Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 45

[1999年8月5日 明星作戦戦闘地域外 吾妻島]

 

 私の読んでいた通り、白銀少尉は合図と共に上空へ舞い上がった。そちらに気を取られている米軍の目を盗み、私は一気に跳躍ユニットのスロットルを解放する。

 爆発的に速度の上がり、身体に強烈な加速度を感じつつも、敵機と障害物を縫うように陸地を目指した。幸いにして、ここまでほとんどが徒歩移動だったためか、推進剤はかなり残っている。無理をした高機動戦闘もそれなりの時間は問題なかった。

 虚を衝かれた100機以上の米軍機たちはすぐさま対応を開始。しかし、追いつける訳がない。今、彼らが感じているモノは、私は既に味わった。間接思考制御と直接入力をしていてもなお、相手の動きに付いていくことができないもどかしさ。そして、複雑な制御をしながら障害物走をするように飛び去る戦術機の背中を見ることしかできない気持ちを。

 次々と視界の端々を過ぎ去るF-15Eの群れに攻撃することなく、思考は最低限の全周警戒にだけ割き、残りは白銀少尉に置いてかれまいと必死に本土に戻ることだけを考える。

 

『お、追え!』

 

『何なんだアイツら!? 戦術機の機動じゃない!』

 

 遥か後方に着弾する砲撃が水飛沫を上げ、程なく本土に辿り着く。そのまま北上を開始する。後ろは一切振り返らず、反撃することもない。近くを高速機動する白銀機を確認しながら、目標地点までの予測到着時間を算出する。

 

「20から30分ってところね……」

 

 この調子なら、久留里基地に到着する前に推進剤が切れる。だが、それまでの間に追撃する米軍機を振り切ることも可能だ。今の調子ならば。

 だが、そうも言ってられない事態はすぐにやってくる。

 

『クソっ!』

 

 通信から白銀少尉の悪態が聞こえた。何かあったのかと横目に白銀機を見るも、被弾した様子はない。となると何があったのだろうか。

 明星作戦戦闘地域に突入し、続々と交代する連合軍。どれも万全な状態の機体はいない。彼らと真逆の方向へと跳んでいるが、この調子で行けば10分ほどで前線から第3次防衛線くらいまでは移動できるだろう。

 しかし、私の考えとは違うことを、白銀少尉は口にした。

 

『時間がない! 神宮司大尉!』

 

 時間がない、というのはどういう意味なのか。順調であることに代わりはなく、追撃を続ける米軍機ももういなくなっている。このまま久留里基地まで逃げ込めればいいのではないのだろうか。

 そんなことを考えていた私に、白銀少尉は戦術データリンクを介して情報を送ってきた。それは、低軌道を周回する艦隊のようだが、これは国連宇宙総軍軌道降下兵団と装甲駆逐艦隊による軌道爆撃のアイコンではないのか。

 

『現在、米国宇宙総軍エドワーズ基地から出撃した小規模装甲駆逐艦隊が向かっています』

 

 アイコン内訳が簡単に表示された。たった5隻で構成された装甲駆逐艦隊は単縦陣で確実に横浜上空を通る軌道を移動していた。確かに少数過ぎる艦隊で目的が分からないが、低軌道で待機している他の艦隊に合流する後続なのかとも考える。しかし、違っていた。

 

『この艦隊は特殊装備を搭載しており、それをこの明星作戦で無断使用しようとしています』

 

「特殊装備の無断使用……」

 

 字面通り捉えるならば、私たちも人のこと言えないと思うのだが、白銀少尉はそういうことを言っているのではないのだろう。

 BETAの死骸の山を飛び越えながら、NOEで移動しつつも少し考えたが、結局答えは分からなかった。

 

『特殊装備の詳細について説明すると長くなりますので、簡単に済ませます。特殊装備というのは、米国で開発された爆弾です』

 

「特殊な爆弾。核爆弾みたいな?」

 

『そういった次元を超越している代物ですよ。あれが一度爆発すれば、周囲には爆風ではないモノを撒き散らしてことごとくを破壊し、被爆地は重力異常地帯になります』

 

