無様屈服ワンちゃんばかりのこの世界で俺は巨乳好き 作:クゥン
写真に写る家族だけが、私の覚えている笑顔で。
次にみんなと話す時、笑顔でいられる自信なんてなかった。
でもね、ようやく思い出せたの。
二人がいてくれたから。
「雛ちゃん、こっち行ここっち!」
「行く行くー!」
「ああほら走らない走らない。人に当たったら危ねーでしょ。……先輩も」
「「ごめんなさーい」」
ここは遊園地。
俺達は今、なんともおかしな組み合わせで遊びに来ている。
なんでこうなったんだっけなぁ……
「申し訳ありません、当アトラクションは小学生の方は搭乗が出来なくて……」
「がーん……」
「だっ、大丈夫よ雛ちゃんっ!他にもいろんなのあるんだからねっ!?」
「申し訳ありません、その、お連れ様の方も……」
「は?私に言ってんの?キレたわ」
ああもう問題起こすまでが早ぇんだよっ!
おちおち考え事もしてらんねぇじゃねぇか!
「あーすみません!ほら雛ちゃん行こうぜ。先輩なにメンチ切ってんすか早く列離れて!」
「「ブーブー」」
可愛げのある(諸説あり)ブーイングは無視。
くそっ、こんなことになるんなら子守なんて引き受けるんじゃなかったぜほんと……
「じゃああれっ!あれ乗ろっ!」
「あら、いいじゃないコーヒーカップ!ほら行くわよ後輩っ!」
「はいはい。元気っすねぇ……」
小学生女子と身長小学生のタフネスには驚いてばかりだ。
遊園地、それも人気のテーマパークともなれば、二人のテンションが高いのも分からいでもない。
かく言う俺もかなーり楽しみにしていた。
それが今や、二人の子守だ。
ちょっと目を離せば凄い速さで傍を離れ、興味の赴くまま縦横無尽に走り回る。
本人達は楽しいだろうが、俺からしたら気が気ではない。
「はーやーくぅ!」
「はいはい分かった分かった、そんな手ぇ引っ張らんくても行くって」
「私が繋ぎたいのー!」
「……ふふ、ったく、しょうがねぇなぁ」
世界にフィルターがかかっていないと、こうも安心できるものなのだろうか。
偏見をなくして雛ちゃんを見ればなんのことはない、ただの寂しがりやで、少しおてんばな女の子じゃあないか。
子供って、本当はこんなに可愛いもんなんだよな。
無邪気で、素直で、なんの屈託もなく笑ってさ。
だから俺は、そんな子供達の為になにかしてやりたくて……
「はいっ!お姉ちゃんはこっちっ!」
「あら、手ぇ繋いでくれるのぉ?」
「お兄さんはこっち!」
「へいへい」
左手に俺、右手に先輩を捕まえて笑う雛ちゃんは本当に楽しそうだ。
表情、発言、行動、全部を使ってそれを教えてくれている。
「先輩」
「んー?どうしたの?」
ああ、先輩、そんな優しい顔しちゃってまぁ。
俺も人のこと言えた顔じゃねぇだろうけどさぁ。
「なんかいいっすね、こういうの。幸せって感じ、しません?」
ああ世界。
一秒でも遠くまで、このまま続いてくれ。
そんな優しい目で言わなくても、大丈夫。
大丈夫だから。
「(し、心臓が、破裂しちゃう)」
お願いだからそんないい顔でいいこと言わないでほしいっ!!
ちょっと、後輩?
わっ、私今キャパいっぱいいっぱいなんだけど??
そんな、そんな顔されると、か、かなりマズいんだけどぉ!!??
「(幸せって、今日一日ずっとそう思ってるけどぉ!?なんならお誘い貰った日からずっと思ってるんだけどこっちはぁ!?)」
こっ、この後輩、私がどんな思いで今日を待っていたと……っ!
遊園地に、雛ちゃんと、後輩と一緒に行ける今日をどれほど待ってたか分かんないって言うのぉ……!?
いや分かんないわよねっ!ごめんっ!
「……先輩?だいじょぶっすか?」
「おねーさん?どこか痛いの?」
「ぅへぇ!?い、いやいやっ!全然大丈夫っ!ささ、行きましょう行きましょうっ!」
くそぉ、最近後輩にペースを乱されまくっているわねっ。
遊びに行こうって誘ってくれたのは嬉しいけど、なんか癪ねっ!
『先輩、遊園地行きたくねぇっすか』
『……急ね』
後輩の唐突な提案には結構慣れてきたつもりだったけど、遊園地とは流石に予想外で。
男女で遊園地はそれデートじゃない?とチラッとは思ったけど、この後輩がそんなこと言うタイプかなぁと思い冷静にいれたのよね。
『ちーっと事情がありまして、雛ちゃんと遊園地行くんすよ。一緒に───』
『行くわよ後輩っ!!』
『判断が早い』
事情を聞けば後輩のご両親から、雛ちゃんを遊びに連れてって欲しいと頼まれたらしい。
……おかしくない?そういうのって雛ちゃんのご両親から言うもんじゃない?
