Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 35

 

[1999年3月21日 国連軍仙台基地 第207訓練部隊 講義室]

 

 "記憶"では着慣れた制服ではあるけれど、肌触りには覚えのない第207訓練部隊の制服。私の中では、この制服は白陵大付属の制服でもある。

 "記憶"を理由に、こういったことはこれまでにも日常的に起きていたこと。見たことのある顔がいい例。

 同じ訓練部隊には、見覚えのある顔がいくつもある。速瀬中尉がそう。今はまだ訓練兵で、どこかあどけなさが残っている。他にも髪の毛がショートボブの涼宮中尉がいたりする。

私が訓練部隊に入った期には、どうやら速瀬中尉たちが訓練兵として第207訓練部隊に配属された時だったのだ。

 私の目の前には、そこそこに使い込まれ始めている教材がいくつかと、ノートが2冊、筆箱。筆箱はもっと可愛いのがよかったが、贅沢も言ってられないし、そもそも支給されたものだ。文句を言ったら神宮司先生もとい神宮司教官にどやされるのは、火を見るより明らかなこと。

 飾り気のないペンを握り込み、視線を落とすのは兵科座学。鉄砲や爆弾の取り扱いに付いての項目。数学とかならまだいいが、こういった専門科目となると分からないところが多い。訓練部隊に入る前、霞ちゃんに色々と教えてもらっていたが、それらのほとんどはオルタネイティブ計画に関する内容のものから、香月先生から言われて始めたプログラミングや、霞ちゃんのを見て始めたアビオニクス関係のこと。言い訳のつもりはないけれど、タケルちゃんも体力錬成についてしか教えてくれなかったし、見てもくれなかった。私が頼まなかったってのもあるかもしれないけれど。見てくれてもよかったと思うけれど、タケルちゃんはタケルちゃんで忙しそうにしているし、仕方がないのかもしれない。

 だからこうして、時間があれば勉強をしていくしかないのだ。遥か遠くにある記憶。白陵大付属を目指すって言い出したタケルちゃんと一緒のところに入りたくて、一生懸命勉強をした時と同じように。

 

「か、が、みー」

 

 集中して単語や、動作の流れを頭に入れていく。訓練部隊の中で私は落ちこぼれの方なのだ。幸いにしてタケルちゃんに訓練を付けてもらっていたからか、そこそこ体力はあるらしい。神宮司教官もそこは感心していた。だけれど、私は頭がいい訳ではない。普通の数学や英語ならばまだしも、軍人になる上で必要な知識を教えられるような科目はてんで駄目だった。困っていればその都度仲間の皆は助けてくれるけど、自分の力でどうにかしたい。だから必死になって覚えるしかないし、神宮司教官が許可してくれた時には実習室に籠もって反復練習もする。

訓練兵になるまでは、タイピングのしすぎで手首が痛くなることは多かったけれど、ニオイを気にすることは少なかった。何だかんだ言って、私はずっとC型軍装を着ていた。でも今はずっと作業着姿ばかり。手は鉛筆の黒鉛と、小銃の機械油だらけ。体力錬成では擦り傷は絶えず、最近は髪もどこか毛先がパサついてきた気がする。

 分かっている。これが軍人になることで、衛士になることだって。それでも、私はタケルちゃんの側にいなければならない。離れる訳にはいかないのだ。

 

「鑑? 鑑ー? おーい、鑑ー?」

 

「……はっ?! な、何? 速瀬、さん」

 

「いやぁ、今日も精が出ますなぁ~。鑑ってば、ずっと勉強してるんだもん。あたしが声掛けてようが、聞こえてないみたいだしさ」

 

「ごめんなさい、集中してて。それで、なんかあった、の?」

 

 私の前の席に腰掛けているのが、例の速瀬さん。今はまだ訓練兵。私からしてみれば、ベテランの中尉で私ともそこそこ顔馴染み。彼女からしてみれば、訓練部隊で初めて会った年下の女の子という印象だろうが、私からしてみればそうもいかない。つい言葉の端々で敬語になりかけるし、名前もさん付けから中尉と言いそうになる。

