無様屈服ワンちゃんばかりのこの世界で俺は巨乳好き   作:クゥン

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想定の1000倍くらい評価していただいて恐縮です。
アイデアが思いつく限りは書いていこうと思います。


バイト中に知り合いが来ると気まずい

 

 

 今日も今日とて俺はこの世界で生きている。

 

 目が覚めたら悪い夢のように消えてくれないかと願ったことも一度や二度じゃない。

 その度に子供相手に腰をヘコる彼らがチラついてしまうのは最早病気じゃないだろうか。

 

 この世界の法則について、少しだけ分かったことがある。

 何故か、そう何故かこの世界では『一定年齢以下の女児は容姿がいい』ということだ。

 恐らくはこの世界の子供、メスガキの顔には何かしらの補正がかかるのだろう。

 それに誘蛾灯の様に誘われた無様な負け犬ワンちゃんは、ころっと犬のように敗北してしまうのだろう。

 

 俺はこれを『メスガキフィルター』と呼ぶことにした。

 滅多なことでは使わないだろう。というか使いたくないわこんな単語。

 

 だがそんな世界でも働かざる者食うべからず。

 今日も俺はバイトに精を出している。

 喫茶店のバイトは俺の心に癒しを齎してくれる。この世界で生きる上での数少ない癒しだ。

 

 俺が勤めているのは、美味しいコーヒーとお茶請けが密かに評判の喫茶店『アンファン』。

 働いて既に2年目になるこの喫茶店、俺は最高にやり甲斐を感じている。

 

 そう、大学近辺のこの喫茶店、何を隠そうお客さんの年齢層がとてもいい。

 同じ大学の先輩から、少し年上のお姉さんの来客率が他の店舗に比べてとても良いのだ。

 日々大の大人が子供に嬲られるのを横目に見かけ精神を削られている俺にとって、それはもう眼福と言わざるを得ない。

 

 そうこう行っている間に、ドアからカランコロンと来客を告げるベルが鳴る。

 入ってきたのは女性客が二名。綺麗系と可愛い系のお姉様方。

 

 

「いらっしゃいませ、こんにちは」

 

「あら、こんにちは。……今日はお兄さんがいる、ラッキーね」

 

「やったねっ。美味しいの淹れてねー!」

 

 

 分かるか?この尊さが?エェッ?

 

 ちょっと年上の方から感じるこの余裕、上品さ。

 たまんねぇなぁ!

 

 

「かしこまりました、それではご案内いたします。二名様ご来店です」

 

 

 その緩み切った感情をぐっと抑え、努めて冷静に、丁寧な接客を心がける。

 俺がすべきは愛を説くことじゃねぇ、愛してもらうことだ。

 その為にも俺は可能な限り、『いい店員』であるんだッ。

 

 

「こちらがメニューです。それと、本日のおすすめコーヒーはブラジルのNO.2となっております。ごゆっくりどうぞ」

 

「ん、ありがと」

 

「ありがとー!」

 

 

 あぁ、たまんねぇ……

 これだからここのバイト辞めらんねぇんだ……!!

 

 仕事は主に接客対応のホールと、調理担当のメイクに分別されるが、俺は主にホールを担当している。

 たまに人が必要な時は調理も行うが、俺からの希望でホールを任せていただいている。

 そうじゃなきゃやってらんないからなこんな世界!バーカ!滅びろ運命!

 

 案内をした後、入口周辺に戻ると再度来店を告げるベルが鳴る。

 入ってきたのは……

 

 

「こっ、こんにちはー」

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 うわ出た、制服着たロリ達だ。

 

 とはいえ俺はそれをおくびにも出さない。

 彼女達にそんな口をきけば俺の首が一発で吹き飛びかねない。

 

 

「どしたんすか、芽衣ちゃん、美樹ちゃん。オーナーなら今はいないっすよ」

 

 

 彼女達は『蜜川 芽衣』と『蜜川 美樹』。

 この喫茶店のオーナー、蜜川さんの愛娘の双子ちゃんだ。

 芽衣ちゃんが姉、美樹ちゃんが妹らしい。

 最近中学生に上がったとかで、反抗期らしきものに入ったことをオーナーが嘆いていたのを覚えている。

 

 

「ちっ、違くてっ。きょ、今日はお客さんっ」

 