いや普通だったら親が連れてくもんだけど。
『あーその……なんだ……ちょっと事情込々でして。俺もまだ理解が追っついてねぇんですが』
『?』
『あー、あれです。雛ちゃんの親御さんなんですが……ちょい育児放棄気味でしてね?それで───』
『……は?』
『話聞いてくださいお願いします。んで親同士が知り合いなんで話付けてくる間、雛ちゃんの面倒見てってことで……』
『……その場に私も同席したいくらいだけど』
『確かに思う所はありますが、雛ちゃん寂しがらせるわけにもいかねぇでしょ』
雛ちゃんのご両親について、深くは聞かなかった。
聞いたらきっと我慢が出来なくなっちゃう。
『それに俺一人で雛ちゃん連れて遊園地は……ほら、あれですし』
『……小学生連れて二人で遊園地だものね。分かった、予定空けとくわねぇ』
『あざす』
「あっはは!楽しいー!」
「たーのしー!」
「二人とも楽しそうで何よりっすー」
「スカしてんじゃないわよ」
「急に真顔でキレるじゃん……」
たまに来る遊園地っ!
これでアガらないやついるぅ!?
いないわよねぇ!!?
「雛ちゃんたのしー!?」
「たのしーっ!」
「かーわーいーいーっ!」
「きゃーっ!」
こんなにいい子なのに育児放棄ぃ!?
ありえなくないっ!?
こんなにかわいい子なのにっ!!??
こんなに抱きしめたくなる、なんなら抱きしめてる子がっ!?
「おねーさん!」
「はーいー!」
「大好きー!」
「あーもぉー!可愛すぎよぉー!!」
私はこれから閉園まで、全力でお姉ちゃんを遂行する……ッ!!
それが此度の私の使命、天命と見たわッ……ッ!!
「これ俺いる意味ある?」
「絶対いる」
「いなきゃダメ」
「そっか……」
うとうと、うつらうつらとしてた。
目の前には、誰かの背中と肩しか、見えない。
「……だいじょうぶぅ?雛ちゃんの家まで結構あるでしょ?」
「だいじょーぶっす。軽い軽い」
多分、お兄さんの背中にいるんだ。
だからあったかいんだぁ。
ほんの少し目を開けたら、夕日が目に飛び込んできた。
電車に揺られてる間に、寝ちゃったみたい。
お兄さん、ずっと私を背負ってくれてたんだ。
「ねぇ、話付けたってほんとなの?」
「元々、好きでほったらかしてたわけじゃねぇんだ。正面向いて謝んのが怖くて逃げて、引っ込み付かなくなってただけで」
「親のすることじゃないわ」
「大人になっと、素直に謝るってのが難しくなんだってさ」
「……わからなく、ないけど」
今日は一日、贅沢しっぱなしだったよ。
だって、左手に巧お兄さんがいて。
右手に愛佳お姉さんがいて。
こんなに贅沢をしてもいいのかなって、何度も思った。
でもね、その度に二人がにっこりして言うの。
『『なら今日は贅沢していい日!』』
って!
だからね、今日は一日ずっと二人と一緒だった!
「……あ、雛ちゃん。起きたか?」
「おはよ。ふふ、疲れちゃってたもんね」
「おはよぅ……」
でも、時々凄く寂しくなった。
どうしてここにいるのが、パパとママとお姉ちゃんじゃないの?って。
「雛ちゃん?どうしたのぉ?」
「……わかんない」
わかんない。
「二人が、家族だったら、よかったのに」
こんなに幸せなのに、胸が痛いよ。
「……なぁ、雛ちゃん」
「……」
帰りたく、ないよ。
「大丈夫だって、心配いらねぇよ」
「……なんで?」
「なんでも」
「後輩言い訳下手か」
お兄さんとお姉さんは、たまに喧嘩する。
でも喧嘩のあと、いっつも笑顔。
それどころか、笑顔で喧嘩してる時もある。
「うっせ茶々入れんな子供料金」
「あんたその子供料金にレポート見てもらってること忘れてんの?ねぇ♡雑魚雑魚後輩くぅん?♡」
「チッ」
「おい先輩に向かってなによその舌打ちはぁ!」
ほら、また笑いながら喧嘩してる。
ふしぎ。
……でも、ほんとに。
ほんとに、大丈夫なのかな。
お兄さんが言うなら、大丈夫なのかも。
「ほら、そろそろ雛ちゃんちだ。降りな」
「はーい。……んっ」
「はいはい手は繋いどくよ」
「もう可愛いんだからっ」
せっかくだし、最後まで手は繋いでおくっ。
……もったいないから。
「……ん?雛ちゃんちの前、誰かいねぇ?」
「いるわね。誰かしら」
玄関の前に、誰かいる。
見覚えのある顔、それにお洋服。
「パパ、ママ、お姉ちゃん……」
「どうも外で待ってたっぽくない?」
「みたいっすね。……雛ちゃん」
「……ん」
……うん、大丈夫。
私は心が広いから、許してあげないとっ。
「行ってあげな」
「文句でもわがままでもいっぱい言って困らせてきちゃいなさい」
「……うんっ」
二人が背中を押してくれたんだもん。
これからはうんと困らせちゃうんだからっ。
「パパーっ!ママーっ!お姉ちゃーんっ!!」
「久しぶりーっ!」
「……何気に、第一声からえげつねぇこと言ってね?」
「うわ……かわいそ……。あれ絶対感動の涙じゃないでしょ……」
「そんじゃ、俺らも帰りますか」
「あっ、ちょっと。今日泊まってっていい?明日休みでしょ?遊ぼ!」
「いっすよ。んじゃなんか晩飯の材料買いに行きますか」
「はいはぁい♡」
「……今日さ、雛ちゃん間に挟んで手、繋いでたじゃない?」
「してましたねぇ」
「手、温かったわね」
「温かったっすねぇ」
「……ん」
「……雛ちゃんいねぇんすけど」
「うっさい」
「……どーぞ」
「……んふふ、意外と手ぇおっきいのね」
「ほんとそういうとこっすよ先輩……」