 きっと変な話し方をする女の子だと思われているだろう。そもそも、訓練部隊の中で最年少ということもある。それだけでも目立たない訳がないのだ。

 反復練習を続けているところを閉じ、速瀬さんの目を見て話を聞き始める。

どうやら、これから始める座学は少し踏み込んだことになるらしい、というのを神宮司教官から聞いてきたという。まだ訓練部隊に配属されて時間の経っていない私たちに、どれほど踏み込んだことを教えてくれるのかは分からないが、楽しいことではないのは確か。軍人になるためにはいつかは必ず通らなければならないところだろう。

 

「プロジェクタとホワイトスクリーンを鳴海たちが運んでくるように言われてたから、多分映像でも見ると思う! くぅ~! 最近は文字ばっかり目で追ってたから楽しみだなぁ~!」

 

「そうかもしれないけど、宣材とか座学用教材ではないことは確かだよ? だって見たことないし、聞いたことないし」

 

「あ~、鑑は近所の友だちが一足先に軍人になったんだっけ? それで教えてもらったの? あたしは近くで戦術機を見たことがないし、テレビ放送でもあんまり映ったのを観たことがないからさ、見てみたいじゃん? 将来的に見れるとは思うんだけれど、なるべく速くにさ」

 

 楽しそうに目を輝かせながら、数分後に始める講義について語る速瀬さん。

 まだ入隊から1週間しか経っていないが、今後の予定はすでに教官たちから聞かされている。入隊1ヶ月で体力錬成と小火器の取り扱いを完熟し、装備を纏った状態での行軍も慣れ始める。2ヶ月で体力錬成と座学を全て修了、梅雨に入る前には総合戦闘技術評価演習に挑む。総戦技を突破した訓練兵には、戦術機適正検査を受けさせた後に適正者のみ戦術機教導の後期課程に移る。速くとも夏至前には任官式を迎えられるように扱き倒すぞ、と脅されていた。

つまり、合算半年で任官するということ。それもそのはずだ。私以外の訓練兵は既に、入隊前から軍人になるための教育を受けてきている。あくまでここで学ぶのは本格的な訓練兵になるための訓練と座学の確認。そして任官までの最終調整みたいなものだ。

自分なりに体力錬成をしていた私は、完全にお荷物組なのだ。だから体力は追いつけるとしても、圧倒的に軍人としての知識が足りていない。

 

「ごめんね、鑑さん。お勉強していたところに水月が」

 

「いいよ、気にしないで。もう少ししたら座学も始まるしさ、丁度よかったよ」

 

「そう。……なら少しお話しない?」

 

 速瀬さんに遅れて涼宮さんがやってくる。どうやら部屋で何かしていたから遅れたらしい。

 速瀬さんの隣に立って、私の机を囲む。これが入隊してからの、私の日常だった。

おもしろおかしい話を速瀬さんが振って、それを私と涼宮さんがリアクションをする。涼宮さんは静かに返し、私はその時の感情を素直に伝える。これまでに経験のなかったことだが、楽しい。そう思える訓練兵生活だ。

 しかし油断のできないことがある。総戦技での事故の件だ。あの事故があったから、涼宮さんは衛士になる道を諦めてCP将校の道に進んだ。あの事故を防ぐべきなのか、と言われたら防ぐべきなのだろう。しかし、それで納得したかと言えばそうではなかった。

怪我をするところも見たくはないし、もし未然に防げるのであれば防ぐ必要がある。もし防いだとしたならば、それは歴史を大きく変えたことになる。既に光州作戦で大きな歴史の流れを捻じ曲げた過去があるならば、今更気にすることでもないのかもしれない。けれど、涼宮さんがCP将校にならなかったとしたら、もしかしたら予測できない事象が発生してもおかしくはない。

 

「でさ、その時に平が……どうしたの、鑑?」

 

「うん? ごめんね、少しぼーっとしちゃって」

 

