ありふれた職業で世界最強 ~偽者の英雄譚~   作:隻眼の翁

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 翁は忘れた頃にやって来る☆
 ……なんてカッコいいい台詞吐きましたが嘘です。ホントは色々と詰まって書けなかっただけです許して下さい。
 追記:活動報告にもアンケートを設けましたので、ご意見頂けると幸いです。


訓練と恐怖

 士郎が自身の〝転生特典〟と言う爆弾を突きつけられてから、既に二週間が経過していた。

 

 現在士郎は、訓練の休憩時間を利用してあることをしている。一人訓練場の隅に立ち、瞑想するように目を閉じていた。

 

 何故、士郎がこんな行動をしているのか。それは一重に、士郎の〝天職〟と魔法能力が関係していた。余り人に見られながらやりたくないが為に、こうして一人訓練を行う必要があったのである。

 

 そのまま精神統一を! と士郎は本腰を入れようとして、思わず深々と溜息を吐いた。ガクンと肩を落としたからか、全身から脱力した感覚を覚えながら。

 

「あー……やっぱり出来ねぇ……」

 

 まるで夜勤を終えた社会人男性のような声を出し、士郎はその場に雪崩落ちる。ボーっと暫しの間空を眺めた後、再度深~い溜息を零した。

 

「はぁぁぁぁ……やる気になれねぇなぁ……」

 

 士郎はそう言うと、懐からステータスプレートを取り出す。そうして自身のステータスを表示させ、食入るように眺める。

 

===============================

衛宮士郎 17歳 男 レベル:5

天職:弓兵

筋力:50

体力:85

耐性:60

敏捷:60

魔力:200

魔耐:200

技能:弓術・千里眼・■■■剣■・言語理解

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 これが士郎の二週間の訓練の成果であると同時に、士郎をここまで悩ませる原因だった。

 

 自身の悩みの種と対峙して、士郎は最早何度目か数えるのも億劫な溜息が出てきた。ガックシと肩を落とし、その悩みの種に対する愚痴を零す。

 

「やっぱり俺、魔法への適性ねぇんだよなぁ……」

 

 魔法適正の余りの低さ。それこそが、士郎の悩みの原因だった。

 

 この世界に置ける魔法は、体内の魔力を詠唱によって魔法陣へ注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が作動すると言う手順を踏む。魔力を直接操作することは不可能であり、目的とする効果によって魔法陣の式を逐一構築しなければならない。

 

 加え、詠唱の長さと比例して注ぎ込める魔力増大し、魔力量に比例して威力や効果も上昇していく。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も巨大化する。つまり、必然的に魔法陣自体も大きくなることを意味している。

 

 例えば、ファンタジーゲーム定番の〝火球〟を直進で放つだけでも、一般に直径十センチ程の魔法陣が必要とされる。基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が前提となり、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式が増えて魔法陣が巨大化していくのだ。

 

 けれど、何事にも例外は存在する。それこそ適性だ。

 

 適性とは、言ってみれば体質によって式をどれだけ省略出来るのかという問題である。例とすれば、火属性へ適性があれば、属性を式に書き込む必要は飛び、それによって式を縮小出来ると言う話だ。

 

 この省略はイメージによって補完され、式を必要としない代わり、詠唱時に〝火〟をイメージすることで魔法に火属性が加えられる。

 

 多数の人間はいずれかの適性を持っている為、上記の直径十センチ以下が平均である……のだが、士郎の場合一切適性がないが故に、前提の基本五式だけでなく、速度や弾道・拡散率・収束率を始めとした情報も式を書かなければならない。

 

 それが原因して〝火球〟一発放つのに直径二メートルにも及ぶ魔法陣を必要とした挙句、実戦では余り使い物にならないレベルで放たれてしまう。

 

 ちなみに、魔法陣は一般に特殊な紙を使った使い捨てる形式か、鉱物に刻む形式の二つが存在する。前者は、種類こそ豊かになるが一回と言う制限で威力も落ちる。後者は嵩張るので種類は持てないけれど、連続の使用も可能で威力も十全という長所・短所がある。イシュタル達神官の持つ錫杖は後者だ。

 

 そんな様々な経緯を経て、士郎は自身の〝天職〟である〝弓兵〟の技能を磨くことを余儀なくされたのだが……

 

 今度は魔法とは別に、こちらにも問題発生していた。

 

「訓練しても一向に〝派生技能〟は出て来ねぇしなぁ……」

 

