Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[1998年7月16日 絶対防衛線圏内 京都御所戦域]
あの日、甲賀にたどり着いた俺は、その日の内に白陵基地を目指し移動を始めた。日の出前の移動開始だったが、どうやらその時間帯にはBETA群を退けることに成功したらしく、絶対防衛線では再編成や部隊招集を始めていた。物資や戦術機の運搬で、ひっきりなしに東から西へと鉄道や輸送車両、輸送機が移動をしていた。
そんな中での移動ということもあり、輸送手段が使える筈もなかった。甲賀基地を出た俺と霞は、主脚移動や噴射跳躍を使いながら約450kmを戦術機で移動した。1日がかりの移動で、白陵基地に到着した頃には疲労困憊だった。
『白銀。機体の用意はできているわ』
夕呼先生が珍しく出迎えたな、なんて思ったら、それだけを言って自分の仕事に戻ってしまった。俺の見つめる先には、実戦用に調整された吹雪。俺の機体が鎮座しており、既に武装の準備も完了していた。そして例の如く、帝国軍カラーに塗り替えられている。吹雪を装備している国連軍は
考えてみれば分かるもので、F-15C Extraを失った俺に残された機体は吹雪しかなかったこと。それに、TF-403のために確保されていた戦術機自体もF-15C Extraと吹雪しかないのだ。俺は身支度を整えてすぐに吹雪のところに向かうと、流石に京都へ向かうのは輸送機だということに安堵した。
管制ユニット内で待機しなくてもいいとのお達しだったこともあり、客室で惰眠を貪って向かったのだった。
「で、だ……」
これまでのことを思い出し、俺は再度自分の置かれた状況を確認する。
帝国軍大津仮設飛行場に降り立った俺は、今回は輸送したのが帝国軍の輸送機ということもあって、面倒な手を踏まずに自立整備支援担架に乗せられた吹雪と共に移動。京都御所防衛に就くこととなったのだ。ちなみにこれは夕呼先生のオーダーでもある。建前では「訓練兵が繰り上げ任官して戦闘に参加。生き残った俺は、単独で補充要員として不知火が配属されている部隊へ送り込まれる」ということになっている。ちなみに、名前もこれからは本名を名乗ることになっていた。所属は帝国軍白陵基地 第207訓練部隊。
『貴様が補充で来た新任少尉か?』
「は、はい! 白銀 武少尉です!! よろしくお願いします!!」
『あぁ、よろしくな』
どうして、俺は真田大尉の部隊に配属されているんだ?
※※※
見慣れているといえば見慣れているこの光景を見つつ、俺はブリーフィングに呼び出されていた。
京都御所の中ではなく、西にある上京中学校があったところだ。ここには御所守護のために集められた部隊の司令部が置かれており、校舎内も簡易的ではあるが兵舎や野戦病院となっている。グラウンドには自立整備支援担架が幾つも並べられており、一角には戦術機の兵装や予備パーツ、小火器、機械化歩兵装甲、果ては予備機まで置かれているような状態だ。対して広くないということもあり、隙間なく敷き詰められているため、通路は狭く通行し辛い。
呼び出されたところは、その校舎にある1つの教室。あったであろう机や椅子の殆どが撤去されており、幾つか残されているような状態だった。
この教室に集まったのは全員で9人。隊長の真田大尉と他7人、そして俺だ。俺が入る頃には全員が集合しており、全員の視線が俺の方に向けられる。
「先程機上では俺と挨拶しているが、お前ら全員にも顔合わせをしておこうと思う。帝国軍白陵基地 元第207訓練部隊の白銀だ。運悪く防衛線抽出部隊に選ばれて前線へ来て、こっちで他の仲間を全員失ったという。曰く、新任少尉の癖に腕はいいと来たもんだ。でなきゃ、一昨日の防衛線でBETAの腹に収まってる筈だからな。ほれ」
「白銀 武です。よろしくお願いします」
「機体は吹雪。俺たちの壱型丙よりも格段に性能が劣る機体だが、戦闘終了後にぶっ壊れた乗機と交換したものらしい」
壱型丙とは何だろうか。付けっぱなしのヘッドセットから遠隔でライブラリーデータを確認する。