 どういう意味なのかさっぱり分からなかった。だが、それが不味いものであることは分かった。爆撃された地域が重力異常地帯なんていう聞き慣れない単語の状況になってしまうような代物だという。文字通りの意味ならば、何かしら重力が異常な状態になるものなのだろう。急降下する飛行機の中のような状態になるのだろうか。

 

『そして、その爆弾を作っている奴らと夕呼先生は戦っています』

 

 白銀少尉には悪いが話半分に聞いていたが、夕呼の名前が出れば話は別だ。夢やおとぎ話をしている訳ではないのは分かっているが、彼女が出てくるとなると、真面目に聞かなければならない。彼女が関連してくるとなると、例のオルタネイティヴ計画に関連のあることなのだろう。

 

『米国は明星作戦であの爆弾の実証実験を行い、夕呼先生のオルタネイティヴ計画を潰す気なんです。こんなところで実験を成功させて集中運用なんてされてしまえば、BETAではなく自分たちの手で滅びてしまうんですよ。そういう爆弾なんです』

 

 話は分かった。だが、引っかかるところがある。

 

「分かった。だけど、引っかかるところがある。その爆弾を搭載した装甲駆逐艦が来ているのと、時間がないというのは、恐らくもうその爆弾がこの戦域に到着しようとしているということなのだろう。となると、私たちは他の部隊に見習って戦闘地域外へ退避するべきなのでは? もう米軍も撒いたが、念の為に国連軍部隊が集結しているところに」

 

『それでは駄目なんです! もう今からじゃ間に合わない。だから、予備案を実行します』

 

「予備案というと、まさか……?!」

 

 私は背筋が震えあがった。聞いてはいたが、考えたくもなかったことだ。

 楽観視していた訳ではない。ただ、予備案の予備案であるとしか考えられなかった作戦に、私は現実を受け入れられなかった。

 

『近くに(ゲート)E32があります。そこから一時的にハイヴに逃げ込みます。ハイヴ内でもそれなりの深さまで潜れば、爆弾の効果範囲から守られますから』

 

 言葉が出ない。

 覚悟していなかった訳ではなかった。軍人であり、衛士であるのならば、どんな困難な命令をされても遂行しなければならなかった。そしてそれらを踏み越えてできたのが今の私だからだ。なので、今回のことも最悪の場合は想定していた。私の機体にS-11が搭載されていることからも、よほど危険な任務を負うことになることも。

それでも、ハイヴ突入は考えていても考えたくなかったことだったのだ。

 返事がしたいのに、声が出ない。ただ、喉につっかえて息が抜ける音だけが出る。言いたい。たった2機でそんなのは無茶だ、と。しかし、できないとは言いたくない。

だが、なんとしても生きて帰らなければならないのは、白銀少尉も一緒のはずだ。私もこんなところでおちおち死んで等いられない。まだ、やりたいこともやり残していることもある。しかし、今度ばかりは本気で覚悟しなければならない。

 

「了解」

 

 私はそれだけだが、白銀少尉はどうなのだろう。

 次年度入ってくる訓練兵よりも若い正規兵。あれだけの機動制御とセンス。軍人としての知識と経験の多さ。そして、他の研究員や衛士の誰よりも近しい夕呼の側近。考えれば考えるほどに分からない。白銀少尉、白銀 武とは一体何者なのか。

 

※※※

 

 第1防衛線をたった2機で飛び越え、BETAの散見される地域を避けながらの高速機動。気を使って推進剤を節約しているものの、6割という正直安心はできない量が残っている。兵装だって満足でなく、友軍も僚機である白銀機しかいない。

 もう辺りに人類側のマーカーはひとつとして残っておらず、赤い点群が蠢くのみ。そんな戦術データリンクに、目標であるE34が表示される。もう目と鼻の先にあり、幸運なことに門の付近にBETAの反応はなかった。

 

