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政府はコロナ対策の失敗を認めよ

国民の多様な意見を反映させた感染症対策の「総合戦略」が必要だ

米村滋人 東京大学大学院法学政治学研究科教授

 この数週間、新型コロナウイルス感染症の新規感染者は減少を続けており、感染者数の拡大局面は一服したように見える。この間、岸田新政権が発足し、衆議院が解散されて衆院選が公示されたが、各政党のコロナ対策はこれまでのコロナ対策の失敗を十分に踏まえているようには思われない。このままでは国民の不満は解消されず、感染症対策としても不十分な状況が続き、冬場の感染者数の再拡大を招くことが強く懸念される。以下では、日本のコロナ対策のどこが誤っていたか、今後の対策はどうあるべきかにつき、詳しく論じたい。

コロナ対策の失敗は明らか

 まず、これまでの政府のコロナ対策をどう評価するかが鍵になる。筆者は、少なくとも、昨年末以来の政府のコロナ対策は、明らかに失敗だったと考える。それは、データから明らかである。コロナ感染症の国際統計指標は多いものの、人種差や各国の社会状況の違いなどから単純な比較が難しい指標も多い。しかし、各国内の2020年(同年2月~12月)の感染者数・死者数と2021年(同年1月~10月10日)の感染者数・死者数の比(2021年/2020年)をとれば、各国の違いの影響を最小化する形で2021年の各国での対策が奏功したか否かを知ることができる。

拡大各国の2020年(2月~12月)と2021年(1月~10月10日)の感染者数と死者数=世界保健機関(WHO)の公表データより

拡大各国(米国を除く)の2020年と2021年の死者数とその比
 日本は、感染者数比が6.4と、2021年は前年の6倍を超える感染者を出しており、これは先進国中最悪である。感染者数自体は桁違いに多い欧米各国でもこの比は1.2~2.2程度であり、感染拡大が指摘される韓国でも4.5である。日本は死者数の比も4.3で先進国中最悪で、欧米は0.6~1.9、韓国も1.9である。2.8のロシアが突出しているが、それでも日本よりかなり低い。これを見れば、日本ほど、2020年に比して2021年の感染状況が悪化した国はなく、悪化の程度も他国に比してあまりにも甚だしい。これは、2021年の日本政府の対策が失敗だったことを意味すると考えて誤りはなかろう。

なおざりになったミクロ対策、ドイツと対照的

 問題は、なぜこれほどまで、2021年の感染者数・死者数が増える事態を招いたかである。

拡大政策発表記者会見で、コロナ対策の4本柱を説明する岸田文雄氏=2021年9月2日午前、国会内

 オリンピックの開催が原因と考える向きも多いと思われるが、オリンピックは最後のきっかけを作ったに過ぎず、その背景には日本の感染症対策の本質的・構造的な問題がある。筆者は、その種の構造的な原因として以下の2つを指摘したい。

 第1に、日本の感染症対策では、緊急事態宣言と人流抑制を中心とする「マクロ対策」(人々の行動を制限する対策)に偏り、マスク着用・施設内換気などの「ミクロ対策」(個別の感染リスクを低下させる対策)がなおざりになってきた点が挙げられる。しかし、人流を抑制したとしても、感染対策を実施していない施設等が放任されていれば感染拡大を防げない。まん延防止に直接的に効果を発揮するのはミクロ対策であり、マクロ対策の有効性はあくまで間接的なものである。

拡大マスクをして地下鉄に乗る市民。ドイツでは2020年4月末までに公共交通機関や小売店でのマスク着用が義務化され、2021年1月には公共交通機関などでの布マスクの使用は認められなくなった=2020年4月27日、ベルリン

 この点で、諸外国ではミクロ対策が徹底して実施されている場合がある。筆者はこの8月、ドイツに渡航してコロナ対策のあり方を調査してきたが、ドイツでは各州で細かい感染対策措置が異なるものの、法律に基づき全国的に導入されている規制として、マスク着用義務がある。指定された医療用不織布マスクか高機能マスク(FFP2)を着用しなければ公共交通機関の利用も許されない。この種の規制は決して導入が難しい規制ではないにもかかわらず、日本で全く検討されないのは不可解というほかない。このほかにも、ドイツでは施設・店舗等につき床面積に比例した収容人数の定めがあり、これが感染状況に応じて上下する仕組みとなっている。このように、ドイツではミクロ対策について手厚い法規制が実施されている。

 さらに、換気の有無は室内での感染リスクを大きく左右し、感染経路として空気感染が無視できない場合にはなおさら重要となる。マスク着用・換気の義務化のような容易に導入可能なミクロ対策の規制を行わずに人流抑制のみに躍起になることは、対策として合理的ではなく、感染予防効果を大幅に失わせている。これについては、8月に、筆者を含む科学者数十名が緊急声明を出しており、その内容を詳しく説明した記事が掲載されている(本堂毅「新型コロナ対策は空回りしていないか?」論座2021年9月20日掲載)。

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筆者

米村滋人

米村滋人(よねむら・しげと) 東京大学大学院法学政治学研究科教授

2000年東京大学医学部卒。東大病院等に勤務の後、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。日本赤十字社医療センター循環器科勤務を経て、2005年より東北大学大学院法学研究科准教授、2013年から東京大学大学院法学政治学研究科准教授、2017年から同教授。法学の教育・研究を行う傍ら、循環器内科医として診療にも従事。専門は民法・医事法。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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