 派生技能とは、先天的才能である技能を、唯一後天的に取得可能な方法のことだ。長年技能を鍛錬した者が、俗に言う〝壁を越える〟ことで以前まで不可能であったことを可能とするらしい。

 

 けれどこの二週間、士郎は騎士団主導の訓練以外にも自主訓練を行っているにも関わらず、一切の派生技能が現れなかった。何度も試行錯誤を繰り返しているだけに、士郎の気力は減る一方である。

 

「あー……行き詰るわ、こんなもん……」

 

 士郎は訓練を始めたばかりで、他の勇者一行も派生技能を取得していない。そもそも才能があると言うだけで簡単に〝壁を越える〟ことが容易いものではないことは理解していたが……やはり、やり切れない気持ちずにはいられなかった。

 

「ホントに嫌になるな、マジで……」

 

 ここ最近特に増した溜息を零し、肩を落とす士郎。そのまま意味もなく空をボーっと仰ぎ、次の訓練時間まで無為に時間を過ごそうとしたところで、ゆっくりと士郎は身体を起こした。

 

 倦怠感とは別に身体を動かしたくない! と訴えてくる気持ちに顔を顰めつつ、士郎は再度ステータスを表示させる。そして表示された技能の一つに視線を向けると、思わず先程以上に顔を顰めた。

 

「……技能(こいつ)を使えるようになるしかねぇかな、やっぱり……」

 

 湧き出てくる嫌悪感から愚痴を零す士郎が視線を向けるのは、以前から……それこそ士郎が転生してからずっと自身を悩ませていた〝転生特典〟の技能。文字化けと共に表示された〝剣〟の名を持った技能だ。

 

「でも、正直なところ使いたくねぇんだよな俺……」

 

 この技能の正体を士郎は知っているが故に、この力がどれだけ強力であるかを身を以って知っている。仮に自身がこの技能を使いこなすことが出来れば、士郎は間違いなく勇者である光輝と同等以上の力を持てると言う確信もあった。

 

 それだけこの技能は協力無比で、神が士郎に与えた絶大(チート)な力に違いはない。士郎としても強くなれると言うなら、それを拒む理由はなかった。

 

 だが、

 

「この技能……つぅか、この力が俺に与えてくれるのが〝強さ〟だけじゃねぇからな……」

 

 同時に、士郎はこの技能が自身に与えるリスクも理解している。ただただ〝強くなれるから〟なんて一言で危険を冒してまで強くなろうとする程、士郎は簡単に行動を起こす馬鹿にはなれなかった。

 

 もし仮に他の者がこの技能を与えられたとしても、自身と同じ決断をするに違いない。この力を与えられてリスクも考慮せずに使う者がいるとしたら、それこそ本物の馬鹿か英雄のすること。士郎のような臆病者には、絶対に出来ない決断である。

 

 士郎はそう結論付け、適当に訓練へ――戻りたかった。

 

「けど、そうやって逃げていられる程……戦争ってのは甘くねぇ筈だよな」

 

 自身の行動に一人呆れつつ、士郎は気持ちを引き締め直す。先程以上に深い目的意識を持ち、心拍数を落ち着けるようにゆっくりと呼吸していく。

 

(戦争に雫が巻き込まれてなけりゃ……俺もここまで真剣に悩んだりしねぇんだけどな)

 

 士郎は〝戦争〟というものを直接経験してきた訳ではないが、それでも多少は知っている。学校で習う戦争の歴史に加え、それが残す人々への影響。加え、あんなモノを()()()()()士郎に行動するなと言うのが無理だ。

 

 自身にとって、最も最優先させるべきは家族の雫。八重樫家に拾われた士郎が彼女を守れない等と言うことは、断じてあってはならないのだから。

 

(その為なら……俺はリスクだって冒せる)

 

 そうして再度深呼吸をし、最低限のことだけを残して頭の中を白紙に。外界へと向ける意識を全て内界へと向け直すと、士郎は一言呟いた。

 

「――〝投影(トレース)開始(オン)〟」

 

 たった一節の詠唱で、陣も用いられていない魔法。本来は発動することも有り得ず、そもそも存在すらし得ない異端の力。

 

 そして、何より――それは衛宮士郎が行使出来る唯一の魔法でもあった。

 

「……っ!」

 

 刹那、士郎の両腕に左右対称の双剣が握られる。

 

