Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger 作:セントラル14
[1998年4月16日 帝国軍白陵基地 国連軍専有区第2演習場]
国内が光州作戦後の趨勢に注目する一方、俺は新聞を読み漁っていた。国内で流通する新聞から、わざわざアメリカの新聞を買ってまで情報収集を行っていたのだ。
目的はもちろん、持ち場を離れた日本帝国大陸派遣軍について。防衛線を放棄し避難民救出を優先したのだ。その結果、戦線が崩壊。最終防衛線の後ろに存在する国連軍司令部壊滅、指揮系統の混乱に追いやった。このことから国連は大陸派遣軍指揮官である、彩峰 萩閣中将が戦犯として日本帝国政府に身柄を要求した。一連の事件から、2001年にはクーデターへと繋がっていったのだ。
この世界では、大陸派遣軍が抜けた穴を、俺が潜り込んでいた戦術機部隊と各国の寄せ集めで対応し、なんとか乗り切る事ができたのだが、それでも被害がなかったと言えば嘘になる。一個大隊規模の戦術機甲部隊が穴埋めをしたと言っても、本来ならば戦車や自走砲等の機甲部隊や万全な戦術機甲部隊が担っていた戦域を、ボロボロかつ多国籍な戦術機甲部隊がカバーできるかと言ったらできないのだ。実際、あの場所に駆けても足止めにしかならなかったからだ。
難しい顔をしながら新聞を読み漁っているが、俺がどこにいるか忘れている訳ではない。管制ユニット内に新聞を持ち込んだ訳ではなく、搭乗前に読んでいたものを思い出していただけだった。
何故、今管制ユニット内にいるのか。それは夕呼先生に言われたことを遂行するためだ。
『確認するわ。アンタにはこれから、A-01と演習をしてもらう』
「せ、先生?」
『……何よ』
「何となく目的は分かるんですケド……」
『あらそう? じゃあ、私が求めていることも分かるわね? じゃあ、よろしく~』
網膜投影されていた、夕呼先生のバストアップウィンドウが閉じる。それと同時に俺は大きく息を吸い込んで、思いっきり叫んだ。
「どぉして、一個中隊と戦わなくちゃいけないんだァァァァァァ!!!!」
ブリーフィングはなく、ただA-01と戦ってこいと言われた。目的何となくだが分かる。XM3での実戦を経験し、驚異的な生還率を会得したA-01の衛士たちを叩きのめすのだろう。天狗になってもらったら困るのが夕呼先生で、これから戦うことになるA-01の衛士なのだ。驕って挑もうとすれば、どこかで必ずミスを犯して死ぬ。それは初陣の衛士でも言えることなのは、口酸っぱく訓練兵時代の教官に言われて耳にタコができている筈なのだ。ならば、こんなことをする必要はないんじゃないか、とも言える。しかし、夕呼先生は必要だと言った。ということはつまり、その兆候があるということなのだ。ここで懸念材料となりうるであろうものは、なるべく摘んでおきたい。外から見ているからこそ分かることであり、それを正すことのできる立場にいるのならば手を出す。"こちら側"に立ったからこそ、見える景色なのだろう。
これから始まる
あまりに過酷な条件を突き付けられたが、慄くことはない。これよりも数段深い地獄を何度も経験している。相手はA-01で精鋭だからと、牙を剥かない訳にはいかない。
操縦桿を握り込み、躰を自然体にし、頭を落ち着かせる。クリアになれば、機体のステータスチェックを再度行う。
『演習開始5秒前……3、2、1、演習開始』
CP将校はおらず、カウントダウンも敵側のCP将校のを聞いているだけだ。開始の合図と共に、スロットルを開いて噴射跳躍を始める。時より着地して姿勢を直しながら、戦域をジグザグに縫うように進んでいく。レーダーには何も映っていないが、恐らく相手は俺のことを捉えているだろう。
刹那、レーダーに反応が出た。近くに熱源を感知。分隊を発見した。UNカラーの不知火だ。
即座に接地し、体を捻って反転する。ビルの廃墟の壁を蹴り飛ばし、発見した不知火の方向へと進路を向ける。
吹雪は
視界内に捉えたのは、突撃前衛装備と
突撃砲の射程圏内から近接格闘戦圏内まで接近すると、すぐさま追加装甲で36mmチェーンガンの弾を弾きながら射撃体勢に移る。バースト撃ちをこちらもするが、強襲前衛には追加装甲を使われ、強襲前衛には回避運動を取られる。