どうやら不知火の改修型らしいが、燃費が悪くシビアな操作感で不人気だったらしい。言うなれば高機動型不知火だったようだが、あまりに不人気過ぎて調達数は100も届かない内に締め切られたとか。通常の不知火と見分けるため、フェリスカモフラージュという迷彩塗装を施しているという。
ただでさえ性能差がある吹雪の不知火だが、そこから更に性能差が開けるという。違う機体を同一部隊に入れると、連携が崩れたりするというが、そういったことは考慮しないのだろうか。
「壱型丙の調達命令が出ているようだが、どうやら手に入れるのには時間がかかるという。それに、他の不知火を装備する部隊に配属するか上が協議したが、どこの部隊も再編成の影響で入れることができない。よって、損耗が相対的に少ない我々の部隊預かりとなった。それに壱型丙を装備した部隊とは言え、俺たち全員が揃っていたということでもない。今や3機しかまともに動くのがない以上、5人には同じく吹雪は配備される。よって、長機は壱型丙とし、その他は吹雪で代用する」
俺が初めて真田大尉と遭遇した時、確か8機の壱型丙が居た気がするが、あの後からは欠員は出ていないようだ。
真田大尉から、隊員の紹介が始まる。やはりというか、彼らは精鋭部隊。年齢層も高めで、夕呼先生くらいの人ばかりだ。厳格な雰囲気。そして、妥協を許さない姿勢が感じ取れる。まさに帝国軍人という雰囲気だ。
彼らを見ていると思い出す人物がいる。沙霧 尚哉。帝国本土防衛軍第一戦術機甲連隊に所属する彼が、オルタネイティヴ5推進派の工作によって煽動されて起きたクーデター事件。沙霧大尉や他の帝国軍人は、真摯に殿下を想い行動を起こした。まるで、彼を見ているような気がするのだ。
お互いの自己紹介もほどほどに済ませると、吹雪受領書に目を通す。俺のは白陵基地から持ってきた吹雪だが、他の機体は別の基地や不知火の保守パーツ等で組み上げられた機体だ。つまり間に合わせの機体。カタログスペック通りに出力が出るか分からないという。それにしても、戦闘中に壊れるということはないだろう。
受け取りを済ませると、どうやら真田大尉の壱型丙が駐機している辺りに自立整備支援担架と共に運ばれるようだった。
「さて。俺たちの配置を説明する」
真田大尉は机に広げられた地図を囲むように言い、赤鉛筆で印を付けられた辺りを指す。
「俺たちの任務は御所の守りを固めること。ここが現在の最前線であり、順次前線を押し上げていっている。現在も市街のBETA群掃討が行われており、安全が確認され次第前進する予定だ。これにより、御所の安全を確保していく」
二条城の西側をスーッと指でなぞる。その辺りが、現在帝国軍の戦術機部隊と機械化装甲歩兵部隊が展開中のところだ。
「現在、二条城まで前進しているが、今日中には西大路通までを確保する予定だ。俺たちは今日、出撃する予定はない。吹雪を拝領した者は調整を行い、いつでも出れるようにしてしておいて欲しい」
西大路通までというと、明日までには桂駐屯地まで奪還する予定なのだろう。そして京都を取り戻し、続くBETAの攻勢に備える。
次に俺たちの詳細な配置についての説明が始まった。
「俺たちウルフ中隊は、国道162号を奪還するまでは即応待機だ。その後、防衛線の再構築が完了次第、絶対防衛線に配置される。拠点は
すぐに真田大尉から解散が命じられ、吹雪を受領した隊員たちが教室から出ていく。俺はどうしようかと考えていると、壱型丙の衛士たちと大尉に話しかけられた。
「白銀少尉。聞いての通りだ」
「はい。任官早々、精鋭部隊に配属されたことは嬉しく思います。しかし、皆さんの足を引っ張るようなことにならないように努力する所存です」
「あー、いやそういうことを言っているのではない。いやまぁ、一概に間違っちゃいないんだがな」
優しげな雰囲気の中尉が俺の肩を掴んだ。
「見たよ、これまでの戦歴。関東から抽出された部隊で、しかも学徒兵だった。これだけを聞けば、たしかに不安はあった。だが、そうじゃない。部隊が全滅させられながらも、1人で戦場を駆け回ったとか。元々、戦術機の扱いは上手かったんだろう? 腕の差で生き残ったと言ってもいい。そこのところは期待してるよ」
「高梨中尉……一体、何が書かれてたんですか……」