「そーそー。ほらー早く案内してー?」

 

「はぁ、そっすか。んじゃ、こちらへどうぞー」

 

 

 最近、こうしてお客さんとして来店することがある。

 まっ、その魂胆も俺は見抜いているわけだが。

 

 席に案内してメニューを差し出しつつ、二人に軽くぼやいて見せる。

 

 

「そんな頻繁に来ても、別にサボったりしてねっすよ?オーナーから見張るよう言われてんのかもしんねっすけど」

 

「ちがっ、違うのっ。えと、あの……」

 

 

 二人の目的は分かってる、監視だ。

 大方、オーナーから抜き打ちで行ってきて、サボってないか見て来いとでも言われたんだろう。

 あるいは、娘達に自分の店の自慢でもしたいのかもしれない。

 

 

「別に理由なんかいーじゃん。ねー今日のオススメコーヒーってなにー?」

 

「美樹ちゃんにブラックはまだはえーっすよ。ラテでいっすよね」

 

「えー。子ども扱いはんたーい」

 

 

 こうしてみると彼女達は対照的だ。

 方やおどおどとして控えめ、方やどこかさばさばしててダウナーな雰囲気。

 10年もしたら、きっと素敵な美人になるだろうな……間違いない。

 

 

「ほらほらお客様のご注文だぞー。ちゃんと接客しないとパパにチクっちゃうぞー」

 

「みっ、美樹……!?ダメだよ、そんなこと言っちゃ……っ!」

 

 

 こっ、このガキ小憎たらしい真似を……ッ!

 ここのバイトが今の所人生で一番の心のオアシスなんだぞッ!

 もしクビにでもなったら俺はもうお姉さま方と会えなくなるってことだろうが……ッ!!

 

 

「……はいはい。んじゃ、苦くても文句言わないでくださいよー」

 

「やーん。私達苦いの飲まされちゃうんだってー」

 

「へっ!?そっ、それって……!?」

 

 

 思春期の少年少女はそういう言い回しをどこで覚えてくるんだろうな。

 ぶっちゃけ対処に困るわな。

 だが、今の俺はマジレスの鬼。メスガキの罠になんか負けはしないのだ。

 

 

「一応言っときますけど、頼んだんだから飲みきってくださいよ?ブラジル、めっちゃ苦いっすからね」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「それじゃ、ごゆっくりどうぞー」

 

 

 呆けた二人の顔を放っておき、注文をメイクに伝えておく。

 

 

「どうするの……?お兄さんが言うってことは、今日のはほんとに苦いよ……!」

 

「だだ、大丈夫でしょー……。おにーさんの言うことだし、きっとちょっぴり薄めたりしてくれるって……」

 

 

 は?しないが?大人を舐めるなよメスガキ……!

 という冗談はさておき、そのまま持っていくのは決定だ。

 この苦みがいいんじゃあないか。

 

 

 

 さて、この双子ちゃんが仲良しなのは分かってもらえただろうし、この二人の性根は『メスガキ』に該当しないように見える。

 

 だが、俺は知っている、なんなら見てしまっている。

 彼女達が『調教』をしようとしているところをな……!

 

 

 

 

 

 あれは、俺がこの世界が改変されたとは気づいていなかった頃。

 腰へこワンちゃんを見かける度に尋常ではない程SAN値を削り減らしていたころだ。

 今は慣れた。慣れたくなかったが慣れてしまった。

 

 

『どこかに美人なお姉さんが俺とおしゃべりしてくれるアルバイトは……流石にねぇか……』

 

 

 俺は大学に入る為に一人暮らしを始め、そしてよさげなアルバイトを探しがてらこの街を散策していた。

 求人で探すのも考えた。だが、それじゃ勤務先にメスガキがいるかもしれねぇ……!

 今思うと冷静じゃなかった。が、その時は本気でそう思っていたんだから俺も中々に精神的に追い詰められていたんだと思う。

 

 

『バ~カ♡本気にしちゃった?ぷぷぷ、なっさけな~い♡』

 

『なっ……おっ、大人をからかうんじゃないっ』

 

 

 道を歩いているだけでこんなのがしょっちゅうだ。

 もう視界に入れるのも嫌になって若干のノイローゼになりつつあったよ畜生。

 

 そんな中、俺は見てしまったのだ。

 彼女達が大人一人を相手に身を寄せ合い、恐い恐いと挑発しながら大人を怒らせようとしていたのをなッ!

