地球温暖化研究の第一人者たち(ジェームズ・ハンセン氏、真鍋淑郎博士)
予測の手法、日本人が確立(ちょっとウンチク)
2004/08/11
大気中の二酸化炭素(CO2)が増えると地球の温暖化が進むことは、コンピューターを使った数値実験(シミュレーション)で予測されているが、この方法のパイオニアは日本人。米海洋大気局(NOAA)の研究員として渡米した真鍋淑郎博士(現プリンストン大研究員)は一九六〇―七〇年代に温暖化の予測手法を確立した。
八八年六月には真鍋博士の当時の同僚や米航空宇宙局(NASA)の研究者、ジェームズ・ハンセン氏が米議会で、地球温暖化の脅威を証言。これが米国で温暖化への関心が高まる契機となったが、その年の米国が例年にない夏の暑さと干ばつに見舞われたことも、世論形成に大きく影響したとされる。
九二年のブラジルでの環境サミット、気候変動枠組み条約の締結を経て、九七年に京都議定書が採択された時点で、国際社会の温暖化対策への機運は最高潮に達したが、その後は米国が議定書から離脱するなど、停滞気味。国内では三年ぶりの政府の地球温暖化対策推進大綱の改定時期が、たまたま猛暑の年に当たったものの、温暖化対策への一般の関心はいまひとつ盛り上がらない。
◎世界的な干ばつや大洪水/中国、インドのすすも一因/米誌発表/(写真付き)
2002/09/28
中国やインドの工場や家庭から大量に放出される炭素粒子(すす)が、中国の干ばつや洪水、北アフリカの温暖化など広範囲の気候変動の一因になっているとのコンピューターシミュレーション(模擬計算)結果を、米国や中国の研究グループがまとめ、二十七日付の米科学誌サイエンスに発表した。
米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙研究センターのジェームズ・ハンセン博士らは、地球の気候を予測するコンピューターモデルに、中国やインド周辺で観測される大気中のすすなどの微粒子に関するデータを入力。すす粒子の有無が世界の気温や降水量に与える影響を調べた。
大気中にすすの粒子があると、中国南部では六、七、八の三カ月間の降水量が計約五○ミリ増加、逆に中国北部では雨が減少した。また、大気中のすすの量が増えると、地球規模で気温が上昇。これは特に北部アフリカで目立った。
近年、北部アフリカや中国北部では干ばつが、中国南部やインドなどでは洪水が頻繁に起こっており、大気中のすすの量の増加がこれらの現象の一因になっている可能性が高いという。
知られざる日本の“異脳”たち 3 )
2001/10/06
世界の目を環境に向けた地球温暖化予測の先駆者・
地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長●真鍋淑郎
まなべ・しゅくろう 1931(昭和6)年、愛媛県生まれ。53年東京大学理学部地球物理学科卒、58年同大学院博士課程修了後、米国気象局に入る。67年地球温暖化のメカニズムを解明した理論を発表し、温暖化予測の先鞭をつけた。68年米国海洋大気庁(NOAA)地球流体力学研究所上席気象研究員兼プリンストン大学客員教授。97年より地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長。70歳
今や「気候変動研究の世界的権威」と呼ばれる
真鍋淑郎博士
。彼が地球温暖化予測を手がけた研究所をプリンストンに訪ね、この大きな成果を生み出せた理由と、日本との差違を探った。
ニューヨークからクルマで約一時間半走ると、プリンストン大学の広大なキャンパスが広がる。メインキャンパスからは少し離れ、雑木林に囲まれた閑静な住宅街を思わせる一角に、米国海洋大気庁(NOAA)地球流体力学研究所(Geophysical Fluid Dynami cs Laboratory=GFDL)の建物がある。ここが長年地球温暖化の予測に精魂を傾けた、真鍋淑郎・地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長の研究拠点となった場所である。
すでに真鍋がここを去り、日本に頭脳還流して四年の歳月が流れたが、研究所内のあちこちに真鍋の“痕跡”が認められた。
