Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 21

 

[1998年8月4日 国連軍仙台基地 第3演習場]

 

 今日はA-01との演習日だ。どうやら俺の不知火が使えるようになるのを見計らうかのように予定が入れられており、演習が試運転と言わんばかりだ。

 今回の演習形式はJAVESを用いた俺対1個中隊だ。夕呼先生がA-01にどのように相手である俺の情報を伝えているか分からないが、いい印象を持たれていないのは確かだ。

相手とオープン回線は開始まで繋がれており、表情も見れる状態になっている。一方で、相手も俺の声は聞こえるが顔は相変わらずSOUND ONLYになっているのだとか。

 

『俺たち相手に不知火1機ですかい? 冗談ですか、大尉』

 

『冗談な訳あるか。それに以前にも似たようなことがあっただろう?』

 

『光州作戦から帰ってきた後にやった吹雪ですか? アイツは博士の用意した変態だったって話じゃ?』

 

『その変態が今度は不知火に乗っている。博士曰く、アイツを倒せないのならまだまだね、だそうだ』

 

『クソっ……。ですが俺たちはアレ以来研鑽を積んできました。あの変態吹雪にだって負けません!』

 

『あぁ。その気概で頼む』

 

 なんだか俺のことを変態変態と言ってくれているが、俺の機動制御は変態じゃないと思うんだがどうなんだろうか。

俺の疑問は誰に聞いても、返答が1種類なのは解せないが、俺はここでもA-01を叩き潰さなければならない。

 あの演習以来、A-01の衛士たちは猛訓練に励んでいたと聞いている。それはつまり練度が向上していると見て間違いないだろう。

だが、XM3を本当に使いこなしているのかは分からない。そればかりは、A-01の現状を聞いた時点では判断できなかったのだ。

 

『変態衛士サマはだんまりなようで? 前回は口も聞いてやくれませんでしたからね』

 

 相手の中隊長に俺のことを煽るような発言をしていた男性衛士は、そう俺に対して言ってきた。

 ここで相手の土俵に上がる必要はない。そう思っていた。

 

「機密なもので。それは勘弁してください、少尉殿」

 

『……ブッヒャッヒャッヒャ!! 声からしてガキじゃねぇか!!』

 

『抑えろスルーズ10。申し訳ないな……えっと、変態衛士』

 

 ゲラゲラと笑うスルーズ10に注意した大尉は、俺のことをそう呼んだ。どうやら俺の名前は知らされていないらしい。夕呼先生が教えなかったということは、知る必要がないのだろう。

 しかしながら、変態衛士呼ばわりされるのは解せない。確かに他の衛士とは違う機動制御を行うが、旧OSで流れるように自然な動きを実現させる斯衛の衛士の方がよっぽどか変態だと思う。最も、今はそれを行う武御雷は実戦配備されていない。

 今のところは呼び方にケチを付けたところで、代わりにどう呼ばせるかは思い付かない。我慢して話をするしかなさそうだった。

 

『変態衛士。香月博士はなんと言っていた』

 

 バストアップウィンドウに浮かぶ大尉の表情は、引き締まって真面目なものへと変わっており、それは他の隊員にも言えることだった。

 

「特には。使い物になっているか確かめて来いとは言われています」

 

『手厳しいな、相変わらず……』

 

「それがあの人ですからね。……そろそろ準備はよろしいですか?」

 

『あぁ』

 

 CPから開始前の連絡が入る。既に位置に着いていた俺は、話していた大尉たちとの通信も切断する。

 俺が乗っている機体は、愛知の工場から白陵基地に持ち込まれた新造機の不知火だ。白陵では組み立てまでを済ませ、仙台に移ってからは調整や塗装が行われた。既にXM3の搭載、CPUと電源ユニットの交換は済ませてあり、F-15C Extraで得られたデータや蓄積されたフィードバックから関節の硬さなどを除けば、最適化された機体に仕上がっている。

装備は突撃前衛。強襲前衛でも良かったが、慣れている突撃前衛を選んだ。

 

『CPより40301。その機体は新造機です。慣らし運転をしていないので、無理をしないようにしてください』

 

 俺に就いたCPは霞だった。機体について再度注意が入る。

 

「40301了解。最初は慣らしながら、徐々にぶん回してみる」

 

『……無理をしないでください。ではJAVES起動、演習を開始してください』

 