「大丈夫でしょうね? そんな調子じゃ、あの鬼軍曹(神宮司教官)に何言われるか分からないわよ?」

 

 1週間で神宮司教官を鬼軍曹呼ばわりしながら、速瀬さんは平くんの話に戻っていく。まだ訓練兵生活を始めて間もないというのに、仲間や教官たちの話をネタにしているのは、元々の彼女らしさなのかもしれない。

 調子いいなぁ、なんて考えていると涼宮さんの顔がみるみる青くなっていくのが見て分かる。視線の先を追ってみると、そこにはいい笑顔をしている神宮司教官が腰に手を当ててこちらを見ていた。

私も気付いたものの、速瀬さんからは死角になっていて見えていない様子。調子よく彼女はあれこれと言い始めていた。

 

「厳つい男性教官もいるのに群を抜いて一番怖いのに、なんか基地の中で銀髪の女の子にデレデレしてるところを見かけるし、この前なんかあたしたちよりも年下の男の子追いかけ回してたからねぇ~。"狂犬"とか言われてるっていう噂があるけど、その片鱗を垣間見てるのかそうでないのかも分からない人なのよ」

 

 みるみるドス黒いオーラが辺りを包み始める。いち早く気付いた涼宮さんは、なんとか速瀬さんを止めようとしているものの、調子に乗って色々言っている彼女を止めることはできない様子。私も半ば諦めモードに入っており、今日の座学と訓練は厳しくなるだろうななんて考えながらいつか落ちるであろう雷を待つ。

 

「それでいて嬉々として私たちのお尻蹴り飛ばすし、罰則はキツいし、この前平なんか足元に自動小銃撃たれてたわよね。ありゃ、足の甲に風穴開くかと思ったわ。入隊前に訓練部隊の教官は、大人の男がお漏らしする程怖いって聞いてたけど、本当その通りよね。そんな教官の中で一番怖いだなんて神宮司教官ってば結婚で」

 

 最後の言葉を速瀬さんが発することはなかった。背後に般若のオーラを撒き散らしていた神宮司教官が、速瀬さんの頭をガシッと掴み、そちらに無理やり顔を向けさせたのだ。

 

「は~や~せ~? 何やら愉快な話をしているじゃないか。是非とも、私にも聞かせてくれないか?」

 

「じ、じじじ神宮司教官!?」

 

「ほら、いいんだぞ? 例えば私が教官連中の中で群を抜いて一番怖いだとか」

 

 タケルちゃんが言ってた。教官は怖がられてナンボだ、って。それに神宮司教官は本当は怖くない、とても優しい人ってのは知ってるからね。

 

「訓練兵をサンドバッグにしてるだとか」

 

「いやぁ~、そのですねぇ~」

 

 色々理由があって蹴ってくる、というのは何となく分かっている。走るのが遅いだとか、腰が入ってないだとか。そういう理由。一度注意された後、殴る蹴るをされているというのも、一度で覚えて実践できていないからだとか、そうした方が早く覚えられるからだとかそういう理由らしいが、本当のところはよく分からない。最も、先輩教官からそういう風に指導しなさいだとか、教官教本にそう記載があるだとか、そういう理由が本当らしい。

 

「そんなんだから独り身だとか」

 

「あ、あの、そうは言って」

 

 言い逃れしたところでどうしようもない。神宮司教官は、その場で速瀬さんの頭にゲンコツを振り下ろした。ゴツッと鈍い音と共に、速瀬さんは殴られた後を擦る。

 殴られただけで済んだのならよかったんじゃないかとも思ったが、ある映像が私の脳内にフラッシュバックする。

使い込まれた教室。似たような制服に身を包んだ男女。それは学校のようで、皆楽しそうに笑っている。教壇にはクリーム色のタートルネックニットに、ブラウンのロングスカートの神宮司教官は柔らかな笑みを浮かべている。

私もその場に居て、周囲を見渡すと右斜め後ろの席には見慣れた男子生徒。教室内にも記憶にある顔がちらほら。私はその中でただ独り、笑っていなかった。何故皆笑っているのだろう。何がおかしいのだろう。