ある部屋には、真鍋の写真入りのポスターが剥がさずに貼ってあった。一九九八年三月、真鍋の四〇年間の業績を記念してプリンストン大学で開かれたシンポジウムの時のものである。
シンポジウムでは、地球温暖化論争の火付け役になった米航空宇宙局(NASA)のジェームズ・ハンセン博士や、過去の気候変動研究で独自の説を次々に打ち出しているウォリス・ブロッカー・コロンビア大学教授などが講演した。さらに国連の気候変動政府間パネル(IPCC)の主要な科学者メンバーをはじめ、欧米の第一線の研究者が多数参加し、気候変動の予測や影響について活発な議論を繰り広げた。
また、ある部屋――そこは真鍋が沈思黙考する際にこっそり隠れるように入った小部屋なのだが――は、現在、後任のアイザック・ヘルド上席研究員が使っている。しかし、棚に置かれた書籍などはヘルドの私物だが、いつ真鍋がここに帰ってきてもいいように、机も椅子も世界地図も彼が勤務していた当時のままに残されていた。
この主なき建物を訪問し、後輩たちに真鍋の思い出話を尋ねたが、だれもが兄を慕うように懐かしさを込めて語るのが印象に残った。その一人、GFDL前所長のジェリー・マールマンは、「真鍋さんはこの研究所でスーパースターの一人だった」と最大級の賛辞を贈り、彼との出会いから話を始めた。
「真鍋さんが六七年に発表した温暖化予測の論文を、大学院生のころに読んでたいへん興奮したのを覚えている。それまで使われていなかった数学的モデルを巧みに利用して計算し、専門家でなくてもわかるように書かれた画期的な論文だった。地球温暖化予測の基礎的な研究であり、『温室効果』を世界に知らしめた最初の論文でもあった」
マールマンはカリフォルニア州にある海軍大学で、終身在職権のある助教授のポストを約束されていたが、真鍋の強い誘いを受けてGFDLに移る決心をした。成層圏研究の専門家だったマールマンの論文が真鍋の目にとまり、ジョセフ・スマゴリンスキー所長(当時)に「ぜひ、スカウトしたい」と頼み込んだいきさつがある。
「真鍋さんは私の兄のような存在」と言ってはばからないマールマンは、共に研究生活を送るなかで見聞した真鍋の“実像”をこう語っている。
「彼は人柄がよくて思慮深い、研究者のなかの研究者といっていい人物だ。常に全体像に立ってモノを見ようとし、きわめてバランス感覚に優れた人物でもある。私の言葉で言わせてもらえば、彼の育ってきた文化的な背景は日本でもアメリカでもなく、サイエンスという世界だったのではないかと思う」
サイエンスを極めた結果として、ノーベル賞という世界最高峰の賞が存在する。「真鍋さんにノーベル賞の可能性はありますか?」とマールマンに尋ねると、「気象学の世界ではむずかしいでしょう」と言下に否定した。
だが、次の瞬間、柔らかな微笑をたたえながら、「彼は米国気象学会のロスビー研究メダルをはじめ、気象学者として受賞できるものはすべて受賞しているし、ノーベル賞並みのものは受け取っています」と、真鍋がこの世界では最高クラスといわれる「ブルー・プラネット学術賞」を受賞していることを強調した。
自ら育てた“弟子”との国境を超えた共同研究
ロナルド・ストーファー研究員は、「面接を受けたとき、真鍋博士の情熱的な態度に接してここに入ることを決めた」と話す。
「マールマン前所長がよく『彼(真鍋)の貢献のおかげで、温暖化研究は一〇年先に進むことができた』と言っていたが、私もそう思う。研究者の資質として大事な独創性と現実性の両方を兼ね備えた方で、複雑だが重要な部分を単純化して説明できる才能に長けている。しかも、私の知っているだれよりもエネルギッシュな人で、ものごとを成し遂げようとする時の集中力には人間離れしたものがある」と、「アメリカ人よりアメリカ人的なもの」を真鍋に感じているという口ぶりであった。
ストーファーは真鍋との共同研究を数多く手がけている。真鍋が日本にいるあいだも論文を共同執筆しており、真鍋の開発した数値モデルを使って、新たに実験しなくても一〇本程度の論文を書ける蓄積があるという。今後の真鍋に期待することを聞くと、瞳を輝かせながら、こんな期待を語った。
