無様屈服ワンちゃんばかりのこの世界で俺は巨乳好き 作:クゥン
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私は考える。
あの後輩のちょっと変わった所を。
最近友達付き合いの始まった私の後輩。
名前は『志賀 巧』。歳は一つ違い。
大学近辺のアパートで一人暮らし。
散らかってはいないけど整ってもいない。
でも男の一人暮らしっていうのは、こういうもんなのかも。
普段大学にいるときは一人でいるのを見かける。
友達といることもあるそうだけど、最近事情があって距離を取っている……らしい。
ゲームが私とタメ張れるくらい上手い。
ゲーセンより家ゲーが好きなタイプ。
ここは若干私と違う。
時折口の悪さが見えるけど、悪意で言うことはほとんどない。
悪態には本音が見えることもあるし、どちらかと言えば素が出てるというのが正しいのかも。
顔立ちは……結構いい、と思う。
これは私の好みもあるから何とも言えない。
そんな後輩だけど、時折変わった面を見せる。
まず、特定の場所を避けて生活している。
電車に乗りたがらなかったり、わざと遠回りをしたり、理由もなく時間帯をずらして行動したり……
会いたくない人でもいるのかもしれない。
二つ目、あまり外に出たがらない。
とにかく極力外出を好まない。
家ゲー好きもここからきているのかも。
その癖、夜に飲みに誘うと結構来てくれるからよくわからない。
三つ目、これは変わった面とは違うし確信は無いけれど……
『私が一人でいる時しか出会えない』
……ような、気がする?
にしたってほんとにどうしてこうなったのっ!?
わっ、私ってそんな、出来たばっかりの友達、それも男と外泊するようなあれじゃないはずなんだけどっ!?
……ちょっと一から思い出してみましょう。
そう、あれはまだ泳ぎ終わってすぐの頃……
『泳ぎ疲れちゃったしお昼食べて午後はゆっくりしましょっか?』
『あんた泳いでねーでしょ』
『てへっ』
そうそう、午後は帰りに色々見て回ろうと話していたのよね。
せっかくちょっと遠出したんだし、遊んじゃおうってなってぇ……
『ねぇ、暇ならちょっと見て回りましょ?』
『あの、先輩引っ張ってたからすっげぇ疲れてんすけど』
『だから?』
『……うす』
後輩も快く引き受けてくれたのよね。
それでまずはお昼食べに行って。
『海近くの市場で海鮮食べるのさ……なんていうか、あれよねぇ』
『なんで俺が海鮮丼食ってる時に余計なこと言うんすか?』
『新鮮で美味しそうだなぁってぇ♡』
『ここまで食欲削いだのもはや罪だろ』
うん、楽しく話せたわね。
我ながらベストコミュニケーション。
それからはぐーぜん見つけたゲーセン入ってぇー……
『弐寺あるじゃん!やりましょ!』
『おっ、いっすねぇ。んじゃスコア負けた方罰ゲームで』
『言っとくけど私これ得意よぉ?だいじょうぶぅ?泣いちゃわない?』
『お手柔らかにおねがいしゃーっす。んじゃ……仕組太陽で』
『あぁぁぁぁ!なんっであんたそんな上手いのよっ!!』
『先輩どんな気持ちっすか?自信満々で挑んでスコア差ついてますけどどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?』
『ゲーセンニカップルデクンナヨ…』
『アレカップルカ?シンチョウサヤバクナイ?』
『ノンノン』
『ジブンガタイヨウノナカニハイッテイクンダナァ』
『クッソ、負けるもんですか……ッ!次はエレクリよぉ!後ろのベガ立ち連中ごとド肝抜いてやるわぁっ!!』
『やるだけ無駄だって教えてやりますよ』
『ぬかせぇ!』
『エクセリオン、エクセリオンの続編ってなんだっけなぁ……』
『エクセライザーよ。縦スクSTGの一般常識でしょうが』
