障害者施設での虐待を通報された施設側が通報者に損賠請求するという理不尽を生む役所の希薄な責任感 高崎市の行政問題
■11月28日(土)の市民オンブズマン群馬10月例会で、高崎市内の障害者施設における虐待問題について報告が為された際に、参加した会員から、鹿児島県と埼玉県で、虐待を自治体に告発した職員に、施設側が名誉棄損などの損害賠償請求訴訟を起こされているケースについて報告がありました。さっそく報道をチェックしたところ、次の記事が見つかりました。
**********2015年11月23日東京新聞朝刊
20151123sev.pdf
虐待告発職員に賠償請求 埼玉など障害者施設
↑施設側から届いた内容証明郵便を見つめる女性元職員=さいたま市で↑
障害者の通所施設で虐待の疑いに気付き自治体に内部告発した職員が、施設側から名誉毀損(きそん)などを理由に損害賠償を求められるケースが埼玉県と鹿児島県で起きていることが、分かった。
障害者虐待防止法では、虐待の疑いを発見した職員は市町村に通報する義務がある。通報したことで解雇など不利益な扱いを受けないことも定めており、施設側の対応に法曹関係者らから「法の理念を無視する行為。職員が萎縮して、虐待が闇に葬られてしまう」と批判が出ている。
さいたま市の就労支援施設に勤めていた女性元職員(42)は十月、運営主体のNPO法人から約六百七十二万円の損害賠償請求を通知する内容証明郵便を受け取った。
女性は上司の男性職員が知的障害のある男性利用者二人の裸の写真を撮影し、無料通信アプリで送ってきたり、職場の共用パソコンに保存したりしていたため三月に市へ通報。市は施設へ監査に入った。女性が自主退職した後の六月、虐待を認定、改善勧告を出した。
施設側は「女性はテレビ局の取材も受け、他にも虐待があったと虚偽の説明をした」と主張。「外部からの業務受託の予定が取り消され、損害を受けた」として賠償を求めているが、女性は争う構えで、裁判に発展する可能性もある。
鹿児島市の就労支援施設の男性元職員(48)は、六月に運営会社から鹿児島簡裁に提訴された。
男性は同社で働いていた昨年秋、女性利用者から「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と聞いた。半信半疑だったが、他の利用者に対する虐待の目撃証言が別の関係者からもあったため、二月に市へ通報した。
施設側は虐待を否定。「事実無根の中傷で名誉を毀損された」などとして百十万円の損害賠償を求めている。
市は虐待の認定に至っていないが、担当者は「男性がうそをついているとは考えていない。虐待防止法の趣旨からすると、提訴はあるべきことではない」としている。
◆「報復」に罰則なく 法に従い通報したのになぜ
法律に従って虐待の疑いを通報したのに、なぜ賠償を求められるのか。障害者虐待防止法には、通報した施設職員に対する不利益な扱いを禁じる規定はあるが、罰則はない。通報者への賠償請求を想定していない上、訴訟を起こす権利までは制限できない。このため、現状では「報復」として通報者が訴えられるリスクは否定できない。
同法は二〇一一年に成立、一二年に施行された新しい法律。厚生労働省によると、通報者が訴えられたのは初めてではないかという。担当者は「通報義務を定めた虐待防止法そのものが訴えられたようなものだ」と憤る。
厚労省の調査では、一三年度に施設や家庭、職場で障害者虐待の通報は計七千百二十三件あったが、事実の認定に至ったのは約三割の二千二百八十件にとどまる。自治体の調査には限界があり、裏付けが難しいためだが、虐待が認定されなかったことを理由に通報者を訴える裁判が今後、さらに続く恐れもある。
虐待被害者の内訳では、知的障害が最も多く、証言能力に欠ける人が標的にされているともいえる。知的障害者の親らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」の久保厚子会長は「重度の人の場合は虐待を受けたと認識できず、軽度でも自分の気持ちを主張できないことがある。虐待が事実でなかったとしても『そう受け取られる行為があったのでは』と謙虚に受け止めてほしい」と話す。
