に、夫は続けた。

「歯ってもう生えてこないの?治療しないとダメなの?」

 心が折れた。


 何事にもポジティブで決断力がある──。それが出会った頃の夫だった。クヨクヨしがちな自分と対照的なところに惹かれた。話しかけても生返事で、会話が成立しにくいことはあったが、夫の言動への違和感が強くなったのは妊娠してからだ。つわりなのに無理やり食事に連れ出し、「食べられないの?」と不機嫌になった。陣痛の最中、腰をさすってと頼むと、スマホでゲームをしながら無言で片手を動かすだけ。退院の日にささいなことで言い合いになると、「もう君のことは好きじゃない。赤ん坊はひきとって」と背を向けた。

 その後、子どもをかわいがってくれるようにはなったが、お風呂を頼んでも「俺は外で働いているのに。君は子どもと家にいるだけだろ」と迷惑がる。夫にとって私は何なのだろう──。

 どんどん気持ちが沈む中、ネットで見つけた「アスペルガー症候群」の記述にくぎ付けになった。特性の「共感性や情緒的な反応の乏しさ」が夫にぴたりと当てはまる。「自閉症スペクトラム(ASD)」の一種で、知能や言語能力に遅れがないため、気づかれないまま大人になっていることが多いと書かれていた。


 女性は実家の両親に打ち明けた。だが、返ってきたのは「男なんてみんなそんなものよ」というセリフ。ああ、わかってもらえないんだ。私が求めすぎているの? 悪いのは私?

「ぐるぐると同じことばかり考えて、ご飯を作るのも外出もおっくうになっていきました。最初は『疲れた』と独り言を言っていたのが、『消えたい』に変わって、気づくと『死にたい』になって……」(女性)

 歯が折れた事件の翌朝、このままでは自分が壊れてしまうと考えた女性は、息子を連れ、寄り付かなくなっていた実家に避難した。数日後、「カサンドラとその回復のために」と題する講演会が横浜であることを知った。登壇者は『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』(コスミック出版)シリーズで知られる漫画家の野波ツナさん。11月、すがる思いで会場に向かった。


 カサンドラ症候群とは、「共感性の欠如」という特性を持った人のパートナーに生じる身体的・精神的苦痛のこと。診断名がつくほどの社会的不適応は認められない「アスペルガータイプ」にもその特性はみられる。アスペルガー症候群の発症率は女性より男性が高いとされるため、必然的にアスペルガー特性を持つ夫とカサンドラ妻の組み合わせが多くなる。彼女たちは夫と心を通い合わせられない孤独と、周囲に理解してもらえない二重の孤独に苦しみ、片頭痛や抑うつ、パニック障害などさまざまな症状が出る。その苦悩と脱出の過程を赤裸々に描いた野波さんの作品はカサンドラたちの「バイブル」だ。

 臨床心理士で、夫婦関係と発達障害が専門の青山こころの相談室代表の滝口のぞみさんは言う。

「カサンドラ症候群はここ5年ほどでかなり知られるようになりました。当初は、長年の苦しみの原因はこれだったのかと気づいた50、60代の妻たちが相談に殺到しましたが、最近は若い女性やカップル、男性からの相談も増えています」


「共感性の欠如」とは、「わかるわかる」と同意してくれないだけなのか。「性格の不一致」や「価値観の相違」と何が違うのか。滝口さんは「幅はあるものの、想定を超えた極端さや悪意のない冷淡さがアスペルガーの特徴」と言う。

 それが深く妻の心を傷つけるのは、出産、育児や近親者の死などに関わる時だ。つわりで苦しむ妻に「そんなにつらいなら堕ろしてもいいよ」と言い放った夫。野波さんの夫は陣痛を訴える妻に「このゲームをクリアするまで待って」と真顔で言った。

 イギリス人男性と留学先で知り合い、国際結婚した研究者の女性(53)はこうこぼす。

「夫の母が亡くなり、イギリスでの葬儀に行きたいと娘が言うと、夫は『来なくていい。もうただの死体だから』と」

(編集部・石臥薫子)

※AERA 2019年12月23日号より抜粋

【教育のプロが語る“コロナ離婚”の意外な原因 「子育ての軸」を持たない夫婦は弱い】

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ミシュラン受賞!ラーメン店「琥珀」大躍進に見る業界の期待と憂い

