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哲学科に7500万ドル(約82億5千万円)の寄付を表明 投資家ビル・ミラー氏
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哲学科に7500万ドル(約82億5千万円)の寄付を表明 投資家ビル・ミラー氏

2018-01-18 01:11

    米国の有名投資家ビル・ミラー氏が、母校のジョンズ・ホプキンズ大学哲学科に7500万ドル(約82億5千万円)を寄付すると表明したとのニュースです。哲学科への寄付としては世界史上最大と考えられています。
    この寄付により、同哲学科の教授陣が現在の13名から22名に拡大されるなど、多くの面で研究教育が拡充されるとのこと。同大学広報による記事を翻訳しました。
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    ・原文は こちら です。
    ・翻訳許可を下さったジョンズ・ホプキンズ大学広報、デニス・オシェイ氏に感謝いたします。
    ・訳文そのものは niconicoffee 個人によるものです。誤訳等ありましたらご教示いただけますと幸いです。
    ・その他の情報は【訳者より】として最後に置きました。
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    哲学科に7500万ドル(約82億5千万円)の寄付を表明 投資家ビル・ミラー氏
    Investor Bill Miller commits $75 million to Johns Hopkins Philosophy Department
    大学の哲学研究教育への寄付として史上最高額
    Gift believed to be by far the largest ever to any university philosophy program
    by デニス・オシェイ Dennis O'Shea
    訳:niconicoffee



    伝説的な投資家、ウィリアム・H・「ビル」・ミラー三世が、7500万ドルという記録的な額をジョンズ・ホプキンズ大学哲学科に寄付することを表明した。この寄付金により、当学科教授陣による研究や、大学院生への支援、哲学的思考にかんする学部教育が拡充される。



    ウィリアム・H・「ビル」・ミラー三世 William H. "Bill" Miller III


    これは、一つの大学の哲学の研究教育への寄付としては、とびぬけて史上最大のものとみられる。また、ジョンズ・ホプキンズ大学の人文系学科へのあらゆる寄付のなかでも過去最高額である。

    ミラーは「レッグ・メイソン・キャピタル・マネジメント・バリュー・トラスト」の元運用者として長期にわたり大きな成功を収めた人物であり、現在は「ミラー・バリュー・パートナーズ」公式サイトの創業者兼会長。そして、ジョンズ・ホプキンズ大学の哲学科の元大学院生である。
    〔訳注 ミラーは2012年に「レッグ・メイソン・キャピタル・マネジメント・バリュー・トラスト」の運用者を退任。2015年に米メリーランド州ボルチモアを拠点とする自身の投資会社「ミラー・バリュー・パートナーズ」を設立〕

    ミラー(67歳)はこう述べる。「学部で私が取った哲学科の講義は一つきりだったけど、ベトナム戦争中に軍隊にいたとき、たくさんの哲学書を読むきっかけになった。それで、徴兵期間が終わりかけたとき、博士課程に出願することを決めたんだ。」

    「私がビジネスで成功したのは、ジョンズ・ホプキンズ大学の大学院生だったときに受けた分析の訓練や、そこで培われた心の習慣に負うところが大きい」。ミラーは、スタンダード&プアーズ500指数〔米株式市場の平均成績を表す代表的指数〕を超える運用成績を1991年から2005年まで15年連続で叩き出したことできわめて高名である。

    「この学科をその然るべき地位につけ、国の最良の哲学科の一つにする手助けをすることで、私の感謝の念を表せることがうれしい」とミラー。

    ジョンズ・ホプキンズ大学学長、ロナルド・J・ダニエルズは次のように述べる。「ミラー氏――と本大学――が狙いとするところは、卓越した哲学の新たな水準を打ち立てることであり、そしてまた、哲学者と他分野の学者たちによる、力強く変革力のある共同研究を促進することです。」
    「哲学は大事です。人間であるとはどういうことなのか、意義ある生活とはどんなものなのか、公正で人道的な社会を作るにはどうしたらよいのか。そういったことを定義するのは哲学なのです。」
    「ゲノム科学〔genomics 遺伝情報の解析に基づく科学〕の革命、人工知能の発達、収入格差の拡大、社会的・政治的な分断、そして、破滅的な戦争を起こす力を私たちが有していること。容易には解決しがたいこうした問題はみな、哲学的なものの見方を必要たらしめます。本大学哲学科へのビル・ミラー氏の空前の寄付宣言は、人文学の活力と有効性がこれからも継続されることを明確にするものです。」