このままでは他の10機に囲まれてしまう。そう考えた俺は、勝負に出た。
面倒な敵なのは突撃前衛だ。狙うのならば、まずはこちらが先決。重りにしかなっていない追加装甲を捨て、全速力で突撃前衛に突っ込む。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
交わるその時、背部兵装マウントに左手を伸ばす。火薬式ノッカーによって跳ね上がる長刀を、その勢いを殺さずに振り下ろした。追加装甲によって弾かれた長刀をそのまま逃し、急制動。反転全力噴射を行い、跳躍ユニットのノズルを地面方向に向けた。姿勢はうつ伏せの姿勢。本来かかるはずのない方向からのGに押しつぶされそうになりながらも、そのまま空中で姿勢制御。突撃前衛に反転降下する。勢いを殺さずに長刀を振り抜いて空中倒立、そのまま照準を定めていた強襲前衛に向かって射撃した。
『ヴァール3大破、衛士死亡、戦闘不能』
最初に相手の突撃前衛の撃墜アナウンスがCP将校から知らされる。
『ヴァール10小破、左跳躍ユニット脱落、戦闘続行可能』
空中で姿勢制御し、突撃前衛を踏み台に突撃前衛に向かって水平噴射跳躍で接近。後ろに控えていた強襲前衛に牽制射撃をし、長刀を振り抜く、すんでのところで躱され、跳躍ユニットを切り落とすこととなった。ここで2機とも撃墜するつもりだったが、少し考え直す必要がありそうだ。
残る11機の不知火に苦戦する未来が脳裏に過った。
※※※
初陣の光州作戦を帰還した時、喜びよりも安堵の方が勝った。訓練兵時代に聞かされたことも、配属後の上官から聞いたものとも違っていた。私は聞いて想像して、知りもしないで納得しただけだった。
そして、初めてBETAを見た時には、おぞましい姿をした人類の脅威に圧倒され、直前に迫る死に恐怖した。それからは死にもの狂いで戦い、気付いた時には基地へ帰る母艦の中。脂汗でベトベトになった額に、排泄物パックにはブツが入っていた。だが、記憶には刻まれていた。眼下に広がる惨状。骨伝導スピーカから聞こえてくる、オープン通信で泣き喚く衛士の断末魔。幸い、胃の中身をぶち撒けなかったが、それでも吐き気は催した。
基地に戻ってこれば、いつもの勤務がやってくる。あの戦場はどこか遠いところで起きたものだと錯覚してしまうが、脳裏には光景が焼き付いていた。
そんなある日。私の所属する連隊を指揮下に持つ、香月博士が私たちの中隊へやってきて言ったのだ。面白い衛士がいる。馬鹿なガキで訓練兵だが、妙に戦術機を操る腕はある。それを鼻にかけているから、可愛がってやれ、と。
中隊長は博士の頼みだからと受け、私たちは演習場へと繰り出した。
『ヴァール10小破、左跳躍ユニット脱落、戦闘続行可能』
ステータスは左の跳躍ユニット以外万全。脱落した跳躍ユニットは前方で爆発している。僚機の小隊長はどこへ行ったのか。撃墜判定を受けている。バストアップウィンドウには、悔しそうに顔を歪めている小隊長がおり、本当に撃墜されていることを私に突きつけた。
中隊でも群を抜いて強い小隊長が撃墜? しかも近接格闘戦で? 信じられない。私は揺れる網膜投影された映像で、倒壊したビル群を見ながら息を呑んだ。
あの吹雪、たかが訓練機にしてやられた。しかも私たちには最新式OSのXM3が搭載された不知火が配備されている。負ける筈がない。光州作戦で搭載機のほぼ全てが帰還した、連隊内でも奇跡と言われているOSなのに。
確か、相手の吹雪にもXM3が搭載されていると中隊長がブリーフィングで言っていた。同じ土俵だが、あちらはダウングレードされた機体。きっと跳躍ユニットの主機も、出力が抑制されている筈なのだ。何故だ。
『ヴァール10!! 引き返して合流しろ!!』
「何故……」
『ヴァール10!! 伊隅!! 引き返せ!!』
近付いてくる吹雪を呆然と見ながら、必死に刷り込んだXM3特有のコマンド入力を試みる。何故、訓練機の筈なのに、私たちを上回る動きができる。何故、空を飛んだ。何故、12機相手に臆することなく挑めた。
「どうして、どうして……ッ!!」
『伊隅!! クソッ!! ヴァール1より全機!! 前に出る!! あの馬鹿を救い出して、態勢を立て直す!!
