少しばかり落ち着くかとコーヒーを淹れ、二人して次のプランに取り掛かる。
「さて最後に。海神の兵装モジュール流用、か」
帝国海軍が運用する81式海神は特殊な戦術機だ。「局地戦用強襲歩行攻撃機」などとカテゴライズされるが、その名の通り数少ない戦術攻撃機の中でもさらに珍しい「水陸両用」型だ。とくに武が指定した肩部装甲ブロックを兼ねる兵装モジュールは、120mm滑腔砲にミサイルランチャーを内蔵した複合ユニットと言える。
「これに関してはまずは現物合わせだな。とにかくあれは重い。ミサイルを排除したとしても一般の戦術機に乗せられるかどうかが判らん」
「あ~海神は飛びませんからね」
「そうだ。運用できるかできないかという話であれば、間違いなくできる。関節強度などは海神がとくに強化されているということはないからな。ただ、君の言う通り、吹雪や撃震に積んだら飛べん可能性が高い」
海神の特異な兵装は、飛ばないことを前提にした強度と重量設定であり、それゆえに重武装が可能となっている。
支援砲撃能力として海神の装弾数は非常に魅力的だが、XM3にOSを換装すると言ってもそもそもの機動性が無ければ効果も薄い。もし兵装モジュールを主機出力の低い撃震などに積んだら、跳躍移動ができない可能性の方が大きい。
「そこまでして戦術機に支援能力を付与すべきかとなると、戦術戦略レベルからの変更が必要だな」
ユーロのオールTSFドクトリンは、結局のところ機甲師団が全滅しているから、ありものの戦術機にその能力を付与して用いるという計画でしかない。大陸への派遣があったとはいえ、日本はいまだに機甲師団は充実している。
そしてハイヴ攻略を目的とする武にしてみれば、満足に跳躍できない支援戦術機など、ただの足枷でしかない。
「で、だな。携帯弾数にも関係するのだが、突撃砲の話に戻すと、だ。WS-16は知っているな?」
「ええもちろん。F-4に合わせて作られた最初期の突撃砲ですよね」
「ああ、最初期のものだが優秀だ。諸外国では今でも改修型のWS-16Cを使っている部隊もあるくらいでね。突撃砲の基本と言ってもいい」
少し待ちたまえと言い残して、巌谷は資料を取り出してくる。
「これがWS-16Aだ」
差し出された資料を見ると、形状は記憶通りのものだったが、スペックに目が惹かれる。
「20㎜機関砲と105㎜滑腔砲、ですか……」
「そうだ。威力不足が指摘され、比較的早い時期に今の基準ともいえる36㎜機関砲と120㎜滑腔砲に変更されたがね」
口径が変更されたのは単純に威力の問題だ。
装弾数は下がったが威力は上がり、結果的に継戦能力は向上した。
「そして20mmはともかく、だ。105㎜滑腔砲は君の目的には相応しいのではないか、と考える」
20mmで対応できるのは戦車級など小型種までだ。突撃級や要撃級を相手取ることを求められる戦術機の主兵装としては心許ない。結果として36mmが採用されることとなった。
だが弾頭の改良が進む現在であれば105mmでも、距離によっては十分に要塞級や重光線級に有効だという。
「しかし105mmですか。兵站の方に怒られそうですね」
「君の、いや香月博士のところなら、問題はなかろう?」
巌谷はその技術廠第壱開発局副部長という立場と元譜代にして斯衛の衛士という経歴ゆえに、階級以上に第四の概要は知らされている。秘匿されているA-01の存在も、そこに不知火が連隊規模で配備されていることも、だ。
大規模に展開する部隊が多種多様な兵装を使えば、補給に問題をもたらすことは明らかだ。砲弾補給コンテナを開けて、自分が装備していない火器のマガジンしか入っていなければ、それだけで戦線は混乱を起こす。
逆に小規模の部隊が特化した装備をしていたとしても、大部分には影響はない。
「確かにあの部隊であれば補給も兵站も独立はしてますし、105mmへの小口径化に伴う有効射程距離の減少にも対応はできるとは思います」
むしろ携帯弾数が増えるのであれば、喜んで使いそうな面子の顔がいくつか浮かぶ。
「独立しているという意味では、斯衛にも一度は話してみたのだがね」
「ああ、斯衛の方々なら、120mmでなくても、あ~アレですね」
「言葉を選ばすとも良いよ、白銀君。前に出たがるのは武家の癖だな」
巌谷とて戦後に廃家になったとはいえ譜代武家出身、そしてかつては斯衛の衛士だった。
それゆえに、対BETA戦において悪癖とまでは言わぬが、斯衛の近接重視には含むところもある。
「実のところ、87式に合わせた105mm滑腔砲モジュールはすでに試作されている。ただ君の要望に沿う形にするならば、少しばかり砲身の延長と、装弾数増加のためにマガジンの再設計は必要だろう」
「お~『こんなこともあろうかと』というヤツですか」
「ふはは、大陸派遣軍に持たせる訳にもいかず、ここの倉庫で埃を冠っているはずだがね」
