“イバラの道”続く「グリュック王国」(5)

3.今後の展開
「ドイツ」とは縁遠いテーマが横行


 はじめて「グリュック王国」を訪ねたのは、たしか1998年の初夏であった。その時の印象といえば、造作にこだわった建設と、オブジェとして置かれていた旧東ドイツ製の大衆車・トラバント。何につけても強気の観光地値段。そして、実際にドイツの人かどうか不明だが、彼らの街の中での大道芸そしてパン・ソーセージの販売。お客もまあまあ入り込みであった。

 しかし、それから4年後の2002年、再び訪れた「グリュック王国」の空間は、4月からのグランドオープンを前にしての平日で、「シュロスホテル」のみが営業という状態であった。オープン当初、徹底的に質にこだわった建物も、その造作ゆえのメンテナンスコストをカバーできないためか、あちらこちらで痛みが見えている。トラバントは、経年劣化と悪戯で、本当にポンコツ寸前であった。そして、従業員もそうだが、お客という主のいないこのドイツの伝統的な街は、帯広の広野のなかで、長い眠りに着いているかのような・・・「眠りの森の美女」でもないが・・・静寂に包まれていた。

○道東での遊園地は競合無く、仕方なしに来園?

 北海道・帯広の立地で、いかに帯広空港から至近(タクシーのみ、約6~7分で1,200円)とはいえ、お客のほとんどは道内からで、しかもその7割は地元・道東在住者が占めている。道東地域のテーマパークは「グリュック王国」以外にないため、選択の余地無くやってくるという消極入園である。ゆえに、2002年のように、桜の開花が早く、施設にとって最高のかきいれ時となるゴールデンウィークに花見が重なってしまうと、相当な影響を覚悟する事態に陥る。

 入込のもう一つのピークが夏休みの旧盆期間というのは、他の集客施設と変わらない。経営資源の効率的運用のため(簡単に言えばコスト削減のため)、ドイツ人による工芸の実演や大道芸アトラクションは、総勢10名でこの期間だけ行われる。ホームページやパンフレットには何の断りもないが、ピーク時以外はお目にかかれない。期待して来場するとがっかりというケースも少なくないという。


○施設空間の貸し出し等で増収努力

 増収に向けての施策は、イベント開催以外にも、小規模ながらいくつかある。

 まず、施設空間の貸し出しである。主な市場はテレビドラマやコマーシャルの撮影である(代表例として飯島直子をキャラクターとする三菱自動車の「シャリオ・グランディス」のテレビCF)。ただしそれほど収益には寄与せず、2001年で300万円程度の収入にとどまった。そこで、特に撮影に限らず、「グリュック王国」にコスト負担がなければ、どんな形でも利用してもらいたいと話している。

 それにしても、『風とともに去りぬ』のように、ドイツの町になぜハリウッドなのか理解しがたいのだが、ドイツの要素は環境演出テーマに翻訳され直している実状はよくわかった。“お宝”で人を呼ぶのであれば、6月から「ハーナウ市庁舎2階」で始まった、「ヨーロッパ・アンティーク展示即売会」の方がわかりやすい。

○施設の設置哲学とイベントテーマの矛盾

 しかし、“ドイツには今も人が住んでいる古城がたくさんあり、そうした古城から直接買い付けたもので、ほとんどの展示物にはドイツのオークション会社発行の鑑定書がつきます。100年から200年前の婦人用ブローチ、指輪、静物画や肖像などのほかに、アンティークドール、コーヒーカップ、花瓶、銀食器などが出展されます。間もなく、ドイツより300点に及ぶ品物が上陸。販売価格は1,000円から数十万円”という説明を読むと、暗澹たる気分に落ち込んでしまう。

 アンティーク品をオークションで売買するのは個人の自由だが、「グリュック王国」は“いまあるものを大切にして、次世代へ伝えようとするドイツ人の心に打たれ、ドイツをテーマにというものを作り上げた”のではなかったのか。ならば、古城に今も残る貴重な歴史資源をオークション業者から買い付けて(場所を提供するだけかもしれないが)、財産形成の目的しかない人々の投機に処分するのは間違いではないのか。古城にあったものは古城で使命を全うすればよい。

 もちろん、大金持ちばかりが今も古城に暮らしているわけではないだろう。実際はその維持に困っている場合が多く、観光客向けに有料で場内を公開する、宿泊を提供する、さらにこのオークションのように財産を処分するなどして、個人財産でありながら公共性のある文化資源を何とか守り、後生に伝えようとしているのではないか。だからこそである。

 どうせオークションを開くなら、「開運!お宝鑑定団」(テレビ東京系で放送中)のコミュニケーションと、有料ネットオークションの事業スキームを参考に、日本国内から出品を集め、落札料金の一部を徴収し、チャリティとしてドイツの古城維持に寄付する内容にしてほしい。収益を求めるのであれば、「グリュック王国」は参加料を徴収すればよい。

 バブルの時、ゴッホの名作をオークションで落札した某老人経営者は、自分の死と一緒に葬れと語り、物議を醸した。それと同じ思想が、この「ヨーロッパ・アンティーク展示即売会」に隠されていないか?古城から直接買い入れるこのスキームは精神的な犯罪である。事業主はドイツを知り尽くしているのだろう?フリーマーケットのような場で「自分の目」に叶った商品を仕入れて売ればよいではないか。

○「砂金取り体験」まさに「何でもする」

 さらに、これも取材後、記事をまとめるのにホームページを見て知ったのだが、6月から「ゴールドラッシュ!砂金堀り大会」なるイベントが始まっている様子だ。北海道砂金史研究会の後援?らしい。

 「取れた砂金は全量持ち帰り可」「砂金入りの記念カードをプレゼント」「1回大人1,000円」以外の詳細は説明されていないため、実施背景は不明である。砂金より、クラインガーデンを希望者にレンタルして、シーズン中そこで育てた花をお持ち帰り頂く方が一般には喜ばれると思うのだが。本誌でも取り上げているが、ポルトヨーロッパの「フローラル・ルネッサンス」が参考になるだろう。

 2001年、起死回生をかけた「21世紀のエコ・ミュージアム」への転換は、期待ほどの結果を残すことなく、翌年再び王国は、グリム兄弟のメルヘンの再現世界に再帰した。エコの残照は、「グリュック・エコミュージアム」として、王国のそれぞれの建物の展示演出に認められるのみである。

 さらの象徴となっていた、豪華絢爛なビュケブルグ城のシュロスホテルの規模は年々縮小され、ついに半分は売却される見込みである。利用者アンケートで、オフシーズンのホテル利用者から戻ってきた「幽霊屋敷」との印象は、同時期に現地を訪ねた取材チームにとって、納得のいくコメントであった。


老朽化が目立ってきているが、資金的に修繕ができない


縮小続くシュロスホテル


シーズンオフとはいえ営業中のシュロスホテル。チェックアウトの姿もなく、スタッフの電話だけが聞こえてくる


ブライダルにも対応している。ただし、深夜にこれを見ると少々怖いかもしれない


王国はハイシーズンの混雑を静かに待っていた


「ヨーロッパ・アンティーク展示即売会」出品イメージ (同社Webより)



「砂金堀体験」。何でも挑戦。(同社Webより)




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