刹那のことだ。割れんばかりの激しい頭痛が私の頭を襲った。それと同時に、目の前には速瀬さんや涼宮さんが私の顔を覗き込んでいた。

 

「大丈夫?」

 

「どうしたの? 鑑さん」

 

「う、ううん。何でもない、何でもないよ。少し頭が痛くなっただけ、でも大丈夫」

 

 痛いけど我慢する。私は机の上を片付け始めるのを見た2人は、大丈夫そうだと思ったのだろう。神宮司教官も来ていることだし、最初の座学の準備を始めるのだった。

 

※※※

 

[同年同月同日 国連軍仙台基地 グラウンド]

 

 午前中の座学で観たのは、神宮司教官のコネで訓練兵に視聴することを許された映像だった。最前線の基地での様子。平時・戦時の両方を観た。

正直に言ってしまえば、私は既に経験していることで新鮮味は感じなかった。ただ、本当にそういう基地で撮影されたものなんだ、と思う程度。平時はゆったりとはしていないものの、正規兵は訓練に励み、整備兵やその他後方支援要員も機体整備や基地運営を行っている。戦時には慌ただしく正規兵たちが出撃し、ガランとした基地内を後方支援要員の整備兵やその他非戦闘員たちが走り回って怒鳴りあって、ボロボロになった戦術機や部隊の数が減った戦車や自走砲が帰ってきたり、兵装整備に追われて休憩を挟まず働き続ける。そんな、リアルな映像だった。

 他の訓練兵の皆は言葉を失っていた。何を皆が夢想していたのかは、私には分からない。華々しく雄々しく、綺麗なものでも想像していたのだろうか。だが、現実はいつだって残酷だった。皆はそれを直接見た訳じゃないのに、勝手に期待して絶望した。

 私はそんな皆を少し冷めた目で見ていたのかもしれない。

午後は昼食を摂った後、小銃の分解組立と調整の訓練。整備工具のある教室へ移動し、帝国軍から借りた突撃銃を分解しては組み立ててを繰り返している。目標タイムを出せれば、教官から屋外射撃場で調整をして戻って来いと命令され、戻ってくれば分解整備を始める。そんな、銃の扱いを身体に染み込ませる訓練だ。

不得意で四苦八苦しながら、小銃の組立教本と睨めっこをしている私に、神宮司教官は話しかけてきた。

 

「鑑」

 

「はい、神宮司教官」

 

 手を止めると怒られる。私は視線をそちらに向けることなく話しを聞く姿勢を取った。

 

「貴様は何故平然としていられる?」

 

「はい?」

 

 メインスプリングを挿入し、いよいよ組立完了の一歩手前で手が止まる。神宮司教官の顔を見れば、その表情は座学や訓練の時には見たことのないもので、どこか懐かしさを感じるものだった。

 

「今朝、速瀬と話していた時、いや、訓練部隊に入ってからというもの、ずっと貴様はおかしい」

 

「おかしい、というのはどういう意味ですか?」

 

 組立をしていて気付かなかったが、実習室には誰もいない。訓練兵も他の教官も。私と神宮司教官しか、この部屋にはいない。アッパーレシーバーを作業台に置き、再度彼女の顔を見る。やはり懐かしい。そう思えて仕方がない。

 

「どういう理由で軍にいるのかは知っている。白銀少尉と共に博士の研究を手伝っていることも。私も関わることがあったから、鑑のことは少尉から聞いていたし、交流する機会もあったから私自身ひととなりは把握しているつもりだ。だがな、今期の訓練部隊入隊式で貴様の顔を見てからおかしいと思っていた。

食堂で会った時や、ハンガーで会った時、XM3の教導中や訓練機の整備報告を聞いてた時、そのどの時も貴様は社少尉と共に身動きし辛い環境の中でも笑顔だった。だがな、貴様はずっと訓練中も座学中も笑顔じゃないんだ。他の連中と話している時に浮かべている笑みも、どこか違う気がする。今朝観せた映像を見ても、表情はピクリとも動かなかったし、感情が揺れ動いている様子もなかった。

