Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger   作:セントラル14

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episode 12

[1998年7月11日 帝国軍青野原基地 国道312号 第1防衛線 北条町駅]

 

 下関攻防戦と呼ばれている、関門海峡での防衛戦は数日と持つことはなかった。日に日に減っている作戦参加部隊。戦術機は次々と撃墜されていく光景を目の当たりにし、光州作戦でも肌で感じたBETAとの戦闘を思い起こさせた。

 下関から撤退することを決めた日本帝国軍・斯衛軍と国連軍は、国道187号まで司令部を後退させ、それに伴い防衛線も大幅に下がることとなった。

 帝国軍防府基地も撤退に際し、残っていた物資や弾薬を満載にしたトラックが数え切れない程東へ向かい、その中には、初めて基地に降り立った時に話した上田上等兵の姿もあった。

何度か小型種を連れ帰った戦術機がいたそうだが、上田上等兵は対物ライフルで戦車級を倒したと誇らしげに語っていた。

 在日米軍が最前線に立つも、すぐに在日米軍司令部は後退を決断。岩国まで後退する。それから何度も敗走は続き、山口県が陥落。慌ただしくも防衛線を転々としていると、気付いた時の四国にBETAが上陸。本州の戦闘もままならない三軍混成軍は、四国に駐留している最低限の部隊のみで住民を守りながらの戦闘へと突入した。

四国には九州や山口県から何とか逃げ出せた避難民が居た。住民と避難民を守りながら、最低限の人員で守れる筈がない。四国は地獄と化した。

 そんなことを知りもしない俺は、呉攻防戦に参加。日本帝国軍呉支部が置かれており、九州戦線からずっと帝国軍への指示はここから出していた。

 帝国軍は呉を重要拠点としており、周辺地域も国防にとっては必要な施設が揃っていた。特に江田島は帝国随一の火工品生産拠点だ。ここを失えば、帝国の武器弾薬生産量がガクンと落ちてしまう。しかしながら、BETAの前には非力だった。他の拠点よりも踏ん張っては見せたものの、拠点から運び出しきれなかった弾薬諸共誘引したBETAを吹き飛ばした。

結局のところ、どこかの拠点や防衛線で踏ん張って見せても、それが全域で起きている訳ではなかったため、次々と陥落していったのだ。

 そして遂に兵庫県の中央を超えてしまった。もう帝都・京都は目と鼻の先。既にBETA群は広島県・鳥取県を手中に収め、四国も徳島県の一部しか残されていない。現在は国道312号を第1防衛線とし、防衛線以東福知山線までを第1防衛管区としている。それよりも東は第2と続き、国道173号までを今回の最終防衛線としている。京都府亀岡市に臨時の司令部を置き、帝都との連絡線を密に取っている状態だ。

帝国上層部は、この国道173号までの防衛線でBETAの本土侵攻を食い止め、追い返すつもりらしい。しかし、もし食い破られた場合は、帝都決戦も辞さないということは征威大将軍から声明があった。帝国民は帝都防衛に燃え、そして故郷を追われた帝国軍人は復讐の炎を募らせていたのだ。

 

『帝国軍スワロー中隊よりCP。倉敷から撤退したのは俺たちで最後だ』

 

『CPよりスワローズ。推進剤・弾薬の補給後、そのまま第1防衛線に加われ』

 

『スワロー3了解。……クソッ、俺たちは3機しか残っていないんだぞ』

 

 満身創痍のF-4Jが近くをフライパスする。BETAの体液で塗れているのは勿論だが、3機全機が腕や装甲板が脱落している。酷いものだと、跳躍ユニットがない機体まである程だ。

 

『スワロー3よりCP。青野原に予備機はないか?』

 

『予備機はない。全て出払っている。残っているのは、飛ぶのか分からないものばかりだ。それと機械化歩兵装甲は残っている』

 

『機械化装甲歩兵に鞍替えする気はない。……無茶なこと聞いて済まない』

 