「いやまぁ。普通だよ。訓練兵としては異常かもしれないけれども」
高梨中尉。真田大尉とは付き合いが長いという。詳しい話は聞いていないが、纏っている雰囲気が強者のそれだ。また、高梨中尉の小隊には俺が配属されたため、直属の上司ということにもなる。
「そうだとも。向こうの教官も偉く君を買っていた。実機訓練の映像まで送られてきた程だ」
チェシャ猫のように嗤う人の顔が脳裏に浮かぶ。帰還した俺をすぐに蹴り出したあの人だ。
腕を組みながら、ウンウンと頷いて映像の感想を語るのは副官を務めている堀田中尉。高梨中尉を差し置いて副官であり、ウルフ2でもある。
「君の働きには期待している。存分にその武を奮って欲しい」
「はい」
2人が去っていくのを見送ると、教室には俺と真田大尉だけが残された。大尉は何かすることがあるのか残るつもりだったらしく、俺はただ単に出ていくタイミングを逃したに過ぎない。
2人の話し声が聞こえなくなるのと同時に、地図を黒板に貼り付けた真田大尉が、俺を呼んだ。
「白銀少尉」
「何でしょうか」
「……深いことは聞かない」
「……は?」
何を言い出すのかと思えば、唐突にそう言ったのだ。
「貴様はあの日、京都に居た。そうだったな?」
「はい。仲間と共に防衛線に参加していました」
何が言いたいのか分からない。だが、緊張感だけは伝わってくる。真田大尉が言っていることは、確実に俺にとって不利益になることだ。何故かそれは分かった。
「だが、詮索はしない。お前も言ったからな。『藪をつついて蛇を出す』と、鉄少尉」
「っ……、誰ですかそれ」
「分からない訳がないだろう? 恐らく小隊長連中も気付いている。気付いていないのは、他の少尉連中だけだ」
とぼけるだけ無駄だろう。恐らく真田大尉は確信している。鉄 大和が俺であることを。
「……気付いたんですか?」
「当たり前だ。俺が何年生きていると思っている」
真田大尉には気付かれていたのか。それに中尉の2人にも。だが、分かっていながらも、その話には触れてこなかった。
「心配するな。上にも報告していない」
「……真田大尉」
「お前が何をしているのかは知らない。どこに関わっているのかも、何を目的にしているのかも」
「……」
「京都駅前に、帝国軍の陽炎と思われる機体が爆散していた。様子から察するに、跳躍ユニットの暴走による爆発ではないことも分かっている。恐らく、管制ユニット内に仕掛けられた爆薬による爆発。アビオニクスは全て吹き飛び、レコーダすら粉々になっていた。そしてその近くで篁たちが拾われたことも聞いている。京都駅で何があって、お前が何をしたのかもな。そして、所属不明の機体がそこから離れるのも確認されていた」
息を呑んだ。覚悟はしていたが、そこまで知られていれば取り繕う必要もない。
「借りがある。だから黙っていてやる」
そう言った大尉は背を向け、扉の方へ向かった。
「篁たちを救ってくれてありがとう」
そう言い残し、教室から出ていってしまった。
教室に残された俺は、今後どう身を振ろうかと考える。身の上はバレてしまった。防衛戦での俺がやっていたことがどこまでバレているかは分からない。京都での出来事だけならば問題ないだろうが、一連の本土侵攻での目撃談が出ていれば話は別だ。
何故真田大尉の隊に配属になったのか、そして再び京都に戻すと決めた夕呼先生の思惑が見えない俺は、頭を掻き溜息を吐く。恐らく、残り1ヶ月続くであろう帝都防衛戦について考えながら。
※※※
[同年同月22日 新絶対防衛線 西京区]
京都奪還に燃えた帝国軍・帝国斯衛軍は、破竹の勢いで前進。BETA支配地域を次々に奪還していった。その結果、宮津・丹波篠山・神戸まで先遣隊が到達した時点で、BETAの再侵攻を確認。防衛線の構築自体は、京都を守る外郭・前絶対防衛線圏内までしか完了していなかった。
この新防衛線を守護するのは、主に帝国軍・斯衛軍の現地軍と極東国連軍。在日米軍は後方支援に徹し、琵琶湖の第7艦隊が主だった戦力となる。残党在日米軍は滋賀県内で再編を行っており、完了次第戦線の補強として増員される予定だった。