極論ではあるが、口径長さえ伸ばせば威力は上がる。ロングバレル化は重量増加と取り回しへの影響が懸念されるが、小口径化によるモジュール全体の軽量化とで相殺できる程度だという。
「あと、ですね。これに関しては第四の方でも衛士からは無理じゃないかという話で、一度は却下されかけたのですが、一応見て貰おうかと」
話の流れ次第なら出さずとも良いとは言われていたが、これまでの巌谷の反応を見る限り、即座に否定されることはなかろうともう一案提示して見る。
「ああ、これは……なるほどな。確かにこれであれば、現場衛士からは否定されるな」
先に提案した三件とは別の用紙だが、こちらも要点だけなので読むほどではない。一瞥して意図は掴んでもらえる。そして、巌谷であればその問題点にもすぐに気が付く。
「香月博士の直轄する部隊であれば、どうにかできるのではないかとは思うが、そちらでもダメなようだな」
「お恥ずかしながら、現場の衛士、特に前衛からの反発が大きいですね」
提案したのは、戦術機の燃料増加に関する一つの試案だ。
「ドロップタンクの問題解消を試みて、か」
「ドロップタンク自体は、まあいろいろと問題はあるでしょうが、便利な装備だとは思います。が、少しばかり増槽としては心許ないんですよ」
戦術機用のドロップタンクは、航空機の物とは異なりバックパックのような物だ。基本的にはジェットとロケット双方の推進剤の補充を目的としているが、場合によっては門級への対策としての薬物注入用ドリルなども搭載される。
通常の作戦であればあまり使用されることのない装備だが、後方に下がっての補給が困難な場合などには、補給用コンテナに搭載して使用されることもある。
「白銀君は判ってはいるのだろうが、ドロップタンクの問題点は、何だと思う?」
「そうですね、大きさと重さの割に搭載できる燃料が少ないことと、重量増に伴う機体の運動性低下。あとは兵装担架の圧迫、といったところですか」
「まあその辺りだな。補給線の構築がしっかり出来上がっている防衛戦などでは、使う機会も少ない」
武の明確な記憶の中では桜花作戦の際に、A-01に貸与された武御雷が使用しているくらいだ。それ以外でもどこかで使ったような記憶もあるのだが、あまり常用する装備とは言いにくい。
「その上での、コンフォーマル・フューエル・タンク形式での燃料増設、か」
「F-15ACTVなどは跳躍ユニットに増槽を付けているそうですが、あれはF-15自体の設計的な余裕と主機出力からくる余裕でしょう。不知火にあのような改修は不可能だと話しておりまして、代りに出てきた案の一つがコレです」
携帯兵装の改装とは別に、ハイヴ攻略に向けては足の長さが欲しいという話の流れでターニャが出してきたのが、この案だ。
ドロップタンクと同様に増槽に分類されるが、こちらは機体胴体背面に増設する形で、原則的には取り外すことは想定されていない。
ざっくりと描かれている三面図を見ると、襟首あたりから背面に向けて盛り上がりが作られ、背部にはドロップタンクと同じくらいの膨らみが形成されている。
細かな数値は覚えていないが、そこに概算値として出されている数値を見ると、ドロップタンクに比べ三割ほどは増量しているように見える。
「ふはは、似たような話は不知火の壱型丙や撃震などの改修計画の時にも提案はされてきたのだが、今のところはすべてペーパープランの域を出ていないぞ?」
「理由をお聞かせいただいても?」
「おそらくはそちらで出た意見と同じだろうが……」
なんとなくは想像できるが、確認するうえでも答えを聞いておく。
「簡単な話だ。コンフォーマルタンクの場合は、基本的には背部の可動兵装担架システムを丸ごと排除して、そこに燃料タンクを増設することになる。その分、増設できる容量も大きければ、増設分の重量増加も抑制はできるが、欠点は判りやすいな」
「やはり兵装担架が無くなるのは、反対意見が大きいということですか」
突撃前衛や強襲前衛であれば背部の兵装担架に長刀を装備しているし、強襲掃討であればそこに装備する突撃砲による4門同時掃射こそが主任務ともいえる。それらが選択できなくなるということは作戦行動の幅が狭まるということだ。
ドロップタンク装備時と同じ問題ではあるが、そちらであれば空になったタンクは投下し、移動先で補給コンテナなどから装備を改修することで本来の装備に戻せる。応用性の無さが問題となりそうだ。
「YF-23のように肩部に兵装担架を接続するような形であれば解決できるのだろうが、そこまで行くと上半身の再設計どころか、完全に作り直すのと同じだ。伸びた背部に兵装担架を移動させるのも、無理だな」