    この寄付金により、本大学の〈難題に立ち向かおう Rising to the Challenge 〉キャンペーン公式サイトの期間中に集まった人文・社会科学分野への支援金は〔ミラーの寄付金を含めると〕2億5千万ドル〔約275億円〕近くに上ることとなった。
    その他にも〔ミラーとは別に〕、以下のような寄付があった。
    ・2016年に〔アレクサンダー・グラス財団から〕寄付された1千万ドル〔約11億円〕により、文学・芸術・歴史およびその他の文化研究推進のための〈アレクサンダー・グラス人文学研究所〉が設立された。
    ・昨年の〔ストブロス・ニアルコス財団からの〕1億5千万ドル〔約165億円〕の寄付宣言により、健全な民主主義における市民参画および市民的言説の必要に応えるための〈ストブロス・ニアルコス財団アゴラ研究所〉が創立された。
    ・ジェフリー・H・アロンソン(本大学評議会議長)とその妻シャリーからの1千万ドル〔約11億円〕の寄付により、〈国際研究のためのアロンソン・センター〉を創立。このセンターは世界の主要問題にかんする奨学金を支援するとともに、国際関係を学ぶ学生に新たな機会を与えるものである。


    「伝統的な一般教養科目〔リベラルアーツ〕が、学生たち、大学それ自体、そして世界全体にとって途方もない価値があるということ。このことをビル・ミラーは、ジョンズ・ホプキンズ大学の多くの仲間たちと同じように、大いに評価しています」。こう語るのは、当哲学科が属する本大学クリーガー教養学部の学部長、ビバリー・ウェンランドだ。
    「ミラー氏には二重の視点があります。一つはビジネスリーダーとして、もう一つは知的好奇心溢れる生涯の哲学徒として。このことが重要なのです。」

    ダニエルズとウェンランドによると、本大学はミラーの寛大さを公式に称え敬意を表するため、当学科を改名する。

    「ウィリアム・H・ミラー哲学科 the William H. Miller Department of Philosophy に所属することになる本大学の才能ある教授陣と学生たちは、今後幾世代にもわたって、私と同じように、ビルが示したジョンズ・ホプキンズ大学への信頼に対して、変わらぬ感謝の念を抱くことでしょう」とウェンランド。

    ミラーの寄付金に助けられて、哲学科は十年以内に22名のフルタイムの教授陣へと拡大される(現在は13名)。これは、当学科の学科長の寄付教授職 an endowd professorshop for the chair of the department ならびに八つの寄付教授職を創設し、さらに、若手教員たちのための寄付援助 endowed support を創設するものである。また、ミラーの寄付金により、当学科の大学院生および博士研究員 postdoctoral fellows に対する寄付援助に1千万ドル〔約11億円〕が加えられる。

    さらに、本大学は、より多くの大学院生を哲学研究へといざなうことを目指し、その一部として、新たな入門コースの開設や、学際的進路 interdisciplinary tracks (たとえば、生物倫理学といった副専攻課程)の追加を行う。


    「哲学研究は、ジョンズ・ホプキンズ大学が創立された1876年以来、本大学の中心をなしてきました」。そう述べるのは、本大学哲学科教授にして学科長でもあるリチャード・ベットだ。「専攻や目指す職業を問わず、あらゆる学生は哲学から学ぶところがある。このことをビル・ミラーは知っているのです。」

    ジョンズ・ホプキンズ大学の哲学の歴史を代表する人物として、絶対的観念論の唱道者の一人となったジョサイア・ロイスがいる。ロイスは、1878年にジョンズ・ホプキンズ大学の博士号を最初に取得した四人のうちの一人だ。
    〔 Josiah Royce 1855-1916 哲学者〕
    ロイスに続いたのが、1884年に博士号を取得したジョン・デューイであり、実用主義哲学者〔プラグマティスト〕、そして教育理論家となった。
    アメリカの実用主義哲学〔プラグマティズム〕の始祖であるチャールズ・サンダース・パースも、1880年代に本大学教授陣の一人であった。
    観念の歴史、および、知識の理論の研究で知られるアーサー・O・ラヴジョイは、1910年から1938年まで本大学の教授であった。


    ビル・ミラーは、ワシントン・アンド・リー大学にて経済学と欧州史を専攻し、1972年に優等で卒業した。その後ミラーは、軍の海外諜報部員 intelligence officer overseas として兵役を務め、投資業へ進む前にジョンズ・ホプキンズ大学で学んだ。