2020年12月11日 19:00 AERA

 9日、「ミシュランガイド東京2021」が発表された。高級な店をイメージする人も多いかもしれないが、そのミシュランの中にある、「ビブグルマン」は少し違う。東京の場合、5000円以下で食事ができるコストパフォーマンスの高い店に与えられる指標の一つで、これまでにも老舗から新進気鋭の名店が受賞を果たしてきた。

 数々の名店が名を連ねているビブグルマンに今年、新たな名店が仲間入りした。京急線の雑色駅(大田区)にあるラーメン店「琥珀」だ。ラーメンライターの井手隊長がそのこだわりをお届けする。

*  *  *
 京急線の雑色駅(大田区)から徒歩5分、古くから続く商店街を抜け、踏切を渡った先に「琥珀」はある。決して駅前の目立つ場所ではないが、令和元年5月1日のオープン以来、連日大行列を作っている。


 一杯につき約65個のしじみを使用した「琥珀」のスープは、芳醇な香りに溢れている。ひと口食べただけでしじみの旨味が口の中に広がる。これまでに食べたことのない一杯だ。

 店主の岩田裕之さんは、20代の頃に食べた横浜家系ラーメンがきっかけで、ラーメンの食べ歩きを始める。当時好きだったお店は「六角家」と「八代目がんこラーメン」。30歳までは会社員だったが、食好きが高じて飲食業界に飛び込んだ。居酒屋や焼肉店などを経て、ラーメンでの独立を考えるようになる。そこで13年、知人の紹介で東十条の人気店「麺処 ほん田」の門を叩いた。当時36歳。やや遅めのスタートだった。

「ほん田」は明るく楽しい職場だったが、仕事は過酷だった。何時間も立ちっぱなしで、特に夏の暑さは厳しかった。何度も逃げ出したくなったが、ラーメン作りの楽しさに夢中になった。


「焼肉は素材で美味しさが左右される部分が大きいですが、ラーメンは素材とともに技術によるところも大きい。いい素材を使ったからといって、美味しいラーメンが作れるわけではないですからね」(岩田さん)

 その後、「ほん田」がプロデュースするお店の責任者を3年半務め、ラーメンの新たな味づくりをいくつも手掛けていく。19年に入り、いよいよ独立に向けて動き始めたとき、雑色で韓国料理店を営む母親から、「そろそろお店を閉めたい」と相談を受けた。母が長く守ってきた場所で成功したいと、お店を改装してラーメン店を開くことを決意する。準備を進め、大安だった5月1日、「琥珀」は令和初日にオープンした。

■貝だしラーメンの時代が到来!?

 王道の醤油や豚骨ではなく、しじみをラーメンのスープに選んだのは、関西で食べたしじみラーメンの味が忘れられなかったから。「ほん田」の系列店「夏海(なつみ)」の限定ラーメン「しじみラーメン」をヒントに味づくりをして完成させた。


 しじみの仕入先にもこだわった。いくつかの候補の中から、力強いダシがラーメンに向いていると島根県の宍道湖産を採用。岩田さんが何度も交渉を繰り返した結果、価格・品質ともに申し分のない仕入先を見つけることができ、しじみラーメンを一緒に盛り上げてくれるパートナーとなった。味づくりにも自信がつき、思いきって店名に「宍道湖しじみ中華蕎麦」と入れた。島根県出身というわけではないが、宍道湖のしじみに絞ることにした。


 しじみというと味噌汁のイメージが強く、一般的にはラーメンと結びつきづらい。周囲には大丈夫かと心配されたが、知り合いの有名店主たちの応援もあり、徐々に口コミが広がっていく。しじみのヘルシーなイメージもあって、家族連れや年配のお客さんもたくさん食べに来てくれた。

 岩田さんが一番意識したのはラーメンを食べた後の“余韻”だという。お店を出てから帰り道にじわじわとしじみの風味を感じながら帰ってほしいという思いだ。今後はこのラーメンを通じて、宍道湖の名前も広めていきたいという。


「琥珀」がここまで注目が集めた背景には、昨今の「貝だしラーメン」ブームがある。

 桑名産のハマグリをふんだんに使ったスープが特徴の新宿御苑前の「SOBAHOUSE 金色不如帰」が「ミシュランガイド東京2019」で一つ星を獲得。さらに、銀座などに展開する「むぎとオリーブ」もハマグリを使ったラーメンで大ブレークしたのち、ミシュランガイドでビブグルマンを獲得した(17年)。大阪でも「ストライク軒」「人類みな麺類」「醤油と貝と麺そして人と夢」など、貝だしの人気店が数多くあり、貝だしラーメンは一定の人気を保ち続けるとともに、ここ数年プチブームになっていた。