 それはただ作りたいが為に作られた、まるで自身の存在意義を問うかのような不器用な鍛冶の剣。無骨ながらもどこか美しい、陰と陽を体現した双剣。

 

 ――〝干将(かんしょう)莫邪(ばくや)

 

 士郎が最も嫌う男〝衛宮士郎〟が愛用し、慣れ親しんだ双剣が今、自身の両腕に顕現したのだ。

 

「はは。まさか〝投影〟に成功するとはな……」

 

 何度かその柄を握ったり離したりすると、士郎は何処か引き攣った笑みを浮かべる。別段今回の魔法が失敗するとは思っていなかったが、逆に一回でここまでの成功を収められるとも思っていなかった。

 

 一体今まで自身は何を恐れていたのかと、十七年間〝転生特典〟を使用してこなかったことが馬鹿らしく思えてくる。

 

「つぅか、これならもっと早くから投影の技術を磨くのもありだったかもな……」

 

 干将・莫邪を何度か振るい、その投影の杜撰さを理解する。

 

 外見こそ完璧に見えるが、剣の中身は空洞と言っても差し支えない出来栄えだ。それなりの魔力を消費して投影したと言うのに、これではまともに実践で使用出来るレベルではない。

 

「今度から自主練の時に投影も入れるべき……いや、その前に剣術を覚えるのが先か?」

 

 双剣を振るったまま、士郎はこれからの訓練について思案する。

 

 過去に何度か鷲三に八重樫流を仕込まれた際に理解しているが、士郎は剣術に対して一切の才能を持っていない。今も振るっている剣は型なんてモノがない、ただの素人の我流なのだ。仮に〝転生特典〟を頻繁に使うならば、雫か光輝、或いは騎士団の誰かに剣術を教えてもらわねばなるまい。

 

 双剣を携えて戦う〝弓兵〟はどうなんだよ……と苦笑いするも、士郎にとって最大の武器である力は〝転生特典〟だと割り切って双剣を握り直す。

 

 士郎が剣を再び振ろうと気を引き締めた、その瞬間。先程から握っていた干将・莫邪が、いきなりバキンッ! と音を立てて砕け散った。

 

「なっ……!?」

 

 突然のことに思わず目を見開くが、事態はそれだけに収まらない。突如、士郎は頭の中を内側から殴りつけられるような痛みに襲われた。

 

「ッ!」

 

 痛みに顔を歪めるが、歯を食いしばって意識を保つ。

 

 ここまで頻繁に頭痛が起きるとは思っていなかったが、この痛みは我慢していれば収まるモノ。気が狂う程じゃねぇ……! と気を引き締め直す。

 

 だが、

 

「あがッ!?」

 

 頭痛は士郎の予想に反して一向に収まる気配がなかった。痛みは引くどころか次第に酷くなっていき、士郎の頭を打ち破らんと威力を増す。

 

(何なんだよこれっ……! こんなのっ、俺は経験した事ねぇぞ……ッ!?)

 

 普段と全く毛色の違う頭痛に士郎は混乱するが、その答えは直ぐに知れた。

 

 規則性もなく頭の中で暴れ回っていた情報(いたみ)が流れを止め、ゆっくりと流動していく。グニャグニャとまるで粘土のように形を作っていくと、士郎の脳裏に一つの情景が浮かび上がってきた。

 

 そうして出来上がったのは〝衛宮士郎(だれか)〟の記憶。ノイズと靄は酷い状態だが、それだけは認識出来る程鮮明な光景。

 

 冬にも関わらず気温はそこまで低くなく、月がやけに綺麗な夜だった。誰か(しろう)は何をするでもなく、父である■■と月見をしたのを覚えている。

 

 何を話したかまではノイズが酷く、思い出すことも見ることも出来ない。けれど、その時に交わした大事な約束(のろい)は鮮明に覚えている。 

 

〝うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は〟

 

 わなわなと震える唇が、自然とその続きを零す。士郎が経験も覚えてもいない、大事な大事な約束(のろい)を。

 

「――俺が、ちゃんと形にしてやっから」

 

 半ば無意識の内にそう零すと、士郎の意識はプツンと途絶えた。まるで電源の切られてテレビのように。

 

 

 ◆

 

 

 

 最初に感じたのは、全身を包む柔らかな感触だ。何処か温かな熱を持っており、背からは思わず沈んでいくのでは? と疑いたくなる程の柔らかさがある。

 

