「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」

戻る

03.中島裕翔の呪い

目を覚ますと、車の中である。そこは地下の駐車場。
「あれ……こんなところで寝ちゃったのか」
エンジンを掛け、出口を目指して走り出す。
それにしてもなんだか頭がぼんやりする。起きる前の事が思い出せない。
収録疲れでひどく眠かったことは覚えている。運転席に着いてからも、まだ眠気はひどく、そのまま寝てしまってこっそり後部座席へ入ってきた薮に突然起こされた。死ぬかと思った。
助手席には誰か居たのだろうか? それがどうしても思い出せない。八乙女が居たような気もするし、全く違う誰かが居たような気もする。その人物から肩を叩かれて……。
とにかく出口だ。なんとなく此処に居てはいけない気がする。
だが、どこまで走っても出口にたどり着かない。駐車場内の表示通りに進んでも、「ホテルクロユリ」の看板と、そして「266」と書かれた柱に戻ってきてしまう。
夢なのか……? だが妙に現実味がある。まるでSFの平行世界に来てしまったような気さえする。あんな非常口も見たことがない。
どれだけ走っただろうか。目の前に、人影があることに気付く。
人がいる。誰だ。良く見ると、何やら怪しい狐のお面をつけている。じっとこちらを見つめ、微動だにしない。
逃げるべきか。どうすればいい。
と思うや否や、その狐の男がこちらに向かってきた。
中島は慌ててアクセルを踏む。路面が音を立て、タイヤの摩擦で煙が上がる。急ハンドルを切り、とにかく走り続ける。
バックミラーを確認する。青い狐のお面は追いかけてくる。
スピードを上げ、どうにかギリギリ角を曲がり切る。
狐の男はどこだ?
サイドミラーに映った。まだ追いかけてくる。
アクセルを踏む。おかしい。駐車場の出口がない。
結局また同じ「266」の柱の前に戻ってきてしまう。
だが、いつの間にかミラーに狐のお面の姿はなくなっていた。
車を止め、ほっと安堵の吐息を漏らす。気付けば全身に冷や汗が滲んでいる。
――その時、ふと中島は全身が寒気に包まれるのを感じた。
ゆっくりと助手席に視線を移す。
いつ乗り込んだのか、青い狐のお面の男が、中島を凝視していた。

次のページ
04.薮宏太の呪い