理由は分かっている。既に軍籍を置いているし、軍人とはどういうものかの片鱗を知っているからこそ、あの映像は"非日常"であることに気付いている。白銀少尉が見てきた世界を、知っているからこそ表情を変えなかった。

……そうなんだろう、鑑」

 

「……そうですよ」

 

 一言だけ返事を返すつもりが、私の口は何故か止まらなかった。他に聞いている人がいないことを分かっているからなのか、本来であれば誰にも話さないことを言ってしまう。

 

「私はおかしく見えるかもしれません。目的があって志願兵になりましたが、本当は怖いです。銃なんて持ったことないし、訓練だって辛いし苦しいです。泥だらけになって、傷だらけになって。散々悩んで苦しんで夜も寝れなくなるくらい悩んで決めたことですけど、それでもこの選択は本当によかったのかって毎夜毎夜思うんです」

 

 そう。これは私が夜眠る時、毎日見ている夢だ。

 

「BETAと戦って、誰かが生きて誰かが死ぬ。そんなことが当然の世の中で、私はたった1つを掴み取るためだけに力を使わなくちゃいけない。でも、それを掴み取ったら何かを失うんじゃないかって。隣に立つ誰か、先輩、後輩、教官、上官、他の兵士たち。本当ならばまだ死ぬことなんてなかった人が死に、本来であれば死んでいたであろう人が生きている。そんなことが当たり前のように起こっちゃっているんですよ」

 

 誰が生きていて、誰が死んでいるのか分からない。いつかきっと、私はそうなってしまうんじゃないか。そんな悪夢を毎晩のように見ているのだ。

 

「それもこれも全部、運命が決めてることなんですよね……」

 

 静かに聞いていた神宮司教官は、少し考えた後、静かに口を開いた。

 

「……結局、鑑が何故平気な顔をしているのか分からない。だが、分かったことはある。博士の計画に参画している以上、私の知り得ないことを鑑が知っているってこと。貴様の幼馴染、白銀少尉がちぐはぐな衛士であるのならば、その幼馴染の鑑もまたちぐはぐな人間なのだということ」

 

「ちぐはぐ? タケルちゃんが?」

 

「そうだ。貴様と同じ年齢で、貴様もではあるが少尉という階級を持ち、国連軍の正規兵として働いている。何故、白銀少尉はあの年齢であそこまでの腕を持っているのか、前々から甚だ疑問だった。一方で、鑑が何故その年齢で戦術機の整備が行えたり、博士と同程度のセキュリティパスを持っているのか、これも同様に疑問だった」

 

「私は……」

 

「白銀少尉が目立ってはいたが、本来は鑑、貴様も訓練兵になるにはちと早すぎる年齢だからな」

 

 私はまだ15歳。志願できない年齢。徴兵は16歳からのため、徴兵された後、2年間基礎訓練を行い、訓練部隊に入隊するという流れになっている。私はその2年をすっ飛ばしているのだ。基礎訓練をちゃんと修了していたとしても、年齢的に問題はある。そのため、訓練部隊では年齢を誤魔化している状態なのだ。唯一、神宮司教官のみが私の本来の年齢を把握している。

 

「……大丈夫ですよ。私はしっかり衛士になります」

 

 そう言葉を濁し、私は作業に戻った。

 どこまで作業を進めたか忘れかけているものの、自然とアッパーレシーバーを手に取っていた。次はロアレシーバーと重ねてピンで止めて、機関部を差し込むだけ。

既に組み立ててある機関部を手に取ると、そのままアッパーレシーバーに差し込んで、組み立ては完了。ボルトを引いて動作を確認すると、近くに置いていたストップウォッチを停止させる。

 

「22分34秒……」

 

「やり直し」

 

「了解」

 

 神宮司教官からやり直しを指示され、再び小銃をバラし始める。

私は一体いつになったら小銃の組み立ても満足にできるようになるのやら……。また居残り練習をしなければ、と心に決めた瞬間だった。

 


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