圧倒的に戦力が足りていない状態での防衛戦。第1・第2防衛戦は早々に瓦解。琵琶湖に展開中の帝国海軍連合艦隊の支援砲撃があったとしても、浸透するBETAに対しては陸上戦力が不可欠だった。
足りていない戦術機、機械化歩兵装甲、警備歩兵。再編された戦力でもここまで持ったのは、今回の侵攻では個体数が激減していたことが理由だろう。
『ウルフ1より各機。またもや異星起源種共が御所を踏み荒らさんとしている。俺たちは絶対防衛線に配置され温存されてきた戦力だ。前方からの撃ち漏らしと突破した集団が接近している。京都の街と将軍殿下に我ら獰猛な狼の戦い様、しかとご覧に入れよう。全機抜刀! 目標、前方の大隊規模BETA群!! 突撃ッ!!』
『『『応!!』』』
先頭集団の突撃級は数を減らされているが、後続の要撃級と戦車級は残っている。瓦礫の向こう側で蠢くBETA群に対し、たった8機の戦術機が突撃を敢行する。俺はその戦術機部隊で戦っていた。
真田大尉の隊に入ってから1週間も経っていないが、着任後の様子からは考えられない程に馴染んでいたと思う。大尉や堀田中尉、高梨中尉には、以前の戦闘で遭遇したイーグル1であることが見破られていた。思うところもあっただろうが、その俺に対しても普通に仲間のように接してくれたのだ。無論、他の先任少尉たちもだ。
年齢が一番下ということもあっていじられることも多いが、よくはしてもらっている。
それに、ここでは今までに経験したこともなかったものも経験しているのだ。まず、訓練部隊から特別扱いされていたところに入れられていたこと。配属先はA-01というオルタネイティヴ計画直属の特殊部隊だ。一番遠い記憶では、訓練部隊をそのまま正規部隊としたこともあったが、略式任官した後のことは記憶の流入の影響か混濁していてハッキリしない。
俺の体感的に、一般部隊配属という経験は初めてであったのだ。座学で習ったことをそのまま体験している。兵舎は男女一纏め、シャワーも共用。プライバシーなんてものは完全に取り払われており、何でもかんでも一緒なのだ。だからこそ、仲間という感覚が身につくのが早かったのかもしれない。
『いやぁ、それにしても
『同意するが、口を慎めよウルフ5。戦闘中だ』
『へいへい』
BETAの死骸を縫いながら殲滅を続ける。F-15C Extraよりも乗り慣れた機体ではあるが、やはり主機の出力が低いのは気になる。それでも余分な装甲材なんかが取り外されている吹雪での、近接格闘戦はやはりしやすい。これよりも格段に動きが機敏な不知火が、どれほどの戦術機であるのかがよく分かるというものだ。
不知火でこれほどならば、武御雷がどれほどのものなのかは非常に興味がある。そして、不知火 壱型丙にも。
『CPよりウルブズ。師団規模のBETA群が東進中。至急対処に向かえ』
『ウルフ1よりCP。こちらは大隊規模のBETA群と交戦中だ。他の部隊を当たってくれ』
『CPよりウルフ1。他の部隊も同様の状況だ。接近中のBETA群は貴隊の正面に到達する予測だ』
『否応無しに交戦する羽目になるのか、仕方ない。ウルフ1了解。……聞いたな、狼共! コイツらをさっさと肉片に変えないと、俺たちがすり潰されちまう。撃破速度を上げ、補給の時間を稼ぐ! 全機、奮起せよ!!』
散らばっていた9機が一時集合すると、戦域を再度分割。ある程度固まっている集団に突撃を刊行する。
俺の所属する第2小隊は最も西にいる集団だ。銃創のあまりない個体が多く、撃破するには骨が折れるだろう。しかし、最も弾薬と推進剤の消費が少ない小隊だったため、遠くの群衆が選ばれたのだ。
『ウルフ3より第2小隊各機、我に続け』
『「応!」』
高梨中尉の壱型丙を先頭にBETA群へ斬り込む。属種も関係なくごちゃごちゃになったBETAに対し、劣化ウラン弾を遠慮なしに叩き込みながら、僚機の位置を確認しつつ近接格闘戦に持ち込む。
左手に突撃砲、右手に長刀を持ち、低く低く這うように飛ぶ。昔ならばできなかったことだが、この世界に来てからも訓練を重ねてきた。できなかったことの多くができるようになっており、その中の1つが噴射地表面滑走を応用した機動だった。