 網膜投影に変化はないが、JAVESが起動したことを確認する。そのままスロットルを開放し、機体を浮き上がらせた。

 

※※※

 

 開始地点から少し移動すると、主機を落として廃ビルの間に入って息を潜める。今回もステージは市街地だ。

 レーダーに機影は捉えていないが、それも時間の問題。相手はこちらが1機であることは知られている。また、一度戦ったことのある相手だ。訓練に励み、恐らくではあるが、演習データから研究も行っているだろう。

ならばすることは1つしかない。

 跳躍ユニットを全開、一気に建物よりも高く飛び上がり、走査レーダーを起動する。肉眼で捉えるのと同時に、レーダースコープに敵を捉えた。

すぐさま銃撃を浴びせられるが、跳躍ユニットと姿勢制御で弾幕を躱していく。

マズルフラッシュの数を数えながら、敵がどのような隊形にいるのか確認した。

 

「密集隊形……!」

 

 開始位置からは移動していると思われるが、隊形は各小隊毎に楔形を取っており、それが近距離ではあるがまばらに展開している状態だ。

移動中や浮き上がっているということもなく、完全に足を止めて打ち上げている。

 舐められている。俺はそう感じた。

 前回は短期間の間に何戦も経験しているためか記憶が曖昧で、いつどのタイミングで彼らと戦ったなんて分からないのだ。

割と全ての演習で善戦していた記憶があるが、相手がどう感じ取っているかは分からない。俺とA-01の演習が終わった後でも、夕呼先生はあまり感想やその後の様子を教えてくれなかったということもある。

 すぐさま噴射降下、地表スレスレで逆噴射制動で速度を殺すと、廃ビルを蹴って強引に方向転換。噴射滑走で敵小隊に肉薄する。

多目的装甲を構えながら、突撃砲をバースト射撃し、敵への牽制を行う。

 突如空から落ちてきたかと思えば、そのまま突進を敢行したことに泡を食ったのか、回避運動を行いながら射撃を繰り出してくるも、そのほとんどが見当外れの方向に飛んでいき、数発が多目的装甲に当たった。

 横切るのと同時に、前傾姿勢から脚部を前方に突き出して廃ビルを蹴る。屈伸運動をしてその反動で180度方向を変えた。目標は動きの遅れている不知火だ。

多目的装甲を横に振り抜き、バースト射撃をすれ違いざまに叩き込んだ。

 

『スルーズ7、胴体切断、致命的損傷。大破』

 

『スルーズ9、管制ユニットに被弾、衛士死亡』

 

 一気に2機を食い、勢いを殺さずに過ぎ去る。しかし気が変わった。噴射滑走から反転倒立し、残った2機に向き直る。

XM3の真骨頂は近接格闘戦だ。高機動戦や一撃離脱では持ち味を活かし切れないのだ。

 静止し、残っている2機を見る。こうしている間にも、8機が襲いかからんと集結しているが、初撃を躱して逃げれる自信があった。

 

『舐めてるのか、野郎……ッ!!』

 

 オープン通信で、顔を真赤にしている男性衛士のバストアップウィンドウが表示された。

相手は目の前で静止しており、ピクリとも動かない。数的劣勢であるにも関わらず、囲まれることもよしとしているからだろう。

 ここで俺は夕呼先生の目的を思い返す。

 この演習はA-01のガス抜きを目的としているが、その他にも練度向上やXM3の扱いの上達がある。

まだXM3搭載機の機能を十全に使いこなせていない彼らに、発案者であり使い手でもある俺に力を存分に振るって見せつけるのだ。

旧OSではできない動きを再現し、実用的に使って見せる。それが今の俺に求められていることだった。

 

『スルーズ1より各機へ。何故か知らないが奴は動きを止めている。今のうちに包囲し、叩き潰す!!』

 

 右手で保持していた多目的装甲を捨て、背部マウントから長刀を引き抜いた。

 

『多目的装甲を棄てやがった……!?』

 

『奴の動きは常軌を逸しています!! 考えられる可能性を超えて、対応しなければなりません!!』

 

 丁度いい。新造機であり、この世界に来てから初めての不知火だ。俺がどこまで成長しているのか確かめてやる。

 

『と、突撃砲まで!?』

 

