「もうけたお金」を世に回すことが使命(渋沢健)

マネーの履歴書 コモンズ投信会長・渋沢健さん

様々な分野の第一線で活躍する人は、どんなお金哲学を持っているのか。そのマネーヒストリーに迫る「マネーの履歴書」。今回はコモンズ投信の創業者で、現在は会長を務める渋沢健さんに話を聞いた。高祖父(祖父の祖父)の渋沢栄一氏は「日本実業界の父」ともいわれ、2024年から1万円札の顔に。その生涯を描いたNHK大河ドラマも放送中で、改めて注目を集めている。

働いて稼ぐ喜びを知った14歳のアルバイト

小学校2年生の時に日本から米国に移り住んだこともあり、幼い頃は高祖父のことを意識することはめったにありませんでした。親から特別お金について教育を受けた記憶もないのです。

ただ、とてもよく覚えているのが、14歳の時にした人生初のアルバイト。ホットドッグ店で働いていたのですが、最初に給料をもらった時の感動は忘れられません。働きの対価でお金が得られるというのは、何とも言えないうれしさがありました。

その後、米テキサス大学に進学。「関連する仕事の給料が良さそうだから」と、工学部を専攻した。
しぶさわ・けん 日本国際交流センターを経て、米国でMBA(経営学修士)を取得。その後、外資系金融機関を経て、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年にシブサワ・アンド・カンパニー設立。07年にコモンズ(現・コモンズ投信)を設立、08年から現職。(撮影/洞澤佐智子)

サイエンスは嫌いではなかったのですけれど、何となく「自分はエンジニアに向いていないな」と感じていました。細かい数字を計算してモノを作ることに、熱量を注げなかったのです。

そこで日本に戻り、日本国際交流センターに入社しました。当時は1980年代のバブル期。世界中が日本のことを知りたがっている時代で、私もその一人でした。

ソニー創業者の盛田昭夫さんが外国人と会談する際、事務局の若手スタッフとしてご一緒し、その熱意を感じる機会などもありました。そうして日米の実業界に携わっていくうち、MBA(経営学修士)取得に興味を持つように。米国に戻り、大学院へ進学しました。

MBA取得後、金融の世界へ

私が就職活動をした86年ごろは、日本人でMBAを持っている人間であれば、ウォール街が「ようこそ!」と手招きして迎えてくれる時代でした。金融のことが全く分からなくても(笑)。

最初はニューヨークの証券会社で仕事をしましたが、面白かったですね。ディーリングルームというのは20代の私にとって、大変刺激的だった。その後は東京の外資系証券などで勤務したのですが、40歳で「人生半ば、思い切った挑戦をしたい」と思い、会社を設立しました。

投資会社を設立してすぐに、思いがけない出来事がお金の価値観を変える。2001年の米同時多発テロだ。

仕事の在り方について、色々と考えさせられる出来事でした。あの時、米国では営利セクターの人間が、懸命に社会活動を行っていた。同時に、日本ではそういった動きがまだまだ少ないということに気付かされました。

そこから「営利事業と社会事業をどのようにつなげられるのだろう」と、ずっと考えていたのです。03年には念願かなって、ヘッジファンド運用で生じる成功報酬で社会起業家を支援するプログラムを開始。現在はコモンズ投信で、「コモンズSEEDCap」という名で続けています。

最初は「寄付のお金が、ファンドから来るのですか」とすごく驚かれた。「稼いでいる人からは税金として回収して、社会に還元するのが基本」という考えは根強いですね。

ディーラー時代から独立を経て、「お金の使い方」に関する価値観は大きく変わった。

傲慢かもしれませんけど、若い時は「自分はもっと稼ぎがあってもいいのではないか」などと考えて、転職をしたりしていました。

「自分のためにお金を使う・ためる」こと中心に目が向いていたのが、いつの間にか「もっと世の中のためになるお金の使い方があるのでは」と考えるようになりました。その方が自分が感じる幸せはもっと増える。最終的に自分が行き着いた答えは結局、ひいひいおじいさんが昔言っていたことと同じなのです(笑)。

40歳の時、本格的に『論語と算盤』を読み始めました。ですが最初は全然、その思想を強く意識していたわけではなかったのです。

様々な経験を通して、高祖父と同じ考えに自然とたどり着いた。

数年前に気付いたことですが、「自分の誕生日に近い大安」ということで決めた会社設立日は、栄一氏の誕生日と偶然にも同じだそうです。不思議なことがあるものですね。

渋沢健さんの「マネーのターニングポイント」


●会社を設立した直後に起きた米同時多発テロ
投資会社設立後には米同時多発テロ、コモンズ投信設立後にはリーマン・ショックと、市場の暴落を経験した。「危機的状況で改めて、『営利事業と社会事業の橋渡しをすること』について考えるようになった。その経験は、今の活動に続いている」

●40歳になってから本格的に読み始めた『論語と算盤』
会社設立時に、改めて読むようになった渋沢栄一氏の著書。重要だと思う箇所には線を引いている。「様々な経験を経て、自然と自分の考えが高祖父のそれと近くなっていったことに気が付いた」

(聞き手は大松佳代)

[日経マネー2021年6月号の記事を再構成]

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