無差別殺人をした男 衝撃の2週間
今から13年前、東京の繁華街で何人もの命を奪う無差別殺傷事件が起きた。
捕まった男は…加藤智大、当時25歳。
男は大勢が行き交う歩行者天国にトラックで突入した。
その後、ナイフで無差別に襲いかかり7人を殺害、10人に重軽症を負わせた。
秋葉原無差別殺傷事件…一体加藤はなぜこんなことをしたのか?
事件の1年前…加藤智大は地元の青森で学校給食の牛乳を配達する仕事についていた。
同僚にも認められ、初めて正社員になった。
そんな時、両親が突然の離婚。
この出来事により、加藤は家を出ることになった。
母親から金を渡され、ひとりで暮らすことに。
孤独になった加藤…牛乳配達の仕事をしながら、彼の心の拠り所は携帯電話の掲示板。
ある日、こんなことを書き込んだ。
「9月末の誕生日までに彼女できなければ自殺する」
中にはこんな反応がくることも…
「主 こんばんは、私は兵庫に住んでるんだけど何かに一生懸命になればきっと振り向いてくれる人出てくると思う…」
孤独な加藤はよほど嬉しかったのか、ネットのやり取りだけではなく、現実社会でこの女性にどうしても会いたくなった。
そしてあの凄惨な事件を起こす9か月前。
2週間休暇を貰うため職場の上司に掛け合った加藤。
だが、突然の長期休暇。上司は取り入ってくれなかった。
反論できない加藤…休めないのならばと仕事を辞めた。
そして車で兵庫の女性のもとへ向かい、自分の気持ちを伝えた。
だが、加藤はその女性にふられてしまった。
掲示板に居場所を求める日々
好意を抱いた女性にふられ、仕事も失った加藤。
その姿は東京・上野の有料駐車場にあった。
自殺まで考えていた加藤。
警察官に声をかけられ、青森から来たことや自殺を考えていることも話した。
同じ北国出身だった警察官はそんな加藤に優しい言葉をかけた。
駐車料金は3万3500円。およそ半月もこの駐車場にいた加藤。
駐車場の管理人は加藤に払うお金がないことを知ると、年末まで待ってくれると言ってくれた。
警察官や駐車場管理会社の人の暖かさに加藤は助けられた。
こうして静岡県裾野市で自動車関係の派遣社員として働いていた。
お金を返すという明確な目標を持った加藤は必死に働き、クリスマスになったころに管理人へ駐車料金を返済。
だが、それは目標を失うことでもあった。
そして、携帯の掲示板に依存していく。
少し前から加藤は携帯電話の掲示板に
“【友達できない】不細工に人権なし【彼女できない】”という自虐スレッドを立ち上げていた。
全てを「不細工」にこじつけこんな書き込みをしていた。
「他人に簡単に死ねと言えるような人でもイケメンなら彼女はできます。やっぱり、中身より顔ですよね」
不思議なことにその自虐ネタに反応してくれる人が多くいた!
現実社会ではコミュニケーションが苦手な加藤。
しかし、SNS内では…自虐とは言え、自分のメッセージに人が集まるこの状況。
人気者になった気分だった。
しかし事件の11日前、職場で派遣切りを受けた加藤。
この気持ちをぶつける場所はやはり掲示板だった。
「私、6月でクビだそうです。次はどこにいきましょうか。」
「いい街、ありますか?生産が大幅に減るので派遣は必要ないようです。」
すると、思いがけない書き込みが…それは、若い女性のようだった。
女性「ぶっちゃけアタシ前は主大嫌いだったんだ。主は何に対しても否定的な感じで。アタシもそんな主を否定してたんだけど、でも毎日このスレ見るようになったら主みたいな人もありだなって思ったよ。冗談抜きで友達になりたいと思うようになったよ。」
これは絶望的になっていた加藤にとって救いのメッセージだった。
ネット上の誰かもわからない人に心奪われ、少しやる気が出ていた加藤。
そんな男が、このわずか10日後に凄惨な事件を起こした。
激しい行動でしか思いを伝えられない
加藤は幼い頃、こうして育ったという。
教育熱心な母親。作文は1文字でも間違えたり、汚い字があるとなんどもやり直し。
母は無言で、間違ったことに気づかせる教え方をしていたという。
生活面でも、ルールを破ったときに裸足で雪の上に立たせたこともあったという。