 だが、「琥珀」のようにしじみだけに特化したお店はほとんどなく、ひと口でしじみをこれほどまでに感じられるラーメンは今までなかったと言ってもいい。

 だからこそ、岩田さんは「しじみラーメン」が大行列店になるとは想像していなかったという。まずは自分の目指す一杯を作りあげ、地元のお客さんで成り立つお店を目指していた。すでに一定の人気を集めていたハマグリでもなく、近年ブーム化している鶏清湯や濃厚系でもなく、自分の道を貫いた姿勢が功を奏したのかもしれない。庶民的な味わいのしじみで上品な旨味を演出し、それが受賞にも結びついたのだ。

 人気店ができるとそれにインスパイアされるお店が増え、ブーム化するというのはよくある流れだ。だが、しじみラーメンは真似をするのが難しい。製法ももちろんだが、何より原価率の壁が立ちはだかる。ラーメン店を成り立たせるうえで、理想とされる原価率は30%ほど。「琥珀」は生産地と値段の交渉がうまくいっているとはいえ、それでも原価率は40%を超えているという。


 しじみラーメンはお酒を飲んだ後にピッタリなこともあり、今後は繁華街で朝まで営業できるお店を作りたいと岩田さんは考えている。都心だけでなく、「琥珀」を起爆剤に、しじみの産地である宍道湖でご当地ラーメンのように「宍道湖しじみ中華蕎麦」が広がっても面白い。だが、多店舗展開するにあたって「琥珀」もコストの壁を越えていかなければならない。

 限られた素材をむやみやたらに仕入れるお店が増えると、他のお店の仕入れにも影響してくる。貝だしラーメンに注目が集まる一方で、ハマグリなどは国内生産量が年々減少し、価格も高騰しているのが現状だ。本当に美味しいラーメンが残るためには、産地側も食材をおろす先をしっかり選ぶなど、ある程度の条件設定が必要になってくるだろう。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

※AERAオンライン限定記事 2019年11月17日配信

【年間100杯食べる強者も! 横浜家系ラーメン総本山「吉村家」の直系店以上に直系の味 店主のこだわり】

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「もうお金がない」「死ねば楽に…」コロナ禍で迫る路上生活の危機 人として最低限の生活とは

2020年12月11日 19:00 AERA

 新型コロナの影響による失業から経済的に困窮し、家賃の支払いに苦しむ人たちがいる。住居喪失の危機は命の危機でもある。「住居喪失」を特集したAERA 2020年12月14日号から。

*  *  *
 賃貸住宅で家賃を払えないということは、路上に放り出されるリスクに直結する。

「このままだと家賃も払えなくなります」

 11月下旬、東京都豊島区のハローワーク池袋でパソコンの求人検索画面に向かっていた男性(36)は、言葉少なに語った。


 男性はフリーランスでイベント関係の仕事をしていたが、コロナによってイベントは軒並み中止になった。月30万円近くあった収入は4月以降、ほぼゼロになった。フリーランスなので失業給付ももらえない。

 そこへ重くのしかかるのが家賃だ。都内の一人暮らしの部屋の家賃は月9万円。持続化給付金の100万円をもらい、しばらくはしのいだがそれも底をついた。8月には家賃が払えなくなった人を支援する国の公的制度「住居確保給付金」を得たが、それも10月に切れた。

■死ねば楽になるかも

 これまでハローワークに行くことは躊躇していたが、先が見えなくなり、この日初めて訪れたという。男性は言う。

「とにかく何でもいいから安定した仕事に就きたい。家を失うのが一番怖いです」

 住居確保給付金とは、2015年4月に施行された「生活困窮者自立支援法」に基づく制度で、支給額は市区町村ごとに異なる。東京23区の場合、1人世帯で毎月5万3700円、2人世帯で6万4千円を上限に給付が受けられる。厚生労働省によると4~10月の利用者は全国で計10万件を超え、リーマン・ショック後の2010年度1年間(3万7151件)の約3倍にもなった。