    ミラーの寄付金は、〈難題に立ち向かおう Riging to the Challenge 公式サイトの一部となる。
    ジョンズ・ホプキンズ大学のためのこのキャンペーンは、学生たち、教授陣、研究および発見、臨床診療、そして、人間性にとって最も重要ないくつかの問題の学際的解決への支援を募るものである。

    このキャンペーンは、本大学および〈ジョンズ・ホプキンズ・メディシン〉〔ジョンズ・ホプキンズ病院を含む保健・医療・研究教育機関〕を支援するものである。このキャンペーンは2010年に端を発し、2013年5月に公式に開始。そして2018年6月に完了する。
    応募は目標額の 50億ドルを超え、現時点で 54.1億ドル〔約5951億円〕以上が集まっている。


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    他の記事もあります
    ニューヨーク・タイムズ紙「ウォール街の巨人、7500万ドルを大学哲学に賭ける」
    A Wall Street Giant makes $75 million bet on academic philosophy (1月16日)
    バルチモア・サンズ紙「投資家ビル・ミラー、7500万ドルをジョンズ・ホプキンズ大学哲学科に寄贈表明」
    Investor Bill Miller promises $75 million to Johns Hopkins University philosophy department (1月16日)
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    【ジョンズ・ホプキンズ大学哲学科ツイッター公式アカウント】
    ジョンズ・ホプキンズ大学哲学科は、投資家ビル・ミラーから7500万ドルの寄付を受け取ります。私たちは刺激的な諸領域での研究教育をより活溌に支援し主導する立場となるでしょう。ジョンズ・ホプキンズ大学哲学科のツイッターおよびフェイスブックのフォローをお願いします。


    〔おわり〕


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    【訳者より】

    素晴らしいニュースですね。私もこんな投資家になりたい…。

    記事中にある通り、ミラー氏の寄付金7500万ドル(約82億5000万円)は、同大学の〈難題に立ち向かおう〉キャンペーンで集められた支援金のうち人文社会学分野のための2億5千万ドル(約275億円)の一部となります。ミラー氏以外の個人や財団からの寄付で新設された諸機関も列挙されていますね。このキャンペーンは同大学ならびにその関連機関である〈ジョンズ・ホプキンズ・メディシン〉のあらゆる活動を支援するものであり、キャンペーン全体で集まっている支援金は現時点で54.1億ドル(約5951億円)以上。途方もないスケールですね。

    ミラー氏の寄付は、純然たる人文学の一学科へのそれとしては破格の金額(哲学科への寄付としておそらく世界史上最大)であり、驚きをもって受け止められたようです。ニューヨーク・タイムズ紙の記事で同大学学長のダニエルズ氏はこの寄付について、投資家が時流に立ち向かう賭けをすることになぞらえて「素晴らしい逆張り」と称賛しています。直接の利益がみえない学問は冷遇される傾向にあるなか、きわめてインパクトの高い行動かと思われます。
    また、ボルチモア・サンズ紙の記事によると、ミラー氏は当初、この寄付を遺産配分の一環と考えていたものの、大学当局との話し合いのなかで、むしろすぐに寄付をしてその成果を楽しむよう説得されて翻意したとのことです。

    ちなみに、NYタイムズ紙によると、ミラー氏の父親はトラック運送会社の発着所の管理人。同紙の取材に対してミラー氏は、哲学にかんしては「学部の最終学年のとき六週間のコースを一つ取っただけだったから、実のところは口先三寸でホプキンズの博士課程に入り込んだようなもの。それまでに書いた哲学作品を三例提出しろと言われたから、軍からひと月の休暇をもらって論文を三つ書いたんだ」と語ったとのこと。また、博士課程および資格試験を修了したものの、教職に就ける見込みは薄いと考えて学位論文は執筆せず、投資の道に進んだとのことです。


    ●ビル・ミラー Bill Miller 1950年、米国ノースカロライナ州生まれ。バージニア州のワシントン・アンド・リー大学にて経済学の学位を取得。軍で海外諜報部員を務めたのち、ジョンズ・ホプキンズ大学哲学科の博士課程に学ぶ。1981年、レッグ・メイソン・キャピタル・マネジメント社に入社。バリュー・トラストの運用に携わる。バリュー・トラストは、1991年から2005年まで15年連続でS&P指数を超える成績を残し、同氏の名声を高めた。Wikipedia

    ●参考『ビル・ミラーの株式投資戦略 S&P500に15年連勝した全米最強の投資家』ジャネット・ロウ著、三原淳雄訳(原書2002年、邦訳2007年)amazon

    ●ジョンズ・ホプキンズ大学 1876年設立の名門大学。米国メリーランド州ボルチモア。Wikipedia


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