『いい。整備兵が使える機体を順次整備しているところだ。出来次第、乗り換えを行って欲しい。それに、愛知から生産された新品も次々と納入されている。舞鶴からF-4Jから再配備が始まっているところだ』

 

 愛知県。もっと広い言い方をすると、東海地方は戦術機の一大生産拠点だ。機械製品の製造に強い企業が幾つも存在しており、軍需産業も盛んだという。不知火も愛知県の工場で生産しているんだとか。

 

『スワロー3よりヘンテコな陽炎(F-15C Extra)へ。我々はここに合流する。コールサインを教えてくれ』

 

「イーグル1よりスワロー3。ヘンテコは勘弁してください」

 

『勘弁な。見慣れないものでな。オレは赤坂 幸中尉。東は東京、南は山口と渡り歩いている。よろしく頼む』

 

「鉄 大和、少尉です。俺も九州からずっとですよ」

 

 色白の青年だった。年はそう離れていなさそうだが、歴戦の雄姿を思わせる雰囲気を漂わせている。

 

『それで、ここの説明を頼めるか?』

 

「えぇ」

 

 バストアップウィンドウにはSOUND ONLYの文字が浮かび上がっているだろうに、そのことを聞くこともなく、防衛線についての説明を求めてきた。

俺は簡単にだが、データリンクを使いながら口頭で説明をする。

 国道312号の第1防衛線。俺が担当している戦域は、比較的後方の近い地点だ。312号よりも西、北条鉄道の北条町駅。市街地であり、補給コンテナが幾つか置かれているところでもある。補給地点はここより更に西にあり、加西IC辺りに用意されているのだ。

担当戦域での任務は、後退する部隊の援護。及び、可能ならば支援攻撃。撤退時には殿を務めることになっている。

勝手に命令を下され、不和を起こさないために従ってここに配置されたのだ。

 下関からこの方、ずっと戦闘続きで整備もままならない。防府基地と呉、倉敷で整備を受けているが、本格的なものは一度も受けていないのだ。ステータスではオールグリーンと表示されていたとしても、システムチェックが行われていない範囲で、かなりダメージを蓄積していることは確かだった。

 

『ここには他の部隊はいないのか?』

 

 北条町駅には俺の他にも部隊は駐留していた。しかし彼らは別命でここを離れ、最前線へと行ってしまったのだ。残っているのは民間人の避難誘導を行っている帝国軍歩兵と随伴の機械化歩兵中隊のみ。彼らのCPは既に後方へ退避している。乗り換えの駅で席を確保しているらしく、折返しの電車が向かっているということは機械化装甲歩兵中隊の隊長から聞いていた。

 

「北条町駅の民間人を守っている歩兵と、随伴の機械化装甲歩兵中隊のみです」

 

『戦術機1機とそれだけの戦力で?! ……確かにここは第1防衛線でも後方に位置するところだが、それはあまりにも』

 

 言いたいことの意味は分かる。そして、赤坂中尉が途中で口を噤んだのも。

 第1防衛線の正面には多くの戦術機甲部隊が展開しており、福知山線沿線に砲兵隊が前線に支援砲撃を行っている。それは、ここで戦闘待機をしている今でも揺れを感知できる程の激しいものだ。

しかし、正面戦力を十分に揃えてしまうと、後衛の部隊が薄くなってしまうのも当然なのだ。部隊は足りない、戦術機も足りない。これからどこまで戦闘が続くか分からない現状、BETAが侵攻していない地域の部隊を全て引き抜くこともできないのだ。

 

「幸いにして北条町駅は無人になる予定です。民間人と歩兵が撤退するのを確認した後、俺は福知山線まで後退します」

 

『そうか……。俺たちはどうするか……』

 

 赤坂中尉と今後の話をしていると、状況が動き出す。

 最前線でBETAの増援があり、受け止めた部隊が壊滅。そのままBETAが雪崩込んできているというものだった。空いた穴を、後方で詰めていた部隊が埋めたが、かなりの量を討ち漏らしてしまっているとのこと。BETA群は東進を続けており、どうやら北条町駅を目指しているというのだ。緊急でCPから迎撃態勢を取り、もう少しで到着する電車を送り出すまで持ちこたえろと命令を受けた。