**********日経2015年11月23日 0:30
内部告発者に賠償請求 埼玉・鹿児島の障害者施設
障害者の通所施設で虐待の疑いに気付き自治体に内部告発した職員が、施設側から名誉毀損などを理由に損害賠償を求められるケースが埼玉県と鹿児島県で起きていることが22日、分かった。障害者虐待防止法では、虐待の疑いを発見した職員は市町村に通報する義務がある。施設側の対応に法曹関係者らから「職員が萎縮して、虐待が闇に葬られてしまう」と批判が出ている。
さいたま市の就労支援施設に勤めていた女性元職員(42)は10月、運営主体のNPO法人から約672万円の損害賠償請求を通知する内容証明郵便を受け取った。
女性は上司の男性職員が知的障害のある男性利用者2人の裸の写真を撮影し、無料通信アプリで送ってきたり、職場の共用パソコンに保存したりしていたため3月に市へ通報。市は施設へ監査に入った。女性が自主退職した後の6月、虐待を認定、改善勧告を出した。
施設側は「女性はテレビ局の取材も受け、他にも虐待があったと虚偽の説明をした」と主張。「外部からの業務受託の予定が取り消され、損害を受けた」として賠償を求めているが、女性は争う構えで、裁判に発展する可能性もある。
鹿児島市の就労支援施設の男性元職員(48)は、6月に運営会社から鹿児島簡裁に提訴された。
男性は同社で働いていた昨年秋、女性利用者から「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と聞いた。半信半疑だったが、他の利用者に対する虐待の目撃証言が別の関係者からもあったため、2月に市へ通報した。
施設側は虐待を否定。「事実無根の中傷で名誉を毀損された」などとして110万円の損害賠償を求めている。
市は虐待の認定に至っていないが、担当者は「男性がうそをついているとは考えていない。虐待防止法の趣旨からすると、提訴はあるべきことではない」としている。〔共同〕
**********愛媛新聞2015年11月25日
虐待通報で賠償請求 「報復」は防止法の理念に反する
障害者通所施設で虐待の疑いに気付き内部告発した職員が、施設側から損害賠償を求められるケースが埼玉、鹿児島両県で起きた。自治体に設けた窓口への通報を義務付ける「障害者虐待防止法」は、通報者に対する解雇などの不利益な扱いを禁じている。罰則がないとはいえ、法の理念を踏みにじる行為と言わざるを得ない。
施設や企業で、表面化しない「報復」が横行しているのではないかという懸念が募る。2件とも、通報した職員は自主退職した。1人は上司からなじられたと話しており、実質的な解雇だった可能性も否定できない。国は、義務を果たした人を守れない法の不備、制度設計の甘さを真摯(しんし)に省みるべきだ。
虐待の調査とともに、通報者のフォローにも力を注ぎたい。賠償請求や訴訟だけでなく、待遇面の悪化などがあれば報復的かどうかの検証も必要だ。国には、自治体との連携強化と積極関与が求められる。検証により悪質と判断された場合には施設の運営事業者にペナルティーを科すなど、新たな仕組みの導入も検討しなければなるまい。
埼玉県のケースは自治体が虐待を認定し、改善勧告が出されたものの、施設側が「(通報した)元職員の説明に虚偽内容がある」などとして672万円の損害賠償を請求した。一方、鹿児島県のケースは施設側が虐待を全面的に否定し、調査の結論を待たずに110万円の賠償を求めて提訴した。
防止法が定める通報義務が、結果的に虐待があったかどうかを問うていないことを忘れてはならない。虐待のわずかな兆候も見逃さず、被害を受ける障害者の一刻も早い安全確保と権利擁護を優先するがゆえだ。意図的な捏造(ねつぞう)による通報を除き、施設側には法の特殊性を十分に考慮するよう強く求めたい。
厚生労働省によると、施設や企業などでの障害者虐待の通報は2013年度に7123件あり、事実認定は2280件と3割ほどにとどまる。虚偽通報が多いのでもなければ、虐待がそれだけしかなかったわけでもあるまい。人員不足など自治体の調査態勢が万全でなく、裏付けが難しいのが大きな要因だ。仮に虐待がなかった場合でも、内部に疑念を持たれる行為があったことを重く受け止め、今後の運営に生かす必要がある。