「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
突撃砲は最小限、振るう長刀も最小限に留める。BETAは殺し切るのではなく、行動不能にするように心がける。突撃級は一度来ているが、それでもBETAによる肉壁は中盤までは効果がある。突撃級の侵攻を遅らせるためだ。しかし、あまり高く壁を作りすぎると、要撃級や戦車級の影になってしまい、奇襲しやすくしてしまう。ある程度のところで止めて、殺し切る方法にシフトしなければならないのだ。
突撃級によって均された市街地で高度を取るのは自殺行為だ。今展開している西京区の西には嵐山がある。山間に光線属種が展開していれば、広い射角が取れた光線属種に丸焦げにされてしまう。だが、BETAでできた壁がそれを塞いでくれる。
地面を這うように動き続け、時には高い高度に飛び出すこともあった。けたたましく鳴る警報を何度も聞き、それでも一度も光線を浴びることはなく、着実にBETAを捌いていく。
『第2小隊、掃討完了!』
『こっちはまだだ! 先に態勢を整えろ!』
BETAの死骸の山に埋もれながら、一度集合した第2小隊の面々を観察する。
全機体液を浴びて汚いが、損傷箇所はそれほどないように見える。装甲ブロックの傷が増えた程度だったり、兵装を失っていたりする程度だ。
『ウルフ5よりウルフ9。お前、とんでもない動きをするのな』
「そうですかね?」
『謙遜するなよ。地面スレスレの噴射地表面滑走を多用したようだが、転倒姿勢のまま動き回るなんて聞いたことがない』
「教官が噴射地表面滑走、得意だったんですよ。教導中は否応にも見ることになりますし、これで追いかけられましたからね」
『白銀の教官、どんなエリートだったんだ? 俺の教官は大尉のように大陸帰りの人だったが、詳しい経歴は知らない。でも覚えているのは、チビる程怖かったことくらいだ』
脳裏に浮かぶのは、優しく笑うまりもちゃんの顔だった。だが、教官としての表情も知っている。無茶苦茶怖かったし、いつも怒られていた。呆れられることもあった。
だが、それでも俺にとっては最高の教官だった。
そのまりもちゃんの経歴を思い出す。確か、大陸派遣軍として訓練兵だった頃の部隊の中隊長として作戦に参加。自分以外が全滅。日本に帰るまで、大陸で大暴れして付いたあだ名が【 狂犬 】。日本に帰ってきたら、戦術機操縦の腕を認められて富士教導団へ行き、その後に夕呼先生に呼ばれて国連軍に転属。階級は聞いたことなかったが、部隊を率いた経験があるのなら中尉以上だっただろう。
『それで白銀?』
「あ、はい。俺の教官だった人は富士教導団出身でした。大陸にも行っていたとか」
『贅沢な教官じゃねぇか。その上、教えるのも上手いときたもんだ。そりゃ、こんなのが生まれる訳だ』
「教師になるのが将来の夢だったらしいですからね。形は違えど、教える側であることに変わりありませんから、教えるのが上手いのは当然じゃないですか?」
『いよいよその教官がどれだけの人材なのか分かるな』
そんな雑談をしながら態勢を整えるために、給弾や移動をしながら残敵索敵を行っていると、第1・3小隊もBETAの殲滅が完了したようだった。
一度合流し、再度、接近中のBETA群を確認する。
師団規模で迫るそれは、俺たちが戦闘している間に手空きの砲兵が攻撃をしてくれたようだった。ある程度数は減らされているものの、先頭集団は砲撃から逃れて一足先に到着する様子。
全機の状態を確認すると、真田大尉から号令が下る。師団規模ならば、これまでに何度も戦ってきた。慢心せず、確実に倒すこと。そう言い切り、CPに連絡を取る。師団規模BETA群に突入する連絡だ。
『ウルフ1よりCP。これから師団規模BETA群へ攻撃を開始する』
『CPよりウルブズ各機。幸運を祈る』
万全の状態ではないにしても、BETAを押し止めるのに力不足を感じるのは仕方がない。だがそれをカバーするのは、部隊としての練度だったり士気だったりする。俺は思った。この部隊ならば問題ない、と。
結局、俺が再び京都に戻された理由が分からないが、夕呼先生の思惑が分からない以上は精一杯戦って生き残ることを考えることにしたのだ。