Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 28

 

[1998年11月23日 国連軍久留里基地]

 

 自分でできる範囲の整備を終えて簡易ベッドに入るとすぐに寝てしまったらしく、気付いた時には朝になっていた。

まだ起床ラッパの時間前だというのに人の声や機械音が聞こえる。もしかしたならば、夜通し交代で整備兵たちが作業をしていたのかもしれない。

 身支度を整えてテントから出ると、既にA-01でも起きてきている者がチラホラ見られた。ほとんどがあまり顔を合わせたことのない衛士なのは分かるのだが、数人は何となく顔と名前が一致している。

 昨日の夕食の際に配られたチープな歯ブラシセットを片手に水場へと向かう。

 程々に身支度を済ませた頃に起床ラッパが鳴り響き、一応規則通りに動き始める。だが既にほとんどの軍人は起きているか、夜通し作業をしていたので作業的に鳴っただけだった。

 クラッカーを齧りながら、早朝から整備が始まった自分の不知火を見上げる。

 久留里基地に帰還したA-01の不知火の中でも、特に状態のいいまま戻ってきたのが俺の機体だった。欠損・破損部位なし。簡単な除染作業を行った後、内部の駆動系や電装系をメンテナンスする程度で済む。しかしそれでも不調を起こしている所はどこかしらにはあるらしく、長く務めている整備兵が油まみれのラップトップ片手に怒号をあげていた。

 

「コイツは何もモゲてないからって気ぃ抜くんじゃねぇぞ!! 駆動系を重点的に点検し、交換できるパーツがあれば交換しておけ!!」

 

「「「はいッ!!!!」」」

 

「電装系の奴らは腕を手伝え!! 戦闘で狂っちまったズレの修正だ!! 28号機(白銀機)だから慎重に行え、動作不良でも起こしてみろ!! テメェらの頭にスパナ投げて俺は腹を切る!!」

 

 物騒な声が聞こえてくる方を横に見ながら、キャットウォークに上がって管制ユニットに入り込む。

 昨日着ていた強化装備が広げてシートに掛けられており、ヘッドセットは左の操縦レバーに引っ掛けてある。

 機体のAPUは稼働状態で電源が入っており、機体自体がメンテナンスモードになっている。ヘッドセットを装着すると、前面に《Maintenance Mode》と表示されていた。

 ノースリーブとカーゴパンツ姿のまま着座し、電装系の整備兵が置いていったラップトップを接続する。

 

「……状態はイエローよりのグリーン」

 

 メンテナンスモードで関節がロックされた状態だが、機体のステータスを確認する。

 昨日の時点では同じ状態だったが、走査システムに引っかからない腕や手首関節の調整は既に終えてしまっているようだ。

 

「少尉、乗ってるんだろー?!」

 

「はーい!!」

 

 外から聞き慣れた声が聞こえてくる。整備兵の声だ。

 

「腕を動かしてくれー!」

 

 右腕のメンテナンスモードが解除され、関節のロックが外れる。網膜投影で見ながら注意を払いつつも、腕を少し動かしてみる。あまり聞くことのない関節駆動音を遠くに聞きながら、整備兵の声を聞く。

 

「ありがとよー!」

 

 定位置に戻すと、再びメンテナンスモードに入った。俺は自分のやりたかったことを始める。

 戦闘時の稼動ログを確認したかったのだ。いつも純夏が吸い出し作業をし、XM3のバージョンアップや最適化に使っているというもの。

俺自身も何度も見てきたものだが、こうやって昨日今日で確認したことはなかったのだ。結局データを見たところで、俺には検討も付かないプログラムの羅列ということもあり、何のことだか分からない。ラップトップのハードディスクのDドライブから空きスペースを探し、データに適当な名前を付けて保存する。

機体整備に使われているラップトップは多くあるが、それぞれに専用のものが用意されている。俺が操作しているのはそれだ。機体から降ろされたところで、基地に持ち帰っても他の機体で使われることはほとんどない。きっと純夏や霞が整備する時に見るだろう。そんなことを考え、プログラムデータと一緒にテキストデータを残すことにした。保存した日付と誰が保存したのかだけを簡潔に纏めて、同じく保存する。

 ラップトップの電源を落とし、脇のスペースに置いて目を閉じた。昨日までの出来事を思い返す。

 秩父戦域からときがわ戦域での出来事。考えてみれば、この世界に来て初めて一般的な防衛線に参加したように思える。前の世界では、横浜基地奇襲・クーデター・甲21号作戦・横浜基地侵攻・桜花作戦と参加してきた。どれも特殊な立ち位置での作戦参加であり、他部隊との連携は全くと言っていいほどなかったからだ。

だがこの世界では、光州作戦から本土侵攻にかけて、ずっと他の衛士たちと肩を並べて戦ってきた。

 

「ステータスチェック」

 

