「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」

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10.再び知念侑李の呪い

扉が開いた先は、見たこともない部屋だった。大量の椅子が乱雑に置かれた奇妙な空間。
何故こんなところに来たのか、まるで分からなかった。見覚えも無く、ただただ狼狽する。
後ろで、誰かの驚く声が聞こえた。
振り向くと、そこには伊野尾慧が立っていた。いつも合わせる顔なのに、懐かしさと安堵を覚える。
だが、彼は狐となった知念のことを恐ろしげに見つめている。
違うんだ。僕だよ、知念だよ。
叫ぼうとするが、声が出ない。
逃げ出す伊野尾を必死で追いかける知念だが、なかなか追いつくことが出来ない。
どれほどその追いかけっこは続いただろうか。
突如として伊野尾は、怪しげに青く光る鏡へと向かったかと思うと、その中へと吸い込まれていった。
またしても知念は、一人青の世界へ取り残されてしまった。

そうして一人きり、知念はこの孤独の世界をさまよった。
次に行き着いたのは階段だった。
無限に続くと思われるような階段。
何処に向かうんだ? 上れば良いのか?
上りながら、寂しさがこみ上げてくる。
すると上からこちらへと下りてくる足音がする。知念が振り返ると、そこには薮が怯えた様子で立ちすくんでいた。
逃げ出す薮。慌てて追いすがる知念。
薮がエレベーターの扉を必死で閉めようとしたが、どうにか知念は間に合い、事の顛末を話そうと肩に手を掛ける。
だが、次の瞬間。
確かに触れていた薮の身体が、青い光に包まれ、何処へともなく霧のように消えてしまった。

他のメンバーも同じだった。
髙木も、中島も、八乙女も、触れた瞬間に全員消えてしまう。有岡に至っては何処にも居ない。
頼むから……夢ならば覚めてくれ。
もはや何処へ通じるかも分からないエレベーターに乗り込む。動かないエレベーターの中で、呆然とするよりほかはないのだ。何時間、何日とそうしていたか分からない。…………
だがその時また、急にエレベーターが動き始めた。
今度は上っている。音を立て、何処までも上がり続ける。
密室の照明は激しく明滅し、青い光の粒子のようなものがいつの間にかふわふわと飛んでいる。
今度は何が起きるんだ。
その時、遠くの何処からか、狐の鳴き声が聞こえたような気がした。

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11.伊野尾慧の呪い