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ヤーナム紀行[クィリナス・クィレルの手記]
ヤーナム。
その名は、現在、わずかな書籍の中に数行存在するのみである。記述された内容も、いかほどが真実に触れているものか。好奇あるいは風説の類が多いだろう。しかし、それらの記述を集結させたとしても日刊予言者新聞の占いコーナーの文章量を遥か下回る。マグルの辺境の地方都市において過去の存在が忘れ去られることは、珍しいことではない。そう。決してヤーナムが特別では無い。珍しいことではない。
私が『例のあの人』に関わる試みの前に、この辺境都市のことを思い出したのは『古い医療の街である』という情報の一片を手に入れたことがあったからだ。
マグルが持ちうる情報を鵜呑みにするのは、リータ・スキーター女史が書くおべんちゃら記事を真に受けるようなものだ。けれど、魔法族に残る、古い伝承のいくつかは真実に触れていた。事実、私はヤーナムに辿りついたからだ。
ヤーナムは、ロンドンから遥か東。人界から隔絶した境地にある。道中は検知不可能拡大呪文に似た呪いが重ねられているのだろう。何度となく道に迷いそうになった。これは数年で行われたことではない。驚くべきことに一〇〇年以上の重厚な呪いの産物と思われた。
しかし、綿密で重々しい呪いなればこそ、護り隠そうとするモノの中核というものは時に鮮やかに理解ができた。検知不可能な領域のなかで、ことさらに検知不能な場所がある。そこが辺境都市ヤーナムだ。
ところで。
我ら魔法族は、国際魔法使い連盟の規約に従い、自らの社会をマグル社会から隠す必要がある。これはマグル学の教授であった私が記述するまでも無いことであるが、混乱と衝突を避けるためである。
自然発生する魔法使いのコミュニティ──有名な観光地となっているゴドリックの谷やホグズミード村などは典型である──はマグルに対し、秘されるのが常である。
これらの前提を鑑み、辺境都市ヤーナムを考えると奇妙な点がある。
検知不能の全ては、マグル避けにしては過剰であり魔法族の来訪さえも拒んでいるように見えるのだ。
街の中は、マグル文化でいうところの十九世紀程度の古めかしい建物が多く、これまた驚くべきことにマグルの街であるのにエレキテル即ち電気が無かった。ここには、フランス大革命を頂点とする十八世紀より十九世紀への一大転向の威光は届かなかったようだ。
煙突やガス灯は立ち並び、屋内に入れば人々は燭台に置いた蝋燭で明かりを確保していた。住人は老人が多く、若者や女子供は少ない。私はガイドの先導を受けながら最も大きな街道を歩んだが、ほとんど見かけなかった。
魔法族がいた痕跡は、一見するところ無い。ヤーナムは、マグルの街である。それが執念じみた検知不可能呪文のようなものにより隠されている。マグルの街がなぜ隠されているのか。滞在中にその理由は分からなかった。だが、不思議なことにマグルは街を異常なものとして捉えていないのだ。
これが何を意味するのか?
壊すことは護るより容易い。
強力な忠誠の術を用いたとして、最後に頼りにするものが守人のささやかな良心であることからも秘密を秘匿することの難しさは分かるだろう。
ヤーナムが隠されている理由は何か。
少ない情報で確かなことを述べるとしたら、検知不能の効果を破ってしまいかねない、人々の往来はほとんど無い、ということだ。
さて。
これ以上のことを書き残す前に、街で雇ったガイドの青年を紹介しなければならない。
──やあ、旦那さん。ヤーナムは初めてかい?