 東進しながらも出会った衛士たちのことを思い出す。もう数ヶ月も前になる人物もいるが、彼ら彼女らはまだ戦場で戦っているのだろうか。強く記憶に残っている人物を思い出す。

光州作戦で一緒の部隊に配属されたアレックス・ミラー大尉、イ・スギョン中尉、イ・ヒョンジュン少尉ら国連軍リザード中隊や多国籍の負け犬隊。本土侵攻からすぐ、九州で共に戦った祠堂 カレン大尉ら国連軍シールド中隊。兵庫で共に戦った赤坂 幸中尉ら帝国軍スワロー中隊。京都で助けた篁 唯依少尉、山城 上総少尉、能登 和泉少尉らのファング小隊。京都を守るために戦った真田 晃蔵大尉らウルフ中隊。

他にもたくさんの衛士や兵士と出会った。

彼らがどうなっているのかは分からない。ただ、もし生きていたならば、どこかの戦場でまた会うこともあるだろう。

 機体ステータスを眺めながら、シートの調整も同時に行う。大体が使われることなく破壊されてしまう、89式機械化歩兵装甲のチェックも怠らない。

京都では撃墜された時に一度使っているのと、前の世界やその前の世界でも訓練兵時代に訓練として使用したことがあったのだ。機械化歩兵装甲があれば、生身で脱出するよりも心強いことは身を以て理解している。それに俺は着用したままでの戦闘経験もある。だからこそ、少し疎かになりがちな機械化歩兵装甲のこともよく見ることにしているのだ。

 

「白銀ー? さっきとは逆の腕を動かしてくれないかー?」

 

 機外から大声が再び聞こえる。網膜投影に左腕に整備兵が集っており、装甲板が外されて駆動系が露出していた。

 

「はーい」

 

 簡単に答えてから右腕の時と同じように動かす。左腕の方がどうやら駆動系の損耗やズレがあるようで、右腕よりも多くのパーツが近くに運ばれてくる。

 考えてみれば、左腕で多目的追加装甲を保持していたり、長刀を振り回すのも左腕だ。重量物を持っていたり、振り回していたら、それだけ損耗も早いのは道理だ。

俺は長刀と突撃砲を併用した高機動近接戦を得意としていることもあり、損耗は他の戦術機よりも相対的に早い。駆動系に気を使った動きの練習も長いこと続けているが、どれ程身に付いているかは分からない。

左右持ち替えながら戦うことを意識しはするものの、集中していたり混戦の真っ只中だと、そのようなことは些事だと隅へ追いやってしまうことの方が多い。

練習を続けていればそのうちできるようになるだろう、そんなことを能天気に考えながら機体から降りた。

 

※※※

 

[同年同月26日 静岡県 御殿場戦域]

 

 長野から南東へ侵攻を再開したBETAは、2回目となる22日の侵攻から一時的に侵攻する個体群が確認されることはなくなっていた。しかし、3回目の侵攻はこれまでとは動きが違った。

長野県松代辺りを発ったBETA群は南下を開始。そこから分かれることなく、一直線に南下を開始したのだ。偵察衛星が捉えてた長野の残存個体数は2回目の侵攻で大きく数を減らしており、目標は不明だが南へと進み始めていた。

今回の再侵攻では埼玉方面へ向かう集団はなく、もともと埼玉方面に展開することになっていたA-01は戦術機に乗り込んですぐにCP将校の待ったで足踏みをするような状況になってしまったのだ。

 A-01は単独での戦闘を想定した編成が行われている。そう連隊長の崎山中佐が言っていた。

埼玉方面は基本的に極東国連軍の管轄ということもあり、夕呼先生が幅を利かせることができたが、静岡・山梨方面は帝国軍の管轄でそうもいかない。

その上、現在A-01で満足に戦闘が可能な戦術機は15機。増強中隊分しか残っておらず、残りはどこかしらが不調であったり修理中であったりするのだ。

 

『CPより40301。博士から直接命令が下っている』

 

 自分のエプロンでアイドリングさせたままにしていたところへ、CP将校が通信を開いた。

 

「40301よりCP、命令とは?」

 

『TF-403はこれよりA-01から離脱。単独、御殿場戦域への強行偵察任務を課す』

 

「40301了解」

 

『貴官はこれを単独で行なうこと』

 

 機体に乗り込んでいるA-01の衛士たちから声が上がる。しかしCP将校はそれを無視して話を続けた。

 

『この際、機体のカラーリングの変更は必要ない。そのままの状態で出撃し、戦域の情報を収集。可能な限り情報を集めた後、久留里基地に帰還せよ』

 

 目の前に映し出されたマップに、予定されている戦域のデータが表示される。ある程度把握できている展開中の帝国軍の情報だ。

防衛戦にしては戦術機の数が少ないように思えるが、度重なる侵攻と戦術機生産拠点の東海地方が陥落している以上に、衛士の供給も満足に行えていないのかもしれない。

しかし、御殿場の辺りならば、駿河湾沖に展開している帝国海軍が艦砲射撃をする筈だ。となると、面制圧によって今回の侵攻も食い止めるつもりなのだと伺える。接近すればデータリンクで駿河湾沖の状況ももしかしたら手に入るかもしれない。