『レイヴン2よりレイヴン1。このまま門に飛び込み、第3層を目指します。恐らく第2層目までは吹き飛ばされますから』

 

「レイヴン1、了解」

 

 質問も反論もしない。

 私にハイヴ突入の経験はない。地上戦は嫌というほど経験しているが、こればっかりは特別な環境下にいなければないだろう。教鞭を振るう側として、パレオロゴス作戦にてミンスクハイヴに突入した際の観測データの存在と、数度のその観測データから作成されたヴォールクデータによる訓練しか行っていない。

 思い返せば、白銀少尉からXM3の教導を受けた際、ヴォールクデータでのハイヴのシミュレーションを行っていた。まさかとは思うが、白銀少尉はこれを見越して、あの訓練を行ったというのだろうか。XM3教導マニュアルを作成した際、ヴォールクデータでのハイヴのシミュレーションも訓練の1つとして入れているが、白銀少尉や夕呼が見た時には何も言われなかった。

 考えれば考えるほど、これまでの経験と現在の状況が紐付いていく。夕呼や白銀少尉たちと関わった事柄、それらが、どうも今回の作戦に繋がっているような気がしてならなかった。

 

『最初の広間(ホール)にはBETAがいません。そこでステータスチェックを行った後、侵攻を再開します』

 

「分かったわ」

 

 青白く光る横坑(ドリフト)を抜け、広間に滑り込む。そこそこ広い空間になっており、ヴォールクデータでの経験からそこが広間であることはすぐに分かった。

 2つの出入り口を正面に、2機を背中合わせで停止させてステータスチェックを始める。診断プログラムが走査を始め、機体異常箇所の精査を行う。その間に、白銀少尉が今後の話を始めた。

 

『この後のことは上でも話しましたが、このまま第3層まで攻め込みます。目的は新型爆弾の効果範囲から逃げるためです』

 

「それは分かったけれど、本当に2機でそこまで潜れるの?」

 

『問題ありません。単機でも横浜ハイヴ、フェイズ2のハイヴは反応炉到達は可能です』

 

 彼は何を言っているのだろう。

 

『ただ、今回のハイヴ突入はあくまで避難が目的なので、反応炉を目指すことはありません。あくまで効果範囲外へ退避するためです。ですから大規模な部隊や装備を持っていなくても、奥へ進んで引き返すことくらいならば容易に可能ですよ』

 

「簡単に言ってくれちゃって……」

 

 思わずそう感嘆してしまう。しかし、白銀少尉はさも当然のことのように答えた。

 

『神宮司大尉が何を心配しているかは分かりませんが、問題ないと思いますよ。俺と大尉の2人だけでも不可能ではありません。それに散々ヴォールクデータで教導していますし、表層の移動は慣れたものだと思いますよ』

 

「そう……」

 

 だといいんだけど、などと続けられなかった。何故か、彼の前で自信のない自分を見せたくなかったのだ。

 ほんの数分もしないでステータスチェックも終わり、機体の状態を確認する。特に問題はなく、強いて言えば脚関節部の摩耗が少し進んでいるくらいだろう。兵装も快調。推進剤の残量はいつみても変わることはない。

 

『侵攻を再開します。神宮司大尉、さっき言った通りにお願いしますね』

 

「分かったわ。BETAは基本無視、足場を作る時のみ砲撃、よね」

 

『えぇ。じゃあ、行きますよ!』

 

 ふわりと浮かぶ白銀機。それに続くように、私もスロットルを解放した。

 

※※※

 

[同年同月同日 国連軍仙台基地 第2発令所]

 

 HQは混沌となっていた。米国宇宙総軍からの爆撃直前通告と、作戦参加部隊の退避のためにCP将校はいつも以上に忙しなく仕事をこなしていた。そんな中、特にやることもない私は正面モニタと霞ちゃんのラップトップを交互に観ていた。香月先生と他の軍人との話は高度な専門用語が飛び交っているので分かる部分が少ないし、私自身は発令所にいてもCP将校としてのライセンスを持っている訳でもないので手持ち無沙汰になるのは仕方のないことだった。