 ビルの上に上がって望遠カメラで確認をする。遠くに砂塵が確認でき、それが接近中のBETA群であることが分かった。

 

「イーグル1よりスワロー3。BETA群を目視で確認」

 

『スワロー3了解。データリンクで確認した。イーグル1と共に民間人が逃げるまで、ここを4機で守り通すぞ』

 

 ふわりと北条町駅を取り囲んでいた戦術機が浮かび上がり、一斉にBETAのアンブッシュポイントを目指した。

 

※※※

 

[同年7月14日 亀岡市 最終防衛線]

 

 北条町駅は守りきれなかった。4機で対応するにも数が多すぎたため、捌き切ることができなかったのだ。何とか稼いだ時間も10分というところで、駅に到着していた電車に乗り込めたのは半数の民間人だけ。歩兵と残りの半数は駅に取り残されてしまい、予定外に軽くなった電車はBETAを振り切って走り去ってしまった。

駅への籠城を決めた歩兵と民間人たちは、残されていた携帯火器や、機械化歩兵装甲を拝借し武装。時間稼ぎを提案。機械化歩兵中隊を通じでCPに連絡が行き、救援を寄越すまで耐えることとなった。

 赤坂中尉の部下が2人とも撃墜された頃、駅では小型種との戦闘になっていた。機械化装甲歩兵中隊は駅の外でバリケードを作っていたが、速く到着した戦車級や闘士級と戦闘を開始。中途半端なバリケードを内側から建造しながら、歩兵と民間人は戦闘を始めた。

序盤は戦車級を順調に倒していたのだが、不意を衝かれたり気を抜いた時に次々と殺されていった。結果、籠城を選択した歩兵と武装した民間人300人はBETAの腹に収まり、戦闘できない女子ども老人500人と、近くを固めていた100人もあっという間に殺されてしまった。駅は30分で陥落してしまったのだ。

救援が間に合う筈もなく、到着した頃には俺と機体から脱出した赤坂中尉しか残っていなかったのだ。

 救援部隊と共に後退する頃には、青野原基地にBETAが侵入。CPは壊滅してしまっていた。

 今は、京丹後・加西を結ぶラインでBETA群の侵攻を一度食い止めたということもあり、2日前に設置された防衛線以西の残存部隊は、三軍共に部隊の再編成を行っているところだ。

 

「いただきます」

 

 近くに放置されていた物資の中から戦闘糧食を拝借し、持てるだけ持ってF-15C Extraのところまで戻ってくる。

 北条町駅から撤退した俺は、そのまま休息に入ったのだ。このまま戦い続けても、心身共に疲弊し切ってしまっていてば、いつしか撃墜されかねない。気付けば6日間も戦術機に搭乗していたのだ。機体に持ち込んでいた戦闘糧食も既に底を付き、もう機体を降りるしかない状態であったとも言える。風呂にも入れておらず、体中垢だらけでもあるのだ。定期的に管制ユニット内は換気していたので、臭うとかそういうのはないだろう。

 戻ってくると、長いこと着ていた強化装備を脱ぎ捨て、近くを流れている小川に飛び込む。ひんやりと冷たい水が心地よく、森から聞こえてくる小鳥のさえずりがBETAとの戦闘を忘れさせてくれるようだ。清流の中で体を洗い、頭から水を被って汚れを流す。気持ちいいことこの上ないが、欲を言えばお湯がよかった。

 小川から上がり、体を乾かして新しい強化装備に身を包む。適宜自動でサイズ調整を行う強化装備だが、着てきたものと同じものを持ってきたと思ったら、少しばかりブカブカに感じるのは気の所為ではないだろう。連戦と不摂生な生活で少し痩せた、ということだ。

 拝借した戦闘糧食の中から適当なものを選び、管制ユニットの上、胸部の上に上がって腰を下ろす。体液を浴びていると言っても、亀岡に後退してきた際に除染をしてもらっている。それから移動してきたばかりということもあって、鼻に付く硫黄臭なんかも全くしてこない。

