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“イバラの道”続く 「グリュック王国」(6) 4.明日のために ~コミュニケーションの徹底を~ 正直、将来性はかなり厳しいといえよう。では、枕を並べて討ち死にを待てばいいのか。我々は経営コンサルタントではない。コミュニケーションが専門領域である。レポートの最後に、その視点で、籠城から打って出るための視点を整理してみたい。 |
オフシーズンでも、この駐車場がにぎわうように |
(1)トップダウンをやめること 最初から無理を承知で指摘させてもらう。これがいちばん大事である。オーナーは、少なくともこれまでのマーケティングからして、戦略性に欠けている。実効的なマーケティングを進めるには、お客様はもちろんだが、その接点にいるスタッフの声を集め、整理し、第三者的な視点で検証した後に、課題抽出と解決策を検討する。インナーコミュニケーションがないと、この活動は成立しない。 今回の取材に対応いただいた、トップに次ぐポジションで社歴の長い支配人であっても、「社長に聞かないとわからない」ことが多すぎるのである。トップしかどうなるかわからないというのに、現場はどのようにセールスすればいいのか?退職者が多い理由もここにあるといえよう。 来場者は、空間創造に感動するが、記憶するのはツール類のわかりやすさとかスタッフの接客などのコミュニケーションなのだ。 (2)ビジネススタンダードで考える 前項に関連して、失礼ながら地方のテーマパークや集客施設の運営事業者は、第三セクターもしくは巨大な個人商店が多い。そのビジネスは、ほとんどそこのトップの成功経験で形成された手法によって進められる。しかし、消費者心理や行動は、地域差はあるにしろほとんど変わらない。つまり理論的説明が可能なスタンダードがあるのだが、個人的な成功体験出発型マネジメントには論理性がない。「お客様満足」が成立する条件は非常にシンプルなのだが、それに経営者の好き嫌いで決まった施策をぶつけてみても、三球三振ばかりであろう。これが組織の動脈硬化を引き起こし、ますますトップは孤立し、市場と乖離した施策ばかりが空しく響くような悪循環に陥る。 別府(大分県)や熱海(静岡県)のような歴史的な温泉観光地ほど、入込の減少が顕著だが、なぜだと思いますか?「老朽化した施設が多く金融情勢の変化で更新もままならず、そのうちに近隣にある新興の温泉地が需要を吸収した」と思った人。立派な箱を作れば客が来る成功体験から抜け切れていないです。では由緒ある温泉地の立派な箱ならリピーターが多く、困ることはないはずですが。 「顧客」を第一義に商品・サービスを考えるビジネススタンダードを導入するのに、いちばん邪魔なのが過去にすがっている経営トップ層の意識なのである。 (3)本質をつきとめてみる これまで批判的なコメントも多数並べてきたが、「グリュック王国」の雰囲気、造作は本当にすばらしい。北海道の湿気のない気候と、北海道・十勝地方の景観もまた大きな訴求点でもある。 エコやグルメ等とコンセプトを着替えさせても、ドイツのイメージが消えることはありえない。もっともっとドイツに特化した、ドイツの持つポテンシャルを活用した集客策を実施できるはずなのになぜか消極的だ。たまたまドイツをこのテーマパークのテーマにしたという、主体性のなさの弊害である。 ドイツで、一般がわかりやすくアピールできるジャンルで言えば、自動車がある。グリュック王国の環境、宿泊、そしてドライブコース機能をセールスポイントに、ドイツ車メーカーの、多数のギャラリーを呼ぶ(動員チャンスになる)新車発表会を開催する。同時にセールスプロモーションとして、販売店から大事な顧客を「ニューモデル・北海道メルヘン街道ドライブツアー」と称して、ここに滞在してもらう(確かBMWなどは、本国のコースドライビングに招待するようなプロモーションを展開していたように記憶するが)。 芸術音楽もポテンシャルが高い。