Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[1998年7月14日 絶対防衛線圏内 帝都市街西域]
西の方で戦闘が始まった。真田大尉らがBETA群と交戦を始めたのだろう。桂駐屯地を出てから、途中までは跳躍ユニットで移動していた。しかし一帯から山がなくなり、住宅街に入った頃には光線属種から射角が取れるだろうと、主脚移動へと切り替えていた。幸いにして、周囲にBETAは感知できない。震動探知も音紋探知も起動しているが、捉えているのは俺たち4機の主脚移動音だけ。
周りをつぶさに確認しながら、俺はオープン回線を開いた。
「イーグル1よりファングス各機」
破壊された住宅街を見ているのもつまらない。周辺警戒の注意が散漫になるかもしれないが、数km離れたところを同じように移動している彼女たちには、いい暇つぶしになるかもしれない。
「さっき言いかけたことを話そうと思う」
オープン回線に3人がアクセスする。
俺は次に出る言葉が詰まった。何故このようなことをしようと思ったのか。あの黄昏時、大破した吹雪の前に座り込んでいた俺。佐渡島へ向かう戦術機母艦の甲板で、意味もなく空を見上げた俺。そんな俺に言葉をかけてくれた先達。彼女たちのマネをしようと言うのか。それとも、たった数戦の経験がある少尉の俺が、そう大して経験値は変わらないであろう彼女たちに先輩ヅラを吹かせるというのだろうか。
だが、恥のかき捨てだ。それほど変わらない、新任少尉の先輩である俺からの。まだ一人前とは程遠い俺から、何か教えられることがあるやもしれない。
「任官したばかりの頃の話って切り出そうと思ったが、別にいいだろう。……俺のいた訓練部隊での話だ」
それからは所属部隊や基地のことを伏せながら話す。違和感だらけに聞こえただろう。それでも、伝えることに意味があると思った。
「俺さ、落ちこぼれの訓練兵だったんだ。座学はからっきし、体力錬成もダメダメ、銃の組み立てで部品を紛失。そんな俺を引っ張ってくれた仲間たちと一緒に
ケラケラ笑いながら話す。主観時間で言えば、もう何年も前の話だからだ。
「そんな取り柄のない俺にも、1つだけ才能があった。それは、戦術機の機動制御。シミュレータの訓練過程を最速でクリアしたんだ。その時は仲間にも教官にも心底驚かれたっけな」
3人の視線が俺の機体の方に集中しているのが、なんとなく分かる。兵士としてダメダメでも、戦術機の扱いが上手ければ、こんな機体が与えられるのか。そのようなことを思われているようでならなかった。
「そんな俺の話を聞きつけた将校が、ある提案をしたんだ。俺たちにシミュレータ時間と訓練機を融通してくれる。飛んで喜んだよ。俺の機動制御はそれだけ有用であると認められた。入力ログは仲間にも共有されて、全員の機動制御技術に貢献できたんだ」
ここからは完全に本当の話を作り変えた話。嘘でもないから、真実味が増していく。
「シミュレータを訓練部隊は最速でクリアして、すぐに実機訓練。導入されたばかりの
『っ?!』
全員の表情が強張った。自分たちの訓練と重ねていたのだろうか。
「模擬戦中の襲撃だ。近くの演習場に出現したBETAがすぐそこまで迫ってきていた。なんで基地の近くにBETAが出現したのかっていうと、極秘に捕縛していた奴が逃げ出したらしい。事件はもみ消されたものだから、あの時基地にいた人しか知らない」
崩れたマンションを眺め、あの時のことを思い出す。
「突然のことで驚いて何もできなかった俺たちに、近くで訓練をしていた正規部隊が命令したんだ。武器庫に行って突撃砲と長刀をありったけ持って来いって。それまでの足止めは自分たちがする、と」
燻る瓦礫を横目に見る。全てに人がいた筈なのに、今では誰1人として残っていない住宅街。聞いた話によれば、避難誘導を振り切って自宅に戻る民間人がいたとか。寺社では読経をしているところもあるという。