ヘッドセットを通して、頭部マルチカメラの映像は見えているため、ついでに周囲の様子を見ながら食事を始めた。

 

※※※

 

 F-15C Extraの外装装甲を外し、内部の駆動系を目視で確認する。確認するまでもなく分かっていることだが、やはりかなり損耗している様子だった。

亀岡に退いてきた時にも、一度整備してもらっている。それでも戦地整備ということもあってか、簡易的なものしかできていない。本格的な分解点検修理を行うのならば、ブラックボックス化した霞や純夏がいる白陵基地まで戻る他ない。

 外装装甲を取り付けし直し、点検工具袋にラチェットとモンキーレンチを放り込んで機体を見上げる。

 

「いつまで持つのやら」

 

 そのようなことを独りごちて、管制ユニットへと戻る。

 現在は第1防衛線以西での部隊再編と間引き作戦が決行されている。先日決まったばかりの第1防衛線の外郭、青野原基地は丁度BETAの最深侵攻地域だったらしい。

救援部隊と共にBETA支配地域へ侵攻。青野原から加西へ押し返すことができたのだ。

 BETAの侵攻が止まったことを確認すると、そのまま俺は現地での再編には加わることはなく、『機密文書と伝令』という体で宮津・丹波・明石に集結していた軍をパスして亀岡まで来ている。

亀岡にはオルタネイティヴ4の息がかかった基地があり、そこで便宜を図ってもらうためだった。

 白陵基地を出る前のことを思い出す。前の世界での本土侵攻が、どのように推移していったのか。日本帝国的には重要な事件であったということもあり、かなり詳細な記録が残されている。

台風の直撃と相まって、重慶ハイヴから東進するBETA群の攻撃が不十分であったこと。そして、民間人の疎開政策が上手くいかなかったこと。これによって、あまり数を減らすことができずに上陸を許してしまい、避難の送れる民間人を守りながら戦うことを強いられてしまった。

 刹那のことだった。帝国軍・斯衛軍・国連軍・在日米軍への一斉通信が入った。オルタネイティヴ4の協力者からの連絡で、第1防衛線でBETA群の侵攻が確認された。俺からは受信しかできないが、その隠匿性の高い通信を受け取った俺は、出発準備を1人で始めるのだった。

 俺に課せられた任務を果たすため。そして、帝国・帝国斯衛軍に恩を売りつけに行く。

そのために俺は戦っているのだ。

 

※※※

 

[同日 最終防衛線 京都・嵐山基地]

 

 第1防衛線で動きがあったことは、基地内の喧騒から察することができる。しかしながら、私たち嵐山補給基地所属 斯衛軍第332独立警護中隊(ファングス)は丹波を越えようと動き出したBETA群にいつでも出撃できるように、即応待機で詰所にしている状態だ。

 本来であればここには、帝都鎮守のために配備された戦術機甲部隊と即応部隊がいた筈。しかし前線へ抽出された戦力を補填するため、繰り上げ任官した私たち半学徒兵が着任している状態だった。

しかしながら、状況は切迫している。前線の状況は戦術データリンクを閲覧することも、データベースにアクセスすることもできないポンコツ(ヘッドセット)では見聞きすることはできない。

唯一、情報を得られる手段は、基地の正規兵の会話や怒号から得られたピースを組み合わせて推理することだけ。

 ただ、嵐山基地の立地や防衛線の様相から推察するに、私たちが出撃するような事態になることは、第3防衛線が突破されるかされないかの瀬戸際。亀岡を突破された時に、それが訪れる。

 

「ねぇ……さっき整備兵が話してるのを聞いたんだけどさ」

 

 そんな会話の切り出し方をしたのは、同じ中隊所属で白百合女学園時代からの友人、石見 安芸。

 

「何かあったの?」

 

