【第15回】 オプションディーラーの視点 ~巨大ピン8000ドルの攻防に注目~
BTCオプション市場の動向
ビットコイン相場(対ドル)は一時8000ドルに達するなど、軟調推移が続いております。しかし、下落速度が緩やかだったこともあり、インプライドボラティリティの反応は限られました。1カ月物ボラティリティは55%前後で取引されるなど、未だ半年ぶり低水準に留まっております。こうした中、市場の関心は、巨大ピン8000ドルに移りつつあります。11日前(11/8時点)と比較すると、7750ドルや8000ドルの建玉増加も確認できます。本稿では巨大ピン8000ドルを巡る攻防について、オプションディーラーの観点で考察いたします。
そもそも8000ドルの巨大ピンは買い足なのか?売り足なのか?
建玉が集中するエリアが必ずしも「買い足(ガンマロング)」とは限りません。「売り足(ガンマショート)」の可能性も当然あります。もし、買い足なら、BTC相場は行使期日が近づくに連れて、巨大ピンに吸い寄せられる「マグネット効果」が生じますが、売り足なら、逆の展開が見込まれます。
※マグネット効果については、第12回のコラムをご参照ください
つまり、巨大ピンが「買い足」なのか、「売り足」なのかを読み解くことがとても大切なわけです。
良くある見分け方(「買い足」か「売り足」かを探る方法)としては、①期近物インプライドボラティリティのプライスアクションと、②期近物リスクリバーサルのプライスアクションを観察する方法が挙げられます。
例えば、ここ最近のオプション市場の動きを振り返ると、①期近物インプライドボラティリティの低下(※半年ぶり低水準)、②リスクリバーサルの高騰(※BTCプット高への傾斜)が特徴的でした。
もし仮に、8000ドルの巨大ピンが「売り足=ガンマショート」であるならば、上記①の辻褄が合いません。
8000ドルがショートガンマなら、今般のBTC相場の下落局面でインプライドボラティリティが跳ね上がっていたはずだからです(=8000ドルがショートガンマなら、スポットの下落に伴って当該オプションを買い戻したい人が増えるため、ボラティリティの上昇に繋がり易い)。しかし実際には、ボラティリティは緩やかな低下基調をたどりました。従って、8000ドルは「売り足=ガンマショート」では無く、「買い足=ガンマロング」の可能性が高いとの仮説が成り立ちます。
一方、リスクリバーサルの高騰はどのように捉えれば良いのでしょうか?
これには以下2つの観点があります。
一つ目は、市場参加者の相場観が下方向(ベア見通し)にシフトした可能性
二つ目は、8000ドル近辺は既に「買い足=ガンマロング」なので、デルタの厚い実勢相場近辺のオプションは買いたくないけど、8000ドルより下側は「売り足=ガンマショート(※)」なので今のうちに買い戻しておきたいという市場心理
※なぜダウンサイドが強烈なガンマショートになっているのかというと、10/25~10/26にかけてのビットコイン価格高騰後に、下方向(BTCのローデルタPUT)を売却したオプション勢が大量発生した為
以上を総合すると、足元の実勢相場近辺(8000ドル)はガンマロング。しかし、ひとたび下抜けると、ダウンサイドに強烈なガンマショートが待ち受けている可能性は高いと考えられます。
まとめ
以上の通り、ビットコイン相場は足元下落基調を強めていますが、8000ドル近辺はガンマロングとみられることから、足が落ちるまで(今週金曜日11/22の17時まで)は膠着相場(マグネット効果)が続くと予想されます。
但し、カットオフを経て8000ドル近辺のガンマロングがある程度剥落すれば、ダウンサイドに控えるガンマショートを通じて「売りが売りを呼ぶ連鎖」を招く危険性もあり、やはりリスクは「下方向」と考えられます。11/22までは8000ドルを挟んだ揉み合い相場、11/22のカットオフ後の下方ブレイクが当方のメインシナリオです。