「初めて見るBETAの姿に、訓練兵だった俺たちは足が竦んだ。でも、行かなくては正規部隊がやられてしまう。なんとか分隊を動かして武器庫に向かったんだ。その道中、俺たちはBETAに遭遇した」
要撃級が数体いたことを思い出す。
「そいつを見た瞬間、俺は突撃砲を撃ち始めた。装填されているのが模擬弾であることを忘れてな。塗料で色が変わっていく要撃級に、俺は自分の得意な機動制御を使った。そうしたら、BETAの注意が俺に向いたんだ」
鼻で嗤い、右手に見えるショッピングモールに目を向けた。中で小型種が蠢いているかもしれないからだ。しかしそれは杞憂だったようで、崩れた外壁や落ちた天井があるだけ。
「勘違いしていた。その時の俺はBETAを殺せているつもりだったんだ。話を聞いていてなんとなく分かっていると思うが、訓練中の遭遇だ。事前処置なんて受けていない。ピクリとも動かない俺たちに正規部隊が遠隔操作で施した興奮剤のみ。きっと幻覚でも見ていたかもしれない。BETAが殺せている状況を」
もう少しで桂川というところまで来ていた。そろそろ跳躍ユニットで移動してもいいだろう。背の高い建物が増えてきたのだ。
「だが本当はバッドトリップしていたんだ。そして俺はすぐに要撃級の前腕衝角で撃墜。主電源もAPUも落ちた影響で、全ての電気系統が使えなくなった。ヘッドセットから外の様子は見て取れないが、俺の乗っていた吹雪を食い破ろうとしていた戦車級の音は聞こえてくる。泣いたよ。喚いたよ。怖い、死にたくないって。小便を漏らして、ガキみたいに」
彼女たちにも覚えはあるのだろう。今回が初陣だった筈だ。想像を超える量で押し寄せるBETA群を目の当たりにした筈だ。
「助けられた戦術機の大尉にも、行かないでって懇願したっけな。……これが俺の初陣だ。顔も分からない先任少尉の話を聞いたところで、なんだか分からないと思うけど気に止めておいてくれると嬉しい」
『……鉄少尉』
一番最初にリアクションをしたのは、意外にも能登少尉だった。
『その時の訓練分隊はどうなったんですか?』
「兵装運んで、すぐに撤退。俺が撃墜された以外は被害ゼロ。仲間も興奮剤の投与でどうにかなりそうだった筈なのに、俺の心配してずっと声を掛けてた。だけど俺が足止めをしてるから行けって言ったらしく、先任のところに武器を運びに行ったよ」
自分たちの初陣と比較したのだろう。その様子は見て取れた。
「その後は繰り上げ任官をして、新任少尉のまま最前線。ここは能登少尉たちと同じだな。皆同じ訓練部隊出身だろ? 俺もそうだった。仲間たちと一緒の部隊に配属されて、さっき出てきた助けてくれた大尉の部隊に配属になって、気付いたら俺1人だ」
嘘ではない。全員生きてはいるが、俺のいた中隊はいない。ほとんどは訓練部隊にすら入っていない年頃の筈だ。
俺の言葉に全員が口を噤んだ。状況は俺と篁少尉らの部隊と同じだからだ。
「情けねー俺が生き残って、優秀だった仲間たちが先に死んだ。とっつきにくい奴らばかりで、反発して、喧嘩して、いがみ合って、それでも背中を預け合う仲間だから信用して、信頼して、助け合って、それでも生き残れないんだよ」
少し暗い雰囲気になったが、俺の言いたいことは言い切れた。それに、丁度いいタイミングでもある。光線属種からの射線は完全に切れた位置に到着したのだ。主脚移動の方が、返って危険な環境に変わった。
「篁少尉たちも、俺と似た経験をしたかもしれない。だから、これは同輩のおせっかいだ」
移動を止め、少し遠くを歩く瑞鶴らの方向を見た。
「心を開け。想いも願いも全て口に出して、仲間に聞いてもらうんだ。絶対受け止めてくれる」
目の前で停止した瑞鶴を確認し、俺は指示を出すついでに言う。
「後、俺の機動制御がおかしいのは、俺がおかしいからじゃない。俺はSES009、鉄 大和というのは仮の名だ。極秘裏に計画されたスーパーエリートソルジャー計画の、ゼロゼロナンバーを持つ最後のスーパーエリート。遺伝子操作技術によって、戦闘用に遺伝子を操作された試験管ベビーなのさ」