 その言葉に反応したのは、恐らくあの中隊長の威圧に怯んでしまった安芸と同じく友人の能登 和泉。隊長を怖がってはいるが、元気があるようにも見えない。許嫁が九州で戦死したとか聞いたが、それが理由だろう。

 

「待機って言っても、やることあるんだから、そっち終わらせちゃおうよ」

 

 口ではそう言うものの、少し興味あり気にしている親友の甲斐 志摩子。

 詰所には他にも私たちと同じように、速成教育を受けて繰り上げ任官をしている新任少尉がいるが、その中でも私と近くで黙々と何かを書いている山城 上総の5人は仲がいい。

 話を聞いたと切り出した安芸が、私たちを手招きして近くへ呼び寄せると、周りに聞こえない程度の声で話し始めた。

 

「九州からこれまでの戦闘について、皆は教官や如月中尉から聞いてると思うけど、なんだか興味を唆られるのを聞いたんだよね」

 

「もったいぶってないで教えてよ。どんな話?」

 

「変なF-15J(陽炎)がいるんだって。あちこちの九州からずっと、生き残ってるとか。いつも単機で転々と戦域を移動して、試験小隊を名乗ってるみたい」

 

 それは、よくある戦場の都市伝説みたいなものだった。

 安芸が言うには、帝国技術廠が開発している新型のF-15Jの試作機で、実戦データ収集を目的に出撃しているとか。試作機でありながら僚機はおらず、そして搭乗する衛士は精鋭中の精鋭。再現不可な機動制御を行い、BETAを蹂躙していく。

 和泉も志摩子も少しばかり興味を持ち、これまでに経験したことのない空気感を紛らわすために盛り上がり始める。

黙々を作業を進めている上総は、興味を無くしたのか、つまらなさそうに作業を再開させていた。

 

「……篁さん」

 

「何?」

 

「石見さんの話を聞いて、何か分かるんじゃないかしら?」

 

 興味がないと思ったのだが、少しはあるらしい。私は安芸の言っていた特徴を思い出しながら、私の知っている範囲で情報を補強していく。

 

「戦術機のことなら……。F-15Jは、F-15Cから長刀を使うためにOSの書き換えと関節、電磁伸縮炭素帯の緩衝張力強化や87式突撃砲に合わせた兵装担架の設計変更がされている。全部日本帝国仕様にするため」

 

「それは講義で習いましてよ」

 

「確認。……全ての改装は上半身に施されたものだと思う。でも、機動力の向上や外見的変化はなかった筈。空力特性を鑑みた、頭部と上腕部のカナード翼取り付けが代表的だけれど、これは日本の戦術機運用思想からくるものね」

 

「それがなされていたF-15Jを帝国技術廠が開発している、と?」

 

「あり得ない。なぜなら、不知火があるもの」

 

 上総は作業を終わらせたのか、ペンを机に置いてこちらを向いた。

 

「ということは、そのF-15Jは不明機ということになるわね。試作機を最前線にずっと置いておくのもおかしいし、何より僚機がいない中での単独戦闘はもっとあり得ないわ」

 

「うん。私もそう思う」

 

「私たちが見ることはないと思うけれど、多分、戦場の都市伝説。幻影でも見ていたのよ、そんな報告をした衛士は。後催眠暗示と興奮剤でバッドトリップでもしていたのでは?」

 

 暗示と興奮剤の併用は、初陣の衛士によく処置されるものだ。それの副作用として、バッドトリップを引き起こすことが時々ある。恐慌状態に陥り、何もできなくなった衛士に施すものとして適切である、と教えられるものだが、副作用は少し触れるだけ。実際に使ってみなければ、その恐ろしさは誰にも分からないのだ。

 

「出現地点もまちまちだし、期待するだけ無駄ね。そんなヘンテコな陽炎ならば、見てみたいものだわ」

 

 そう言って切り上げた上総は、提出してくるとだけ言い残して詰所を出ていってしまった。

 残された私は、まだ少し盛り上がっている3人に声をかけて、作業をするように進めた。後で中尉から雷が落ちるのは、少し避けたいところなのだから。

 


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