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04.
薮宏太の呪い
目を覚ますと、そこは階段だった。
誰かと待ち合わせをしていたような気がするが、うまく思い出せない。
近くの踊り場の扉を開くと、そこにはエレベーターがあったのだが、「使用不可」と注意書きがあり、いくらボタンを押してもエレベーターは反応しない。他のエリアに繋がりそうな扉も軒並み開かず、薮は諦めて階段を下り始める。だが、いくら下っても地上へ辿り着かない。どの階のエレベーターも、依然として使用不可の張り紙がされている。
「じゃあどうすればいいの? 上ればいいの?」
と、今度は上り始めるが、どれだけ上ろうとも、何処へも辿り着かない。何処までも青く染まる世界と階段だけが続いている。
気を取り直し、やはり下の階へ進むことにする。歩き続ければ、何か見つかるかもしれない。
そうして上りと下りの葛藤を繰り返し、あれからどれだけ歩いたのだろう。ふと階下に目をやると、見るからに怪しげな、狐の面を被った男がこちらを見つめて立っている。
蛇に睨まれた蛙のように、薮は立ちすくんでしまう。
だが次の瞬間、狐の面は物凄い速さで階段を駆け上ってくる。
反射的に逃げ出す薮。上へ上へと、無我夢中でとにかく上る。
だがどれだけ逃げようにも、どれだけ上ろうにも、狐の面は追いかけてくる。
だが疲労も相まって一段一段がやけに重い薮に反して、狐の面は少しもペースを乱すこと無く、どんどんと近づいてくる。
必死の思いで、踊り場の階段を開き、藁をも掴む思いでエレベーターのボタンを押す。すると何の奇跡か、ボタンが反応し、エレベーターの扉が音を立てて開いた。
助かった!
急いでエレベーターに乗り込み、真っ黒に塗りつぶされたボタンを連打する。
頼む、閉まってくれ。閉まってくれ!
だが、閉まりかけた二枚の扉の間に、青い手がにゅうと伸びる。
――扉が開き、狐の面が現れる。
息一つ切らさず、ゆっくりと、薮に立ちふさがる。
もう逃げ場はない。狐の面は薮を押さえつけ、そこで、薮の意識は途切れた。
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05.
有岡大貴の呪い
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04.薮宏太の呪い
誰かと待ち合わせをしていたような気がするが、うまく思い出せない。
近くの踊り場の扉を開くと、そこにはエレベーターがあったのだが、「使用不可」と注意書きがあり、いくらボタンを押してもエレベーターは反応しない。他のエリアに繋がりそうな扉も軒並み開かず、薮は諦めて階段を下り始める。だが、いくら下っても地上へ辿り着かない。どの階のエレベーターも、依然として使用不可の張り紙がされている。
「じゃあどうすればいいの? 上ればいいの?」
と、今度は上り始めるが、どれだけ上ろうとも、何処へも辿り着かない。何処までも青く染まる世界と階段だけが続いている。
気を取り直し、やはり下の階へ進むことにする。歩き続ければ、何か見つかるかもしれない。
そうして上りと下りの葛藤を繰り返し、あれからどれだけ歩いたのだろう。ふと階下に目をやると、見るからに怪しげな、狐の面を被った男がこちらを見つめて立っている。
蛇に睨まれた蛙のように、薮は立ちすくんでしまう。
だが次の瞬間、狐の面は物凄い速さで階段を駆け上ってくる。
反射的に逃げ出す薮。上へ上へと、無我夢中でとにかく上る。
だがどれだけ逃げようにも、どれだけ上ろうにも、狐の面は追いかけてくる。
だが疲労も相まって一段一段がやけに重い薮に反して、狐の面は少しもペースを乱すこと無く、どんどんと近づいてくる。
必死の思いで、踊り場の階段を開き、藁をも掴む思いでエレベーターのボタンを押す。すると何の奇跡か、ボタンが反応し、エレベーターの扉が音を立てて開いた。
助かった!
急いでエレベーターに乗り込み、真っ黒に塗りつぶされたボタンを連打する。
頼む、閉まってくれ。閉まってくれ!
だが、閉まりかけた二枚の扉の間に、青い手がにゅうと伸びる。
――扉が開き、狐の面が現れる。
息一つ切らさず、ゆっくりと、薮に立ちふさがる。
もう逃げ場はない。狐の面は薮を押さえつけ、そこで、薮の意識は途切れた。