『はい?』
3人のリアクションを見て分かった。絶対に滑った、と。
「ま、まぁ、気にするな。ここからは飛んで移動する。高度制限は50だ。俺が先行し、市街地の様子を見る。ファングスは俺の後方300を付いて来い」
『『『り、了解』』』
※※※
『こちら帝国軍嵐山基地所属 斯衛軍第332独立警護中隊! 駅駐留部隊指揮所、応答願います!』
オープン回線で応答を何度も呼び掛ける篁少尉の声を聞いたのは何度目だろうか。
刹那のことだ。俺はすぐさま回線に入って叫んだ。
「全機散解!! 建物の影に注意だ!!」
俺の目の前に、突然要塞級が現れたのだ。
要塞級はBETA群最後方を移動する種だ。理由としては、その図体からも分かるが、移動速度が他の種よりも遅い。そして、体内に小型種のBETAを抱えており、BETAの運搬も行っているからだ。闘士級、兵士級、光線級を要塞級の死体が吐き出したという記録も残っている。
両手に保持する短刀のリーチの短さに苦悩しながらも、鞭のように振るわれる衝角を避けながら3機に指示を出した。
「ここは任せろ! ファングスは京都駅から兵装をかっぱらって来い!!」
飛び去る瑞鶴たちを見送りながらも、俺は衝角を避けながら切り落とすチャンスを見計らっていた。
変幻自在に振るわれる触手は、俺に衝角を当てて弾き落とすか、衝角先端から分泌される強酸性の溶解液を流し込むかを狙っていた。
しかし好きにはさせない。それなりに乗りなれてきた機体でもあるF-15C Extraは、不知火までとはいかないまでも近接格闘ができる。元々米国製ということもあってか、完成度自体は高いのだ。近接格闘戦を想定していない作りではあるものの、XM3と霞のプログラム変更等の改修によって、それなりの性能を引き出せていた。乗ったことはないが、F-15Jよりも動けているだろう。
短刀2本では要塞級の撃破は不可能ということは分かっている。だからこそ、衝角を切り落とすことに目標を絞った。
一度距離を取り、加速して要塞級に突っ込む。衝角を避ける時も、動きは最小限に留めながら速度を殺さずに飛び込んだ。
佐渡島で陽動を買って出た時にも見た光景だが、今は要塞級は1匹しかいない。集中するのは1匹だけでいいと思えば、少しばかり心は楽だった。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
胴体の下を通り過ぎてすぐ、急制動をしてすぐにインメルマンターン。そのまま方向を変えている最中の衝角と触手の付け根を狙い、斬り付ける。
断面から体液が吹き出し、汚い黄色をした溶解液が漏れ出す。地面に撒き散らされたそれが、周囲に異臭と有害物質を撒き散らしながら蒸発し、自動車ほどの大きさがある衝角が道路に転がった。
チャンス。そのままの勢いで、要塞級の下をくぐり抜けて京都駅を目指す。先程からオープン回線が静かなことが気になる。もし、駅駐留部隊と合流したのなら、何かしらの連絡が入っている筈だ。
「ロスト?!」
戦術データリンクは健在で、接続範囲まで接近したのにも関わらず、データリンク上には何も表示されない。それよりも、近くを歩く、別の要塞級が気になる。
接近して見てみると、要塞級の頭部のようなところに望遠カメラを向けてみたくなった。
「黄色の塗料と装甲片」
すぐさま近くを検索する。嫌な予感がする。そしてその予感は的中した。
京都駅屋上。そこに黄色の瑞鶴が墜落している。データリンクは生きていないのは分かっているため、目視で確認する。歪んで塗装剥げや欠けが見られる装甲板。完全に沈黙している跳躍ユニット。撃墜されている。
救助をした形跡が見られないことから、恐らくまだ中に篁少尉が乗っている。他の山城少尉や能登少尉の位置を確認する。能登少尉の機体は京都駅前に墜落しており、丁度中から
「こちらイーグル1! 能登少尉! 無事か?!」
