優柔不断を返上?衆院選前倒し 岸田新首相はなぜ「奇襲」に出たか

 4日、岸田文雄首相が就任とほぼ同時に、大方の予想を覆し衆院選日程を前倒しする電光石火の「奇襲」を仕掛けた。国民の政治行動を左右する新型コロナウイルスがリバウンド(感染再拡大)局面に移るリスクを極力避け、新内閣発足直後の「ご祝儀相場」の余勢でなだれ込み、決戦を有利に導こうとの思惑があらわだ。自身が総裁候補時につきまとった「優柔不断」との印象を払拭(ふっしょく)し、決断するリーダーを演出する狙いもにじむ。

 「憲法違反の状況はなるべく短くするのが当たり前じゃないかと。そういったことをやっていくのが、政権与党に与えられた責務なんだ」

 夕方、首相の相談役であり、自民党の副総裁に就く麻生太郎氏は派閥議員の政治資金パーティーであいさつに立ち、「10月31日投開票」衆院選の目的をこう解説してみせた。衆院議員の任期満了が10月21日に迫っており、任期切れとなってしまう期間を短縮するのが憲政のあるべき姿というわけだ。

 永田町では前日3日まで、「11月7日投開票」か「11月14日投開票」のいずれかの選挙日程がほぼ既成事実のように語られていた。だが、政府関係者によると、首相サイドは当初から最速の「10月31日投開票」の選択肢を排除していなかったという。水面下では、緊密な選挙協力を展開する友党・公明党と支持母体の創価学会側の意向も慎重に探っていたとみられる。

 その最大の理由は、時の政権の消長に直結する新型コロナの状況だ。

 4日の東京都の新規感染者数は87人と、約11カ月ぶりに2桁にとどまるなど、「第5波」は着実に静まりつつある。ただ、専門家は早くも冬場の「第6波」到来を警告。感染カーブが底を打ち、新たな変異株が出現するなどして再度右肩上がりに転じれば、国民の不満の矛先はただちに政権与党に向かう。

 「コロナも1週間でどう転ぶか分からない。そんな中で、自分で決めて流れをつかんでいるね」。安倍晋三元首相はこの日、周囲にこう話し掛け、「慎重居士」とやゆされたこともある首相の変身ぶりに満足そうな表情を浮かべた。

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 自民内にはもともと、総裁選と新内閣船出のメディア露出効果を選挙に最大活用しようと、早期解散論があった。「要は『政治とカネ』、スキャンダルが出て失速するような事態に陥る前に、先手で選挙をやってしまおうという算段だ」(岸田派幹部)。また、仮に「11月14日投開票」の場合には、2022年度予算案の年内編成スケジュールなどが相当厳しくなるとの指摘も出ていた。

 第2次安倍政権で外相を長く担った首相。「10月31日投開票」の判断により、30、31両日にイタリアで開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の舞台は諦めざるを得ない。その代わり、英国で11月1、2両日に首脳らが参加して開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の会合には出席し、得意の外交手腕をアピールすることも可能だ。

 「与党で過半数獲得」―。衆院選の勝敗ラインをやや低めに設定して急場をしのぎ、来夏の参院選も粘り腰を見せて一定の結果を残すことで、首相は長期政権への道を何とかこじ開けたい考え。

 とはいえ、リクルート事件などの余波を受けた1989年参院選における過半数割れなど、自民が「顔」をすげ替えて臨んだ選挙で惨敗した事例も存在する。安倍、菅義偉両政権からの「政治とカネ」問題の火種がくすぶる土俵に上がる「岸田初陣」も、決して脚本通りに運ぶ保証はない。

 (古川幸太郎、河合仁志)

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