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ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 作者:篠崎芳
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風よ吹け、白き女神の笑顔と共に


前回更新後に新しく1件レビューをいただきました。ありがとうございます。


次話更新は、今のところ1週間以内にできればと考えております。











     □



 高雄聖の固有スキル――【ウインド】。



 このスキルは他属性をまぜ込むことができる。

 複合属性のような使い方が可能となるのだ。

 しかし――聖は疑問を覚えていた。

 なぜベースが風属性なのか?

 進化したこの固有スキルを習得し、ようやく納得いった気がした。

 スキル名などは主に元の世界のゲームがベースだという。

 この固有スキル名もゲームに多用されるモチーフなのだろう。

 ただ、ゲームでなくとも”グングニル”の名は広く知られている。

 北欧神話の主神の持つ有名な槍の名である。



 さて、その主神オーディンは”風の神”ともされる。



 【ウインド】から――【グングニル】へ。

 スキルの主軸が風属性だった意味。

 固有スキルの習得によって解き明かされた進化、とも言える。


 その【グングニル】の能力は至極単純。


 超高威力のエネルギーそうを撃ち出す能力。


 限りなく一撃の威力を高めた攻撃極特化スキル。


 忙しさゆえか。

 あるいは傲慢さによる怠惰ゆえか。

 このところ女神は勇者のステータス確認を怠っていた。


 綾香の【武装戦陣(シルバーワールド)】の進化も知らないのではないだろうか?


 特に最近の聖は信頼され切っていた節がある。

 そのためか、このところはステータスチェックとはまったく無縁であった。


 ゆえに――【グングニル】は、女神も知らぬ進化スキル。


 そして、女神は……





     ▽





 ……、――シュウゥゥゥウウウ…………





「どう、して……こ、う……人間という、ものは――こう、も……」


 吹き、飛んでいた。


 右半身が。


 高雄聖が放った、固有スキル【グングニル】によって。



 