 

 

「怖いよぉ、美樹……」

 

「私も。怖いねぇ、芽衣……」

 

「クソッ、大人を舐めやがって……ッ!!」

 

 

 などと言っていたのだから間違いない。

 その男は十中八九、二人に言い負かされて無様屈服腰へこワンちゃんへと成りかけていたのだろう。

 

 だが俺は、その時はまだここが『メスガキ物エロ同人世界』とは知らなかった。

 俺にはその光景が『子供二人を襲おうとする不審者』にしか見えなかったのだ。

 

 この世界の法則の一つに『男、特に大人はメスガキには勝てない』というものがある。

 故に、元々男が彼女達に危害を加えることはできないのだ。

 

 

「そおりゃあ!!!」

 

「ヘブッ!」

 

 

 にもかかわらず、俺はその場で手に持っていたバッグを男に投げつけ、二人を護ってしまったのだ。

 男は顔にバッグをぶつけられて怯み、正気を取り戻したかのようにその場から逃げていった。

 

 そう、俺はあろうことか……!

 

 メスガキを助けてしまったのだ……ッ!!

 

 

 

 

 ということがあったが、俺は元気です。いや元気じゃないかもしれんわ。

 それからはお礼だなんだとなし崩しにここの喫茶店に連れられ、今に至る。

 知らずとはいえ、俺は自らメスガキと接点を作ってしまうというリスクを背負ってしまった訳だ。

 

 だがここの喫茶店を紹介してくれたことには感謝している。

 お陰で俺はここのバイトでお姉さま方と交流し、日々の癒しを得ているのだからな。

 こればかりは感謝してもしきれない。

 

 それに助けなきゃよかった、とは決して思わない。万が一、億が一、兆が一、あの子らは本当に襲われていたのかもしれない。

 俺の選択は、間違っていなかった。例えメスガキ達との関りが増えたとしても、人命を守ろうとした俺の選択は正しかったのだ。

 

 

「……いや、考えすぎか。こんな世界だしな」

 

 

 いかんいかん、思考に埋没しすぎた。

 やめよう。無様屈服腰へこワンちゃんだろうがそうでなかろうが、不審者なら通報すればいいだけの話だ。

 疑心に満ちた思考を止め、俺は彼女達の所にコーヒーを持っていくのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「う゛えぇ……苦いよぉ……」

 

「うおぁー……こんなに苦いのかぁー……」

 

 

 舐めてた。中学生に上がったのだしコーヒーくらい飲めるだろうと高を括ってた。

 苦い。それはもう苦い。

 隣に座る芽衣なんか涙目だ。かくいう私もきっと、泣きそうな顔に見えることだろう。

 

 大人はどうして、こんなに苦い物をあんなにも美味しそうに飲むんだろう。

 いや、私達は大人なんだ。この黒い水を乗り超えて大人になるんだ。

 

 

「言わんこっちゃない……。備え付けのミルクと砂糖あっからそれ使うんすよー」

 

 

 おにーさんはそう勧めてくれるが、出来るならこれはブラックのまま飲み切りたい。

 あたし達はもう大人なんだぞって、他ならぬこの人に認めてもらいたい。

 

 

 

 

 

 あたし達は前に、おにーさんに命を救われたことがある。

 

 忘れもしない、ある日の下校中。

 その日はたまたま早く帰りたい気分で、集団下校から離れた後、近道を通ろうと路地裏に入った時だった。

 帰路に着く為に皆と離れてすぐ、私達は不審者に襲われた。

 

 あまりに怖くて、その時のことははっきり覚えているわけじゃない。

 でもその人は背が大きくて、明らかに目が血走ってて、全然冷静じゃなさそうだったのを覚えてる。

 

 

『クソッ、あのメスガキどこへ行きやがった……ッ!!』

 

 

 怒って激情を露わにした大人があんなに怖いものだなんて知らなかった。

 恐くて、焦ってその場を離れようとしたとき、その人の目がぐるりとこちらを捉えた。

 

 

『ヒッ、み、美樹……怖いよぉ……!』

 

『わ、私も、怖いよぉ、芽衣……!』

 

『……あぁ?メスガキが……クソッ、大人を舐めやがって……ッ!!』

 

 

 男の目が、ゆらゆらしていて恐ろしかった。

 まるでお腹が空いてる時に餌を見つけた野良犬のようだった。

 私達は肩を寄せ合い、震えるしかなかった。

 

 その男がなぜか怒りながらこっちに向かってきたとき、もう家には帰れないのかな、なんて考えてしまう程だった。

 

 ……おにーさんが助けに来てくれたのはそんな時だった。

 

 

───そおりゃあ!!

