Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[1998年11月21日 国連軍久留里基地]
佐渡島陥落の報せは10月下旬頃には届いていた。実に呆気ない最期だったらしい。
長野まで進出したBETA群は北進を開始。福井・石川県を落として能登半島東端の珠洲市から日本海へ潜行、佐渡島へ渡った。帝国軍と国連軍は早々に石川県放棄を決めていたため、あまり抵抗をすることがなかったことから、呆気ない陥落だったのかもしれない。
佐渡島へ渡ったBETAは侵攻停止。これは佐渡島にハイヴを建設しているからだと思われ、偵察衛星から建設は確認されたため確実となった。
これを機と見たのか、アメリカ政府は日米安全保障条約を一方的に破棄。残存在日米軍を米海軍第7艦隊毎引き上げることになった。横須賀基地はもぬけの殻となり、長野県に展開していた守備隊も徐々に後退していったのだ。
日本帝国政府は強い反発とアメリカ政府に対する非難が当然のように始まり、国際世論にもアメリカの行いに疑問があがった。しかし、アメリカはアメリカ至上主義の国だ。また、BETAに攻められていようが、国力が世界で一番ある。当然のことながら、何処吹く風の態度で強引に傍観者へと移ったのだ。
しかしながら、在日米軍司令部は帝国軍と極東国連軍に置き土産を置いていった。F-15C含む戦術機やその予備パーツ、突撃砲・戦車・自走砲・ロケット砲等の弾薬、医薬品・日用品・食料まで。引き上げに際し、輸送艦や空母に載せきれないから任せた、と。
帰還後どうなったかは分からないが、米軍の将や引き上げていった米軍の軍人たちへの評価はそれほど悪くはなかったのだ。
そうこうしていると、佐渡島ハイヴの建設が落ち着き、これと同時に長野県に停滞していたBETA群が南下を開始。関東北東部で防衛戦が始まったのだ。
これをしている間に首都機能の移転やら色々始まり、俺たちに直接関わりのあるものとして第207訓練部隊が仙台に移ったり、オルタネイティヴ4の研究施設移転も完了した。
俺を含めたA-01が仙台を出撃した頃には、首都圏が戦場になっている頃だったのだ。泥沼の防衛戦は経験しているが、前線の陥落速度が速いのは、恐らく守備隊の質の低下やそもそもの頭数が絶対的に不足しているからだと考えられる。
俺たちが降り立った基地はまだ後方ということもあって、基地内もそこまで雑多になっていない。
久留里基地のエプロンには、数時間前に到着したA-01とTF-403の不知火が特別に用意されたという区画に駐機してある。それぞれには簡易点検と推進剤の補給が行われていた。仙台からの移動分を補充し、いつでも出撃できるように準備しておくためだ。
遅れるように、CP将校らを乗せた輸送機や保守資材等も到着し、エプロンには簡易的ではあるが兵舎や資材置き場が作られた。
「よぉ」
「こんにちわ~」
管制ユニットにある緊急用の突撃銃を点検確認している俺の元に、1組の男女がやってきた。格好は国連軍の作業着ズボンにフライトジャケット、襟章を見てから胸のウィングマークを見て、A-01の衛士であることをすぐさま理解する。
突撃銃を作業していた机の上に置き、彼らの方を見て俺は思い出した。
仙台基地に移ってすぐのこと、ハンガー前で話しかけてきた2人組だったのだ。あの時は勝手に俺のことを整備兵だと勘違いしていたが、この状況や事前に俺のことを聞いているという霞情報から推察するに、見かけたから話しかけたということろだろうか。
「こんにちは」
無難に返事をして2人を再度観察する。やはり、どこかの衛士たちのような雰囲気は全く感じられない。
俺の目の前までやってくると、いじっていた突撃銃を見下ろした。
「その突撃銃、よく整備されているというか防錆コーティング剥がれてきてないか?」
確かにコーティングは剥がれてきているかもしれない。元々管制ユニット備え付けの突撃銃はなかったのだ。不知火が運び込まれた白陵基地で整備兵が気付き、基地のお古を収めてくれたのだ。