 右手に携えていた突撃砲も地面へ棄てた。

 両手には長刀のみ。飛び道具は捨て、残る武装は両腕のナイフシースにある短刀のみだ。

周囲には10機の不知火。状況は最悪だが、XM3を使い熟せていない相手だ。頭に相当血が登って正常な判断もできないだろう。

 長刀を肩に担ぐように振り上げて肩部装甲ブロックに乗せ、右手を前へ突き出す。

 

『なっ、』

 

 このような動きは戦術機にはできない。しかし、XM3を使えばできる。

 

『かかって来い、だと……?!』

 

 掌を空に向け、親指以外のマニピュレータをクイクイと握り込んで、開いてを繰り返す。その動きは人間であれば意味は1つしかない。挑発だ。かかって来い、と、相手を煽る仕草だ。

 

『舐めんなッ!!』

 

 一斉に襲いかかってくる不知火の中で、一番近くにいた機体へ長刀を振り抜く。相手は挑発に乗っては来たが精鋭だ。予備動作で感づいたのか、機体を少し傾けた。

宙を切る長刀をそのまま振り抜き、そのまま右から近づいてきていた機体へ刃先を向けた。

相手の機体、腰部弾倉ボックスに穂先が掠る。

 半包囲された時点で俺は膝を曲げて、そのままロケットモータに点火した。

 空へ飛び、包囲の穴目掛けて噴射降下しながら残りの長刀を背部マウントから引き抜く。

飛び抜き様には、打撃支援装備の不知火へ長刀の腹を向けて横を抜き去る。

 

『スルーズ11、胴体断絶、大破』

 

 3機目の撃墜を確認し、そのまま戦域を飛び去るなんてことはしない。包囲を抜けて着地すれば、再び噴射跳躍で鋭角に方向転換。敵集団に吶喊する。

 敵部隊は混乱はしないまでも、動揺した様子でワンテンポ動きが遅れた。

 これみよがしに、手近な機体へ長刀を向ける。上段斜めから斬り抜き、勢いを殺すことなく、腰を捻って、近くにいた僚機と思われる機体へ下段切り上げた。

伸び切った腕部の電磁伸縮炭素帯は縮力で反対ベクトルに作用する。上段から振り下ろした速度よりも早く長刀が切り上げられた。

 

『スルーズ12、管制ユニット損傷、衛士死亡』

 

『スルーズ3、管制ユニット損傷、衛士死亡』

 

 次々と撃墜数が増えていく。敵も残すところあと7機にまで減っていた。敵は部隊を後退させ、体勢を立て直すらしい。

 ここで後退を許してしまうよりも、一気に叩いてしまえる余力は残っていた。

 前回もそうだったが、相手が幾ら精鋭とは言えども、XM3を使い熟せていないのだ。ましてや彼らは元日本帝国軍の衛士であったとしても、本土防衛軍帝都守備連隊ほどの練度は誇っていない。

俺がこれまでに経験してきた対戦術機戦闘自体が、帝国軍の精鋭ばかりのクーデター軍だけだったことが理由になるのだろう。また、その他はヴァルキリーズや第207訓練部隊等、自分のホームとも言える部隊での訓練しか経験していなかったということもある。

 だから前回の時点で、吹雪単機で不知火1個中隊を全滅させること自体が異常であって、今回は訓練機でない不知火を使っているからこそ、遅れを取ることのない戦闘ができているのだ。

 

『どうなっていやがる……。吹雪の時よりも動きが機敏だ』

 

『アレでも抑えられていたという訳ですか』

 

 突撃砲で牽制射撃をしながら、後退する不知火に向かって、噴射跳躍をする。今度も上空へ飛び、上から襲いかかった。

 既に使った戦法ではあったが、相手に確実に肉薄できるのだ。長刀を構えながら狙いを定めた機体へと襲いかかる。

 

『スルーズ1、左腕部脱落』

 

 咄嗟に回避されたため、右手の長刀は中心から少しズレたところを切り裂いた。肩部装甲ブロック諸共、武器と共に左腕部が地面へと落ちていった。

 すぐさま振っていない長刀を横薙ぎにすると、隻腕の不知火は噴射急制動と噴射反転で距離を置かれる。

カバーする形で、別の機体がバースト射撃を繰り出してきたが、構わず追跡をした。

 振り下ろしていた長刀をそのまま空に振り上げ、勢いを乗せて長刀を再度上段で振った。そのまま握っていた掌を開き、長刀は回転しながら飛んでいく。

流石に飛んでくる長刀には対応できなかったのか、隻腕の不知火の胴体へと突き刺さった。

 

