2020.11.11(Wed)

ウズラ農家をコロナが直撃…全国にわずか30戸→27戸に　…半世紀で97％が廃業の背景とは

　「『うずら農家は全国で30件しかなく』と今まで人に説明するときに言っていたのですが、現在27件にまで減ってしまったそうです」

　栄養価が高く、ざるそばやシラス丼、中華丼などに欠かせないウズラの卵。ですが、その卵を生産する農家がコロナ禍の直撃を受けていると伝える関係者のツイートが、話題を集めています。ウズラの飼養は戦時中に全滅し、戦後復活。その後全盛期には全国に1000戸以上ありましたが、半世紀で97％に及ぶ農家が廃業し、さらに生卵をスーパーなどに卸す農家はわずか9戸が残るのみ。何が起きているのか、聞きました。

　冒頭のツイートをつぶやいたのは、「うずらの人＠卵、売ってます」というアカウントで、静岡県湖西市にある「浜名湖ファーム」（近藤哲治社長）のPRなどを担う北祐介さん（25）。大学時代の知人を通じて近藤社長を知り、その人柄や完全無投薬や環境に配慮した飼養方針に一目ぼれし、通販サイトなどの立ち上げを手伝ったり、うずらのカードゲームを作ったりしてきたといいます。

―2日足らずで1.2万いいねがつくなど、話題になりました。

「はい、おかげ様で1日でフォロワーが3倍になりました（笑）。『そんな少ないんだ』と驚く声だけじゃなくて、おでんやお弁当、ピクルスなど様々な食べ方を教えて下さる方もいて、こんなに多くの方がウズラの卵を好きでいて下さるんだと嬉しくなりました」

―「実にいろいろなことがあって、私たちも大変でしたが、いろいろなチャンスにも恵まれ、なんとか今年も無事に年末を迎えることができそう」とも書かれていました。

「ええ、本当に色々あったんです。まず近藤社長が倒れて1～2週間入院し、そうこうしているうちにコロナの感染拡大で緊急事態宣言が出されて外食産業にウズラの卵が卸せなくなり、学校給食も止まってしまいました。でもこれはジャブ程度でした」

―ジャブ？

「はい。うちでは採卵した卵の9割を工場に出荷し水煮にしています。ただ、コロナでどこの農家も工場頼み一辺倒に。でもその工場も外食産業に卸せなくて在庫が貯まる一方になってついにパンクしたんです。工場側もなんとか頑張ってくれましたが、減産要請を出さざるを得ず、うちも9万羽いたウズラの3分の1を処分しなければならなくなったんです。処分したウズラはフクロウなど猛禽類のエサになりました」

―な…なんと…。

「エサになること自体は自然の摂理ですし、命をつなぐことにはなるんですが、大切に育ててきたウズラです。さらに4月にはヒナの仕入れ先まで倒産してしまって…。何とか周辺のウズラ農家と協力し、卵のふ化やヒナの選別、仕入れもできるようにはしたんですが、雄雌の区別はお腹の黒い線だけで、かなり難しくて。たまに『スーパーで買ったウズラの卵を温めたらふ化した』なんてニュースが流れるのもそれが理由なんです」

　と説明しつつ、「ただ確かにコロナはダメ押しでしたが、背景には養鶉業界の窮状がある」と北さん。確かに農林中金総合研究所の2017年のレポートでは、1975年に一大産地の愛知県豊橋市を始め、全国に1000戸以上あったウズラ農家は2010年には96戸に。さらにこの10年で3分の1以下に減っています。ウズラの寿命は2年ほどで採卵できるのは1年ほどで、ニワトリに比べ体も小さいので暑さなどのストレスに弱いといいます。

　さらにヒナ育成や採卵、フンの処理など別々の棟が必要な上、卵を保管するための倉庫や、エサになる魚粉の臭い対策、パッキング設備の更新なども重くのしかかります。一方で、多くのウズラ農家は工場出荷がほぼ100％を占めるため、価格は比較的安定する反面、「どれだけこだわって作っても出荷時には名前は残らない。『手間はかかるのに、やりがいが少ない』と若い人が離れ、新規参入はおろか、後継者不足が深刻化している」（北さん）と指摘します。

　一方、浜名湖ファームでは「自分たちの持つ技術で地域を良くしたい」（近藤社長）というポリシーのもと、腸内細菌を増やして、ワクチンを含め完全無投薬で飼養した生卵を販売。農家や漁業者と連携し、発酵させたフンや沿岸のカキガラで作ったボカシ肥料を開発して野菜を栽培しており、10～20代の若い社員も増えているといいます。

　「今年は本当に大変だったけれど、作り方にこだわり、堂々と『美味しい』と売って来ていたのは間違ってなかったと感じました」と北さん。「近藤社長は『いつも食べる人と周辺の環境を考えていたい。“三方よし”じゃ足りない“皆大歓喜”で世の中を良くしていきたい』と言うんです。その気持ちで頑張っていきたいですし、もっともっとウズラの卵を楽しんで食べて欲しいです」と思いを語ってくれました。

　北さんが運営するツイッターアカウント「うずらの人@卵、売ってます。」（@uzura_hamanako）では、美味しい食べ方やイベント情報なども発信中。ちなみに、大きさでいえば鶏卵Lサイズ1個がウズラの卵7個だそうで、なんだか贅沢な気分？です。