 状態異常系統は【女神の解呪(ディスペルバブル)】によってすべてキャンセルされるという。


 けれど攻撃系は読み通り――


 ただし女神はギリギリ回避行動を取った。


 おそらくはあらん限りの力を振り絞ったのだろう。


 ゆえに――全身を破壊するには、


 右半身の断面。

 ミミズに似た無数の触手が這い回っている。

 多分、身体を修復しようとしているのだ。

 が、修復速度が遅い。

 邪王素の影響と思われる。

 女神は残った身体中に汗をかいていた。

 その顔面も汗に塗れている。

 右半分の顔面は肉が剥き出しになった状態。

 保護するもののなくなった眼球も、剥き出しに近い。

 が、左半分の顔と口もとは――


 まだ、笑んでいた。


 読めない。

 追いつめられているのか、否か。


「ヒジリ、さん……なぜ、でしょう? あなたは……元の世界、に……戻りたく、は――」


「【ウインド(ファイア)】」


 旋風とまざり合い渦巻く大炎たいえん

 女神を焼き尽くさんがごとく炎が躍りかかる。

 仕様上【グングニル】は連発できない。

 時間を置かねばならないのだ。

 女神の右半身が、炎を浴びた。

 回避が間に合っていないのを確認。

 邪王素の影響でほとんど動けていないのだ。

 聖は聖で、そのまま剣を手に斬りかかる。


 女神が、後ろへ跳ぶ。


 またも、残された力を振り絞った感じで。

 女神の背後は――手すり。


 今、聖たちは二階廊下にいた。

 手すりの向こうは一階の広間になっている。

 要するに広間は吹き抜け。

 二階廊下の手すりからその一階広間が見おろせる造りだ。


 逆も然り。

 一階広間から見上げれば、普段なら、二階の手すり付近にいる人物と言葉を交わすこともできるだろう。


 女神が手すりから――



 そのまま、落ちた。



 落下した。

 一階へ。


 逃げようとしているのか。

 聖は【ウインド】による加速そのままに迷わず追う。

 一足で、手すりを飛び越える。


「――――――――」


 いない。


 手すりを飛び越えた先に。


 一階広間に――女神の姿が、


 大して動ける様子ではなかった。

 いや、違う。

 女神は炎に左半身を焼かれながら、


「…………」


 咄嗟に”何か”を懐から取り出し、飲み込んだ。

 聖はその瞬間を確かに目にした。

 そして、


「――――」


 落下しながら、聖は”それ”に気づく。


 二階廊下の真下。


 逆に一階から見れば、二階廊下の真下にあたる


 そこに、






 






 重力を無視した貼り付き方だ。

 さながらツルツルした壁にも貼り付ける虫のようで。

 汗をダラダラと流しているのはそのままだが――


 再生、している。


 肌はまだ形成され切っていない。

 が、手足の骨がすでに再生を終えていた。

 さらには、

 目が、



 金眼と白目であった部分がすべて、真っ黒になっていた。



 その黒く塗りつぶされた目に、一瞬、金の網の目のようなものが浮かぶ。


 が、その金の網はすぐに消えた。

 信号機のゆっくりした明滅のように。

 そうして再び――その目が黒一色に、染まる。


「ほとほと……ほとほと、愚かです。あぁ、しかし……”これ”をここで使うはめになろうとは。あぁ、本当にまさかですよーヒージーリーさぁーん? まさかまさかの、あらあらうふふ♪ うふ? うふふ……ニン、ゲン――」


 ニィィ、と。

 黒き瞳の白き女神が、笑む。




「  風情が  」




 聖は、天井に貼りつく女神へ炎渦えんかを放つ。

 女神が天井から跳ぶ。

 さながら、ゴキブリめいた動きで。

 女神は、広間から二階へとのびる階段前の床に着地した。

 階段の前には深紅の絨毯が敷いてある。

 また、女神の背後の階段は突き当たりで左右に分かれていた。

 その背後の突き当たりの壁に――


 巨大な肖像画が、かかっている。


 女神ヴィシスを描いた肖像画だ。

 清らかさを放つ肖像画の女神。

 そして、今やそれと同一人物とは到底思えぬ女神が――聖へと、向き直った。


「さてさて一体、どういうことなのでしょうか? ここで私を裏切って、心の底からどういうつもりなのでしょう? あーあー……あなただけは本当に信じていたのですよー? ほぉら、ニンゲンはすぐ裏切る……本当に、理解に苦しみます! あぁ、私がかわいそう……あーあ! ヒジリさん、やっちゃった! あーあ知ぃーらなーい! もう知りませんよ〜!?」


 今はスラスラ言葉を話している。

 先ほどは言葉を紡ぐのも難儀そうだった。

 そう、先ほどとは明らかに違っている……。

 聖は観察を深める。

 修復のための触手は――まだ、動いている。

 すでに筋肉が形成され始めていた。

 修復速度だけで見ても目に見えて上がっている。

 動きにしても、普通に動けている。

 今の女神の状態……


 やはりあの時飲み込んだ”黒い玉”の影響で、まず間違いあるまい。


 あの黒玉こくぎょくは完全な想定外と言える。

 まさか女神があのような能力増強策を隠し持っていたとは。

 弱っている姿を見て”ない”と判断したのは、早計だったか。

 しかし、


「…………」


 実は、女神は意外と追い詰められているのだろうか?

 聖は訝しむ。

 あの、大量の汗……。

 まだ汗は止まっていない。

 以前と比べれば女神が動けている方なのは確かだ。

 しかしやはり、邪王素の影響は大きく受けている。

 そう見ていいのではないか。

 ついさっき女神の跳んだ方向……。

 気のせいかもしれないが、邪王素の発生源――


 大魔帝がいる方角と、逆へ跳んだ。


 跳ぶ直前、女神は一度確認した。


 ”邪王素はどっちの方角から放たれているか”


 を。

 聖は女神のその一瞥を見逃さなかった。

 やはり、少しでも邪王素から離れたいのでは?