『スルーズ1、管制ユニット大破、衛士死亡』

 

 武器が左手の長刀と短刀のみになってしまう。残っている敵は6機。長機を撃墜したため、連携がガタガタになっている今がチャンスだろう。

 

『コ、コイツ、長刀だけでここまで……?!』

 

『指揮を引き継ぐ!!』

 

 ステータスは逐次確認しているが、被弾した様子は一切ない。関節の異常もなく、至って正常な状態だ。推進剤の残量もまだまだ残っており、全力戦闘は可能だ。

数度の上空への噴射跳躍で消費したものがほとんどで、それ以外ではあまり使っていないのだ。

 NOEでビルの合間を縫いながら周囲を確認すると、どうやら2機が俺を追跡しているらしく、他4機をロストしていた。

 相手は2機をチェイサーに俺をアンブッシュポイントへ誘導するつもりなのだろう。他の場合を考えるまでもなく、突撃砲の威嚇射撃で進路誘導をされていることに気付く。

 俺はそれにあえて乗った。相手の土俵に上がった上で、叩き潰すつもりなのだ。

散解されれば各個撃破は困難になるが、纏まっているのならば叩きやすい。それに、俺は飛び道具を持っていない。敵はそこをアドバンテージとし、中・近距離での砲撃戦を仕掛けてくるだろう。

 予測されるアンブッシュポイントを算出し、誘導にわざと乗りながら反撃のチャンスを見定める。そしてその時はやってくる。

 市街地の中にポツンと存在する公園だったところ。そこに誘い込まれた俺は、攻撃を待つことなく待機しているであろうポイントへ飛び込んだ。

 

『嘘ッ?!』

 

『スルーズ5、胴体断絶、大破』

 

 胸から腰までを斜めに切り落とした不知火が撃破判定を食らう。

 立ったままになっている下半身を蹴り倒し、そのまま再び公園へと踊り出る。隠れていた不知火が3機出てきており、目の前には5機が並んでいる。

 迷うことなく残敵へ飛び込む。平面で回避運動を行う敵機に三次元機動をしながら、近い敵に手当り次第長刀を振るう。それでも敵は砲撃戦を選んでおり、少し距離を取りながらバースト射撃を繰り出す。

 高機動ばかりしていると推進剤はみるみるなくなっていくが、気にすることはなかった。敵機は1機、また1機と突撃砲を捨て始めていた。

数的劣勢でありながらも、5機相手に機動戦をする俺を相手に、リロードをする余裕はなかったからだ。

 近接格闘戦を相手が選べば、こちらのものだと言わんばかりに機動制御で翻弄して見せる。

 

『スルーズ10、管制ユニット大破、衛士死亡』

 

『スルーズ6、胴体断絶、大破』

 

『スルーズ8、胴体断絶、大破』

 

『スルーズ5、管制ユニット大破、衛士死亡』

 

 そして残すところ1機となった。

 アンブッシュポイントになっていた公園には、4機の不知火が転がっている。どれも真っ二つにされており、もう動くことはない。向かい合う不知火も、既に武器は長刀1本となっていた。

 俺は左手に持っていた長刀を後ろに投げ、右手の長刀を地面に突き刺した。

 

『な……』

 

 ナイフシースから短刀を2本抜き、左手を逆手、右手を順手に持つ。

 

『なめるな……ッ!!』

 

 相手の不知火は両手に握り込んだ長刀を上段に構えながら、水平噴射跳躍で突っ込んでくる。

 後少しのところでひらりと躱し、回転運動をそのまま続けてすぐ後ろで振り返ろうとする不知火の左足を切り落とす。

ガクリと姿勢を崩したが、間髪入れずに支え手になっていた左腕を落とすと、そのまま右足を落として、最後に右腕を落とした。

 四肢をもがれた不知火が公園に転がり、まだ光の灯っている頭部モジュールに短刀を突き立てると同時に演習終了の通信が入った。

 

『……演習終了。お疲れ様でした、白銀さん』

 

 淡々とした霞の報告を聞き、俺は深く息を吐く。地面に転がる不知火を見ながら、思わず呟いてしまった。

 

「これでいいんですかね、先生……」

 

 脳裏に「やっぱりアンタは変態よね~~~~」とチェシャ猫のように嗤う夕呼先生の顔が浮かんだ。そしてすぐ、それは本当のこととなるのだった。

 


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