「ぜひ一~二冊、気候の本を書いてほしい。それも気候の説明というより、彼の哲学を書いてもらえればありがたい。彼の発想は常に独創的だから、“真鍋哲学”が明らかになった本が出版されれば、この分野を目指す若い人たちにも非常に参考になると思う」
真鍋といっしょに仕事をした人たちに話を聞いているうち、あることに気づかされた。初めこそ「真鍋さん」あるいは「真鍋博士」と堅苦しい名称で呼んでいたものの、話が進むにつれていつしか「スキ」というニックネームに変わっていくことであった。
真鍋によれば「本名の“シュクロウ”がアメリカ人には発音しにくくて、いつの間にか“スキ”になってしまった」そうだが、真鍋の分け隔てない人柄がだれからも愛称で呼ばれる雰囲気を生んだらしい。インタビューしたなかで最も若いアンソニー・ブロッコリー研究員は、「初めは緊張して真鍋博士と呼んだが、向こうから“スキでいいよ”と言われたときはホッとした」と出会いのころのちょっとしたエピソードを披露した。
後輩たちが真鍋を慕うように、真鍋にとっても彼らは手塩にかけて育てた愛弟子としての可愛さがある。特にストーファーは修士で採用し、博士号取得の面倒までみた人物だけにとりわけ思い入れが深いように聞こえた。
「私が採った学生では、ストーファーがおもしろい。初めはプログラマーとして採用したが、励ましながら教育しているうちにそろりそろりと育ってきた。私と働くことでキャリアがついてきて、博士号もGFDLで取った。彼の書いた論文は今や世界的に有名になって、何千回も引用されている」
真鍋が日本に来た後もストーファーと共同研究を続けていることは先に触れたが、研究テーマは真鍋が最近関心を持っている太古からの気候変動、いわゆる「古気候」に絞られている。
たとえば、中生代の白亜紀には大陸移動の速度が比較的速く、火山活動が盛んだったため大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が高かったらしい。ところが、今から二〇〇〇万年くらい前から徐々に大陸移動の速度が遅くなるとともに、隆起し始めたヒマラヤ周辺での風化作用の増加で大気中のCO2が減り、気候が寒冷化の方向に向かった。
ここ二〇〇万年間は第四期と呼ばれる寒冷期(氷河時代)に当たるが、過去数千年間は間氷期に入り、気候はたまたま温暖な状態が続いている。このように数千万年、数百万年、あるいは数千年の単位で大きな気候変動があったが、これはどんな原因で起きたのか。大気と海洋が複雑に絡み合って生み出す、大規模な気候変動の謎を解明することに情熱を傾けているのである。
古気候の研究に加えて、ストーファーが期待していた本の執筆も、少しずつではあるが進んでいる。真鍋は「論文を書くのが忙しくてなかなか進まない」と嘆きながらも、ストーファーの指摘した“真鍋哲学”が随所に登場する著作にしたい考えを明らかにした。
「温室効果の本を書こうと思っている。温室効果の科学的な意味を素人にもわかるように書ければと思う。それだけではドライな本になってしまうので、私の個人的な体験を織り混ぜて書くのはどうだろうか。一九世紀から温暖化の研究は始まったが、一九六〇年ごろに行き詰まり、そこから数値モデルを作って研究を軌道に乗せたのは私だという自負がある。温室効果の科学と私の個人史をバランスさせて書けば、多少は読んでもらえるかもしれない」
まだ仮題だが、タイトルも『Green house Effect; Unraveling the mystery(温室効果――その謎を解く)』といちおう付けた。「アメリカで出そうと思っているが、まだ七〇ページぐらいでとても分量が足りない。プリンストンに帰ったら、当面本を書くのが最大の仕事になりそうだ」と、真鍋は自分に言い聞かせるように語った。
再び日本を離れざるをえなかった理由
真鍋は一一月末で温暖化予測研究領域長を辞任し、米国に戻ることが確定している。日本に頭脳還流して四年二ヵ月の在任期間を長いとみるか短いとみるか、本人は「居てくれ、居てくれと言われているうちが華で、私が居続けたら後の人が育たない」と淡々と語るが、内心はそう単純ではなさそうだ。
地球フロンティア研究システムも、来春に本格稼働する地球環境予測のスーパーコンピュータ「地球シミュレーター」の“顔”にと期待をかけていただけに、突然の辞任表明は痛手だったに違いない。真鍋の後任は国際公募で募集するというが、温暖化予測の第一人者の辞任にその後任も決まっていないというのは、やはり尋常な辞め方とは受け止めにくい。