『STGやんねぇからさっぱり分かんねっす』
『カップルデQMAクンナヨ…』
『ナンデヒザノアイダニスワッテンノ??』
『ガメンミヤスイカラダッテ』
『シニテェ…』
ギャラリー含めめっちゃ盛り上がったわねぇ。
結局あいつに勝ち越されたけど、まぁ次勝てばいいわねっ。
それで、二人でプリ撮ったら服見に行きたくなっちゃってぇ……
『先輩マジで勘弁してください俺外で待ちますんで』
『いいから付き合いなさぁい?男目線で意見して私の可愛さを褒めて♡』
『褒めるのが確定した意見は意見とは言わねぇただの自作自演だ離せぇー!』
『たまには普通の私服も見ておこーっとー♪』
『どぉ?』
『フリルが多い服しか着れない縛り人生だったりします?』
『感想を言え感想をぉ!』
『背が低い』
『背は関係ねぇでしょうがぁー!!』
『……ん、まぁ、可愛いと思います。ちょいフリルが多いとは思いますが』
『そう?ふふん、まぁ当然だけどねっ!』
『……まぁ……ちょっと線が出すぎじゃねぇかなって……思わなくも……』
『え?なに?』
『うるせぇ子供服着てろ』
『どうしてそういうこと言うのぉっ!!』
たまには普通の服を見に行くのも楽しいわよね。
まぁほとんど着ないから買ってもタンスの肥やしなのが悲しい所よね……
そういえばなんであいつ逆切れしたの?
……で、確かその後……
『んー、結構いい時間だしぃ。そろそろ帰りましょっかー』
『先輩』
『なに?』
『温泉とか行きたくないっすか』
『めっちゃ行きたい』
そうそう、海上がってから潮の感じしてたから温泉行きたいなーっって思ってたのよね。
でも流石に時間もあれだし泊まりはなーって……
『んー、でも泊まりになっちゃうでしょ?流石にそれはねぇ』
『……先輩』
『んー?どしたの───』
『もうちょっとだけ、一緒にいたいんすけど……ダメっすか……?』
『……………………ほぇ』
そうそう、ちょっとバツの悪そうな顔もかわいいなって思って……
……そっからの記憶が無いんだけどぉっ!!??
えっ、うそっ、私私どんな顔してたの私ぃ!!
ぽーっとしてたの!?ねぇ!!満更でもないって顔しちゃってたのぉ!?
っていうかなんでホイホイついて来ちゃったのよ!?
男なんて皆薄皮一枚剝ぎ取れば狼っ!
そんな危険なことをどうして私は乙女面して進んでしちゃってんのよぉ!!
「今日はすんません、わがままに付き合ってもらっちゃって」
「へっ、い、いや!別にいいのよっ!?先輩だしっ!」
お、おおおお落ち着きなさい私。
BE COOL 私は冷静よ。
ひとまず今の状況を整理しましょう。
「それにしてもいい湯でした。海から上がった後だからってのもあるでしょうが、格別でしたねぇ」
「そう、ね?すごく良かった、と思う……」
「湯上りご膳、すっげぇ美味かったなぁ……また来てぇや」
そう、今は温泉も入り終わって、夕飯も食べて、お布団敷いて寝ましょうって段階。
後輩は隣に布団敷いてる。
つまり、一つ年下の顔が良くて仲のいい男と同じ部屋で寝泊まりしている……ってワケ。
あれ、これって結構ヤバい?
私、食べられちゃう的なあれなの?
いいいいいいいやいやいや、後輩はそういうんじゃないから!
そういう目で見るタイプのあれじゃないから!
で、でも見た目は?まぁ?結構タイプだけど?
私そんな出会ってすぐの男に体許すような軽い女じゃないしぃ?
……で、でも、後輩が、その、どうしてもって言うなら……考えて、あげなくも……
「それじゃ、電気消しますよー」
「あっ、うん」
「んじゃ先輩、おやすみなさい」
「おっ、おやすみなさい……」
言うや否や後輩、布団に潜り込んでしまった。
「……」
……えっ、なにこれ。
「「……………」」
多分、体感30分くらい経ったわね。
……いや眠れるわけなくないっ!?
