「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」

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12.呪いの終わり

元の世界へと戻った知念から、狐の面をそっと外す。
いつもと寸分違わぬ知念の顔。だが、まだここが現実世界だとは信じられていない様子である。
「戻ってきたんだよ」伊野尾が言う。
「あの狐……どうなった?」知念が尋ねる。
「元の世界に戻ったと思うよ。呪いも消えた」
それを聞くと知念は、どこか悲しそうな顔を浮かべながらこう言った。
「エレベーターの中で聞こえてきたんだよ。すごく寂しそうな狐の鳴き声が」
伊野尾は考え込むように押し黙る。確かに、メンバーはあの狐に呪われ、孤独の世界へと送られた。だが元を正せば、その始まりはずっと前の人間の愚かな行動から始まったのであって、あの子狐こそ孤独を強いられた被害者なのではないかと。
伊野尾は立ち上がる。
「とにかく、みんなを捜しに行こう。きっと戻ってきてるはずだ」

やがてメンバー全員と、二人は無事に合流を果たす。
みんながみんな、一様に疲れた表情を見せていた。その顔に誰かが吹き出し、また誰かも笑った。
「骨だよ骨! 信じられる?」
堰を切ったように八乙女が言う。
「骨可愛いじゃん。俺なんて階段上り下り。後半ずっとダッシュ」と、薮。
「あー、それは確かにしんどい!」
八乙女が薮をねぎらっていると、
「知念って分かってれば逃げなかったのに。どうして言ってくれなかったんだよ」
髙木が言う。それに続いて中島が、
「そうだよ。それに走ってる車に縋るのはだめだよ、危ないんだから」
知念は少し笑い、
「だって声が出なかったんだよ」
と、照れながら言った。
有岡と山田はなんとも複雑な心境である。
狐の姿をした知念も出てこず、文字通りの孤独世界だったのだからそれもそうだろう。
「山田はさ、まだ自分と追いかけっこしてたんだからいいじゃん。寂しくないし、自由に動き回れて」
有岡のその物言いに、山田は反論する。
「え、ちょっとまって。考えてみ? 寂しいとかの前にめっちゃ怖いからね」
「山田は知念が起こしてくれたから良いじゃん。俺なんてみんなが助けてくれなかったら最初から最後まで一人だったんだから!」
「みんないるなら寂しくなかったでしょうが。その前にみんなって誰だよ」
「だから、みんなはみんなだよ! 声が聞こえたの! 頭の中に!」
まあまあ、と伊野尾が笑いながら仲裁する。
「またこうして八人で会えたんだから、いいんじゃん?」
その言葉に、お互いがお互い懐かしさを噛みしめるように顔を見合わせ、やがてまた笑い出す。
まるで悪夢から救われたかのように、大切な落とし物を偶然見つけたときのように、八人は再会を喜んだ。

その喜びをよそに、カメラとパソコンを抱えたボロボロの人物が、この世界に姿を現した。
「も、戻れた! 本当に戻れた! 266は16進数だったんだ! みんな、ありがとう!」
などと謎の言葉を叫び、高速ブラインドタッチでパソコンに何やら書き殴っていたのは、また別の話だ。

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13.エピローグ