加藤は、次第に言葉を発しなくなる。
中学になると、考え事をしているのを邪魔されただけで相手を突然殴ったこともあった。
それでも高校は県で1番の県立に進学。
しかし、授業が終われば、毎日のように友人の家で深夜まで過ごし成績は急降下。
母親は名門大学の進学を望んだが、反発するように母が望む一流大学へは進学せず家を出た。
そして、派遣社員として働いたが、コミュニケーションが苦手で…なにか言われると怒りの感情を抑えきれず突然、仕事を辞めていた。
激しい行動をとって、相手に自分の思いを「気づかせる」ことしかできなかった。
その後も、加藤は人間関係もうまくいかず、職を転々とした。
こうして男の心の拠り所は携帯電話の掲示板になっていく。
最初の頃は、誰かが作ったスレッドに参加しゲームやアニメを語っていた。
同じ趣味を持つもの同士、顔も正体もわからない世界では言いたいことを言えた。
掲示板のネタにするため、高価なキャラクターのグッズを無理して購入したことも。
それほど掲示板での会話は加藤の心の支えだった。
そんなあるとき、昔の同級生を掲示板に誘ったことがあった。
しかし、誰も入ってくれなかった。
そんな些細なことで強烈な孤独を感じ自殺を考えるように。
そうなると、人と直接関わるのがイヤで仕事もろくにせず、借金生活へ。
やがて、自分の人生がうまくいかないのは掲示板に入ってこなかった友人のせいだと身勝手な思いが強くなる。
昔の同級生に自殺をほのめかすが…それでも誰も相手にしてくれないので母親に泣きつき、青森の実家に帰った
事情を聞いた母は息子の心の内を知って涙した。
そんな母の姿に自分の存在意義を感じた加藤はあの牛乳配達の仕事についていたのだ。
自暴自棄になっては、誰かの優しさで救われてきた加藤。
しかし、その流れは大きく変わる。
世間の注目を浴びたい…そして起こった悲劇
秋葉原無差別殺傷事件の約10日前。
派遣切り直後掲示板で出会った女性、加藤はこの女性が希望となった。
しかし、その女性には付き合っている彼氏がいることが分かった。
再び孤独となった加藤。
そんな時、書き込みに加藤が立ち上げた不細工という自虐スレッドを真似する人物が現れた!
自分の口調を真似た偽物の書き込みに掲示板の仲間が取られていく。
加藤は成りすましの書き込みに、それは本物では無いとメッセージを入れ必死に抵抗した!
だが、加藤に成りすます偽物たちの勢いは止まらない。
やがて掲示板ではどれが本物の加藤の書き込みかわからなくなった。
つまりこれは、掲示板でも加藤の存在が消えかかるということ。
生きる希望となっていた掲示板の仲間が奪われていく。
過激な言葉で、成りすましをやめるよう警告した。
加藤には、そうするしか手段が思い浮かばなかったのだ。
だが結局、加藤の掲示板に誰も反応しなくなった。
ネットでもひとりになる恐怖。
加藤は成りすましたちを反省させるために、過激な手段で分からせることしかできなかった。
そんな時に頭をよぎったのが…「殺人」。
これで世間の注目を浴びることができる…加藤の中で殺人が必須になっていった。
凄惨な事件を起こす前、加藤はナイフを購入した。
この時の防犯カメラの映像によると加藤は終始にこやかだったという。
2日後に無差別殺人を起こす人物には見えなかった。
そして事件、当日。
沼津駅でトラックを借りた加藤は秋葉原へ向かった。
狙いは歩行者天国。
人混みの中にトラックで突っ込むつもりだった。
掲示板にはこんな書き込みをした
「秋葉原で人を殺します。車で突っ込んで、車が使えなくなったらナイフを使います。みんな、さようなら。」
無差別殺人を宣言!
それでも反応はなく、もう止める材料は無くなった。
加藤は道行く人を無差別に殺害していった。
この時、偶然通りかかった日本テレビカメラマンが確保の瞬間を撮っていた。
抵抗することなく、パトカーに乗り込む加藤。
逮捕直後、こう供述したという。
加藤「誰か止めてくれればよかったのに」
それは身勝手すぎる供述だった。
裁判では、周到な準備のもと7名を殺害、10名に傷害を負わせた結果は極めて重大で動機、経緯に酌量の余地は見いだせないとして…2015年2月、死刑が確定した。