ただでさえ、外部の目が届きにくい施設は被害を訴えにくい環境にある。障害者の中には、うまく意思表示できない人もいる。自傷行為を防ぐなど落ち着かせるための「やむを得ない」対応と、虐待とに線を引く難しさもあろう。その上、職員が萎縮して通報をためらうことになれば、事態が深刻さを増すのは想像に難くない。
社会全体が障害者を受け入れる環境をつくり、人権を守る意識をあらためて共有したい。通報への「報復」は、新たな虐待につながる愚行でしかないと肝に銘じるべきだ。
**********東京新聞社説2015年12月2日
20151123sev.pdf
障害者の虐待 通報には誠実な姿勢で
障害者施設での虐待を通報したら、施設側から損害賠償を求められる事態が相次いでいる。良識に対する“報復措置”とすれば許されない。謙虚に試みる市政を欠く姿勢は社会的信用を失うだけだ。
誰であれ虐待されたと疑われる障害者を見つけたら、自治体に通報せねばならない。障害者虐待防止法で定められた義務である。高齢者や子どもの虐待を防ぐ法律とほぼ同じ仕組みになっている。
自ら声を上げられない非力な存在を、社会を挙げて守るねらいがある。周りの人々の良心や善意、正義感から発信されるSOSは大きな頼みの綱だ。
それだけに、埼玉県と鹿児島県の障害者就労支援施設で持ち上がった問題は深刻である。賠償請求をおそれ、通報をためらう風潮が広がらないか強く懸念される。
さいたま市の施設では、男性職員が知的障害のある利用者らの裸の写真を撮ったなどとして当時職員だった女性が市に知らせた。市は虐待を認め、改善を勧告した。
ところが、施設側は、女性の説明には虚偽が多く、仕事の予定が取り消されたとして六百七十万円余りの賠償を求めたという。法廷で争えば思い負担を強いられる。
鹿児島市の施設では、当時職員だった男性が「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と利用者から聞き、市に通報した。市は虐待の認定には至らなかった。
これに対し、施設側は、事実無根の中傷で名誉を傷つけられたとして、百十万円の賠償を求めて男性を提訴したという。
法律に従って通報しても損害の穴埋めを要求されるのでは、弱者を守ろうとの機運はなえてしまう。法の理念にもとる行為だ。
厚生労働省の二〇一三年度の調査結果では、施設や家庭、職場での虐待疑いの通報は七千百件余りに上ったが、事実と認められたのは三割減にとどまった。
虐待には暴力や体罰だけでなく、脅迫や嫌がらせ、介助の放棄といった痕跡の残りにくい形もある。事情をのみ込めないとか、気持ちをうまく表現できないような障害者も多い。自治体の調査にも限界があるのが実情だ。
しかし、だからといって、障害者の居場所には監視カメラの設置をという空気が強まれば、今度はプライバシーが危ぶまれる。
仮に虐待が裏づけられなかったとしても、津法された事業者は誠実に受け止めるのが筋である。これを機に、意趣返しに対して制裁を科す仕組みを検討するべきだ。
**********
■高崎市内の障害者施設における虐待を通報したケースでは、通報者がきちんと証拠を高崎市に提出し、詳細に説明したにもかかわらず、高崎市は事実上揉み消してしまいました。
鹿児島市のケースでも、市は虐待の認定には至らなかったとしていますが、そもそも、さいたま市や鹿児島市の場合は、なぜ通報者のことが施設側に分かったのか、という点が不思議でなりません。
通報を受けた自治体は、通報者を守る義務がありますが、一体何をしているのでしょうか。自治体が、施設側に通報内容と通報者の情報をリークしたとなれば、もっとも卑劣なのは自治体ということになってしまいます。
まさかそんなことは・・・と思いがちですが、高崎市内の障害者施設における虐待問題に対する高崎市の極めて消極的で、通報を完全に揉み消そうとする体質を見る限り、さもありなん、と思ってしまうのです。
高崎市がいちはやく虐待の事実を認定し、きちんと改善勧告を出していれば、通報者の苦労も報われるのですが、いまだに通報があったこと自体、記録票に残していない状況を見るにつけ、施設側の指導監査よりも、自治体自らの指導監査の必要性を痛感させられます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
