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・エドワード・ソープといえば、ブラックジャックの数学的必勝法を公開した本『ディーラーをやっつけろ!』が有名です。そのソープが次に挑んだのが株式市場。ここでも科学的な必勝法を編み出し、大成功を収めます。いえ、大成功というのでは足りません。金融の世界をこの一冊によって革命したのです。そのノウハウを惜しみなく公開したのが本書です。
・来週(2017年1月24日)、エドワード・ソープの新著自伝が発売されます。『全ての市場で勝ちまくった男――いかにして私はラスヴェガスを潰し、ウォール街を攻略したか A Man for All Markets: From Las Vegas to Wall Street, How I Beat the Dealer and the Market』。楽しみですね。記念に(?)、1967年刊の画期的名著である本書の序文(と、一章と二章の冒頭)を翻訳してみました。
・原文は こちら です。著者によって無料で全文公開されています。
・〔四角いカッコの中〕は訳者による補足です。
・【訳者より】を最後に置きました。
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マーケットをぶっちぎれ! 株式市場の科学的必勝システム
BEAT THE MARKET A Scientific Stock Market System
1967年刊
序文 Introduction
我々はここに披露する――投資家が一貫して大きな利益を得られる手法を。
この手法を用いて著者らは、過去五年間にわたり年率25%を稼ぎ出した。
株式市場で今世紀最大級の暴落が二度あったとき、我々は儲かった。
株式市場が急上昇したとき、儲かった。
横ばいのときも、乱高下のときも儲かった。
数学と経済学、そして電子計算機を用いて、この理論は証明され完成した。
我々は何十冊もの本を読み、さまざまな投資顧問サービスや投資信託を調べ上げた。そして数十ものシステムを検証して却下した。我々の理論こそ、株式市場で一貫して利益を上げる方法を、初めて科学的に証明したものと信ずるのである。
本書が分析するのは、転換証券 convertible securities と、それに結びついた普通株だ。
〔転換証券とは、一定条件のもとで他の証券へと転換できる証券のこと。ワラント、コール、プット、転換社債など〕
〔一般に「株」といえば普通株のこと。それ以外の株は「種類株」と総称される。種類株には優先株、無議決権株などがあり、発行時の意図により多様な設計がなされる〕
転換証券というものは、いま既に何百万人もの投資家のポートフォリオに組み込まれている。
〈ニューヨーク証券取引所〉と〈アメリカン証券取引所〉で取引されている3500種の証券のうち、300種以上が転換証券だ。
我々の手法は、この転換証券と、それに結びついた200種以上の普通株を扱う。(我々の利益は多くの場合、普通株と転換証券の両方から生じたことを強調しておこう。)
合わせて500種以上の証券ということは、上場されている証券の約15%であり、その時価総額はおそらく500億ドルにも相当する。
※原注 本書の元となった研究の一部は、空軍助成金(AF-AFOSR 1113-66)を含み支援された数学研究に基づくものである。
転換証券(ワラント、転換社債、転換優先株、プット、コール)と、それに結びついた普通株のあいだにある関係を、我々は予測し分析する。
すると、将来の価格の関係と、我々の利益が予見できる。
個々の証券の価格そのものを予測すること――それは、我々が勝つためには不要なのだ。
このシステムの運用に必要な最低額は、信用口座 margin account を開設するときに要求される最低額があればよい。この額は変更されることもあるが、本書執筆時点では2000ドルだ。
我々の手法は、あなたの資金すべての投入を求めたりはしない――ほとんどの読者はそうしたくなるだろうけれども。
たとえば、試しに小さく投資してみて、慣れてきて自信や成功体験を深めるに従って額を増やすのが自然なやり方だ。
証券口座にある純資産が、合計で最低2000ドルあれば、お好きな割合を我々のシステムに投じることができる。数ドルでもいいし、全額でもいい。
本書ではまず始めに、我々がどうやってこのシステムを発見したかをお話しする。
次いで、必要とな背景知識を論じる。ワラント、空売り、ヘッジについてだ。
第五章では、このシステムを具体的に解説するために、著者の一人〔カスーフ〕が五年間にわたって実行した投資をお見せする。
第六章では、 読者自身が投資対象を選ぶやり方を示す。我々の手法の「基本システム」と呼ぶ部分を使ってもらうつもりだ。
そして次に、かりにずっと過去から「基本システム」を使用していた場合の成績を示す。この投資法は、17年間にわたって年率25%以上を叩き出したはずであることがわかる。
読者は最初の九章を読めば、株式市場での投資を成功裏に運用できるようになる。
第十章では、転換証券というものの全域へと、我々の分析を拡張する方法を提示する。