お古とはいえまだまだ使えるものだったというのだが、引き渡されたモノを見れば作動しないことは一目瞭然。サビはしていないものの、手入れがされていないことはひと目見ただけで分かった。
結局整備をしては試射して、調整しては試射をすることを繰り返していた。そのため、俺の機体の突撃銃は故障しやすいものだという認識があった。何度も何度も点検しなければ気が済まなくなってしまったのだ。
そういった突撃銃であるのならば、コーティングが剥がれてきているというのも納得ができる。何度も何度も拭き上げたり磨き上げたりしていれば、その分表面は摩耗してくる。コーティングが剥がれるということは、使い込まれた突撃銃であると言えるのだが、衛士は滅多に持つことのないものと考えれば、訓練部隊の突撃銃のような俺の突撃銃にそういう感想を持ってもおかしくはないのだ。
「まぁ……よく整備しますからね」
「そうか。気休めくらいにしか思えないが、少尉の言う通りかもしれないな」
男性衛士は机の側から俺の不知火を見上げ、左肩に印字された識別番号を口ずさむ。
「……TF-403-01。タスクフォース403、か」
TF-403。部隊名称も与えられていない極秘不正規部隊。A-01よりも部隊構成員が少なく、それ故に情報も少ない、ということになっている。
「白銀少尉」
「なんですか?」
アッパーレシーバーを閉めてピンで固定し、ボルトの様子を見ていると男性衛士が俺の方を見ていた。
「君がTF-403の衛士であることは知っている。しかしな……あの俺たちを負かせた吹雪や不知火の衛士とは思えないんだ」
「……俺は間違いなくTFー403の衛士ですよ。まぁ、少尉の言わんとしていることは何となく分かります」
今年で15歳。初見では整備兵と間違われたくらいだ。この歳で衛士になっている日本人はほとんどいない。それこそ、戦時徴用で繰り上げ任官になった斯衛軍の訓練兵くらいだろう。
整備の終えた突撃銃を机に置き、油で汚れた手をぶらつかせながら男性少尉の問いに答え続けた。
「ですがお2人の聞いている通りです。それにあたな方は
「分かっている。分かっているから、俺も所属しているんだ」
「ならば分かると思います。それは敵だけではなく、味方にも向けられるんですよ。"大佐"はそのためならば、自分の手が幾ら汚れようが厭わない。その手で民間人を手に掛けることもありますよ」
「……」
男性衛士はもちろんのこと、黙って聞いていた女性衛士も苦虫を噛み潰したような表情をする。
「俺の話でしたね。……まぁ、連隊を通して聞いている通りです」
どのような話になっているのかは、霞から断片的にしか聞いていないから全体像は俺にも分からない。だが、夕呼先生のことだから、変な脚色をしていたりすることは間違いない。訂正するのにも疲れるし、そのままの方がいいだろうなんて考えながら2人の反応を観察する。
「……じゃあ白銀くんは、XM3発案と開発衛士で、光州にも参加して、その上、今回の本土侵攻にも前々から参戦していたってこと?」
「はい。XM3の発案は俺ですけど、開発は極秘計画要員の人が行いました。開発衛士も、結局俺しか務まらないことだったので俺が。光州にはA-01とは別で任務が与えられていましたが、最後は一緒に戦ってたんじゃないですかね? あの時は不知火に乗ってなかったので分からないとは思いますけど……。今回の件も機密でお教えできませんけど、光州の時から乗っていた機体が駄目になるくらいには」
悲痛な心情が顔に浮かび上がっている様子。十中八九勘違いしているだろうが、訂正するとなると骨が折れる。少し様子を見ることにした。
「……それであの強さかぁ。国連軍の訓練部隊ってどんな訓練をしているのかな? 白銀くんがTF-403の衛士であれだけ強いってなると、相当な訓練なんだろうなぁ」
俺の所属していた訓練部隊。国連軍第207衛士訓練部隊は、訓練兵の少ない部隊だ。そもそもA-01専用の訓練部隊ということもあるため、いわゆる選ばれた人間しか所属することができない。
「普通の訓練部隊ですよ。歩兵としての基礎訓練に、総戦技を終えたら適性検査をして戦術機。2人の出身部隊と変わらないですよ」