**********2015年11月23日東京新聞朝刊
20151123sev.pdf
虐待告発職員に賠償請求 埼玉など障害者施設
↑施設側から届いた内容証明郵便を見つめる女性元職員=さいたま市で↑
障害者の通所施設で虐待の疑いに気付き自治体に内部告発した職員が、施設側から名誉毀損(きそん)などを理由に損害賠償を求められるケースが埼玉県と鹿児島県で起きていることが、分かった。
障害者虐待防止法では、虐待の疑いを発見した職員は市町村に通報する義務がある。通報したことで解雇など不利益な扱いを受けないことも定めており、施設側の対応に法曹関係者らから「法の理念を無視する行為。職員が萎縮して、虐待が闇に葬られてしまう」と批判が出ている。
さいたま市の就労支援施設に勤めていた女性元職員(42)は十月、運営主体のNPO法人から約六百七十二万円の損害賠償請求を通知する内容証明郵便を受け取った。
女性は上司の男性職員が知的障害のある男性利用者二人の裸の写真を撮影し、無料通信アプリで送ってきたり、職場の共用パソコンに保存したりしていたため三月に市へ通報。市は施設へ監査に入った。女性が自主退職した後の六月、虐待を認定、改善勧告を出した。
施設側は「女性はテレビ局の取材も受け、他にも虐待があったと虚偽の説明をした」と主張。「外部からの業務受託の予定が取り消され、損害を受けた」として賠償を求めているが、女性は争う構えで、裁判に発展する可能性もある。
鹿児島市の就労支援施設の男性元職員(48)は、六月に運営会社から鹿児島簡裁に提訴された。
男性は同社で働いていた昨年秋、女性利用者から「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と聞いた。半信半疑だったが、他の利用者に対する虐待の目撃証言が別の関係者からもあったため、二月に市へ通報した。
施設側は虐待を否定。「事実無根の中傷で名誉を毀損された」などとして百十万円の損害賠償を求めている。
市は虐待の認定に至っていないが、担当者は「男性がうそをついているとは考えていない。虐待防止法の趣旨からすると、提訴はあるべきことではない」としている。
◆「報復」に罰則なく 法に従い通報したのになぜ
法律に従って虐待の疑いを通報したのに、なぜ賠償を求められるのか。障害者虐待防止法には、通報した施設職員に対する不利益な扱いを禁じる規定はあるが、罰則はない。通報者への賠償請求を想定していない上、訴訟を起こす権利までは制限できない。このため、現状では「報復」として通報者が訴えられるリスクは否定できない。
同法は二〇一一年に成立、一二年に施行された新しい法律。厚生労働省によると、通報者が訴えられたのは初めてではないかという。担当者は「通報義務を定めた虐待防止法そのものが訴えられたようなものだ」と憤る。
厚労省の調査では、一三年度に施設や家庭、職場で障害者虐待の通報は計七千百二十三件あったが、事実の認定に至ったのは約三割の二千二百八十件にとどまる。自治体の調査には限界があり、裏付けが難しいためだが、虐待が認定されなかったことを理由に通報者を訴える裁判が今後、さらに続く恐れもある。
虐待被害者の内訳では、知的障害が最も多く、証言能力に欠ける人が標的にされているともいえる。知的障害者の親らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」の久保厚子会長は「重度の人の場合は虐待を受けたと認識できず、軽度でも自分の気持ちを主張できないことがある。虐待が事実でなかったとしても『そう受け取られる行為があったのでは』と謙虚に受け止めてほしい」と話す。
**********日経2015年11月23日 0:30
内部告発者に賠償請求 埼玉・鹿児島の障害者施設
障害者の通所施設で虐待の疑いに気付き自治体に内部告発した職員が、施設側から名誉毀損などを理由に損害賠償を求められるケースが埼玉県と鹿児島県で起きていることが22日、分かった。障害者虐待防止法では、虐待の疑いを発見した職員は市町村に通報する義務がある。施設側の対応に法曹関係者らから「職員が萎縮して、虐待が闇に葬られてしまう」と批判が出ている。
