前回の続き。




マッドハニーの「キマる成分」はグラヤノトキシンといい、ツツジ類の植物の蜜などに含まれています。 ツツジの蜜を集めるミツバチ この毒の効果は古くから知られており、かつてアレクサンドロス大王の軍がペルシア進軍の際、誤ってこのハチミツを口にしてしまい、立てなくなって倒れたり、廃人状態になる兵士が続出したという話が残っています。 とある毒物の毒性が低いというのは、要は「中毒量と致死量の間に大きな差がある」ということです。そして人類はこの手の毒をしばしば「嗜好品」として積極的に摂取してきました。グラヤノトキシンもそのひとつと言えます。 前回の記事のように、グラヤノトキシン中毒はうまい具合に止めれば「笑顔になり、気持ちが明るくなり、体が弛緩してマッタリする」という状態になります。これはお酒をいい感じに飲みながら満腹になった状態と似ており、ハチミツを摂取するだけでこの状態になれるならコスパいいなと思う人もいるかもしれません。(マッドハニー100ccで15,000円するからそもそもコスパよいとは言えないけど) ぼくは飯と酒でいいです ただいずれにしても「マッドなハニーだよ! みんなでキマろう!」みたいなパッケージで販売するのはどうなんですかね、まあ生産者としても「売れりゃいいだろ」みたいな感じなのかもしれないけど、もっと注意しながら売らないと食中毒事故が多発するやろうし、キノコのときみたいな社会問題になるかもしれないなぁという気がします。 グラヤノトキシンは量の多寡こそあれ、ツツジ科のすべての植物に含有されているそうです。特にシャクナゲやレンゲツツジなど花がまとまって咲くタイプのものは毒性が強いようで、こういった花の蜜を吸っていると中毒に陥る可能性があります。 またこの事情から、マッドハニーが薬物として規制される可能性についてはまず無いと思います。 シャクナゲきれいだしね


ツツジ類の蜜「マッドハニー」を摂取するとヘロヘロになるということが体験できたのですが、一体これはどのような成分によって引き起こされるのでしょうか。ツツジの毒「グラヤノトキシン」



瓶のラベルにも構造式が載っていますが、このグラヤノトキシンはジテルペンというグループの物質の一種で、摂取するとめまい、吐き気、下痢、口の乾き、全身の麻痺、頻脈、ひどい場合には呼吸困難などを引き起こします。ぼくが体験した症状も概ねこの通りで、特に下肢の麻痺と口の麻痺はかなり強めに出ました。頻脈と口の麻痺が同時に起こると呼吸困難になってなくてもなりそうな感じがして非常に怖い、というのは今回体験して初めて知ったことです。
ツツジの蜜を吸うと呼吸困難に陥ることもあるというのは「きみふと」の中で木野くんにも喋らせていますが、連載終わって数年してからマジで体験することになるとは思いませんでしたね。
まあそんな感じなので言ってしまえば普通に毒です。
ツツジの一種に「アセビ」という植物がありますが、漢字では「馬酔木」と書きます。これは馬酔木を間違って食べた馬がまるで酔っ払ったかのようにふらついたことから名付けられたそうですが、ツツジ科の植物を家畜が食べてしまって死に至るような事故が現代でも時々起こるそうです。ジュラシックパークでぶっ倒れてたトリケラトプスももしかしてツツジ食べちゃったんかな……?
アレクサンドロス軍ってキョウチクトウの毒で大量死とかもやらかしてたし、ソフトバンクホークス軍も未開土地トコロ・ザーワで毒蜂に襲われてたし、やっぱり遠征軍っていうのは色んなものに苦戦するもんなんでしょうね。
なんですが、このグラヤノトキシンは毒性としては強くなく、24時間程度以内に代謝され後遺症も残らないといいます。たしかに自分も翌朝は早朝からキノコ狩りとか行けたし、ゼロ次郎さんの言う通り「寝れば抜ける」ものなんでしょう。上記のアレクサンドロス大王軍も翌日はみんな回復したといいます。「毒」と「嗜好品」の境界線



ただ、自分のような、普段からそのような「酩酊物」を使用しない人間からすると、決して気持ちの良いものではありませんでした。毒が体に回っていき、機能が徐々に麻痺していくのを感じるのは「恐怖」としか言いようがなかったです(一緒に摂取した人たちも「ちょっとしんどい」「社会性が保てなくなる」と言っていた)。
ヒトの死亡例はないとも聞きますが、症状発生の遅さを考えると摂取過多になりやすいと思うので、呼吸困難まで一気通貫しちゃうバカは発生すると思います、
慣れてきたらまた違うのかもしれませんが、慣れる必要をあまり感じません。処刑のためにドクニンジンを飲まされたソクラテスもきっとこんな気分だったんじゃないだろうか……
一方で、瞑想にこれを用いるという話も伺いましたが、それはとても良くわかります。この「自分が自分でなくなっていく」という感覚は禅で求められるものに近いのかなと思いました。この境地にアプローチするために人々は只管打坐や禅問答といったツールを発明しましたが、マッドハニーもまたそのひとつなのでしょうか。
自分がしんどかったからというだけの理由で、とある食材を「オススメしません!」と低評価するのは野食家としてとても良くない行為なのですが、それでもこれはやっぱりぼくにとっては「毒」でしたし、みなさんも食べないほうが良いですよ、と結論づけたいです。とっても身近なグラヤノトキシン



子供たちにとってツツジの蜜を吸うのはごく普通の遊びだと思うので、植え込みにシャクナゲ・レンゲツツジを植栽するときは色々と配慮したほうが良いかもしれません。
グラヤノトキシンはツツジの全草に含まれており、特に含有量が多いとされる新芽をそのままバクバク食べればかんたんに中毒することができるでしょう。したがって規制するとなればツツジ科のすべての植物をぶっこ抜かないといけないし、販売もできなくなりますが、現実的ではありません。


そんなことよりチョウセンアサガオ規制したほうがよっぽど捗るんでないかね。
まあそんなわけで、依存性や幻覚作用を持たず、その作用機序から暴力性などの反社会的行動を取る可能性も低いという点を考えれば、マッドハニーを規制する必要性はなかなか発生しないのではないでしょうか。
改めてゼロ次郎さん、非常に興味深い体験をさせていただき、本当にありがとうございました。















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