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昆虫食を広めたい群馬の大学生 “ゲテモノからの脱却”で考えた

  • 2021年9月25日

世界で深刻化する食糧問題の切り札の一つとされる昆虫食。でも、まだまだ抵抗感がある人も多いと思います。そこで、昆虫食を普及させるために群馬県の大学生が考えた戦略が「ゲテモノからの脱却」。コオロギのゴーフレットは、こんなデザインのパッケージになりました。
(前橋放送局/ディレクター 猪飼奈々)

昆虫食 大学の購買部にも ジムにも

ことし4月、群馬県のある大学の購買に、少し変わった試食コーナーが設置されました。
置かれていたのは、コオロギの粉末を使用したチョコやせんべいなどの「昆虫食」です。

 開発者

これがうちの新商品で、コオロギパウダーを配合しています。

 

わたし人生で初めてコオロギ食べるんですけど。昆虫食べろって言われると見た目とかも抵抗感あるんですけど、こういう形だったらおいしいし。環境にいいものを食べたら、人間にもいいんじゃないかと思います。

 

香ばしい! 初めて食べたけど おいしい。

コオロギを使ったこれら商品は、高崎市内のジムにも置かれていました。

トレーニングをする人たちの間でも、「効率よく栄養がとれる」とひそかなブームとなっているようです。

スポーツジム経営者白川裕登さん
「トレーニングしたあとのたんぱく質補給に適しているから置きました」

はじまりは「げっ、気持ち悪い」

商品を作ったのは、群馬県の高崎経済大学大学院生の櫻井蓮さんたちです。
櫻井さんは、大学院で食用昆虫の加工や養殖について研究する傍ら、昆虫食を扱うベンチャー企業のCEOを務めています。

昆虫食との出会いは大学2年生の時、長野の友達がお土産に持ってきたイナゴの佃煮でした。

「げっ、気持ち悪い」

虫の形がそのまま残った佃煮を食べる気にはなれませんでした。
しかし同時に、環境心理学を勉強していた櫻井さんは、疑問に思いました。

「エビもイナゴも見た目はあまり変わらないのに、なぜ昆虫は食べたくないのだろう…」

この経験を機に「昆虫を食べることへの嫌悪感」をテーマに研究を始めます。

「目からウロコ」 コオロギ養殖場

調査のために昆虫食が広く普及しているタイを訪れたとき、昆虫を見る目が変わりました。

コオロギの養殖場を訪れた櫻井さん(奥)

現場で目にしたのは、大規模な食用昆虫の養殖生産と、それを求めて世界各国から訪れる多くのバイヤーの姿。

昆虫が「持続可能なたんぱく源」として世界から期待されていることを知った瞬間でした。

櫻井蓮さん
「日本にいると、食糧不足の未来を想像することはなかなか難しいかもしれませんが、世界全体でみればそのリスクは確実に高まってきているのだと気づきました。豚や牛だけでなく、昆虫も一つの食として取り入れていくことが求められていると実感しました」

国連も推奨!新たなたんぱく源として期待

世界が昆虫食に注目するきっかけとなったのは、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した報告書。人口増加に伴う食糧問題を解決するために、昆虫が有望な食料になると示されました。
その理由は2つです。

(1)環境にやさしい
ふだん私たちが食べている牛肉や豚肉は、飼育に大量のえさや水を必要とするため、その生産や輸送の際に多くの温室効果ガスを排出しています。
一方コオロギなどの昆虫は、どこでも飼育でき、エサも少なくて済むため、環境にかかる負荷が小さいと言われています。

(2)栄養価が高い
昆虫は、牛や豚と比べて、たんぱく質を同等あるいはそれ以上に含んでおり、ビタミンやミネラルも豊富に含むと指摘されています。また「低脂肪」なので、ヘルシーに効率よく栄養がとれます。

どう乗り越える抵抗感

タイで昆虫食の必要性を感じた櫻井さんでしたが、帰国後日本では、手軽に購入できる昆虫食の商品がないことに気付きました。

ならば、自ら商品化に挑戦してみようと思った櫻井さんは大学の教授と共に本格的に商品開発に乗り出します。
最初に向き合った課題は、昆虫を食べる習慣があまり根付いていない日本で「抵抗感」をどう乗り越えるかということでした。

自身もイナゴがそのまま入った佃煮に抵抗を覚えた経験があった櫻井さん。そこでコオロギの粉末をパウダーにして練りこむことで昆虫が見えない形の商品を作ろうと考えたのです。

コオロギは香ばしい

コオロギパウダーをタイから輸入して向かったのは、地元群馬のお菓子屋です。
「老若男女だれでも気軽に食べられるようしたい」
相談の結果、クリームを挟んだゴーフレットを作ることにすることにしました。

お菓子屋と共同で試作を繰り返した

材料に混ぜるコオロギパウダーの量は、多すぎると特有のえぐみが出てしまい、逆に少なすぎるとコオロギが入っているのかわかりません。
試行錯誤を重ねた結果、コオロギの香ばしさがほんのり感じられるおよそ5%を小麦粉に混ぜ込むことにしました。

パッケージもポップなデザインで可愛く仕上げ、親しみを感じてもらえるようにしました。
その後、櫻井さんはコオロギの粉末を使ったチョコやせんべいなど、数種類の商品を開発していて、売り上げも順調に増えているということです。

櫻井蓮さん
「まずは手に取ってもらえるように、おしゃれに楽しく食べられる昆虫食を目指しています。それをきっかけに、栄養価の高さや環境にやさしいことなど昆虫食の可能性に気づいてもらえたらうれしいです」

全国の大学に広がる 昆虫食の輪

さらに、櫻井さんは今後、同じ志を持つ仲間との連携を強化していきたいと考えています。

全国各地に同じ思いを持ち、活動する大学生がいるとわかったからです。

近畿大学4年 清水和輝さん
昆虫を使ったおいしい料理をYouTubeで紹介しています。
今後は、自治体やテーマパークとも協力して、子どもたち対象に昆虫食を知ってもらう体験講座を行いたいです。

東京農業大学4年 秋山大知さん
大学で、食品ロスを飼料として昆虫を育てる養殖方法を研究しています。今後は人工知能を利用した食用昆虫の生産技術の構築に貢献したいです。

櫻井さんは、大学生など若い世代が中心となって昆虫食を発信していくことに意義を感じています。

櫻井蓮さん
「これからの環境問題や食糧問題に向き合っていかなければならないのは、僕たち若い世代。だからこそ、この問題を自分ごととしてとらえて、昆虫食という新しい食も積極的にアピールしていきたい」

取材後記

櫻井さんら昆虫食の普及に取り組む学生たちは、SNSも活用して昆虫食の普及を進めています。SNS上には、昆虫を食べた学生らが、「昆虫を食べることに興味がわいた」や「お菓子ならおいしく食べられる」といった感想を寄せています。
今まで昆虫食とは縁遠い生活をしていた私でしたが、昆虫食について真剣に語る学生たちの姿を目の当たりにし、昆虫を使ったおかずが食卓に並ぶ日もそう遠くないのかなと感じました。

  • 猪飼奈々

    前橋放送局 ディレクター

    猪飼奈々

    2020年入局。これまで外国人労働者や性的マイノリティーなどを取材。趣味は、手話とサウナ。

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