 

「40301了解。速やかに出撃ですか?」

 

『あぁ。準備でき次第出撃だ。装備は任せる』

 

「はい」

 

 外部スピーカに切り替えると、外で退避している整備兵に向かって声を掛ける。今の俺の機体の装備は突撃前衛装備になっているが、多目的追加装甲を下ろして強襲前衛装備に換装したいからだ。

 

「28番機、強襲前衛装備に換装してくれ!」

 

 適当なところに追加装甲を置くと、整備兵がトラックで牽引してきた突撃砲が近くに停められる。それと同時に、自立支援担架によって稼働兵装担架システムの換装が始まった。

 作業自体はそこまで時間がかかることはなく、近くの右腕がない不知火に追加装甲を受け取ってもらい、担架の載せ替えと武器を持ち替えるだけですぐに準備は完了した。

 

「28番機、出撃する!」

 

 異色のエプロンから1機の不知火だけが主脚移動を始め、CPから管制塔に発進許可を取って電磁カタパルトで射出される。

 

※※※

 

 今回の単独任務の経緯は、いつも以上にいきなり決まったことだった。溜息を吐くことはなく、静かに指定された御殿場戦域を目指したのだ。

 当然のことながら警戒はしていても接敵することはなく、何度か戦術機とすれ違った程度。オープン回線で話しかけられることもあったが、基本的には答えないようにしている。そもそも夕呼先生から答えるなと言われていることもあるが、俺自身も答える必要はないと考えているからだ。

答えなければ相手もデータリンクの不調や通信機が壊れていると勝手に勘違いしてくれる。

 何度か噴射跳躍を交えながら、御殿場戦域の南方に到着した俺は広域データリンクで情報収集を始めた。

 

「御殿場に展開しているのは、帝国軍と斯衛軍の混成部隊」

 

 帝国軍の一般的な戦術機甲部隊と、富士教導団から捻出されたと思われる精鋭部隊。斯衛軍部隊。2個連隊規模程度はいるようだ。

それだけの戦力では、南下しているBETAを受け止めることはできない。座学で習う程に基本的なことを思い出し、もう一度広域データリンクで拾えるだけの展開部隊情報を確認する。

 帝国軍戦術機甲師団。戦術機甲部隊と随伴支援整備部隊、機械化歩兵部隊、砲兵部隊で構成されている。それに加えて、富士教導団所属戦術機甲2個中隊と、斯衛軍独立警護2個中隊だ。

基本的な直接支援は帝国軍の随伴砲兵部隊に任せており、接触前の対レーザー弾による飽和攻撃もこの砲兵が行なう様子。足りなければ、駿河湾沖の帝国海軍が補充するだろう。

 基本的な戦術は、地上戦力によるBETA群遅滞戦術。封じ込めがある程度できたならば、帝国海軍による飽和砲撃を行い殲滅。セオリー通りの迎撃戦になっていると思われる。

 だがやはり気になるのは、受け止める場所として選んだであろう御殿場に展開している部隊が少ないように思えた。

 

「これで今回も防ぐことはできるのか?」

 

 思わず疑問が口から漏れる。誰が聞いている訳でもないが、すぐに口を閉じて思考に集中を再開する。

 今回は二正面作戦ではないため、要請次第で国連軍を投入することも可能だというのに、それがないということは()()()()()()なのだろう。自国戦力のみで対処する腹積もりがあり、その裏に何があるのか。

 現在の富士山周辺はBETA中部戦線最後の砦になっている。南下開始以前は山梨県東部も砦として機能していたが、2度目の侵攻によって放棄。中部地方に残されているのは、静岡県側の富士山麓と伊豆半島しかないのだ。

 

「……ひとまず偵察を続けよう」

 

 頭の中から余計な考えを振り払い、データリンクの情報を機体のハードディスクに保存していく。それ以外に目視で確認できること等は、手元のメモ帳に書き残していった。

 そもそも何のために夕呼先生が、急遽俺を偵察に出すことを決めたのか、その意図がまだ掴めないでいた。

CP将校の話だと、御殿場戦域に強行偵察を行なうこと、と言われた。一応、戦域から離れた地点から分かる程度の情報を集めているが、そもそもの命令は強行偵察だ。

実際にBETAと戦闘し、情報を収集するのが本来の任務になっている。

 ある程度区切りのいいところでメモしていた手を止め、戦闘で管制ユニット内と飛び回らないよう、機械の隙間にメモとペンを噛ませると、スロットルを解放して機体を浮き上がらせる。

目標は前方で始まった御殿場での戦闘。ある程度情報収集を終えたら、そのまま撤収する。そう自分に確認するように言い、突撃砲の安全装置を解除した。

 


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