 だが、支給期間は原則3カ月、最長で9カ月。この間に仕事に就くなどして生活を立て直してもらう狙いだが、現実は厳しい。


 神奈川県に住む女性(33)も苦しい胸中を語る。

「もうお金が、ありません」

 契約社員として働いていたが、コロナ禍前の昨年、契約は更新されず打ち切られた。居酒屋などでアルバイトしていたが、5月、コロナ禍の影響でそこも解雇され無職になった。次のアルバイト先を探したが見つからず、無収入の状態が続いた。

 家賃は月8万円。一緒に暮らすパートナーと折半だが、パートナーもフリーランスで収入は不安定なため、支払いは苦しい。

 女性は母親(60代)から毎月仕送りをもらい、何とか家賃を払ってきた。しかし、母親も4月にコロナによる会社の経営悪化で解雇になり、仕送りを続けられる状態ではなくなった。夏には住居確保給付金も受けたが、3カ月で切れた。貯蓄はなく、月末にはクレジットカードの請求もあった。

 死ねば楽になるかも──。

 そう思い、部屋で首を吊ったり剃刀で手首を切ったりしたが、死ねなかった。11月にアルバイトが見つかり何とか持ち直したが、不安は尽きない。

「このままだと金融ローンで借りるしかありません」(女性)

 生活困窮者を支援するNPO法人「ほっとプラス」(さいたま市)の相談員、高野昭博さん(65)は、窮状をこう話す。

「今は、多くの方が路上生活の一歩手前で何とか踏ん張っている状態です」


 コロナ禍で相談は例年の3倍近く増えた。非正規で働く20代、30代の若者が多く、「まさかここまで深刻になるとは思わなかった」と口を揃えるという。

 家を失うとはどういうことか。

 最近までホームレスをしていたという男性(35)が取材に応じてくれた。コロナ禍で職を失い、3カ月近く路上生活をした。

「やるせなく、悲しかったです」

 そう当時の心境を振り返った。

■最低限の生活がしたい

 都内に本社がある観光業界で契約社員として働いていたが、経営が悪化し、4月に契約が更新されず職を失った。会社の寮に住んでいたが、直前に転勤の辞令を受けて寮を出て、さいたま市内のビジネスホテルで暮らしていたので、仕事と同時に住まいも失った。家族とは絶縁状態で、10年以上連絡を取っていない。頼る人もおらず、わずかな貯金と日雇いで稼いだお金でネットカフェなどに寝泊まりしていたが、7月にその貯金が底をつき、ホームレスになった。市内の公園や廃墟になったビルの階段で一日一日を過ごした。食事は1日1食、知り合ったホームレスがくれるコンビニの賞味期限切れの弁当などでしのいだ。風呂は、公園の水道でタオルを濡らして体をふいた。

 寒くなってくるにつれ、命の危険を感じるようになった。10月下旬、先の「ほっとプラス」につながり、同法人が運営する宿泊施設に入ることができた。先日、生活保護の受給が決まり、近くアパートに移り住むことができるという。男性は言った。

「家があって、食べるものがあって、風呂にも入れて、人として最低限の生活をすることが、今の望みです」

 先の高野さんは言う。

「住居は生活の基盤です。それを失うということは、生活自体が成り立たなくなるということ。民間の力には限界があります。国は、住居確保給付金の延長とともに、住居をなくした時の住居の確保はもちろん、生活保護に至らなくてもその手前でアパートに入るためのお金を提供する支援が必要です」

 住まいを失うことは、命の危機に直結する。コロナ禍は、非正規雇用や若者、病を持つ人など、社会的弱者をシビアに襲う。支援や政策、社会全体での助け合い、あらゆる手段を駆使しなければ、住居喪失の危機は避けられない。対策は待ったなしだ。(編集部・野村昌二)

※AERA 2020年12月14日号

【ローン破綻で夢のタワマン失った もう他人事じゃない「収入減で住居喪失」の原因とは】

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「鬼滅」新聞ジャック わかる人にだけわかる「ネタバレ」と漫画への敬意

2020年12月11日 19:00 AERA

 新聞を開いたら、キャラクターが一面丸ごと使って現れる―――。そんな強烈な広告は久々だった。

 社会現象化した大人気漫画、「鬼滅の刃(きめつのやいば)」の最終巻となる23巻発売でのプロモーションの話だ。

 朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、毎日新聞、産経新聞の全国紙5紙で、23巻発売前日の12月3日夕刊と、当日の4日朝刊の見開きを「鬼滅の刃」のキャラクターが飾ったのだ。