 ボーっと焦点の合わない瞳が周囲の輪郭を鮮明に捉える内、次第にそれが天蓋付きでベッドであることを理解する。どうやら士郎は横にされているらしく、先程までふかふかのベッドで眠っていたのだろうか。

 

「俺は何を……?」

 

 寝起きが原因してか記憶が曖昧で、自身が先程まで何をしていたのか思い出せない。何とか思い出そうと頭を捻っていると、自身の眠っているベッドの隣から声が掛けられた。

 

「士郎! 目が覚めたのね!?」

「誰だ……?」

 

 声音は少女のモノで、酷く懐かしい気がした。重たい頭を動かして顔を確認すると、それが自身の幼馴染である八重樫雫であることをする。

 

「雫……? おまえ、どうして……?」

「どうしても何もないわよ、このお馬鹿っ……!」

「ちょ……流石に開口一番罵倒は……」

 

 弱弱しい声で雫の名を呼ぶと、返ってきたのは罵倒とも取れる一言。そのことに思わず反論し掛けるが、雫の声音が震えていることを理解して苦笑いを浮かべた。

 

 士郎の置かれた状況を未だ完全に理解出来なくても、彼女に心配を掛けてしまったことは理解出来る。毎度心配掛けてばっかだな、俺……と内心で反省すると、士郎はゆっくりと口を開く。

 

「雫……悪いんだが、直前の記憶が飛んでてな……何があったか説明してもらっても良いか……?」

「全く士郎は……」

 

 雫はそんな様子に呆れたのか、それとも安心したのか。苦笑いを浮かべ、士郎に何があったのかを説明してくた。

 

 どうやら士郎は訓練場の端で一人倒れていたようで、訓練の時間だとやって来た雫のクラスメイト達によって発見されたそうだ。特に光輝と龍太郎が心配して自身を担いでくれたらしく、後で礼を言わねばなるまい。

 

「ああ。それと皆士郎のこと心配してたから、ちゃんと後でお礼言っておきなさいよ」

「これまた面倒な……でも、流石にやるしかねぇよなぁ」

「当たり前よ。これから苦労するだろうけど頑張りなさい、士郎」

 

 思わず肩を落とした士郎に、雫が何時もの調子で楽しそうに笑う。その笑顔に士郎も頬を緩めると、頭の中で記憶を整理する。

 

(良し……何があったか思い出した。投影して、()()を見て……それが原因で倒れたのか、俺は……)

 

 その時のことを思い出すと、士郎は思わず鳥肌を感じずにはいられない。あれだけ〝転生特典〟を使うと意気込んでいたのに、いざ蓋と開けてみれば恐怖に襲われる。

 

 まるで、力が士郎のことを呑み込んでしまいそうな感覚。呑み込まれたが最後、二度と〝士郎〟と言う人間は帰ってこないのだと本能で理解した。

 

(あの力は……駄目だっ……)

 

 前世からの知識と今世の経験で、士郎は理解してるつもりだった。自身に与えられた〝転生特典(チート)〟が如何に強力で、同時に如何に危険であるかを。

 

 だが、

 

()()は……危険すぎるっ……!)

 

 士郎は単に理解した気になっていたいるだけで、その根っ子の肝心な部分からは目を逸らしていただけ。如何にも悲劇の主人公ぶって自分に溺れている、ただの餓鬼でしかなかったのだと理解させられた。

 

(俺は……本当にあんなモノと向き合えるのか……!?)

 

 最早隣でこちらを心配そうな顔で見つめる雫の存在を忘れる程に、士郎は自身に押し付けられた約束(のろい)に恐怖するしかないのだった。




 はい、そんな訳で今回は士郎君の初☆投影回でした。いぇーい。パチパチ。
 最初は投影をまだ挟むつもりはなかったのですが、気付いたら「いや、流石にいい加減投影の一発ぐらいやっとかんと衛宮士郎感でなくね?」と私の中のリトル翁が囁いてきた次第。それで何度かに及ぶ改稿を経て、投稿となった本話となりますハイ。
 まぁ、そもそもここまで口の悪くて弓道部にも通っていない本作の士郎君が衛宮士郎感しないのはご愛敬ですが。
 てな訳で、次回は皆大好きカオリンとハジメ君のイチャイチャパラダイスです。嘘です。私にそんな読んでる人が砂糖を吐き出すようなシチュ書けません。勘弁してつかぁさい。
 と、ここまで長くなりましたが、また次回の投稿でお会いしましょう。では。

ヒロインについて

  • シア
  • ティオ(ハァハァは未定)
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