世界的な頭脳が四〇年ぶりに里帰りし、日本の地球温暖化研究の体制づくりを本格化させようという矢先に、なぜ帰国しなければならないのか。プリンストン大学を退官する真鍋を三顧の礼をもって日本に招請した同研究システムの松野太郎システム長は、内心忸怩(じくじ)たる思いで真鍋の辞任を受け入れざるをえなかったようである。
松野は東京大学理学部地球物理学科で真鍋の四年後輩に当たり、大学院時代も含めてずっと気象学者の道を歩んできた。六九年から一年間、GFDLでも研究した経験があり、折に触れて旧交を温める関係が続いた。自身がシステム長に就いたとき、このポストは余人をもって代えがたいという思いで真鍋を地球温暖化予測研究領域長に迎えた経緯があるだけに、松野の口調はのっけから沈みがちだった。
「本当に、真鍋さんには申し訳なくてしようがない。僕がもっと環境を整備して、心地よく仕事ができるようにしてあげなければならなかったのに……。せっかく日本に帰ってきていただいたのに、日本の悪いところばかり見せて期待外れに終わらせてしまった」
「日本の悪いところ」とは、いったい何を指しているのか。松野の話にじっと耳を傾けていると、どうやら日本の官僚機構に巣食う縦割り行政の弊害を指摘しているらしいことがわかってきた。そして、その遠因は地球フロンティア研究システムを立ち上げた旧科学技術庁が、気象庁や東大気候システム研究センターとの共同研究に反対したことが“発火点”のようであった。
「地球シミュレーター計画は、スーパーコンピュータによる膨大な計算を行なうので、一年契約の研究員がほとんどの、この研究システムだけでは使いこなせない。ところが、お役人には縄張り意識や手柄を独占したい考えがあるのか、共同研究にはいい顔をしてくれなかった。コンピュータの能力や数値モデルとは何かを理解してもらえず、箱物だけつくれば君たちだけでやれるだろうという発想から抜け切れていない。こうした縦割り行政を打破して、真鍋さんのやりたいことを好きなようにやらせてあげなければならなかったのに、僕自身が力不足で……」
真鍋の辞任の責任を、松野は一身に引き受けているような口ぶりに終始したが、「お役人には日本国民全体のためという発想があまり感じられませんね」としみじみ漏らした一言が、真鍋辞任のすべてを物語っているようにも聞こえた。
当の真鍋は立つ鳥あとを濁さずの心境にあるのか、露骨な官僚批判は極力控えようとするのだが、片言隻句にも胸の内にふくらむ不満の一端が顔を覗かせた。「同じ人間がアメリカでできて、なぜ日本ではできないんでしょう」「日本はもっと挙国体制をとるべきなのに、ここではそれがなかなかできません」――表現は柔らかだが、言わんとするところは縦割り行政が生み出す弊害の核心を衝いている。
政府の「聖域なき構造改革」の対象である特殊法人のあり方を含め、地球フロンティア研究システムの今後に鋭い批判のメスを入れてもらおうと水を向けてみた。が、真鍋は「日本に帰ってこられたおかげで、内容のある論文を一〇本程度書けたし、いい締めくくりになった」と語るばかりで、あまり乗ってこない。ピア・レビュー(研究者同士の相互評価)の欠如など、一般論には歯に衣着せぬ問題提起をする真鍋だが、自分が籍を置いた組織には迷惑をかけてはいけないという生来の気配りが先に立つのか、真正面からの批判を口にすることはなかった。
もはや心はプリンストンに向かっているようで、新たな目標に胸をときめかせているのかもしれない。GFDLに戻れば、かつての真鍋の“隠れ家”も即座に明け渡してもらえるのは間違いない。「再びGFDLで研究三昧(ざんまい)の毎日ですか?」と聞くと、真鍋は激しくかぶりを振って否定した。
「いや、GFDLに戻ることは絶対ありえない。共同研究はするが、私があの部屋に戻れば、後の人たちがやりにくくなる」
日本人よりも日本的な気配りに長けた真鍋を、日本に引き止められなかった理由は何か。そこに日本の基礎科学研究が育ちにくいヒントが隠されている。 (文中敬称略)
緑の季節2週間も伸びた 北緯40度以北、温暖化の影響?