「鬼滅の刃」は、週刊少年ジャンプで連載され、大ヒットした漫画作品だ。2019年4月から9月にかけて深夜枠で放送されたTVアニメも人気を博し、20年には社会現象化。今年10月16日に公開されたアニメメーション「劇場版『鬼滅の刃』 無限列車編」は、公開から52日間で興行収入が288億円を超え、日本歴代1位の「千と千尋の神隠し」(308億円)に迫ろうとしている。

 原作漫画の売り上げも好調だ。アニメが放送されるまで、シリーズ累計約350万部だった単行本の発行部数は、2020年10月には累計1億部を突破。最終巻となる23巻が発売されると、累計発行部数は1億2000万部に到達した。

 さらに最終巻発売に合わせ、冒頭のような派手な新聞広告戦略が展開された。

 新聞によって別のキャラクターが出ていることもTwitter上で話題になった。作中の主要登場人物で言えば、我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)が朝日、主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が読売、「炎柱」として劇場版で話題を集めた煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)が日経、「水柱」の冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)が毎日、嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)が産経といった形だ。


 人気の女性キャラクターも登場した(産経を除く)。朝日が炭治郎の妹・禰豆子(ねずこ)、読売が栗花落カナヲ(つゆり・かなを)、日経が甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)、毎日が胡蝶しのぶ(こちょう・しのぶ)。いずれも同じ紙面を飾った男性キャラと、作中で対になることが多いキャラクターだ。

 このあたりの顔ぶれはアニメにもよく登場しており、馴染みのある人も多いだろう。だが、各紙に登場したキャラクターは3人ずつで、3人目はアニメだけの視聴層にはわかりづらかったかもしれない。

 3人目はいずれも「柱」と呼ばれるキャラクターで、主人公が所属する、鬼を倒す組織「鬼殺隊」で最も位が高い剣士たちだ。アニメでも登場はしているが、劇場版が終了した時点では、炭治郎たちとまだ深い関わりを持っていない。

 原作を読了していないと、3人目のキャラクターの名前が出てこない人も少なくないようで、Twitter上では「知らないキャラクター」と表現する人も散見された。


 なぜ、集英社は、アニメ視聴層には馴染みの薄いキャラクターも全面で載せたのか。

 これは、この新聞広告のターゲットが、社会現象化を牽引したアニメファンというより、きちんと原作漫画を読み進めてきている読者を対象としているからではないだろうか。

 今回の新聞広告の狙いについて、「鬼滅の刃」の見開き広告を担当するPR会社・プラチナムの担当者はこう説明する。

「コミックスの完結記念と、累計部数1億冊突破について読者に感謝の念を述べさせる趣旨で広告を出させていただきました。より多くの方々に、コミックスを手に取っていただければ幸いです」

 実は、新聞広告には一部ネタバレを含む内容も入っている。

 例えば、朝日新聞の4日朝刊には、前述のように炭治郎の妹、禰豆子が掲載されているが、アニメの禰豆子とは面影が異なる。アニメ本編ではいつも竹をくわえていたが、広告に映っているのは大人びた女性のそれだ。


 これが何を意味するかはここでは伏せるが、22巻の最後と大きく関わるとだけ言っておこう。原作読者なら感慨深い描写でもあり、この広告の心憎い演出でもあるのだ。
               
 全面広告が、幅広い層に話題性を作りつつも原作ファンをターゲットとしていると考えられることからもわかるように、集英社のある種冷静ともいえるマーケティングは、最終巻の初版発行部数にも表れている、と筆者は考えている。

 23巻の発行部数は395万部と発表され、「鬼滅の刃」が掲載されていた週刊少年ジャンプ史上最高とならなかった。


 現在、「鬼滅」人気はすさまじく、コラボした蒸気機関車乗車券からお菓子までが様々な商品が人気を博している。そして今回の新聞広告まで、転売されるものも多い。最終23巻も同様に「転売屋」によって買い占められ、ネットで転売される現象も起きている。

「投機的」な動きすらある「鬼滅」関連グッズだが、その多くはアニメ由来だ。アニメからブームに火がつき、アニメファンが社会現象の原動力となっていることは間違いないが、このファンのうちどれだけの人が原作漫画を最後まで読んでいるかというと、状況は変わってくる。

 つまり、「鬼滅」最終巻の395万部という数字はこうした動きに惑わされることなく、集英社が冷静に「どれだけ原作ファンがいるか」という実需を見定めて出した数字だと考えられる。