『くろ、がね、少尉……』
望遠カメラに切り替えて顔を見る。顔色が悪いのは薬物の過剰投与の影響かしれない。鎮静剤が何度か圧力注射されていた様子だったからだ。そして怪我をしている様子もないことから、どうやら機体が動かなくなっただけで済んだようだ。
「機体から突撃銃と拳銃は持ち出したか?! 俺の手に乗れ!!」
『は……い……』
不味い。様子を見る限りじゃ、完全にバッドトリップしている。薬物も残っていないがために、完全にイカれかけている。朦朧とした意識ではあるが、その足取りはしっかりしていることから察するに、まだ最悪の状態ではないと思う。知識はないが、俺自身に経験があるからこそ言える。まだ大丈夫。
ゆっくりと掌に乗った能登少尉を運んで、篁少尉の機体の前に下ろす。近くにBETAがいないことは確認済みだ。
「篁少尉がまだ中にいる。意識を失っていて、電気系が落ちているようだ。外部から管制ユニットをこじ開けて引きずり出してくれ」
『でも……』
「機体を失ったからって諦めるな。本隊と合流して、戦うんだろ? それにこの辺りにはBETAがいない。俺は山城少尉のところに行く。ここから反対側の駅東広場だ」
『りょう、かい……』
ああは言ったが、戦闘はもうできないだろう。能登少尉の目の焦点が定まっていない。それでも命令をしておけば、多分動ける筈だ。
すぐに2人のところから離脱し、山城少尉のところへと向かう。そこまで離れていない。少し滑空して着地するだけだ。BETAの反応はあるが、恐らく戦車級。能登少尉の機体から渡した突撃砲を受け取り、そこへ向かう。その時だった。
「アラート?! 不味っ!!!」
※※※
[同年同日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区機密区画 香月博士執務室]
結局、白銀にやらせるつもりだった片付けを自分でやり始めてどれくらい経っただろうか。最近は珍しくも、規則正しい生活を送っている私は、朝食を食べてからすぐに始めていた。
自分にしか分からないものだけを主に集めて、種類毎にドキュメントケースに入れていく。順番通りに置かれているものだから、そのまま放り込んでいくだけでいい作業だ。ある程度ケースの数が出てくると、コンテナに放り込んでいくだけ。
そこそこ自分の机の1/3が見え始めた頃だった。社と鑑がアタシの部屋に飛び込んできたのは。社は顔を青ざめさせており、一方の鑑は焦燥しているように見える。
「何よ、いきなり飛び込んできて」
「こ、ここここ」
「何? 鶏のマネ? 面白いから出ていきなさい」
「ちが、ちちちちが、違います!!」
ワタワタと忙しなく手を動かし、いかに自分が焦っているのかをアピールする鑑。その隣で青ざめたままの社は、呼吸を整えて口にしたのだ。
「……白銀さんが」
「はぁ? 白銀がどうしたの? 毎日アンタたちが教えて欲しいって言うものだから、1日2回生存確認とどこにいるか教えているじゃない? それでも不満なの?」
「……白銀さんが京都で撃墜されます」
「は? あの変態衛士サマが?」
巫山戯てみるものの、2人の様子から本気であることが伺える。
それに鑑が観たのは、未来の京都だ。ESP能力は様々確認されているが、その中でもメジャーなものが未来視。予知能力とも言うそれは、どれほどか先に起こりうる未来を、どのような形であれ能力者が観測することのできる能力だ。オルタネイティヴ3の成果の中に、そういったESP能力を持つESP発現体が確認されたレポートがあったのを覚えている。
後天的に量子電導脳によってESP能力を得た鑑ならば、現在は通常の人間の脳であったとしても、そういった能力を継承していてもおかしくはない。普通の人間としてこれまで生活していたとしても、その記憶が虚数空間から流入し、脳を変質させたと仮説立てれば説明が付く。
とりあえず、アタシは2人の言っていることを信じることにした。