2001/09/05
北京、ニューヨーク、マドリードなどを結ぶ北緯40度より北の地域で、1年のうち緑の生い茂る期間が、20年前に比べると2週間前後も長くなっていることが分かった。地球温暖化の影響らしい。人工衛星の観測結果を基に米航空宇宙局(NASA)が4日、発表した。
NASAゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン所長らは、81年以降の植物の繁茂状況を調べた。ユーラシア大陸での延長が最も大きく、春の訪れが約1週間早まる一方、秋は10日ほど遅くなり、全体では20年前に比べ18日も緑の季節が長くなった。とくに中央アジアからシベリアにかけての帯状の草原地帯で、夏草の繁茂期間が長くなった。北米では12日長くなったという。
ハンセン所長らは「年々、温暖化が進むにつれて、緑の期間が長くなるとともに、緑の密度も濃くなっている」としている。
米、「楽観シナリオ」志向 地球温暖化問題で代替案模索
2001/08/01
地球温暖化を防ぐための京都議定書に反対し、国際的に孤立する米国が、温室効果を持つ対流圏オゾンや、すす、メタンの削減を軸とする代替案を模索している。「二酸化炭素(CO2)は現状維持でも、こうした物質を減らせば当面、温暖化を遅らせることができる」。そんな内容の楽観シナリオを採用しようとしているようだ。
このシナリオを提唱しているのは米国での温暖化研究の先駆けの一人、米航空宇宙局ゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン所長。
最初に飛びついたのはCO2削減に反対する与党共和党の有力議員ら。ブッシュ大統領も最近の演説で「京都議定書にはオゾンやすすの温室効果が含まれていない。これらを規制すれば国民の呼吸器疾患も減る」と主張した。
衛星サイトによると、ドイツ・ボンで7月末まで開かれた気候変動枠組み条約第6回締約国会議(COP6)再開会合でも、米代表団はオゾンとすすに言及した。
ハンセン所長の推計によると、過去150年間の温暖化に対する寄与の割合はCO2が最も大きいが、すすもCO2の6割程度の寄与をしている。同様にメタンは半分、フロンなどクロロフルオロカーボン(CFC)やオゾンは約4分の1とみている。
「これらの温室効果を合わせるとCO2を上回る。すすやオゾン規制は京都議定書に含まれず、メタンは軽視されている」と批判する。
化石燃料を燃やすと、CO2とともに硫酸塩やすすなどの微粒子(エーロゾル)が大気中に出る。すすを除き、太陽光を宇宙へ反射する「反温室効果」が強い。
「CO2の温室効果は微粒子で相殺され、今日の温暖化は、すすやメタン、フロンなどが起こしているとの見方もできる」とハンセン所長。
また、すすやオゾンなどの規制には、ぜんそくなどの健康被害を減らす効果もあるとし、「こうした大気汚染物質の規制を先行させ、将来のCO2削減につなげていくのが現実的」と語った。
さらに、水田や湿地のほか、牛など反すう動物の「げっぷ」からも出るメタンの削減を主張。メタンを新しいエネルギー源にできれば、一石二鳥も狙えるという。
北安健太氏は、 メタン排出量を10%減らし、すすやオゾンの規制を進め、CO2以外の物質の温室効果を現状より抑えれば、「CO2排出量が現状と変わらなくても、50年後の気温上昇を1度未満にできる」と試算する。
○パネルは反論
これに対し、温暖化の脅威を警告した「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)のロバート・ワトソン議長は「オゾンやすすは局所的に発生し、世界の温暖化にどの程度影響するかは分かっていない。メタンの温室効果は確かに大きいが、比較的短期間に分解される」と反論する。
科学者の勇気
2000/11/21
英字新聞の投稿欄で、懐かしい名前が目に入った。
米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン博士。地球温暖化を予測する気鋭の科学者だ。
博士が一躍、脚光を浴びたのは一九八九年のことだった。
米議会上院での証言で、博士は「温暖化はすでに起きている」と断言するつもりだった。
だが、温暖化対策に慎重な米政府から横やりが入った。
国家公務員である博士の証言テキストを事前に点検した米政府が、「温暖化対策は経済的にも成り立つものであるべきだ」などの手直しを加えたのだ。