「そうなのかなぁ。……私の訓練部隊、と言ってもA-01に来る新任少尉たちは皆、同じ教官から扱かれるんだけど、あれ以上に厳しいのかって思うと寒気がしてくるよ」
「少尉の訓練部隊ですか。俺のいたところの教官もそうですよ。無茶苦茶厳しくて、怖くて、それでいて優しい教官でしたよ」
「分かるなぁ。訓練兵時代は鬼教官とか言って嫌ってたりしてたけど、卒業してみるとね」
「えぇ」
今頃仙台で新しい訓練兵に怒鳴り散らしているであろうまりもちゃんの顔が脳裏に浮かんで見える。
恐らくではあるが、A-01と同時に設置された第207訓練部隊の教官は最初からまりもちゃんだ。恐らく、目の前の2人もまりもちゃんに扱かれたのだろう。少し青い顔をしているが、表情は誇らし気だ。
気持ちはとても分かる。俺も同じ教官の元で育てられた衛士なのだから。
「まぁでも、俺は満足に教育課程を終わらせていない繰り上げ任官した新任少尉です。そこは少し違うかもしれないですね」
「繰り上げ任官?」
「訓練兵の間に実戦を経験しているんですよ。配属後もすぐに大規模作戦でしたし」
これだけ話せば、恐らく2人の頭の中で推測が始まっているだろう。
訓練兵だった頃に実戦を経験しているということは、光州作戦時に繰り上げ任官をしているということ。光州で生き残った後、本土侵攻に投入。どこかのタイミングで夕呼先生に拾われ、XM3の開発に携わった、と。
俺は急かすように話を強引に切り替えることにした。これ以上、俺の話自身の話をしたところで仕方がないからだ。
「そう言えば、お2人の名前は?」
「私、遠乃 優莉」
「兵藤 直也」
遠乃 優莉と兵藤 直也。俺が知らないのも無理はない。前の世界で、俺が来た時には2人とも戦死か復帰できない状態になっていたのだろう。
「改めて、俺は白銀 武です。よろしくお願いします」
不知火を見上げながら、2人にここへ来た訳を聞き出す。
「そういえば、何故ここに?」
「特に理由はないんだ。ただ、あの時ハンガーの前で会った君が衛士だということが信じられなくて、こうして会いに来てみたの。そうしたら、本当にいたから驚いちゃった。同じ強化装備だし、TF-403の不知火の足元にいれば疑う余地もないよね」
「そうでしょうね]
A-01とは違い、TF-403は戦闘員が俺だけしかいない。CPも基本的には付いていない。それは実戦部隊で最前線で戦うのならばどうなんだという話ではあるのだが、今回に限って言えばどこかしらの部隊へ一時的に所属することになっている。指揮権は独立しているものの、やることは防衛戦だ。遊撃も遊弋もする必要がなく、戦域に留まって戦うことになる。京都防衛戦と同じような状況になるのは必至だ。
話を戻すが、整備兵も基本的にはA-01の整備兵が俺の機体の整備を行う。そのため、TF-403に割り当てられた区画には人がいない。だから2人は、俺が正真正銘TF-403の衛士であると認めることができたのだ。
「あ、そういえば白銀くんが一時的に組み込まれるの、私たちのヴィリヴェーズなんだよ。戦場でもよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
ヴィリヴェー中隊。演習の記憶を掘り起こして思い出す。特別強い訳でも弱い訳でもなかった、A-01の中では一般的な強さの中隊だろう。
ただ、妙に目がいい印象があった。それ以外では特にない。
「最初はデリングスって話だったけど、今回は私たちよりも若い新任少尉がいるからって、そっちは外されたみたい」
「そうだな。鳴海と平、だったか。2人の面倒を見るのに精一杯とかなんとか」
これまで黙っていた兵藤少尉が話に入ってきた。
鳴海に関しては聞き覚えがある。速瀬中尉関係で聞いたような気がするが、話した内容もそこまで多かった訳ではないのであまり覚えていない。平に関しては、鳴海以上に聞き覚えがなかった。
「それはともかくとして、これから一緒に飯でもどうだ?」
「はい。ご一緒します」
俺が突撃銃を置いてから何もしていないのを見てか、兵藤少尉が誘ってきた。断る理由もない俺はすぐに応え、突撃銃を管制ユニットに片付けると強化装備からいつもの作業着とフライトジャケットに着替えてA-01の仮設食堂に向かったのだった。
