10月、11月がワクチンで身を守るラストチャンス 第6波に向けて絶対やっておきたいこと
緊急事態宣言は明けたものの、この冬、確実に来ると言われる第6波を前に私たちはどう過ごしたらいいのでしょう。公衆衛生の専門家は、この10月、11月にワクチン接種を隅々まで広げることが鍵となると話します。
長かった緊急事態宣言が明け、徐々に戻りつつある私たちの日常生活。
しかし、一気に緩んでしまえば、リバウンドが起きかねない。
ワクチン接種が進んだ国でも流行が起き、日本でも第6波が確実にやって来ると見られる中、私たちはどう備えたらいいのだろう。
BuzzFeed Japan Medicalは、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに聞いた。
劇的に減った感染者
ーー劇的に感染者が減ったので驚いています。
7月6日の記事「重点措置の延長では後悔する 『これからの大波を乗り越えるために再び緊急事態宣言を』」で、私がこう言ったのを思い出しています。
10月過ぎて気候も落ち着いてくると「今頃、オリンピックを開催すれば良かったのにね」ぐらいの雰囲気が出てくる可能性もあります。
ここまで下がるとは思っていませんでしたけれどもね。
ーー下がった理由は何ですか?
主にワクチン接種が進んでいること、様々なイベントがある夏に比べて人が集まる場面が少ないこともあります。天候が過ごしやすくなり、窓を開けて換気をしやすくなったこともあるでしょう。
東京では接種が進んで80代では9割以上となっています。しかし、60代、50代、40代の接種率をいかに上げるかが大事です。もう一声の呼びかけをしてほしい。
残り3割〜4割にどれだけ接種してもらえるかが、次の段階に行くために何よりも重要です。
10月、11月はワクチン接種に至っていない人をどう接種につなげられるかが冬以降の流行を決めるとも言えます。
ワクチンをうっていない場合の重症化率の高さ
こちらは札幌市のデータをもとに出した、ワクチン接種の有無で比べた重症化リスクのデータです。
例えば、40代では陽性者のうち、10人に1人が酸素が必要になったり人工呼吸器が必要になっていますが、ワクチン接種した人はたったの0.1%しか酸素が必要になっていません。
50代に至っては陽性者のうち5人に1人が酸素が必要になっています。それでも接種済みの人は0.3%しか酸素が必要になっていません。
これは札幌だけではなく、広島県のデータを見ても似た傾向が見られます。50代の陽性者の5人に一人は酸素が必要な中等症以上です。
広島県と札幌市ではワクチン接種の有無についての定義が異なるので、広島県の方が接種済みの重症者の割合が高いのはそのせいかもしれません。これまでの論文からも、接種すると大きく重症化リスクが下げられることが分かっています。
宣言明け どんな条件ならどこまで気をつけるべきなのか?
ーーワクチンをうっていない人はそれなりの重症化リスクがあると再認識するデータですね。
今、10月になって、「宣言が明けたから飲み会をしよう」と人々が言い始めています。この時期にまだワクチンを接種していない人が40〜60代で10人に2人や3人ほどいることは、先ほどの東京都のデータからも見えます。
この人たちは高い重症化リスクに晒されたまま、飲み会に行くことになります。
ワクチン接種済みの人や検査で陰性の人のできることを増やす「ワクチン・検査パッケージ」の導入が叫ばれていますが、検査で陰性だというだけで、この重症化リスクを受け入れるのは特に中年の年代は避けた方がいい。飲み会に誘ってはいけないレベルだと思います。
もちろん地域の流行状況に、感染するかどうかは左右されます。
よく「飲み会、どうしたらいいですか?」と聞かれるのですが、札幌、広島のデータは今後の議論で参考になると思います。
ワクチンを接種していない人が「重症化リスクを知らなかった」ということにならないようにするべきです。特にこのような時期にでも飲みに行くのは大事な間柄だと思います。お互いに対する思いやりとして話題にしていただきたい。
ーーでは、どんなことならできますか?
10月はもう一段ワクチン接種を進めている時期です。
ワクチンを接種していない人は今、感染が落ち着いているからリスクが少なくなっています。でも、今後はワクチン接種者が今まで以上に動くようになると、地域での感染するリスクはこれまで以上に高くなります。
20代をみると、確かに中年層よりはリスクは高くない。陽性者の中で酸素が必要な中等症2以上になるのは100人に一人いるかいないかです。ただ、そこから接触する人がどうか。家族、職場にそういう人がいる場合にはその場合どうなるかを想像していただきたい。
こうした現実からすると、今までは重症化リスクは、高血圧、糖尿病、肥満などと言っていましたが、特に中年以上の年代については「ワクチン接種をしていないこと」が重症化のリスクになると言った方がいいと考えています。
ーー最近、病院でブレイクスルー感染によるクラスターが起きました。ワクチンをうてば重症化はしないかもしれないけれど、感染はするし、人に感染を広げる可能性は残ります。ワクチンを2回うった人は何ができるのですか?