あの吹雪は何者なのだ。
後方から突出してきた中隊が、吹雪に牽制射撃をしながら私の前に躍り出る。厚い弾幕の前には、吹雪も引かざるを得ないようだ。私へ突撃姿勢を取っていたものを、ビルを蹴飛ばして鋭角にターンして離脱する。
中隊長の怒鳴り声で我に返った私は、手の甲で額に浮かんだ汗を拭った。
驚異的な機動戦闘力。抑制された機体である筈なのにも関わらず、飛んで跳ねる様な操縦技術。動きに迷いがなく、
「申し訳ありません、中隊長」
『構わん。……それで、バンディットの衛士をどう見た?』
私はその問に迷うことなく答える。
「度し難い程の馬鹿です」
※※※
音感センサで探知されるのを避けるために主機を落とし、静かに周囲を探索する。
全てのセンサをフルに使い、11機の不知火を探すことは簡単だった。ヴァール10のコールネームを呼ばれた不知火を救出するため、全機が俺を追い立てるように出現した。流石に相手するのも分が悪すぎるため、後退して姿を晦ましたのだが、彼らは部隊行動をしているためにすぐに見つけることができる。
振動センサには主脚で移動している様子がキャッチできていた。しかし、俺が単機であるために、相手の位置を割り出すことができない。ある程度の方向を予測し、そちらの地形を頭の中に思い浮かべる。
移動している相手は振動センサが使えない。ならば俺も主脚移動をすれば、ノイズに紛れて移動することが可能だ。だが、跳躍ユニットを使ってしまえば一瞬で探知される。主機をアイドリングにしてしまえば、赤外線センサに十中八九探知される。
相手はどうやら小隊毎に分散したらしく、大まかに3つに別れたようだ。この状況で、俺が選ぶべき選択肢は1つしかない。最も分散した隊から離れた小隊に攻撃を仕掛ける。
幸運にも、一番近くで主脚移動している隊が、最も他の小隊から離れているらしい。
はやる気持ちを抑えながら平常心を心がけ、機体のステータスチェックと突撃砲の残弾を確認する。
機体はオールグリーン。右手の突撃砲の36mm
深呼吸をして、一番距離の近くなった瞬間を見極める。そしてその時は来た。
すぐさま主機に火を入れ、ロケットモータを点火。屈伸運動の反動で飛び上がり、そのまま空中で姿勢制御。全速で相手の4機小隊へ突っ込む。
俺の吹雪が動き出したことを感知し、小隊は攻撃態勢に移る。だがしかし、その動きに遅れが生じる。長機の動きに旧OSの癖が残っている。指示を出したが、一歩出遅れたようだ。そのまま長機に向かって120mm滑腔砲を放つ。砲弾は機体に吸い込まれるように飛翔し、炸裂。長機の反応が消える。
120mm滑腔砲の砲撃からすぐにターゲットは切り替えていた。動き始めていた不知火2機の片割れへ36mmチェーンガンの掃射を浴びせながら、前に出た不知火の方には長刀で横一線。胴体が断絶するのを見届ける。すぐさま、残りの1機へ肉薄。振り切った長刀を生き残りへ投げ棄てる。
回転しながら勢いよく飛んでいった長刀を、管制ブロックに食らった残りの1機は、そのまま動きを止めた。
『ヴァール3、5、7、8大破、衛士死亡、戦闘不能』
撃破した小隊の不知火の装備を見るに、どうやら後衛を務める小隊だったらしい。最初の方に後衛を潰せたのは、今後の戦況に関わって来るだろう。
小隊を撃破した俺は、すぐさま離脱を図る。既に連絡を受けた2個小隊がこちらに向かって来ており、先発の3機小隊が突っ込んできていた。内の1機は左跳躍ユニットがない。ということは、3機小隊は前衛の小隊なのだろう。1機は俺と同じ突撃前衛装備だ。