年頃の男女が一緒の部屋でっ、隣で寝ててっ、そんなっ!!
普通なくないっ!?いろんな意味でっ!!ねぇ!?
つか後輩も後輩でなんなのっ!?
あんな犬みたいな顔で……このっ、私が犬好きでよかったわねっ!?
後輩も後輩で動く音すら聞こえないし、ほんとこの……後輩ぃ!!
「……ん」
あ、後輩が起きた音がする。
窓の開く音……外のテラスに行ったのかしら?
「……もしもし。久しぶり」
あっ、電話しにいったのね。
……これ聞いちゃまずいかしら。
かといって耳を塞ぐようなことしたらなんか気ぃ使わせちゃうかもだし……どうしたら!
「いや1時ったってどうせお袋起きてるだろ。親父もそこにいんだろ?」
親御さんとの電話かぁ……。
いやこれほんとどうすんのが正解!?
だ、誰か助けてよぉ!?
……お母さん、かぁ。
仲良さそうで、ちょっと、羨ましいな。
「ん、こっちは元気でやってる。お袋は自分のことを……っていらねぇ心配か」
「心配いらねって。親父にもそう言っといて。……いや酒飲んでるなら後で。泣き上戸の相手すんの大変っしょ」
「あ?いや普通に飯食ってるわ。バリバリ食ってる。最近は調子いんだわ」
家族大事にしてんのねぇ。声色で分かるわぁ。
……ちょっと待って『最近』調子いい?
調子よくなったのが、最近、ってことなの?
「なんでって……なんとなく?……いや秒で当てんなよ。なんで電話かけた理由が一発で分かんだよ」
「当たってっけど。……うん、最近、結構いいことあった」
……ひょ、ひょっとしてだけど。
その『結構いいこと』って、私のこと……だったりして。
ちょ、ちょっと図々しいっ?
「別に女じゃ……いや女だけども。違うから、そういう意味じゃねぇから。おい親父に言うなマジでやめて」
ほっ、ほんとに私っ!?
でもでもっ、最近できた女の友達って私……いやどうなんだろっ!?
これで違ったら恥ずかしすぎんっ!?
「……そっちは、まだだ。あれから何も変わってない」
「でも、変わるかもしれねぇ。ようやく、ようやく糸口っぽいもんが見つかった」
「心配かけてる。……ん、大丈夫。じゃあ、また」
えぇぇぇぇぇ!!うそぉーっ!?
え、なに?私知らない間に結構好感度稼いじゃってた感じっ?
じゃ、じゃあ!?後輩はご両親に私の存在を匂わせてる……ってコト!?
ゆくゆくはご紹介……ってコトぉ!?
「……先輩、なに布団で顔覆って足バタバタしてんすか」
「ぴぇあぁっ!!??おっ、起きてたのねっ!?」
「今更?いや、まぁ別になんも聞かねぇけど……てかぴぇあってなんすか。萌えキャラかよ」
「う、うっさいっ!私はいつだって可愛いし萌えキャラだけどぉっ!?」
「萌えキャラが誉め言葉かは時と場合に寄らね?」
びびびびびびびっくりしたっ!!
心臓止まるかと思ったっ!!
えっ、いつからっ!?いつからっ!!??
「いやなんでそんな顔赤ぇんすか。」
「お酒飲んじゃったからっ!?」
「俺に聞かれても……落ち着きたまえ」
「凄く落ち着いた」
「マジかよあんたネ実も知ってんのかよ」
よ、よし。ひとまず冷静になれたわ。サンキューリューサン。
だからどうしたってわけでもないけど……冷静になれたわねっ!
「……なぁ、先輩さぁ」
「はいっ!?」
「なんで敬語。……先輩さ、消失、読んだことある?」
「消失?って、あの消失ぅ?あるけど」
後輩が何を伝えたいのかよくわからない……?