 しかし、立場的に様々なところを出入りしたり見聞きすることが多いためか、ライセンスはなくても真似事ができたり、分かることも多少なりともある。

 正面モニタに映し出されている戦域データリンクの情報も、衛士として任官している今の私ならば、特に考え込むこともなく読み解くことができた。

 徐々に作戦戦域から退避していく友軍マーカー。それを追いかけるBETA集団。近づきつつある米軍の低軌道爆撃艦隊。この三つ巴の戦場は混沌としていた。

 

「作戦参加国連軍退避完了」

 

「帝国・斯衛軍の退避完了」

 

「在日米軍、反転待機中」

 

「大東亜連合軍も退避完了」

 

 次々とCP将校から退避完了の報告がなされる。戦場では前線から戦術機がいなくなったとしても、砲兵部隊は手を休めることなく砲撃を続けているだろう。その間に退避した前線部隊が隊列と再編成を済ませ、反転攻勢の準備を始める。そう予測していた。

 そんな中、戦術データリンクに不審な友軍マーカーが突出したのを確認する。何なのかは分からなかったが、戦術データには戦域の南から前線に向かって高速移動する米陸軍部隊の姿も捉えていた。

 

「……」

 

 香月先生の顔を見る。表情はいつもと変わらない。正面モニタに視線を戻して観察を続けていると、前線深くまで入り込んだ友軍マーカーは突如姿を消す。マーカーをロストした辺りは、横浜ハイヴの門があるところだ。

 あの友軍部隊に心当たりがあった。と言っても、私自身に心当たりがあるわけではなく、元量子電導脳現脳みそが断片的に覚えていたのだ。

あれは、私たちに関わりのある部隊であり、と。記録を取っている霞ちゃんが特に表情を変えることもないからか、彼らが私に直接関わりのある人ではない、と勝手に決めつける。

 

「米国低軌道爆撃艦隊より正体不明の物体が投下!」

 

「個数は?」

 

「2つです!」

 

 CP将校が声をあげ、それに香月先生が質問をする。個数からしてみても、落とされたモノは詳細を調べるまでもない。

 香月先生は国連軍久留里基地に、投下された物体から目を離さないことと、望遠カメラで映像撮影することを伝える。仕込みは済んでいたようで、テレビの生中継のように正面サブモニタに映像が映し出された。

 

「なん……」

 

「っ……」

 

 この場にいたごく一部を除いた誰もが映像を見て言葉を失う。遥か遠くに映る装甲駆逐艦。そして、目に見えるほどに空間を歪めながら、自然落下にしては落下速度の遅すぎる2つの落下物。

 刹那のことだ。

 

※※※

 

『やめろォォォォォォ!!』

 

 うっすら青白く光る部屋。辺りには小さく固まる人々。"私"は"ナニカ"に引っ張られていて、何とか抵抗するも力負けする。

 

『離せ! ■■を離せ、このバケモン!!』

 

 人々は"私"の方を見て、焦燥し怯えているものの、心底安心したような表情を向ける。あれは「自分じゃなくてよかった」と考えている顔だ。

 そしてその中から飛び出し、こちらに走って来る姿。

 

『やるなら俺にしろ! コイツは食っても美味くねぇよ! 順番だってどうでもいいだろうが! だから俺だ! クソッ! クソッ!!』

 

 それは見慣れた姿だった。否。少し細いが、やっぱりそうだ。

 "彼"は白く蠢く"ナニカ"に拳をぶつける。腰も入ってないし、ヘロヘロだ。情けないなぁ、なんて考えてしまう。

 

『ガァ!? ちっ……くしょう、このォ! 離せよ! そいつから手を離せッ!』

 

 必死の形相で拳を何度もぶつけ、"ナニカ"に片手であしらわれながらも、怯むことなく彼は立ち上がって殴り続ける。そんな"彼"に話しかけたいのに、言葉が出ない。

 

『■■から手を離せ! この野郎!』

 