※※※
[同年同月22日 埼玉県 国道299号 秩父戦域]
長野県松本市で停滞していたBETA群が再度侵攻を開始した連絡を受けたA-01は久留里基地から全力出撃。一度は奥多摩に展開したものの前進し、秩父西部の田村に陣を張っていた。
この戦域で戦っているのは、中部と関東の帝国軍と北陸の国連軍部隊だった。北関東の部隊に吸収されたものの、無傷である部隊は後方に配置し、吸収された部隊は前衛に配置している。
地の利がある彼らが前衛にいた方が何かと都合がいい、というのが司令部の方便だ。だが実際には、元々自分らの指揮下にあった戦力を温存しておくためだった。また、前衛配置となった部隊は旧式装備であったり、かなり耐久値も限界が近いものが多かったりするというのも実情であったりもする。
持ち回りで機上待機をしており、先程交代したばかりだ。俺が一時的に配属されたヴィリヴェー中隊とデリング中隊が間隔を開けて、西側の山岳地帯を睨みつけている。近くには他の国連軍部隊も展開しており、帝国軍部隊は秩父南部の方に展開している。
理由としては、山梨県南部の富士吉田に帝国軍富士教導団が展開しており、長野県陥落前にも出撃し戦果を上げていた。また、東京が近いという理由もある。後方帝国軍部隊後方には小田原・相模原・入間とそこそこ大きな帝国軍基地が点在していることも理由として挙げられる。後退しても再編成や連携の取りやすさを考慮したのだろう。
一方で国連軍部隊はというと、防衛戦でも北方の外縁部に集中配備されている。帝国軍との取り決めではあるのだが、いかんせん支援の手が薄くなる内陸部であり、最寄りの基地も少ない。かなりやり辛い状態にあることこの上なかった。
『しっかし、前線はどうなっているんだろうな? さっきも損傷の激しい戦術機が後退するのを見たが、あれじゃあすり潰されるのも時間の問題か?』
ヴィリヴェー中隊の衛士がボヤく。全員が心の内で思っていることを口に出したらしい。振動センサーには微弱ながら戦闘でしか発せられないモノを検知している。それが段々と近付いてきていることも。
『前衛に配置されていたのは、北陸の国連軍部隊。基本装備はF-15CかF-4EかJだ。それに絶対数も足らないと聞く。そう遠くないタイミングで俺たちの出番も来るだろうな』
『帝国軍の方は少し善戦しているみたいだけど、かなり根性論で押し通しているみたいね。それに太平洋から艦砲射撃もあるみたい。射程距離内なら面制圧もできているみたい』
そんな声がオープン通信から聞こえてくる。俺も接続はしているものの、答えることはない。静かに遠くの尾根を睨んでいるだけだ。
『大佐からのオーダーは、東京の防衛。後は好きなようにしていい、ということになっている』
『大尉はどう思いますか。今回の出撃は?』
そんな通信に中隊長も混じってきた。機上待機は暇ではあるが、基本的に即応待機と変わらないために私語を注意することはないのだ。戦闘時に切り替えれば問題ないということなのだろう。
『連隊全体としては、恐らく奥多摩辺りまで攻められないと出撃命令は出ないか、もしくは関東を破られるまで出撃はないんじゃないかと言われていた。だから今回の出撃は大佐の気まぐれか、もしくは悪い癖でも出たんじゃないか?』
『そういえば、白銀に負けて以来実機訓練は片手で数える程しかしてませんからね』
『仕方ないだろう。俺たちがXM3の性能を十二分に発揮できていないのだから。これだけの物を与えられておいて持ち腐れていれば、大佐であろうと怒るのは当たり前だ。それに、俺たちが使いこなせていないというのは本当のことだからな』
『その使いこなせていないってのが気に食わないですよ。確かに白銀の動きはXM3であれば再現できるかもしれませんが、俺たちには無理だ。根本からして違いますよ』
『変わらんよ、俺たちとは』
俺の話を持ち出した小隊長の疑問に、大尉が返事を返す。聞いてはいたが、小隊長の様子を見る限り本当に気に入らない、といった様子のようだ。