そりゃ、消失はゆきちゃんも含めて読んだけど。
「実は俺がキョンと同じ立場で、ある日目が覚めたら世界がおかしくなってた……って言ったら、信じます?」
「……えぇー。急に言われてもぉ。……まぁ、そうねぇ」
うーん?ちょっと何言ってるかわかんない。
でも、これだけは聞いておきたい。
「あんたがキョンなら、私は長門っ?それとも鶴屋さんっ?」
「いいとこ谷口」
「ハルヒの学校教えてフェードアウトじゃんっ!!」
ちくしょーっ!!なんでよぉ!?
真面目な質問しただけじゃんっ!?
「……ハァ、まぁいいや。大したことじゃねーし、忘れてくらっさい」
「異世界に転移したってカミングアウトは大したことだと思うけど……」
「冗談っすよ、異世界人ジョーク。そいじゃ、明日も早いですし寝ましょー」
「……うん。喉乾いた。お水飲も……」
でも、ちょっと心配。
この後輩、あんまり寂しいとか苦しいとか言わなさそうだから……
『もうちょっとだけ、一緒にいたいんすけど……ダメっすか……?』
何ていうのかな、放っておけないというか。
ほっといたらそのまま、足元から崩れていっちゃうんじゃないかって思っちゃって。
それくらいこの後輩は、見ていて不安になっちゃう。
「そいじゃ改めて、おやすみなさーい」
「……ねぇ、志賀。ちょっとそこに座って」
「なんすか急に。もう寝てぇんすけど」
だから、今私にできることは、これくらい。
……ぷっ、ちょっと頭撫でたげてるだけなのに、変な顔。
「辛い事とか苦しい事とかあったら、言いなさいね。ちゃんと助けてあげるから」
「……私はあなたの先輩で、友達だもん」
抱えた重そうなものが、少しでも楽になりますように。
「……私はあなたの先輩で、友達だもん」
ごめん、なんの話???
えっ、待って?マジでなんの話だよ!?
くる、え?苦しい事?別に何も苦しくねぇけど!?
「えへへ……いい子いい子……♡」
「……」
わ、悪い気はしねぇけど……けどそんなこと言ってらんねぇ。
親父、助けて!!
このままだと俺、先輩を好きになっちまう!!
『……』
『いんじゃね?』
いいわけあるか脳内クソ親父熟考してそれか役に立たねぇなぁ!!
つか何より視線が……!!しゃがんで頭下げてっから目線が、先輩の、先輩のたわわに目がぁ!!
「んふふふ~。後輩ぃ~、撫で心地がいいわぁ♡」
「……」
こ、言葉が出ねぇー……酔ってんのかこのチビ先輩……
……あ?待て、そいやさっきなんか飲んでたな。
近くのテーブルの上……あれ俺がテラスで一人チビチビ飲もうと思ってたやつじゃねぇかっ!!
しかも結構度数高めの日本酒ッ。ちくしょーっ、ちょっと見栄張って月見酒ーとか思った俺がバカだったってのか……っ!
「はいはい、そろそろ寝ましょーね。明日午前中には帰るんすからね」
「ふふっ、はいはい。おやすみっ」
なんでこの状況でもちょっと上からなんだよ泥酔デカ幼女。
どこがデカいかは言わねぇけど。
俺が見つけた『糸口』。
それは、今俺が置かれている状況への打開策になるかも知れねぇ。
今日先輩と出かけて分かったが、まったくメスガキとエンカウントしなかった。
そう、一日通して一度もだ。
これはもはや天文学的確率を超越している。
こんなにも楽しい日々が送れると思わず、つい名残惜しさから先輩を引き止めてしまうくらいには信じられなかった。
だってメスガキが現れなかったんだぞッ!!??
離れたくないじゃんッ!!
……それはさておき。
俺は今日の結果に一つの光明を見た。
その検証の為に、明日からしばらく様子を見る必要があるだろう。
そして、その結果次第で、俺は行動に出ようと思う。
結果次第ではともすれば、俺は……
俺は、この世界から解放されるかもしれない。
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