 言い換えれば、鬼滅最終巻は「記念グッズ」ではなく、23巻にも及ぶ続き物の最終巻という「読み物」であるという原点を、集英社が忘れていないともいえるだろう。


 23巻まで続く物語に対して、ファンに対して、丁寧な展開をしたからこそ、その広告も当然それに沿ったものになったと考えられる。

「鬼滅」のアニメは劇場版まで含めても、全23巻のうち、まだ3分の1の、8巻の途中までが終わったに過ぎない。原作を読んだ身としては、「ここからが本番」と言える展開だ。アニメの続編も検討されているものの発表はなく、放送がいつになるかはわからない。

 アニメの放送を待つのも手かもしれない。だが、作品の醍醐味は原作にこそ眠っている。特に「鬼滅」新聞広告を見て続きが気になったという人は、原作漫画も読み進めてもらいたい。(ジャーナリスト・河嶌太郎)

※AERAオンライン限定記事

【『鬼滅の刃』なぜ人気? プロデューサーが語る「ヒットにつながる配信戦略」】

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「大輔の身体はゴージャス」とコーチも絶賛 肉体改造した高橋大輔が挑んだNHK杯アイスダンス公式戦

2020年12月11日 19:00 AERA

 高橋大輔がアイスダンスでNHK杯に帰ってきた。シングルの五輪メダリストの情熱的な演技に多くの人が魅了されてきた。AERA 2020年12月14日号では、新たな挑戦でどんな進化を見せる高橋大輔の今を取材した。

*  *  *
 高橋大輔(34)と村元哉中(27)の2人が手を繋いで氷上に降り立ち、信頼しあったまなざしで見つめ合う。コロナ禍に集まったファンは“声援”を我慢して、心からの拍手で出迎えた。高橋は、シングル時代を彷彿とさせるステップが光る一方、筋肉質に変化した身体で力強いリフトを見せる。そして慣れない技につまずき手をつく場面も……。次々と現れる“新しい大ちゃん”に、誰もが虜になった。

 高橋は、2010年バンクーバー五輪で日本男子初の銅メダルを獲得し14年に引退。18年に復帰を果たすと、今季からはアイスダンスへの転向を決意した。

「できるだけ長くスケートをして表現をしたいと思った時に、スケートの可能性はまだある、いろいろなことを表現するのには人と組む必要性がある、と感じました」

■食べて筋肉をつける

 すべてが異例である。20代半ばがピークとされる競技で、34歳から、全く違う技能が求められるカテゴリーに挑む。しかも1年半後の北京五輪を目指すなど、常識外という声も聞こえた。

 2月にフロリダに渡った高橋は、村元とともに練習を開始。コーチは、3度の五輪王者を育てた巨匠マリーナ・ズエワだ。まず取り組むべきことは、アイスダンスらしい滑りの基礎と、独特の技の習得だった。

「マリーナから毎日、耳にタコができるくらい言われるのは、つま先まできっちり脚を伸ばすこと。蹴った後のフリーレッグの膝が、シングルスケーターは曲がってしまい、甘い部分があるんです」

 様式美を重んじるアイスダンスでは、自己流に格好良く踊ればいいのではなく、脚はこの角度、この高さ、このタイミング、などが細かく決められている。感性で踊れる高橋にとっては、まるで足かせをはめられるような作業だったことだろう。


 またアイスダンス独特の技も多い。カップル結成当初から指摘されていたのは、リフトの大変さだ。シングルには必要ない上半身の筋力が必須となる。

「とにかく肉体改造をしました。食事の面では、シングルだと体重が増えないように制限するのですが、食べて食べて筋肉をつけてという感じで。食事改善して、筋トレして、肉体改造していくことで、やっとリフトができました」

 コーチのズエワも、「大輔の身体はゴージャス」というほど、ウエストは引き締まり、肩や背中に筋肉がついた。そして、コロナ禍のなか2カ月間のリンク閉鎖もあり、実質半年ちょっとしか練習できないまま11月27日からのNHK杯を迎えた。

 初日のリズムダンスは、映画「The Mask」。高橋は黄色いズボンにサスペンダーというジム・キャリーに扮した姿で登場した。コミカルで元気のいい音楽に合わせ、課題のステップ、リフト、ツイズルなど新たな技を次々とこなし、上々の滑り出し。最後まで自然と笑顔がこぼれるような演技だった。