 つまりパワーアップしたとしても、変わらず邪王素は嫌がっている?

 女神は表情こそ笑みを浮かべている。

 言葉も余裕綽々といった調子。

 が、あれは虚勢という線も出てきた。

 あえて余裕を見せ、修復を終えるのを待っているという線。


 今、追撃をかけるべきか否か――


 聖は、考える。


 そして一つ、問いを投げた。


「今、あなたは……追い詰められているのかしら?」


「あら? おやおやー? 今までずぅぅっと黙っていらっしゃったのにいきなり話しかけてきました! どういう風の吹き回しなんでしょうか!? じ、自分に都合がよすぎますね!」


「…………」


「私こそ改めて聞きたいのです! なぜこんな愚かなことをしたのですー!? ひどい! ひどすぎます!」


「あなたが私のスキルから逃れる直前に飲み込んだ、あの黒い玉……まだ、いくつかあるのかしら?」


 パチッ


 女神が一つ、瞬きをした。

 と、目が暗黒一色から以前の状態に戻った。

 しかし――威圧感や状態は、変わらず。


「あ。……あー! なる、ほどー……」


 目が据わり、女神が、首を少し傾ける。



「――――――――おまえ、嘘がわかるな?」



 見破られた。

 やはり少し露骨すぎたか。

 女神が両手を合わせた――片腕は骨だけで、まだ再生し切っていないが。


「変だと思ったのですー……さっきまで黙って殺しに来ていたのが突然話しかけてきて、本当に気持ち悪くて……あーそうですか! あの時ですか! ほら、けっこう前に私の部屋に来て……本当に元の世界に帰れるのかとか、ピーチクパーチク質問した時……あれで”勘違い”したんですねー? ひどいですー……その場の真偽だけでわかった気になって、話し合わず、私を一方的に嘘つき呼ばわりして――あまつさえ、殺しにくるなんて! うぅ……えぐ、ひどすぎます」


 女神の両目が、弧を描く。


「ええっと――帰りたくないので?」


「私の読みでは、神族はあなた一人ではない」


「あーなるほど、なるほど! 私を殺せば代わりの神族が送り込まれると思った!? あーなるほど! なるほどそうですか! 私より話がわかる神族の存在に期待しているわけですかー! いるかどうかもわからないのにー!?」


「…………」


 騙せた。

 女神に頼る以外の帰還方法。

 今、女神が考えたような他の神族頼りではない。

 もう少し確実性のありそうな手段である。

 期待通り、勘違いしてくれたようだ。


「はーでも……残念♪ この私を、仕留め損なっちゃいましたね♪」


 聖は、観察を続ける。


「……さてさて。なぜ私はギリギリ回避できたのでしょう? 私に肩を貸していた時、あなたほんの一瞬……うふふ……私が指を差した方向と逆へ行こうかどうか迷ったでしょう? こう思ったのではないですか? もしかしたら……


 ”邪王素の方へ一歩でも近づいて少しでも弱体化させた方が、仕留める確率が上がるのでは?”


 とか」


 当たっている。


「しかし、あなたの中にそこでほんのわずか迷いが生じた……邪王素側へ近づこうとすれば、それはそれで、不意打ちに気づかれてしまうかもしれない。ただ……残念でした♪ 私は、あなたが葛藤をちらつかせた時点ですでに怪しく思ったので……ギリギリ、半身だけの”ぶっとび”で済んだのでした! 神を舐めるな」


「…………」


「うふふ。さっきの【グングニル】とかいうスキル……乱発はできないのでしょう? 少なくともある程度時間を置かねば次は撃てない――なぜならあなたは”普通ここで使うでしょう?”という場面で、使っていませんから♪ うふふふ、なんですかあの【グングニル】のあとに出した風と炎? 本気で殺す気があるんでしょうか? あのぉ……だ、大丈夫ですか? 正気を疑って、いいですか?」