今交戦してもいいが、欲を言えば態勢を立て直したい。突撃砲の36mm弾倉がほぼ空になっているのだ。弾倉を交換して、もう一本の長刀を持ちたいところだ。
しかし、そうもできない。先程の戦闘では上手く全機撃破できたものの、相手は帝国軍から転属してきた衛士ばかりだ。精鋭であることは間違いなく、そんな彼らに与えられたのは最新鋭第三世代戦術機。鬼に金棒だ。これまでの戦闘で、俺をこれまで以上に警戒しない訳がなく、その分戦闘もやり辛くなることは火を見るより明らかなことだ。
状況を確認しながら、残りわずかばかりの弾が入った36mmの弾倉を捨ててリロードを行う。長刀を投げていなければ、もっと他の方法を選ぶ羽目になっていただろうと考えつつ、残りの長刀を背部兵装マウントから引き抜いた。これで武器は突撃砲1挺と長刀1本。前腕部のナイフシースに格納されている短刀が2本。心持たない装備だが、もとより1対12だ。気にしない。
推進剤もまだまだ残っている。近接格闘戦も十二分に戦える。ならばすることは決まってくる。
逆噴射制動で180度回頭すると、追って来ていた3機小隊の不知火目掛けて突撃を始める。姿勢を低く這うように。そして、相手から見える投影面積は小さく。狙い目は手負いの不知火だ。
小隊は受け止めることはなく、進路から離れて追撃を始めようとする。しかしやらせはしない。跳躍ユニットを前方に全力噴射し、すぐさま方向転換。目標にしていた不知火へ接近戦を仕掛ける。バースト射撃を繰り出し、3発の36mm弾が胸部に着弾するのを確認する間もなく、すぐさま目標を切り替える。次の相手は突撃前衛装備の不知火だ。
『ヴァール10、胸部管制ブロック被弾、衛士死亡、戦闘不能』
残った強襲前衛装備の不知火とエレメントを組み、連携攻撃を仕掛けてくる。だが、崩れているのなら付け入るスキはあった。前に出る突撃前衛装備の不知火の攻撃をいなし、そのまま後衛の強襲前衛装備の不知火に長刀を振り抜いた。左肩から右脇腹まで切りつけられた不知火は、そのまま右肩部ごとずり落ちる。
『ヴァール12、胸部管制ブロック大破、戦闘不能』
残った突撃前衛装備の不知火にも斬撃を食らわせる。振り向きざまに接近してた不知火へ、跳躍ユニットの起こす運動エネルギーをそのまま乗せた長刀の打撃で叩き切ったのだ。
「ヴァール11、胸部管制ブロック大破、衛士死亡、戦闘不能』
これで残るは4機小隊のみ。大して減っていない突撃砲の残弾数を確認し、再び姿を眩ませる。
撃墜した前衛小隊の近く。ビルの影で、また主機を落としてAPUのみを動かしている。4機の不知火は、俺が姿を眩ませた50秒後に到着したが、俺を見失ったらしい。擱座した不知火のそばにいるため、目視で発見される可能性もある。しかし、離れていったと判断した相手は、そのまま主脚移動に切り替えて移動を開始したのだ。
離れゆく不知火を音感センサで感知しながら、次の手立てを考える。
恐らく一番最初に撃墜したのは突撃前衛長。今倒した小隊の突撃前衛装備の不知火と戦って確信した。そして、その間に倒した4機小隊は後衛装備。残っているのは中隊長率いる中衛小隊と考えるのが妥当だろう。
中隊長と言えば、歴戦の猛者だ。数ある戦場を経験し、BETAとの戦いに慣れている衛士。そういった衛士ならば、訓練でのAH戦闘にも慣れている。最後に残しておくには厄介な相手だ。