「……純夏さんが前の世界から量子電導脳の能力をある程度引き継いでいることは、博士も知っていることです」
「そうね」
「……ESP能力も勿論、持っているんです。だからその能力で純夏さんは観てしまったんです」
「何を?」
「……今日の深夜、白銀さんが撃墜されて亡くなる様子です」
確認として、アタシが鑑のESP能力について把握しているのは分かった。しかし、いやだから、どうしてなのかを聞いているのだ。
それと社の言葉足らずなのは、今でこそマシになったとはいえども、それでも現在の状態でも足りないのは事実だった。
「……近くにいた友軍が先に撃墜され、救助に向かったところをやられたんです。周辺に友軍はいません。現地部隊が気付いて救助に向かったとしても、白銀さんは遺体も分からないくらいになっています。だから」
「だから何? 救助部隊を送れ、と?」
「……」
社は答えない。鑑も黙ったままこちらを見ている。
白銀が撃墜されるなんてことは、アタシの主観記憶で一度だけ。それも訓練生上がりたての新米の時。トライアル中に出現したBETA相手にバッドトリップしてからのことだ。
見方を変えてみる。今アイツが乗っている戦術機は、社が手の加えたワンオフ機だ。搭載されているCPUや電源ユニットはアタシ謹製。XM3のメインプログラマーは社、そして鑑。この2人はオルタネイティヴ4の要員だ。塗装が帝国軍のものでも、外見からして怪しさ満点の不審戦術機。そして、あの機体自体が現在のオルタネイティヴ4の叡智を結集した成果でもある。そんなものが、大破して転がっていれば帝国軍が回収しない筈がない。もし在日米軍にでも発見されたならば、オルタネイティヴ4の痛手になってしまう。
中身を見られたらお終い。中には米国製やアタシのところの技術班が作ったものが多分に含まれている。勘がそうとう鈍い奴じゃない限り、アタシが疑われるのは確実。それに、2人に頼まれて毎日集めている情報から分かっていることだが、アイツはこの本土侵攻で目立ちすぎた。戦場を大暴れする陽炎、とまことしやかに噂されている。そんな機体を拾おうものなら、勘が鈍かろうが、噂の機体ということで調査しかねない。
「言っとくけど、A-01は出撃させられないわ。動かしたら国連軍上層部からの追求は確実。かと言って、他の国連軍や帝国軍、斯衛軍に言っても動いてくれる保証はない。在日米軍は論外。そんな状況でどうするの? まさか、今日は戦闘しないで欲しいなんて白銀に伝えろ、なんて言わないでしょうね? 今日は絶対防衛線が突破される日。そんな日に、アイツを戦場から引き離したら意味がないの」
「それは……」
少し落ち着きを取り戻した鑑が言い淀む。無理もない。他力に頼れる程、今のオルタネイティヴ4は力がない。アタシの直接的なコネも、このような状況では無意味に等しい。
「じ、神宮寺先生は……?」
「駄目。知ってると思うけれど、まりもは教官よ。今日も訓練兵の尻を蹴り上げることで忙しいのよ。いきなり1日ほっぽり出して帝都に向かえ、白銀をBETA支配地域から救出しろは無理があるの。やれなくもないけれど。さぁ、これ以外の案を出しなさい。それならいいわ」
他にも理由がある。まりもに帝国軍・帝国斯衛軍と接触した時、機密を漏らさない話術で切り抜け、何も知られることなく帰ることは難しい。恐らくヘマをやらかす可能性も考えられる。
「う、うううぅぅぅ~~~!!」
「唸られて威嚇されても、できないものはできないの。アタシが挙げたもの以外で、聞いた上で可能ならばいいわ」
状況説明をしてから黙っていた社が発言する。
「……1つ、あります」
「へぇ……、言ってみなさい」
それは荒唐無稽だった。それでも、言ったアタシの条件を全てクリアした案を突きつける。
「……私が行きます。
「……
社の見せた顔は、これまでのものとは違う。覚悟を決めた顔。アタシはこの顔は一度だけ見たことがあった。
そう───桜花作戦の時に。