■シングルとは全く違う

「初めてということを考えると、すごく上出来だったんじゃないかな、と思いたいです」

 と高橋。村元も、

「今日の大ちゃんは100点です。本当にシングルとは全く違う競技なのに、2月に始めたばかりで、デビュー戦で落ち着いて滑れたので!」

 と高評価を出した。ただ、初めての本番で課題も感じた。

「疲れ方は、以前とは違いますね。シングルはジャンプで瞬発力を使うので、後半の疲労のなかでどう跳ぶかが問われます。アイスダンスは2人のタイミングで動くので、疲れているなかでタイミングを合わせるのが難しいところだと感じました」

 64.15点での2位発進は、デビュー戦としては十分な評価だ。

 翌日のフリーダンスは、曲想ががらりと変わり、バレエ曲「ラ・バヤデール」。ゆったりとしたメロディーに合わせて2人が優雅に舞う。高橋にとっては、ポジションを一つ一つ確かめながら動くことができる、戦略的な選曲だ。高橋が片足で滑るリフトや、次々と持ち手を変えるリフトなどを成功させた。しかし小さなミスが重なり、徐々に高橋は緊張していく。


「お互いのエッジが当たって『あっ』となったり、リフトを降ろした後の1歩目のタイミングが合わなかったり、普段しないミスがあって、ちょっとびっくりしました」

 すると演技後半の大技ツイズルで、高橋はバランスを崩して両手をつき、転倒扱いに。ステップの高橋とまで言われた彼がよろける姿に、会場からは悲鳴のような声が漏れた。

■目の前にどんどん目標

「会場に入ってから僕が、右回りが不安定で考えすぎてしまいました。技術というよりはメンタル。課題が見えました」

 村元は高橋をこう評価した。

「今日の大ちゃんは70点くらい。怪我無く終えられて満点と言いたいところですが、最初から最後まで、大ちゃんだけでなくお互いミスがあったので」

 すると高橋は返す。

「本当は30点くらい。100点満点をもらわなくてよかった。自分自身でも、まだできる、修正できると思っていますから」

 得点は総合157.25点で、3組中3位。周囲の期待は、もっと衝撃的なデビューだったかもしれない。しかしアイスダンスという、シングルとは異質の競技の関係者からすれば、“新参者”がここまで評価されたことは、異例のことだ。

「本当にアイスダンスの全部が難しいです。今まで何げなく見てきた競技ですが、かなりアイスダンサーを尊敬しています。僕の知らない世界が開けていて、わからないこと、できないことをどう乗りこえてゆくか、目の前に目標がどんどん出てくる。シングルに復帰した2年目は、練習で身体が思うように動かなくて、このまま続けていていいのかなと精神的に難しい部分もありました。でも今は、モチベーションが湧いて、乗りこえることだけを考える日々です」

 少年のように輝く目で高橋が語る。それを受け、村元は表情を引き締めて言った。

「これは第1ステップの試合で、全日本選手権、そして北京五輪を目指しています。チームとしては始まったばかりで、どういうチームになるのかワクワク感がある。マリーナコーチも『世界に新しい風を起こしてくれるダンスチームになる』と言ってくれているので、それを信じて練習あるのみです」

■五輪の表彰台目指せる

 試合翌日のエキシビションでは、美しいバラードを2人で踊った。競技のルールから離れ、それぞれの滑りを生かして自由に表現をぶつけあう。アイスダンスらしい滑りというよりは、2人の表現者による心の交流といった世界観。スピード感も伸びやかさもあり、2人のポテンシャルが爆発する演技だった。

 今はまだ、アイスダンスの様式美にはめようとすると、高橋が存分に能力を発揮できていないだけだろう。アイスダンスを知り尽くすズエワは語る。

「大輔のスケートには、自然な心からの表現があります。ダンスらしい滑りの質が表れてくるのは14~16カ月後。毎日練習していけば、本気で北京五輪の表彰台を目指すことができます」

 プロの目には、来年4月頃に高橋の“脱皮”が訪れるという計算。進化の過程を見守りたい。(ライター・野口美恵)

※AERA 2020年12月14日号

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眞子さま 前代未聞「納采の儀を経ず結婚」の可能性と苦難の道の始まり

2020年12月11日 19:00 AERA

 眞子さまの結婚について、秋篠宮さまは11月の誕生日会見で「認める」と述べた。だが、納采の儀に向けて出された課題は未解決のままだ。前途には複雑な現実が絡み合っている。AERA 2020年12月14日号から。