それを言うことはなかなか難しいです。まず、自分だけのリスクではなく、誰かと一緒に何かをすることを考えると、相手や周りの人の接種状況や重症化リスクがどうなのかも考えなければいけません。
ワクチンをうっていれば自分は感染してもほぼ軽症になることはわかっている。しかし他の人にうつすかもしれないことを考えると、同居家族にワクチンをうっていない人がいたら、行動に慎重にした方がよいと言わざるを得ません。
一方、自分も家族や友達もみんなワクチンをうった場合は、ランチぐらいはこの流行状況なら行くでしょう。ただ感染が拡大してきたら、それもまたできなくなる
ある意味、今の収まっているタイミングは、つかの間かもしれませんが、これまでにできなかったことをする良いタイミングでしょう。
ただし、家族や親しい人ではなく、様々な人で飲み会をどんどん開くなどの感染リスクの高いことをやると、リバウンドを加速させます。
まずはワクチン接種済み同士で、今まで我慢してきたそれほどリスクの高くないことをできるようにしてほしい。家族で温泉に行く、外食に行く、祖父母に逢いに行くぐらいは気をつけながらできるようにしていきたいものです。
帰省、旅行、10月、11月がチャンスだが....
冬を迎えるとどういう状況になるかはわかりません。年末年始もまた、「帰省はしないでくれ」と呼びかける可能性もあります。ワクチン接種が進んでも、半年から8ヶ月ぐらい経つと抗体価が下がってきます。この冬はまた厳しいことになるかもしれません。
むしろこの10月11月に小規模分散化で旅行などに行ってもらう。ただ行った先で大勢での友人での同窓会やパーティーなどはできれば避けてほしいのですが。
ーー先日、知事会が政府への提言にGo To事業の再開を要望として盛り込んでいました。Go Toはどうですか?
おそらくGo Toをやらなくてもみんな動くでしょう。
でもGo Toトラベルのように割引率も高くてコロナ以前よりも人があふれるようなことをするのはどうかと思います。小規模分散化を促すために「平日の旅行を割り引く」「連休は使えない」などして、できるだけ歯止めをかけるようにしていただきたいと思います。
また、Go To を使うなら、ワクチン接種を前提とするなどもあると考えます。
ーー飲食店で使うGo Toイートはどうですか?
これをやるとリバウンドが早く来ると思います。自治体はどうするかをよく考えてほしい。
ーーしかし、緊急事態宣言が長過ぎて、みんな限界にきています。
次の流行はワクチン接種に至っていない若い人たち、つまり20代、高校生ぐらいの感染者が多くなると思います。またワクチンを接種していない40〜60代の中年層が重症化するのが特徴になります。そのリスクを考えて行動してほしいのです。
必要なのはワクチン接種を広げること どうやって?
ーー対策の鍵はワクチン接種ですか?
何よりも優先してワクチン接種を進めることが必要です。ワクチン接種がどこでできるかわからない、接種券が見当たらない、予約をしたいけどとれなくて諦めた、などという人に対して、市町村が積極的にアプローチすることが必要です。
それによってこの冬がどうなるかが決まります。
ーー具体的には何をやるべきですか?
インセンティブ(動機付け)を設けて、ワクチン接種をこれからする人にポイントを与えたらどうか、などと言われるのですが、私は反対です。
ワクチンは医療行為ですし、3回目の接種の必要性も議論されている中で、「ワクチンするならご褒美」というのは中長期にみると様々な課題が生じる可能性があります。
それよりは、札幌や広島のデータで示したワクチンの効果や、世界で何十億回もうたれている安全なワクチンだということを理解してもらって、接種していただくことが公衆衛生の立場からは望ましいです。
接種した人にできることを増やすインセンティブはいいと思います。ただできることをどこまで増やせるかは難しい。
20代は100人に1人しか重症化しませんが、10人に1人ぐらいは味覚障害や疲労感などの後遺症が残ります。
通常は宣言が明けてから数週間で若い人を中心に感染が広がります。その時に接種していないとリスクはあると理解して、自分や周囲を守るために接種してほしいです。
ーー子どもには接種すべきですか?