結論部は、会計と月次決算、ポートフォリオ管理の話をして締めくくり、我々の手法の未来についても論じる。
科学的に証明した、と冒頭で述べたわけだが、「基本システム」の科学的証明は、四つの部分からなる。
(一) 基本システムが17年間にわたって年率25%以上(手数料支払後、税引前)を稼げたはずであることの提示(第七章)。また、1929年9月から1930年にかけて株式が大暴落したときでさえ、基本システムなら投資額を倍増できたであろうことを示す。
(二) 統計分析。 1946年から1966年のあいだに、基本システムを使う機会はどれだけあったか。
(三) 実際の現金収支。この投資法による、五年間に渡る、損失なし、年率25%の平均リターンの記録。著者の一人〔カスーフ〕が、10万ドルをたった4年で2倍以上にしたのである。
(四) 理論の欠陥の有無。我々は同僚たちに密かに打ち明けたが、納得してもらうことができた。(付録C)
本書の表や図は、我々の戦略を使いやすくするために付されている。
我々の手法の学術的な基礎も、付録に示した。興味を深めた読者にはご覧いただきたい。この資料は補足であって、我々の必勝手法を成功裏に運用するにあたって必読というわけではない。
この本を一読さえすれば、あとは金のなる木を揺するだけ――とは言わない。
本書は精読を要する。
とはいえ我々は、本書『株式市場の必勝法』が、プロから初心者まで、投資するすべての人にとって有用有益であることを期するのである。
第一章 システムの誕生
A SYSTEM IS BORN
1961年10月5日。この日、シーン・カスーフ〔著者の一人〕が開始した一連の投資が、以後五年間にわたり、年平均25%を叩き出す。
カスーフは語る――通常の投資手法をどのように試行し、廃棄したか。そして、どのように我々のシステムの土台を発見したのかを。
初めて市場に挑む First Venture into the Market
1957年。ぼくは投資をしたくなった。証券会社や投資顧問業者の広告はこう仄めかしていた――我々の言う通りに売買するだけで株は儲かるんですよ、と。
ぼくは、高名な投資顧問サービスと契約し、数百ページもの財務データやチャートの載った投資助言を受け取り始めた。
〈エマーソン・ラジオ社〉〔電気機器〕は「間違い無し」との評価。ぼくは100株を購入した。
そのとき、株式市況は下落基調だった。この全体的な下落が急速化した。
アナリストや金融記者たちの言うことはチグハグで一致しない。やれスプートニク〔露の人工衛星成功で米国が自信喪失に陥った〕のせいだ。いや経済が悪い。信用制度と銀行の惨状をみよ。外人の株売り。保有ポジションの「テクニカルな〔実体経済ではなく相場内的要因による〕」劣化。株価平均に示現された「くさび形」…。
〔くさび形 wedge チャートのバターンの一つ。相場の転換点に現れるとされる〕
ぼくはエマーソン社を買い続けた。するとブローカーに訊かれた。「あなたの口座ですが、明日も下落したらどうしましょうね?」
※原注 ほとんどの投資家は登録業者を通じて売買注文を出す。これは顧客係とか執行者と呼ばれる。本書では、やや不正確だが一般的な呼称「ブローカー〔仲買人〕」を用いることにする。
ぼくは動揺した。1500ドルもの含み損だ。いったい、あとどれだけ下がるのだろうか?
1958年の始め、エマーソン株はようやく上昇し、ぼくは500ドルの利益を得て売却した。その一年後、エマーソン株の価格は三倍になった。
取り逃がした巨大な利益と、激しい価格変動。ぼくはひどく苛まれた。
似たような経験を1961年まで繰り返した。そしてぼくは事業〔カスーフは大学卒業後、技術説明図作成業で起業し成功していた〕を売り払い、激動の金融市場へと身を投じた。
市場の誘惑。立会場とチャート主義者 The Market Calls: Boardrooms and Chartists
ぼくは色々なサービスや出版物と契約した。図書館の本棚という本棚を漁り尽くして、夜と週末の読書にあてた。そして朝10時から午後3時半までは、街の各所の株価掲示室 boardroom〔株価表示板の備わった証券会社の顧客接待室〕で過ごした。「株価掲示室にたむろする相場狂い」への仲間入りというわけだ…
〔以下略〕
第二章 ワラント: 普通株へと転換する権利
WARRANTS: Options on the Future
〔ワラント=新株予約権とは「事業会社自身によって発行されたコールオプション」のこと〕
〔日本語で「ワラント」を検索すると、「eワラント」のヒットが多い。だがこれは、特定の一社が運営する特殊な金融商品であり、本書で扱われる一般的なワラントとはあまり関係がないので、注意されたい〕
システムの再発見。木陰のエド・ソープ
Rediscovery of the System: Ed Thorp Under a Tree
炒りつけるような陽の光。雲一つない砂漠の空。ニューメキシコ州の夏の午後は静かで、このうえない読書日和。ポプラの樹の下で、庭椅子にくつろぐ私。届いたばかりの本を開く。ワラントについての薄い冊子だ。私の運命を変えることになる数時間。その始まりを予感させるものとてなき、静かな夏の午後。
ワラントとは? What Is a Warrant?