*  *  *
 そもそも、結婚の自由は憲法で保障されている。秋篠宮さまは冒頭の会見で、結婚を認める理由として、「婚姻は両性の合意のみにもとづく」とした憲法24条を3回も引用した。

 関西大学教授で憲法学者の高作正博さんは、政府見解や過去の判例でも、基本的に「天皇、皇族も人権の主体」とされており、それを基準にすべきと話す。

「当然、皇族にも結婚の自由はあると考えられます。秋篠宮さまがご自身の立場と見解を、日本国憲法24条を引用して説明されたことは、好ましいことだと思います」

 ただし、関係者の間では、結婚を認めたのは「苦渋の決断だった」と見る向きが多い。それを読み解くカギは、秋篠宮さまが会見で述べた「結婚と婚約は違います」という言葉だ。


 天皇は国民の統合の象徴だ。眞子さまと小室さんが結婚すれば、天皇家と小室家が親戚関係になる。皇室ジャーナリストの山下晋司さんは言う。

「いまの段階では、親戚としてのお付き合いは難しいと考えられているのではないか。小室家側が少しでも説明するなりすれば、納采の儀も行いやすくなるかもしれませんが、『このままでは(一般の婚約にあたる)納采の儀はできない』というお考えは、いまも変わらないでしょう」

 結婚は認めるが、婚約はできない──。だとしたら、今後、眞子さまの結婚はどのような道筋をたどるのか。


 山下さんによると、納采の儀を行わずに眞子さまが皇室を出ることは十分考えられるという。

「小室さんから『見える形での対応』がなくても、このまま2年、3年が経過するとは考えにくい。眞子内親王殿下が決断され、納采の儀を経ずに婚姻届を出し結婚されることは、前代未聞ですが、起こりうる話です」

■未来はわからない

 その際、国民感情を考えるうえで無視できないのが、皇籍離脱で眞子さまに支払われる1億数千万円といわれる一時金だ。民間に出た女性皇族の品位を保つことが目的とされる。この一時金について、ネットやSNSを中心に批判的なコメントが多く寄せられている。

 ある関係者は、「眞子さまはまだ若く、お金をほしいとは思っていないだろう」と話す。1億数千万円の一時金を寄付するなどして手放し、結婚する可能性がある。だが、その後、生活していけるかには疑問符がつく。「働くとしても、就ける仕事には制約があるでしょう。また、お相手も同様に『お金はいらない』と考えているかはわからない」(前出の関係者)。今後の長い人生で何が起こるかもわからない。一時金は、いざというときに必要になるお金かもしれないのだ。


 一方、皇室のこれからを考えたとき、歴史学者で静岡福祉大学名誉教授の小田部雄次さんや山下さんが懸念するのが、さらに加速するだろう国民感情との乖離(かいり)だ。

「私でさまざまなことがあっても、公では国民に寄り添われ、絆を築いてきた。上皇さま、上皇后さまが積み上げた国民との絆を大切にしてほしいが、このままでは国民の心は離れてしまう。皇室の多難な道の始まりではないか」(小田部さん)

 山下さんはこう話す。

「皇室と国民との関係は、憲法や皇室典範のみによって形作られているわけではありません。象徴天皇制度を維持していくためには、『精神的なつながり』が必要だと思います」

■公私のバランスの課題

 天皇は行動によって自分の気持ちをあらわし、国民はそれを見て信頼や尊敬、敬愛の情を持ってきた。

「平成の時代は理想的な象徴天皇制度で、だからこそ生前退位も実現したのだと思います。眞子内親王殿下の結婚が、皇室に対する国民の思いにどう影響するかを考えると、マイナスになることはあってもプラスになることはないのでは」(山下さん)

 皇族が個人としての自由と、公のバランスを取ることが難しくなってきた背景には、時代による変化がある。戦後、華族制度はなくなり、皇族も一般の人の中で育つようになった。学びの場も、学習院に限らなくなってきた。

「皇室が国民に近づき、価値観、考え方も近くなってくれば、皇室の方々の『個』や『私』の比重が大きくなるのは自然なことです。問題が起こる可能性はずっとあって、今回それが表面化したということです」(同)

 今後も皇族の「私」に関する問題は形を変えて出てくることになるだろう。そのとき、どう対応するのか。

「国民と皇室が、共に考えていくしかない。今回の一件はそれを改めて知らしめたのだと思います」(同)

(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2020年12月14日号より抜粋

【佳子さま バッシングに反論、プライバシーも線引き】

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