さいたま市の就労支援施設に勤めていた女性元職員(42)は10月、運営主体のNPO法人から約672万円の損害賠償請求を通知する内容証明郵便を受け取った。
女性は上司の男性職員が知的障害のある男性利用者2人の裸の写真を撮影し、無料通信アプリで送ってきたり、職場の共用パソコンに保存したりしていたため3月に市へ通報。市は施設へ監査に入った。女性が自主退職した後の6月、虐待を認定、改善勧告を出した。
施設側は「女性はテレビ局の取材も受け、他にも虐待があったと虚偽の説明をした」と主張。「外部からの業務受託の予定が取り消され、損害を受けた」として賠償を求めているが、女性は争う構えで、裁判に発展する可能性もある。
鹿児島市の就労支援施設の男性元職員(48)は、6月に運営会社から鹿児島簡裁に提訴された。
男性は同社で働いていた昨年秋、女性利用者から「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と聞いた。半信半疑だったが、他の利用者に対する虐待の目撃証言が別の関係者からもあったため、2月に市へ通報した。
施設側は虐待を否定。「事実無根の中傷で名誉を毀損された」などとして110万円の損害賠償を求めている。
市は虐待の認定に至っていないが、担当者は「男性がうそをついているとは考えていない。虐待防止法の趣旨からすると、提訴はあるべきことではない」としている。〔共同〕
**********愛媛新聞2015年11月25日
虐待通報で賠償請求 「報復」は防止法の理念に反する
障害者通所施設で虐待の疑いに気付き内部告発した職員が、施設側から損害賠償を求められるケースが埼玉、鹿児島両県で起きた。自治体に設けた窓口への通報を義務付ける「障害者虐待防止法」は、通報者に対する解雇などの不利益な扱いを禁じている。罰則がないとはいえ、法の理念を踏みにじる行為と言わざるを得ない。
施設や企業で、表面化しない「報復」が横行しているのではないかという懸念が募る。2件とも、通報した職員は自主退職した。1人は上司からなじられたと話しており、実質的な解雇だった可能性も否定できない。国は、義務を果たした人を守れない法の不備、制度設計の甘さを真摯(しんし)に省みるべきだ。
虐待の調査とともに、通報者のフォローにも力を注ぎたい。賠償請求や訴訟だけでなく、待遇面の悪化などがあれば報復的かどうかの検証も必要だ。国には、自治体との連携強化と積極関与が求められる。検証により悪質と判断された場合には施設の運営事業者にペナルティーを科すなど、新たな仕組みの導入も検討しなければなるまい。
埼玉県のケースは自治体が虐待を認定し、改善勧告が出されたものの、施設側が「(通報した)元職員の説明に虚偽内容がある」などとして672万円の損害賠償を請求した。一方、鹿児島県のケースは施設側が虐待を全面的に否定し、調査の結論を待たずに110万円の賠償を求めて提訴した。
防止法が定める通報義務が、結果的に虐待があったかどうかを問うていないことを忘れてはならない。虐待のわずかな兆候も見逃さず、被害を受ける障害者の一刻も早い安全確保と権利擁護を優先するがゆえだ。意図的な捏造(ねつぞう)による通報を除き、施設側には法の特殊性を十分に考慮するよう強く求めたい。
厚生労働省によると、施設や企業などでの障害者虐待の通報は2013年度に7123件あり、事実認定は2280件と3割ほどにとどまる。虚偽通報が多いのでもなければ、虐待がそれだけしかなかったわけでもあるまい。人員不足など自治体の調査態勢が万全でなく、裏付けが難しいのが大きな要因だ。仮に虐待がなかった場合でも、内部に疑念を持たれる行為があったことを重く受け止め、今後の運営に生かす必要がある。
ただでさえ、外部の目が届きにくい施設は被害を訴えにくい環境にある。障害者の中には、うまく意思表示できない人もいる。自傷行為を防ぐなど落ち着かせるための「やむを得ない」対応と、虐待とに線を引く難しさもあろう。その上、職員が萎縮して通報をためらうことになれば、事態が深刻さを増すのは想像に難くない。