 

『ヘブッ!』

 

 

 どこからか飛んできたのはバッグだった。

 それは寸分違うことなく、男の顔面に吸い込まれていった。

 

 走ってきたその人は、片腕で私達を護るように私達の前に立っていた。

 その背中があまりにかっこよくて、今でも目に焼き付いて離れない。

 

 

『おいおいおい流石に見過ごせねぇじゃんか……ッ!』

 

 

 彼は私達を背に、しっかりと目の前の男を見据えていた。

 その視線に当てられたのか、私達を襲おうとしていた男は慌てて逃げて行った。

 

 

『……なんなんだよマジで。なんで最近こんなことばっか起きんだよ。法治国家日本どうしたんだよ……』

 

『お嬢さん達怪我とかない?ちょっと待ってて、警察に通報するから』

 

 

 飛び込んできた彼はよくわからないけど、打ちひしがれてるようだった。

 けれどそれもすぐに切り替えて、携帯電話から警察に電話を始めていた。

 そこからは警察が来たり、父さんや母さんが泣きながら迎えに来てくれたり、お兄さんがウチの喫茶店のバイトになったりと本当に色々あった。

 

 

 

 

 

 

 あの時のお兄さんの背中が、あまりに大きく見えて。

 だから私達も、早くあんな風にかっこいい大人になりたくて……

 

 

「あまぁい……」

 

「おいしー……」

 

「ミルクと砂糖入れりゃ、そりゃあねー」

 

 

 いや無理だわ。コーヒー侮ってたわ。

 んでもってミルクとガムシロップは凄い。考えた人に金賞をあげたいくらい凄い。えらいっ!

 

 

「コーヒーって苦いんだねー……」

 

「ねー……おにーさんは良く飲めるねー……」

 

 

 私も芽衣も出来るだけ頑張ったけど、美味しく飲んで欲しいと言われてしまえば無理は出来ないし……

 

 

「大人だって飲めない人は飲めないっすからね。飲みたいならあっさりした奴とか出しますし、なんならアメリカンとかから慣らした方がいっすよ」

 

 

 無理に飲んでもいいことねーし、とやや苦笑いで言うお兄さんにちょっとドキッとしてしまった。私、不覚。

 きっと芽衣も同じことを考えてた。双子だし、それに耳がちょっと赤いもん。

 

 

「お兄さんっ!つ、次はちゃんとブラックで飲みますから……!」

 

「頑張るよー。だからおにーさん見ててねー」

 

「ブラックがちゃんとってのもおかしいんすけど……まぁ、オーナーも喜ぶでしょうし、頑張ってください、っす?」

 

 

 どうしたら大人になれるのか、私達には分かんなくて。

 コーヒーがブラックで飲めたら大人になれるって、それくらいしか思いつかなかった。

 

 だから、ちょっとだけ変な質問もしてしまうんだ。

 

 

「……ねね、これブラックで飲めたら、おにーさんみたいになれる?」

 

「え?いやーどうすかね。でもお嬢さん達が俺みたいになって、いいこと無いと思うんすけど」

 

「そんなこと無いと思います……っ!」

 

「わお、芽衣が珍しく早口だ」

 

 

 おにーさんは私達の憧れ、目標。

 だからこそ、私達は今日もコーヒーを飲みに来る。

 

 いつかの憧れを、ずっとこの目に焼き付けていたいから。

 

 

 

 ねぇ、おにーさん

 あの、お兄さん

 

 

 あたし達、頑張って大人になるからね

 私達、頑張って大人になりますから

 

 おにーさんみたいな、かっこいい大人に

 お兄さんみたいな、優しい大人に

 

 

 


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