「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」

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06.髙木雄也の呪い

目を覚ますと、そこはシャッター路地だった。
「あれ? 確かさっきまで、ここで伊野尾くんと鬼ごっこしてたよな」
見渡す限り店々はシャッターが下りていて、世界は青に包まれている。
誰も居ない。誰かが居たような気配すらない。さっきまで一緒に遊んでいた伊野尾もいない。
ふと寂しさを覚え、誰かを求めるように歩き出す。
だがどれだけ進んでも、シャッター街が続くばかり。
更に、何処を曲がっても「スナック ハナズオウ」という名前の店に行き着いてしまう。そこから大通りに戻れば同じシャッター街が広がり、そこから先を進んでも同じシャッター街が広がっている。
ループしている……?
俺は何度「スナック ハナズオウ」の看板を殴った?
その時髙木は、遠くの闇に人影を見つけた。
目を凝らしてみれば、その動く影は人のようであるのに、人らしくない。
顔の部分から奇妙な雰囲気が醸し出されている。
更に目を凝らす――青い狐の面。
恐怖が髙木を支配する。
狐の面は突如として、こちらに視線を向ける。
まずい。こちらの視線に気づいた。
堪らず逃げ出す髙木。何処をどう走れば逃げられるのか、それは分からない。ただあの狐の面から逃れなければならないことだけは分かる。
おぞましい。触れてはならない禁忌。
進んでは、曲がり、進んでは、曲がる。
全速力で走り続け、やがて背後からその気配は消えた。
「やっと逃げられた……」
だが、そう思ったのもつかの間のことだった。
目の前には、またさっきと同じように「スナック ハナズオウ」の看板。
わかっているはずだった。どこへ行こうにも此処に行き着くことを。
どれだけ逃げようとも、このシャッター街からは逃れられないのだということを。
そうして――前方の闇、霧のような闇の先から、青い狐の面が迫る。
一歩、また一歩と髙木に近づく。
髙木はそこから、一歩として動くことが出来ない。

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