見慣れぬ銀灰色の瞳。黒い髪を撫でつけた若い男。ヤーナムの市井の人々に比べると顔立ちは、幾分あっさりとして印象に残らない。彼は異邦人で、いずこからヤーナムに移住したのだろう。
彼は、自らを「月の香りの狩人」と名乗った。
何度か尋ねてみたが、彼はその不思議な名称を名前として名乗った。深く聞けば、名前が無いのだと言う。しかもそれで困らないのだから、いよいよ名前が無いことの支障は無くなってしまった、とも。
彼は(最終的に)数クヌートで街のガイドを引き受けてくれた。その道中、彼は私に「どこか病を持っているのか」と聞いてきた。
私は、ヤーナムを探してうんざりするくらい長々と歩いてきたのですっかり忘れかけていたのだが、物事のはじめはヤーナムが『古い医療の街である』から来たのだ。私は「無い」と答えた。わざわざ聞いてくれたのだから「ある」と答えた方がヤーナム医療の何たるかが聞けたかもしれない。
今にして思えば、少々真面目に答え過ぎた私は「昔見た本でヤーナムのことを知り、いつか訪れてみたくてここに来たのだ」と言った。彼は、ホッとした顔をした。
──それは結構なことだ。「何でも治る」だとか「不老不死になれる」だとか。突飛な噂を信じて来る人がいるもんでね。そんな人に真実を伝えるのは、夢の無い話だ。けれど、必要なことだろう? この仕事をしていて、唯一、気が滅入ることだ。
彼は外でヤーナムのことが、どのように伝えているのか興味深そうにしていたが、何も尋ねてくることは無かった。これは本当に幸いなことだった。私は今回の『旅行』についてもヤーナムについても、マグル・魔法族の誰にも訊ねて聞いたことは無かった。もし質問されたのなら彼の気分を害さない程度の嘘を吐くハメになったことだろう。
彼は、ガイドとして優秀だった。
それは紹介や解説の丁寧さ──ではない。
彼は、魔法族の血を引く者だったからだ。
ヤーナムが外との交流を絶ってしまった為、彼は私に教えられるまで『魔法族』の存在を知らなかったのだと言った。ゆえに、彼は杖を持たない。だが物に手を触れず動かすことをやってのけた。「仕事柄、のんびり死体漁りはできないからな」とはヤーナム風の言葉遊びであろう。
教育を受けていない魔法族は真なる意味で「魔法族生まれ」という呼称が相応しい。もっとも、魔法界においても彼のように孤立した魔法使い・魔女と言う存在は珍しいだろう。
彼は時おり、不可解な行動をした。聖堂街の古びた教会の近くで立ち止まり「あそこにいるものがみえるかい?」と質問された時は、何が何だかさっぱり分からなかった。教会の屋根にニーズルでもいるのかと目を凝らしたが、何もいない。彼は「ああ、そうなのか」と言った。その様子は、すこし残念そうであった。
(中略の概要:ガイドされて街を歩く様子が綴られていた。)
食事休憩のため、立ち寄ったパブでは私が話をする機会が多かった。
彼が特に興味を示したのは、私が勤めるホグワーツ魔法魔術学校だった。
聞けば彼には四人の子供がいるのだと言う。(私より若いのに!)
彼らの一部は職に就け、一部は孤児院に入れていると言う。けれど外で学ぶ機会があれば、その機会を彼らにあげたいのだ。
そんな親心を──彼はシャイなのだろう──遠回しで濁しながら言う。だから私はフクロウ便を用立てる必要がありそうだと考えていた。
入学者選定リストに漏れがあったことを皆不思議に思うだろう。
だが、ここは古都。辺境都市ヤーナムだ。フクロウも行方を無くしかねない。
ヤーナムは、イギリス魔法界の膝下にありながら秘匿された盲点なのである。
(中略の概要:一晩、宿泊後にヤーナムを発つ。その後、街道に出るまでのサバイバルライフについては流行の作家ロックハート並の論述であった。よほど刺激的な旅だったように見える。その後、彼はアルバニアへ旅立ったと綴られ、手記は終わっている。)
(最後の項の走り書き)
獣 血 蛇
【あとがき】
Q この作品は何?
A 最近、ブラボを始めた&Kindleでハリポタシリーズが読み放題。⇒書くしかない、と思い立ってしまった物語です。頑張ります。お楽しみいただければ幸いです。
Q ヤーナムがイギリスは無理ない?
A インタビュー記事やブラッドボーン作中においてガスコイン神父に異邦人設定がある限り、恐らくはイギリスではないと思われますが、本作においてはイギリスにあるということにしておいてください。(このような設定がタグの「独自設定」に該当します)
こんな感じで、本作の【あとがき】では、筆者の解説や考察をちょくちょく書きながら参りたいと思います。
きっと長い作品になると思いますが、メンシスの檻などお被りになって、気長に見ていただければ幸いです。
あとブラボ作品増えてくれ。
感想お待ちしています(交信ポーズ)