「そうですね。コンフォーマルタンクだけであれば胴体部分、それも背面だけの改修で済むんでしょうが、肩部の副腕まで含めるとなれば、それを支える脚部まで変更する必要がある、と。結局新機種設計ですね」
そこまでするのであれば時間的にもコスト的にも、不知火・弐型の完成と量産とを待つ方が現実的だ。武が希望する2002年内に用意できる物ではない。
「こちらでも否定された理由は同じですね。全機をこの仕様にしてしまうと、さすがに投下火力の低下が問題視されるかと思います。副腕としての兵装担架ではなく、括り付けるような形でも長刀や突撃砲が搭載できるならば、まだ受け入れられるかもしれませんが、それも重量的には問題がありそうですね」
「そういうことだ。括り付けるだけ、と言葉にすれば簡単に聞こえるが、そんなことをすれば跳躍中に振り落してしまう。それなりの固定方法を取ろうとすれば、可動兵装担架ほどではなくともどうしても重くなる」
重量が増えてしまえば、燃料搭載量を増やした意味が薄れる。バランスの問題なのだが、下手をすると今まで同様の装備を持ち込もうとすれば、増やした燃料の分だけ消費が増えるなどという馬鹿げた結果にならないとは言い切れないのだ。
戦術機の跳躍ユニットはジェットとロケットとの併用という、燃費に関して言えば最悪ともいえる形ゆえに仕方がない部分でもある。
「まあ一案として覚えておくよ。君が言うように胴体フレームと背面装甲の形状修正だけで済むので、大隊規模程度であれば用意することはさほど時間が掛からない」
「しかし君は面白いな。不知火に対する現場からの要請の多くは、主機出力の向上と兵装強化改修が大半だったのだが、な」
より速く、より強く、とは衛士ならば誰もが望むことだろう。
Mk57中隊支援砲を主兵装にできないかとまで言い出している部隊もあるという。
「主機やジェネレータの最高出力を下げてでも、稼働時間の延長と携帯弾数の増加か。君が想定しているのは、ハイヴ攻略か」
「……ご推察の通りです、中佐」
複雑な山地を持つ日本において、防衛戦だけであれば戦術機の強化ではなく、砲兵科の強化こそが重要だ。合わせて工兵科や通信兵科、そして輜重兵科の充足こそが、結果的には戦術機の前線能力を高めることになる。極論、戦術機は最前線の陽動と弾着観測ができればいいのである。
だがハイヴ侵攻となれば話は別だ。XG-70のような特例を除けば支援は不可能で、戦術機甲隊のみでの侵攻となる。そこで必要となるのは、個々の戦術機が持ち込める推進剤と弾薬の増加だ。
「噂の不知火改修型、弐型でしたか? あれが今すぐ手元にあるなら良いんですが、無い物強請りをしても始まりません。手元にある物を組み合わせてどうにかしようと考えているところですね」
喀什攻略はBETAの増加や第五派からの干渉などを含め、どれほど余裕を見ても2002年夏までには実施しなければならない。不知火・弐型はいまだ先行試験段階だ。第四の権限で押し切って先行量産してもらうとしても、連隊規模の数を揃えられるかというと、時間的には非常に厳しい。
「今すぐ……か。それほど切迫している、と香月博士らは推測しているのか」
「推測と言いますか、最早確定した事象、ですね。新型機を待つ余裕は正直ありません」
言葉を漏らしすぎたかと一瞬悔やむが、帝国技術廠と巌谷榮二はできれば取り込んでおくべきだと、ターニャからも言われている。無理に隠すほどのことでもないと考え、時間が無いことだけは伝えておく。
「詳しくは聞かんよ。では、こちらでできる範囲のことはしておく。ガンブレードなどという格好のネタもあることだしな」
ただ巌谷自身にしても、無用な詮索はしてこない。必要なことは処理しておくよ、と笑って誤魔化されてくれる
XM3のトライアルには期待しているとあらためて付け加えられつつも、火器改修に関しては十分な手応えを感じながら武は技術廠を辞した。
前回に続きオリジナル戦術機、ではなく、ちょっとしたオリジナルな装備のいくつか、です……数々というほどでもない。
ちなみに前回の突撃砲のマガジンクリップはネタ元?らしきP90にもマガジンクリップがあるので、たぶん大丈夫でしょうくらいの発想です。P90のはマガジン後半?で無理やり繋ぐ感じなので結構無茶っぽいですが、87式突撃砲ならマガジン上部にあまり邪魔なものが無さそうなので。
銃剣に関してはP90を見習ってストライクパーツとかにしても良かったかと思いながらも、有り物流用ということで普通?に銃剣で。スリングはまあ有ってもおかしくないよね?くらいです。アニメだとVF-1とかボゾンくらいしかスリング付の銃の記憶が出てこないのがちょっと悲しいです。
CFTは何気に大改造になってしまいそうなので、時間的に無理かなー行けるかなーくらい? 120mm滑腔砲から105mmへの変更はモジュールの差し替えだけだから何とかなりそう?こっちの問題は兵站面ですけど。