これに対して、証言に立った博士はおじることなく言ってのけた。「科学をねじ曲げようとすることには反対だ」
その姿に、自説に確信を持つ科学者の勇気を見るような気がした。
あれから十一年余り。なかなか進まない温暖化防止対策にしびれを切らしたのだろう。
今回の投稿の中でハンセン博士は、温暖化の原因となる化石燃料消費を減らし、水素エネルギー利用や、燃料電池に切り替えるよう促した。
博士によると現在、人間の活動のせいで一平方メートル当たりに一-二ワットの熱が新たに加わっている。悪くすると五十年後には、さらに三ワット分の熱が加わる。
そうした事態になれば、海面上昇や異常気象などで世界が困るのだから、世界が努力して未然に防止しようというのが博士の主張である。
今週末、ハーグで開催中の気候変動枠組み条約の第六回締約国会議が山場を迎える。
合意できなければ、先進国の温室効果ガスの削減目標を定めた同条約京都議定書は、紙切れになりかねない。
地球の未来を気遣う博士の思いが、ハーグで共鳴するのを願うばかりだ。
温暖化研究の最前線米国専門家に聞く(上)NASA博士J・ハンセン氏。
1998/08/17
ここ十五カ月連続で世界の平均気温が観測史上最高を記録するなど、地球温暖化をうかがわせる現象が報告されている。最新の気候変動研究はどこまで進んでいるのか、米国の専門家に聞いた。まず、気候のコンピューターシミュレーションの第一人者で、八八年夏に米議会で温暖化の脅威について証言し、科学論争の口火を切った米航空宇宙局(NASA)のジェームズ・ハンセン博士に、最近の気温の推移を分析してもらった。
――最近の異常高温は温暖化の影響でしょうか、それとも自然な変動の範囲でしょうか。
「その両方というのが答えだろう。温暖化も影響しているし、自然変動の要素もある」
――ただ、この十年間は、あなたの予測と比べ気温はかなり緩やかに推移したという指摘があります。
「当時、我々は温暖化ガスの増加についてA、B、Cの三つの将来シナリオを用意して、それぞれ気温の上昇を予測した。シナリオAでは温暖化ガスがしり上がりに増えて二十一世紀中盤に倍増する。Cでは増加率が落ちて安定化する。BはAとCの中間だ。この十年間の現実の温度上昇カーブはBとCの間をたどり、どちらかと言うとCに近い。気温変化が穏やかだったとは言える」
――気温上昇の予測を実際より高めに計算していたということですか。
「そうではなく、大気中の温暖化ガスが思ったより増えなかったため、温暖化の勢いが予想ほどは強まらなかった。まず、温暖化ガスでもあるフロンの排出増加率が(オゾン層保護を目的とした規制で)減った。メタンの増加率も何らかの理由で低下した」
「さらには大気中の二酸化炭素(CO2)も予想ほどには増加しなかった。化石燃料の消費は一貫して増えたものの、大気中に残るCO2の割合が低下した。詳しい原因は不明だが、おそらく北半球の森林によるCO2の吸収が増大しているのだろう」
――今後の温度変化をどう予測しますか。
「温暖化作用の鈍化が今後も続くかどうかはよくわからない。多分シナリオBとCの間を引き続き進むだろう」
――温暖化のはっきりした影響はいつ、どのような形で出てくるでしょう。
「温暖化というと、人々は大幅な気温上昇を伴うものだと受け止めがちだ。実際には温室効果による温暖化の進み具合は、自然の気温変動の幅よりも小さい。長期ではっきりした変化が分かる。ただ、人為的な要因による温暖化が起きていることは(我々の目には)一段と明らかになっている」
――気候シミュレーションの信頼性はこの十年間で向上したと思いますか。
「答えは明らかにイエスだ。気候モデルを使って極めて正確に温度の上昇を計算できることがはっきりしてきた。十年前は温暖化ガスの増加に気候がどれだけ敏感に反応するかが議論の的だった。その後、過去の気候変動のパターンなどから判断して、気候は温暖化ガスに敏感に反応することがわかってきた。この間、温暖化ガスの作用が予想ほど強まらなかったのは良いことだった」
――温暖化対策の時間が少しは稼げるということですか。
「まず社会が許容できる気候変動がどれほどかを見極めなければならない。エネルギー利用のやり方はすぐに変えることはできないので、早めに対策を始めることが必要だ」
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