 この時、高雄聖はある一つの仮説に達していた。

 あくまで仮説ではある、が。


「うふふ……ちょっとあなた、気に入りませんねー♪ 仕留め損なった上、私がこんなすごい強さを取り戻しているのに……まったく表情が変わらないのは、とっても嫌な気分です! ヒジリさん、もっとソゴウさんみたいに驚いたり絶望してもらわないと張り合いがありませんよー!」




 聖は跳んだ――機先を、制するようにして。




 【ウインド】の力を使い一足いっそくにて女神へと迫る。

 緩くではあったが、女神が、構えを取った。


 ミリッ


 無事な方の女神の左腕に、黒い脈が浮かび上がる。


 その左腕が、変形した。


 まるでそれは、大魔帝の触手鎌のような。

 けれど聖は止まらない。

 女神が――完全に、構えを取る。




「――――――――




 女神の懐へと、迫る。

 聖は、剣を振りかぶった。


 ガキィン!


 攻撃してきた触手鎌を、打ち払う。


「あら!? 絶妙に力を、逃がされたッ!? あらあら! なかなかやるじゃありませんか、ヒジリさん! で、す、が――」


 女神の腕がさながら花開くように、パックリ割れた。

 左腕がさらなる変態を遂げる。


 さらに二本、触手鎌が増えた。


 パチッ


 女神が、まばたきをした。

 再びその目が黒一色に染まる。

 そのままもう一つ瞬きし――通常の目に、戻る。




「これで、終わりです」




 風圧。


 局所的な暴風が、巻き起こった。


 想定していなかったであろう急激な暴風の発生。


 ドヒュッ!


 新たに発生した二本の触手鎌が、その風圧で女神の背後へ――



 



「!」


 一閃。


 聖の長剣の刃が、女神の右半身の肉を斬り裂く。


 刃にはかまいたちのような乱風刃らんふうじんを纏わせてあった。


 ゆえに攻撃範囲も、やや広い。


 場合によっては、ごっそりぎ取るような当たり判定にもなりうる。


 そして――


 再生しかけていた女神の頭部近くが、ごっそりと持っていかれた。



「……、――やってくれますねぇ、ヒジリさーん」


 間髪容れず剣撃を叩きつける聖。

 が、戻ってきた二本の触手鎌がそれを迎撃。

 飛び退き、距離を取る女神。

 聖は――


「――【ウインド(ブリザード)】――」


 追撃を、選択。


 パリィン! パリン――パリンッパリィンッ!


 連続する、氷塊の破裂。


「これは……視界、が……?」


 生成した氷。

 風の力でそれらが細かく砕かれ、周囲へと”爆散”していく。

 さながら氷の砂塵めいたそれらが――視界を、覆い尽くす。


 清冽な風切り音。


 ザシュッ!


 今度は女神の触手鎌を生成している方の左腕を――



 刃にて、断裂。



 聖は次の攻撃のモーションに入りながら、


「あなたの方こそ、おしゃべりがすぎたわね」


 聖は先ほどの女神の状態を、こう読んだ。


 ”あの長々としたお喋りはおそらく時間稼ぎ”


 では、なぜ時間稼ぎを?


 ”もっと再生しないと、まともに力を発揮できないから”


 そう推察した。


 つまり今の状態であれば――まだ、勝機はある。


 賭けにも近かったが、聖はそれを選んだ。

 幸いなことはもう一つ。


 通常の剣撃が通る。


 あの黒玉をのみ込んだ後の女神……。

 通常なら足もとにも及ばない力差があるのかもしれない。

 しかしこの”邪王素の影響下”という――




 




 切断された女神の左腕が、


 ドチャッ!


 地面に、落ちた。












 タイムリミットは――――1時間。




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