 視線が動いた。言葉も出なかったのに、思うように身体も動かなかったのに、首は自分の意思で回すことができた。

手に絡みつく、人間だとしても白すぎる上に本数の少ない指。異様に長い腕、少し華奢な肩。そして、頭。

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ」

 

 

 

 

 

 

 私の腕を引いていた"ナニカ"は、アイツ等(BETA)だ。

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁぁ、あ……あぁ……」

 

 

 

 

 

 

 振り払えない。腕を振っても、何をしても、その手から逃れることはできない。

 

 

 

 

 

 

「ああぁ、ぁぁぁ……、あぁぁぁ……」

 

 

 

 

 

 

 嫌だ、

 

 

 

 

 

 

「あああ、」

 

 

 

 

 

 

 嫌だ、嫌だ、

 

 

 

 

 

 

「あああ、ぁぁぁぁ……」

 

 

 

 

 

 

 嫌だ嫌だ嫌だ

 

 

 

 

 

 

『離せよ! そいつを離せよ! 俺の幼馴染だ! お前らなんかに!』

 

 

 

 

 

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

『畜生! 畜生! チクショーーーーーーッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

 

 

 

 

 

 

『純夏ああああああ!!!!』

 

 

 

 

 

 

※※※

 

「いやああああああーーーーーーッ!!!!!!」

 

 CP将校の喧騒と大きな機械音を掻き消す程の絶叫が第2発令所を包み込んだ。それはCP将校たちが応答する通信の向こうから聞こえてくる声ではなく、極間近から発せられた声。

すぐに音源の方へ振り向くと、そこには見慣れた赤毛の少女が頭を抱えて蹲っている。

 何が起きた、何故彼女は狂乱している。原因を求めるのは後だ。

 彼女の傍でしゃがみ込み、顔を覗く。

 やはり叫んだのは鑑で間違いない。瞳孔は開き、息を荒げ、口の端からは唾液が垂れ落ちている。肩で息をしながら、小さい声で休むことなく『嫌』と呟いていた。

 

「すぐに衛生兵を。鎮静剤を持ってこさせなさい」

 

 彼女にアタシの着ていた白衣を被せ、すぐに正面モニタとサブモニタに目を向ける。考えるまでもなく、"アレ"がトリガーだ。

 すぐに駆けつけた衛生兵たちによって鑑は運び出され、発令所の空気はすぐに戻る。落下を続けるG弾を目で追いかけながら、今後の展開をどうするか頭の中で考える。

明星作戦におけるG弾投下阻止は失敗してしまったが、当初予定していた歴史変更点はいくつかクリアすることができた。参加部隊の損耗率低下、A-01の実戦経験値獲得、XM3プロモーション等々。

 ここからは消化試合だ。G弾によって誘引されたBETA群は大部分が消し飛び、残敵掃討を行うことで、残存BETA群は鉄原ハイヴへ撤退を開始する。その後は国連軍による横浜ハイヴ掃討戦。占領し、G弾攻撃による被害調査を行う。あらかじめ敷いた線路の上を走るだけの簡単な作業。

それに、G弾投下に関しても米国へいち早く抗議追及する準備もほとんど終わらせている。いの一番に抗議し、オルタネイティヴ5の息が吹き返す前に叩くのだ。

 しかしながら、ひとつ誤算があったとすれば、あの鑑だった。原因がすぐに分からない以上、合間を縫って考える必要があるだろう。

 

「……香月博士」

 

「何?」

 

「……記録終了しました」

 

「そ。仕込みを終わらせておいて頂戴」

 

「……了解しました」

 

 社がアタシの顔を見上げて、そう報告する。こちらも事前に伝えてある通り、事を進めてもらう手筈になっている。

 ラップトップを小脇に抱えた社はそのまま去ることはなく、私の顔を見上げたままだった。

 

「……因果の移動を確認しました」

 

 返事をすることはない。彼女が何を言いたいのかは、その言葉だけを聞いて伝わっている。

アタシは小さく溜息を吐き、面倒なことにならなければいい、そう考えて鑑の今後のことを考えるのだった。

 


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