終末装置は降り立った
「…妖精王オベロン、颯爽と登場。…なんて」
─酷い続編もあったものじゃないか。
とあるカルデアの旅を見届けたオベロンが呪術世界に引っ張られてしまったお話。
なんとなく親和性が高そうだな、とか思ってしまったら筆が乗ったぽんきちです。
オベロンin呪術。基本的にfgoからはオベロンのみでぐだやあの子は回想で出るのみ。タグに腐向けはありますがそんな絡みが出る予定はない。
今回は導入と、そして設定紹介。好き勝手書いているのでよろしい方のみどうぞ。
- 112
- 128
- 1,636
世界を救うなんて役割を課されたマスターが世界を終末に導く虫にご執心なんて、哀れだなと思った事を覚えている。
「一緒にいてくれてありがとう」
ただ馬鹿だなと、気持ち悪いなと。
「見届けてくれてありがとう、オベロン」
そう寂しそうに、でも嬉しそうに笑った顔を、俺の手を取った温度を覚えている。
「…」
「…はぁ?」
無言でこちらを見つめる立香にオベロンは溜息をつく。
握られた手の温度はなんだか湿っぽく、こいつは今、俺なんか相手に寂しさを感じているらしい。
「…俺が?脳味噌空気でスカスカなんじゃない?勝手に召喚されて、もう会わなくていいと思うと精々するくらいだけど?」
「うん、分かってる」
分かってる、と噛み締めるように言う声の幼さに、オベロンはかける言葉を探さなかった。
マスターのマイルーム、そこで立香とオベロンは向き合っていた。
他のサーヴァントは既に退去を終え、マシュやその他スタッフ達は各々荷物を纏めている時分だろうか。
こんな忙しい時に俺達は何をしているのかと思うけれど、俺の手を握って俯くマスターは酷く幼げで、重ねられた手の大きさ、オベロンの指の細さなど容易に隠してしまえる大人の手とのアンバランスさに、何故か振り払えないでいるのが現状だ。
出会った頃には辛うじて残っていた子どもらしさは消え、精悍な男の顔になった藤丸立香。
青い空の瞳はそのままで、シワの少し増えた顔にまだ一緒にいたいという願いをのせ、それを隠して笑う大人へと成長した姿に苦々しく思う。
─現実を見つめ、人間らしく物語を置き去りにして成長する姿に苦々しく、そして眩しく思う。決して言ってはやらないけどね。
「でも、うん。やっぱりありがとうね」
「…チッ」
そう笑うマスターを見る己の顔はきっと酷いしかめ面だ。
そんなオベロンの言葉に藤丸はおかしそうに笑って、それを見てオベロン溜息を吐いて。そんな関係のまま妖精國から旅の終わりまで来てしまった。
召喚されて早々に妖精王のガワは目の前の男によって破り捨てられた。その身勝手さに呆れを覚え、諦めを覚え、気付いたら旅の終わりまで見届けてしまった己にまた溜息をつく。
異聞帯の切除、人類史の漂白、それに起因する諸々の問題はカルデアの良き人々、召喚された数多の英雄や目の前の男の努力と天運により一応の落ち着きを取り戻した。
そしてそんなある意味平穏を取り戻した世界に過去の英雄達の存在が許されるわけもなく、次々と座に帰っていく中、なぜか最後まで残されていた俺の番がやっと来たわけだ。
別に残りたくて残っていたわけじゃない。
ただ、きっと俺は藤丸立香の物語を見てみたかったし、マスターもそれを望んでいたからここまで残っていて、そしてそれも終わったから俺もここでの夢を終える、ただそれだけ。
「じゃあね、オベロン。俺の鏡」
「じゃあね、マスター。俺と同じ傍観者」
召喚され多くの戦いを見た。多くのサーヴァント、人間の生き様を視た。
等しく全てが気持ち悪く、何よりそれを見て、血まみれになってもなお前に進み続けるマスターが気持ち悪かった。こんな気持ち悪いもの、さっさと世界を救って終わりにしてしまえば良いとずっと思っていた。
(行け、行け。勝手にどこへなりとも行ってしまえ。俺)を置き去りにして現実へ戻ってしまえ)
指先から霊基が崩れていく、景色が遠くなる。
俺を見つめ、泣きそうに手を伸ばすマスターの姿を憎々しく、愛おしく
思いながら俺は眠るように意識を手放した。
周囲には何もなく、始まりも終わりもない奈落の中、
ひゅうひゅうと落ちる、先もないウロをただ落ちていく。
パチリと目を開き、そして夢から覚め未だ落ち続ける己を自覚する
─落ち続け、そしてこの世界から消滅する感覚を自覚する。
(俺の役割ももう終わり、か)
混ざり物のオベロン・ヴォーティガーンがカルデアへ存在できたのは人理の危機だったからだ。嘘が嘘のまま通っていたからだ。
だから人理が安定した今、異聞帯のオベロンは繋がる先もない。座に登録される事もなく世界にすら存在を否定される虚構の存在。
オベロンという物語が、終末装置という存在意義が、カルデアのサーヴァントなんていう役割が消える。
全て、全てがこの体とともに消えていく。穏やかな終わりなんて、世界を呪う終末装置には過ぎた終わりだ。
「…おやすみオベロン、おやすみヴォーティガーン」
「─もう二度と目醒める事などないように」
ふわりと欠伸を一つ。
自分の体が崩れ去る音を聞きながら穏やかに役目を終えた週末装置は瞳を閉じた。