社会全体が障害者を受け入れる環境をつくり、人権を守る意識をあらためて共有したい。通報への「報復」は、新たな虐待につながる愚行でしかないと肝に銘じるべきだ。
**********東京新聞社説2015年12月2日
20151123sev.pdf
障害者の虐待 通報には誠実な姿勢で
障害者施設での虐待を通報したら、施設側から損害賠償を求められる事態が相次いでいる。良識に対する“報復措置”とすれば許されない。謙虚に試みる市政を欠く姿勢は社会的信用を失うだけだ。
誰であれ虐待されたと疑われる障害者を見つけたら、自治体に通報せねばならない。障害者虐待防止法で定められた義務である。高齢者や子どもの虐待を防ぐ法律とほぼ同じ仕組みになっている。
自ら声を上げられない非力な存在を、社会を挙げて守るねらいがある。周りの人々の良心や善意、正義感から発信されるSOSは大きな頼みの綱だ。
それだけに、埼玉県と鹿児島県の障害者就労支援施設で持ち上がった問題は深刻である。賠償請求をおそれ、通報をためらう風潮が広がらないか強く懸念される。
さいたま市の施設では、男性職員が知的障害のある利用者らの裸の写真を撮ったなどとして当時職員だった女性が市に知らせた。市は虐待を認め、改善を勧告した。
ところが、施設側は、女性の説明には虚偽が多く、仕事の予定が取り消されたとして六百七十万円余りの賠償を求めたという。法廷で争えば思い負担を強いられる。
鹿児島市の施設では、当時職員だった男性が「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と利用者から聞き、市に通報した。市は虐待の認定には至らなかった。
これに対し、施設側は、事実無根の中傷で名誉を傷つけられたとして、百十万円の賠償を求めて男性を提訴したという。
法律に従って通報しても損害の穴埋めを要求されるのでは、弱者を守ろうとの機運はなえてしまう。法の理念にもとる行為だ。
厚生労働省の二〇一三年度の調査結果では、施設や家庭、職場での虐待疑いの通報は七千百件余りに上ったが、事実と認められたのは三割減にとどまった。
虐待には暴力や体罰だけでなく、脅迫や嫌がらせ、介助の放棄といった痕跡の残りにくい形もある。事情をのみ込めないとか、気持ちをうまく表現できないような障害者も多い。自治体の調査にも限界があるのが実情だ。
しかし、だからといって、障害者の居場所には監視カメラの設置をという空気が強まれば、今度はプライバシーが危ぶまれる。
仮に虐待が裏づけられなかったとしても、津法された事業者は誠実に受け止めるのが筋である。これを機に、意趣返しに対して制裁を科す仕組みを検討するべきだ。
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■高崎市内の障害者施設における虐待を通報したケースでは、通報者がきちんと証拠を高崎市に提出し、詳細に説明したにもかかわらず、高崎市は事実上揉み消してしまいました。
鹿児島市のケースでも、市は虐待の認定には至らなかったとしていますが、そもそも、さいたま市や鹿児島市の場合は、なぜ通報者のことが施設側に分かったのか、という点が不思議でなりません。
通報を受けた自治体は、通報者を守る義務がありますが、一体何をしているのでしょうか。自治体が、施設側に通報内容と通報者の情報をリークしたとなれば、もっとも卑劣なのは自治体ということになってしまいます。
まさかそんなことは・・・と思いがちですが、高崎市内の障害者施設における虐待問題に対する高崎市の極めて消極的で、通報を完全に揉み消そうとする体質を見る限り、さもありなん、と思ってしまうのです。
高崎市がいちはやく虐待の事実を認定し、きちんと改善勧告を出していれば、通報者の苦労も報われるのですが、いまだに通報があったこと自体、記録票に残していない状況を見るにつけ、施設側の指導監査よりも、自治体自らの指導監査の必要性を痛感させられます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
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