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提出を頼まれたプリントを抱えながら廊下を歩いていると、耳に届いた雑音にふと足を止める。 廊下の窓から見えるラグビー場、そのポールの上に見える呪霊─最近見慣れてしまったソレから眼を逸らし、再び歩き出す。
『はやく、はやぁく』 『ぁァアぁあああああああぁぁあ゛ぁ゛ァァア』 『せきについて、よぉーい』
「…うるさいなぁ」 いつからこの高校は化け物の動物園になったのか、なんて口から出かけた言葉を咄嗟に口許を押さえ、飲み込んだ。
いけない、いけない。
きっと高校の生徒の大半は見えていないだろうし、それに『キラキラしてて優しくて、不幸な身の上でも頑張っている王子様』なオベロンに周囲は汚い言葉遣いも特殊能力だって望んでいない。
気を付けなければと顔に力を入れ、柔和な笑みを頬に乗せた。
─この世界に生まれてから見えない降りが得意になったななんて、本当に嫌な感傷だ。
不気味な化け物のから目を逸らして、この世界の気持ち悪い仕組みを見ない振りして過ごしてきたこの10年。 ただの被虐待児だったオベロンは杉沢第三高校の一年生になっていた。
今生での親の死を見届けて気を失ったあの後、オベロンは病院で目が覚めた。
そうして目を覚ました俺を待っていたのは見たことも会った事もない親戚を名乗る人物達、そして事実確認のため警察やこの世界でいう呪術師なんて奴らと、『よく視える視界』だった。
悲しんでるくせに嗤っていて、心配を口に出すくせに面倒だと顔をしかめて。
妖精眼。 悪意に短所に、醜い性質を浮き上がらせるそれが、始めて彼等を捉えた時、吐かなかった己を褒め称えてあげたいと今でも思う。
そして、そこからは胸に込み上げる不快感に蓋をして、にこやかに笑って、そんな奴らと変わるがわる中身のない話をした訳だ。
「こんな歳で一人だなんて可哀想に」『一緒に死ねばよかったのに、面倒くさい』 ─ああ、そのほうが楽だっただろうね。
「なんでも言ってね、力になるわ」『こんな時でも落ち着いてるなんて相変わらず気味が悪い、引き取るなんてごめんだわ』 ─俺もアンタの家に行くのはごめんだね、適当に施設でも探してくれよ、そのほうが何倍もお互いのためさ。
「君、何か見なかったかい?」『おかしい、残穢の特定ができない。この子供が原因か…?いや、こんな呪力も感じられない子供が?』 ─へぇ、あの化け物は呪霊と言うのかい。俺?いや『僕は一般人さ、ただの観客だから君たちの物語に巻き込まないでくれないかい?』
ニコニコ、ペラペラ、心にもない台詞を舞台役者のように回してかき混ぜて。 自身の処遇を押し付け合う親類縁者達には今後関わりが少なくて良いよう、それとなく施設へ厄介払いする事を勧め、術師達には自分は一般人であると嘘をつき。
そうしてオベロンの努力もあってあの出来事はよくある悲劇へと昇華され、『ただの』高校一年生オベロン・ヴォーティガーンへ繋がったのだった。
つまりそういうコトなんだろう?
オベロンin呪術 第二話です。
進んだ様な進んでない様な、導入編そのニ。
こんなふうにダラダラと原作にひょいっとオベロンを添える感じで進んでいこうと思いますので宜しければ、どうぞ。
第一話のブクマありがとうございました!