子どもはほとんどが入院を必要としないし、症状も軽いです。今のところ日本では12歳から16歳未満については親と本人とでよく話し合いをして判断することになると思います。
部活や受験のある人は接種した方がいいです。最近この年代にワクチン接種会場を確保しても埋まらないことも多いようです。「副反応で熱がでると部活ができない」「文化祭があるから」などの声も聞かれるそうです。
ただ海外でもワクチン接種が進むと、免疫のない人の感染が主になっています。次の流行は、若い人、特に未成年の割合がより増えてくる。今までとは違う感染者像を経験することになると思います。
その傾向は既に沖縄県で見えていて、全体の3割が未成年になっています。この冬はこの年代が数としては多くなると見込んでいます。そうしたことも考慮して接種するかどうかを考えていただきたいです。
そして、海外での事例をみると、2回目の接種から半年以上経って抗体価が下がってきた高齢者の感染も増えてくると思います。
ーー3回目接種はどうなりそうですか?
ワクチンの入手状況も影響しますし、2回接種してもらうのが最優先なので、それが終わるまでは始まらないでしょう。少なくとも医療従事者が一番最初ですが、12月の年末ぐらいまでは効果がもちそうなので、年末ぐらいから3回目接種が具体的に動くと思います。
イギリスでも同じ傾向が
イギリスのデータは、日本よりも先んじているので今後の参考になります。
イギリスの10万人あたりの年代別陽性者の数です。黒がワクチンを2回うった人、灰色がうっていない人です。
既に7割ぐらいの人がワクチンをうったイギリスでは、感染者全体を見るとワクチンをうった人とうっていない人で同じぐらいの人が陽性になっています。40〜70代ではワクチンをうった人の方がむしろ人口あたりでは多いですね。
一方、救急対応で1日以上の入院が必要だった数をみると、明らかにワクチンを2回接種した人の方が少ないです。
イギリスは今、かなり対策を緩めていますが、日本もこれから対策を緩めることを考える時は、こうなるだろうと心構えをした方がいい。
ワクチンで重症化のリスクから身を守らない人は非常に惜しいことになると思います。
専門家や医者の言うことは聞いてくれなくても
ーーしかし、様子見している人はどうやったらワクチンをうつ気になるでしょうね。
先日、ある市民公開講座で話したのですが、60代の男性が手を挙げて、「私はワクチンをうたずに、栄養と食事で乗り越えたい」と話しました。
私はワクチンの効果を伝え、「うたない場合のリスクとして60代では4人に1人は酸素が必要になるのですよ」などと返したのです。
すると、「そういう言われ方が腹が立つ」とおっしゃいました。とても和やかな会で少し笑いも起きました。私も「そのお気持ち、よくわかります」と答えて、こう伝えました。
「私は医療者なので事実やリスクに基づいてこういう話しかできないのです。たぶんそれぞれが身近な人に『ワクチンうった方がいいよ』と言われた方が腹落ちするところがあると思います。家族だったりスナックのママだったり、誰に言われるかはとても大事です。だからもっとワクチン接種を身近な話題にしてほしいのです」
「行動が変わるかどうかは、誰を信頼しているかが大事なポイントです。だからこそ、みんなで声を掛け合って接種を広げることが大事なんですよ」
その人は「なぜうちたくないのですか?」と聞くと、「実は肺炎球菌ワクチンをうった時に副反応が酷かったから」とも言われました。そんなふうに、それぞれワクチンをうたない人には理由があるんです。理由は様々です。
個別に周りが声を掛け合いながら、腹落ちしてもらうしかない。
冬場に緊急事態宣言を出さずに過ごすためにはワクチンを隅々にまで広げることが大事です。第6波で「ワクチンをうっておけばよかった」と後悔しないように、この10月、11月が呼びかけのラストチャンスかもしれません。
この機会を逃さないために、自治体も、地域も、企業も協力してほしいです。
ーーこの冬、インフルエンザはどうですか?
インフルも流行が戻ってくる可能性があります。既に中国、インドで増えており、人の移動が増えてくると日本にも入ってきます。コロナワクチンを優先して、その上で11月からインフルワクチンもうっておいた方がいいです。
ーー第6波は必ず来ますか?
規模は分かりませんが、来るだろうと思います。今度は、ワクチン接種をせずに油断している層、20代、10代後半あたりが感染を広げる核になり得るかもしれません。軽症だから外に出て知らないうちに地域に広げていく。
そういう兆しは見えています。どうかワクチンで備えてほしいです。声をかけあうなら今です。
【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授
2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を昨年6月11日に出版。Youtubeでも情報発信中。
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