事業主はこのジャンルにどれだけ認識がおありなのかわからないが、現在呼び物のひとつになっている「ビュッケブルグ城」の大祝祭ホールでの室内楽中心の「シュロスコンサート」は、正直言って事業者満足に終わっている。「ビュッケブルグ城」の演出であって、コンサート=音楽体験の提供ではない。何度も言うが、ここのすばらしい空間環境と音楽が調和し、参加する者に強烈な音楽体験を与えるようなプログラムが必要だ。例えば、“グリュック王国・グリム音楽祭”と称して、グリム童話から歌劇「ヘンゼルとグレーテル」(フンパーディング作曲)をメイン・プログラムとしたドイツ音楽の祭典を毎年開催する。「童話」ベースになった曲だけが上演対象だ。また、これは脱線かもしれないが、現代日本のグリム童話解釈として、『本当は恐ろしいグリム童話』(桐生操著、全2巻)の大ヒットがあり、その朗読CDも登場している。これをテーマにしたコンサートも話題を集めるだろう。 サッカーワールドカップ、次の2006年はドイツでの開催である。このタイミングを活かして、何とかドイツサッカー協会のワールドカップ使用のお墨付きをもらい、遊休地を使って小中学生対象の「グリュック・カップ」を本番まで開催する。子供層の大会とするのは同伴家族の消費需要に期待してのことである。ドイツ人のプロサッカー選手のクリニックを共催しても良いだろう。『ドイツワールドカップ2006』の使用権はカネがかかりすぎて難しいだろうが、協会のお墨付きなら何とかなるのではないか。 以上、ざっとアイデアを並べてみたが、専門家を含めればまだまだドイツを極めたコミュニケーションプランが出てきそうである。 (4)「いいこと」をひろめる 現在、マスコミはテーマパークの経営的不況しか報道しない。中にはたいへん恣意的な内容もある。特に新聞は誤りがあっても滅多に訂正しない。それなのに、報道されるのは暗い話題ばかりということになる。 そこで、不振は事実で動かせないが、それでも楽しい話題、人が関心を持てるような話題だって、毎日の営業の中で見つかるはずである。また、イベントの開催日は、その賑わいにしてもいい話題である。こうしたトピックスを、常に発信すると共に、間違った内容はすぐに訂正の依頼を行う。 つまり広報機能の強化を図るべきである。実は、できていないレベルの集客施設が多いのだが、それにしても「グリュック王国」の現状は取材者泣かせである。施設の規模や歴史、動員状況等をまとめた概要説明の1枚もない。紙がなければ話で対応するのだが、社長がそうした情報を社内にも公開していないため、担当は的確な情報を伝えられない(それで、来場者数の推移や敷地面積等の基本情報を掲載できなかった)。これでは、誤った内容で情報化されるケースが増えるだろうし、その内容に関して問い合わせても、当事者からは的確な回答が得られないため、ますます不信がつのるという、負の情報スパイラルから抜け出せない。 インターネットの普及によって、何をするにもWebを参照してから対応を決める消費行動が定着しつつある。集客施設は特に気を遣う必要がある。人々が知りたいのは、ディテールと評判なのである。紙のパンフレットを電子化したコンテンツは不要だ。せっかく「シュロスホテル」のオンライン予約を導入し、今後は通販も行うというのであれば、ますます「説明責任」を問われることにある。 このインターネットの広報利用は、ローコスト&ハイリターンだ。リリースの印刷が難しいというなら、Web上にPDF化して置けばよい。日記のように、毎日の楽しい出来事を伝えればよい。リアルタイムに、イベントの状況を流せばよい。定期的に、「お客様アンケート」を行えばよい。そして、個人のホームページに取り上げられたら必ずコミュニケーションを図る(批判には応え、賞賛には礼)。いい話はマスコミへ積極的にアピールする。 時間は限られている。すぐにでも活動に取りかかりたい。 |
(執筆:安部 /書籍「レジャーパークの最新動向2002」より)
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