『BETAの侵攻が確認される前、兵藤と遠乃が白銀と話したようだ。白銀の不知火は、俺たちの機体と何ら変わりないものだという。吹雪もそうだ。機種転換で乗った吹雪と同じ。アレにCPUと電源ユニットを載せ替えて、XM3をインストールしただけのものだそうだ。俺たちが敵わなかったのは、XM3に対する理解や熟練度が足りなかった。もしかしなくても、衛士としての腕も及ばない』
『そうはいいますがね大尉』
『貴様の言いたいことは分かる。だがな、事実として同じ不知火を使った白銀に中隊毎ではあるが連隊を全滅させられているんだ。その事実があった上で、大佐が不満足なのも当然のこと。どれだけ掛けて開発されたのか分からないXM3にCPUと電源ユニット。これだけの物を与えられて、今まで通りなんて都合が良すぎる。俺たちは極秘計画のためにも、その力を使いこなさなくてはいけないんだ』
『……分かってますよ、大尉。帰ったらまた訓練漬けですよね』
『そうだ。もし撃墜なんかされてみろ。仙台で白銀少尉直々で蹴り回してもらうからな』
『それは勘弁して欲しいです!』
『ということで頼めるか、白銀少尉?』
急に話を振られたが、話は聞いていたのですぐに答える。
「了解。上官とか無視して蹴り回します」
ここで俺はふと思い出した。純夏が言っていたことだ。
「あ。不知火であやとりできたら、蹴っ飛ばすのを弘前辺りで勘弁してあげますよ」
『ちょ!? 戦術機であやとりなんかできる訳ないだろ!!』
「開発に携わった技術者ができると言っていたので」
機上待機も暇になってきたところだったということもあり、一度BETAに攻められて廃墟になった秩父の街の適当な切れた電線を探す。
突撃砲と多目的追加装甲を傾いたビルに立て掛け、切れた電線の両端を結び、手に通した。
前の世界で霞と遊んだことを思い出しながら、適当に箒を作って見せてみる。
「旧OSでは握ったり、開いたり、つまんだり、掴んだりすることが基本動作でそれ以外はやりませんからね。XM3はそれ以外のこともできるようになっているんですよ」
『不知火があやとりをしてるというのは何とも言えない光景だが……本当にできるんだな?!』
戦術機があやとりをしている光景なんて、かなり変な場面かもしれない。中隊全員がポカンとした表情をしている。俺は気にすることなくほうきを解き、梯をやってみた。
少し苦戦はしたものの形になったため、そのまま見せてみる。
『……それがXM3を使いこなす、ということなのか?』
「まぁ、近いですね。キャンセルと先行入力でできますが、コンボは別です。蓄積データから自動で機体が動作しますが、積極的に使っていかないと意味がないですからね」
『コンボはどうなんだよ』
「コンボは主に回避で使う機能です」
『急に実戦の話をするなよ』
「まぁ、他にいい説明の仕方を思いつかなかったので。……コンボはさっきも言いましたが、回避の時に使うのが有効ですね。同じ動作をする場面もコンボとして処理して、動作の最中にキャンセルと先行入力を入れれば、かなり動きにキレが出ますし人間的になります」
『白銀なら、例えばどんな時に回避を使うんだ?』
「えー……どんな時でも使いますよ。混戦時はそうですし、光線級の回避でもいくつか用意しておけば問題ないです」
全く分からん、と言いた気な小隊長の表情に苦笑いを浮かべ、大尉の方に視線を向けた。
『大佐から聞いた話だし、俺たちも実際に演習で見たが、白銀は空を飛ぶ。光線級がいる戦場でも空を飛ぶとのことだ』
通信がざわつくが、大尉は気にすることなく話を続けた。
『光線回避にもXM3は使える。旧OSの乱数回避機動よりも使いようによっては、回避率が高いという。実戦データも白銀が実際に取っているとのことだ。光線を回避しろとは言わん。だが、使いこなしてみせろ』
電線を捨て、突撃砲と多目的追加装甲を拾い上げて、再び尾根の方に視線を向けた。
全員警戒しているものの、口ではXM3の話ばかりをしている。戦闘機械であった戦術機があやとりをして見せ、それがXM3を使いこなすことでできることだと言ってしまえば、話題は自然とそちらへと向かっていってしまう。
そんな中隊の声を聞きながら、俺は迫り来るBETAにチリチリと闘志を燃やし始めたのだった。