一度深呼吸して心臓を落ち着かせる。
こうもなれば、後は当たって砕けろ、だ。
※※※
ハンガーに収めた吹雪は跳躍ユニットの辺りに汚れはあるものの、至って正常な状態だ。整備兵に機体を引き渡した俺は、演習終了後に夕呼先生から言われた通り、いつもの作業服姿に着替えて指定されたブリーフィングルームに来ていた。
「どこまでかと思えば、アタシの想像を超える変態だったわ、アンタ」
「んが?! そんなに全機倒すのは変態ですか?!」
「いいえ、上出来。アタシの意図を汲み取ってくれてアリガト」
ということは、相手の中隊の伸びた鼻はへし折ることができたのだろう。劣った装備、数的劣勢だったのにも関わらず、文字通り全滅した中隊。俺よりも先に戻っていた相手の中隊は、出撃前とは雰囲気が丸っきり違っていたようだ。夕呼先生の求めていたものになったということだろう。
「……それで、相手はA-01のなんて中隊ですか?」
「言ってなかったっかしら?」
「聞いてないです」
「彼らは第7中隊《ヴァーズ》。陸軍第8師団から転属してきた衛士と白陵基地第207衛士訓練学校卒の衛士で構成された中隊よ」
帝国軍というと本土防衛軍とかではないのだろうか。そんな考えを頭の片隅へ追いやり、気になった後半のことについて聞いてみる。
「207卒の衛士がいるんですか?」
「えぇ。あなたもよく知っているヤツがいるわ」
「この時期だと……伊隅大尉ですか」
「そ。今は少尉で新任だけどね。光州が初陣だった」
まだ記憶は薄れていない。脳裏には伊隅大尉の顔が浮かび、今にも声が聞こえてくる。涙は出ない。俺や他の仲間に泣いて欲しくて、大尉は凄乃皇・弐型で自爆したのではない。そうせざるを得なかった。それが人類にとって一番利のある選択だったのだ。
少し黙ってしまったが、すぐに夕呼先生の方に意識を戻す。
「アンタが序盤、手負いにしたのが伊隅よ……。まぁこの話は置いておきましょうか。アンタとヴァーズの演習データは、A-01で共有するわ。まだ強くなってもらわないとね。各隊長にはアンタのあることないこと吹き込んで回してあるから、次A-01と戦う時にはボコボコにされているかもしれないわね」
「そうならないように訓練を積んでおきますよ……」
「引き続きよろしく頼むわ。明日、他の中隊ともやってもらうわね」
「え……」
「じゃあね~」
「あ、ゆ、夕呼先生ェ?!」
ケラケラと笑いながらブリーフィング室を出て行った夕呼先生を見送りながら、言われたことを反芻する。
明日、他の中隊とも演習をする。それはつまり、同じ条件ということなのだろうか。頭を掻きながら、十中八九そうであることを確信した俺は、減った腹を満たすために食堂へと向かうのだった。
後日。毎日のようにA-01の中隊を相手することになり、帰ってくる俺の様子はまるで屍のようだと純夏が言っていた。そりゃそうだろう。夕呼先生の課す厳しい任務にも耐えられるように訓練された衛士の中隊規模を相手にしているのだ。言い返す気力もない俺は、布団に倒れ込むと泥のように眠る日が続いたのだった。
「タケルちゃ~ん……整備が追っつかないよぉ~」
しかし、純夏にアビオニクスの調整を頼んだんだが、まさか純夏も寝不足になるとは思いもしなかった。連日連夜、呪詛のように追っつかないと文句を言われる。言い返す気にもなれないし、申し訳ないと思っているからな。ただ、静かに寝かせて欲しい。