読んですぐに分かった。ワラントというのは、普通株を買う〈オプション〔選び取る権利〕〉のことだ。つまりワラントは、一定の条件のもとで、普通株に転換することができる。つまり、ABC社のワラントの所有者が、そのワラントをABC社の普通株に換えたくなったときは、一株あたり幾らという、事前に決められた額を支払えば、その転換ができるのだ。
例えば、スペリーランド社〔電気製品〕のワラントは、その保有者にこういう権利を与える――〈このワラント1つにつき、1958年5月17日から1963年9月17日(当日含む)までの期間、普通株1株を25ドルで購入できます〉…
〔以下略〕
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【訳者より】
第一章は、カスーフが相場で勝てるようになるまでの実体験が語られます。
第二章では、ソープが転換証券について読書したのをきっかけに、カスーフと同じ手法を頭のなかで完成させた経緯が語られます。
そしてこの二人が偶然に出会います。理論と実践、最強タッグの完成です。
それ以降の諸章では、二人が完成させた必勝投資法が詳しく解説されていますが、実際の具体例と二人の経験談を交えながらなので、読み物としての面白さ、読みやすさは失われません。
投資にかんする本は数あれど、歴史的画期性という点では、本書こそが随一であると思います。なにしろ、人類史上初めて、相場で勝つ方法を科学的に確立し、証明した本なのです。
しかも、少額から誰にでも実行できる。相場の上げ下げが関係ない。ストレスとは無縁。毎日朝から晩まで相場に張り付く必要もない。資産が一時的に減ることすらほとんどなく、着実に増えてゆく。それでいて年率25%の利益を叩き出す――投資で世界一の富豪〔ランキングは年々変化しますが〕になったバフェットにも匹敵する驚異的な投資成績。安全に簡単にお金持ちになれる!
投資家の欲望を余すところなく叶える、まさに夢の投資法です。それが実際に発見され、科学的に証明され、誰にでも読める本として出版されたのです。しかも、読み物としても最高に面白い!
そしてまた本書は、金融の世界を革命しました。それまでは勘と経験と抜け目なさが支配する世界だった金融市場が、数学を制するものが利益を制する支配する世界に一挙に転換したのです。じっさい、現在のヘッジファンド業界の超大物たち、たとえばシタデルのケネス・グリフィン、AQRキャピタル・マネジメントのクリフォード・アスネス、債券王ビル・グロスらは、青年時代に本書を貪り読んだことをきっかけに相場の世界に足を踏み入れたことを明らかにしています。
私がこれまでに読んできた数千冊の投資関連書のなかで、間違いなく一番面白く、熱中して読んだのだか、この一冊です。
みなさんがただちに知りたいのは、「それは今でもで使えるのか?」という点だと思います。ネット上の書評をざっと見てみると、「昔はオプション価格が不合理だったから」との声が多いものの、応用すれば使える、市場によっては使える、などとも評されています。
ちなみに、J・シュワッガー『続マーケットの魔術師』には、「〔ソープは〕一九九〇~一九九二年に、大きく適正価格から外れていた日本のワラントに主として焦点を合わせた。しかし、最終的にはこの戦略を放棄せざるを得なかった。ディーラーが急激にスプレッドを広げたために、トレードの含み益のおよそ半分が消えたからだ」〔邦訳394頁〕との記述があります。
日本にも、「日経先物オプション」、「個別株オプション(かぶオプ)」、「転換社債」などの形で転換証券の市場が存在し、個人でも取引できます。しかし、本書の手法がそのまま適用できるかといえば、少し難しいかもしれません。
現在においてはオプション価格はすでに合理化され、収益機会は消失している、という可能性は言うまでもありません。それに加えて、日本の転換証券の市場は、活発に取引されている銘柄が少ない、板がスカスカ、残存数ヶ月以上のオプションがほとんど取引されていない、という三重苦があります。
とはいえ、訳者がきちんと検証したわけではありません。きちんと精査すれば、日本市場にもチャンスが残っている可能性は大いにあります。
本書が日本語へと翻訳されてないのは、ひとえに、転換証券の取引が日本(の個人投資家の間)ではあまり活発ではないためでしょう。日経先物オプションの売買をする人は一定数いるものの、少数派。それ以外の転換証券にいたっては、売買経験のある人はきわめて少ないと思われます。本書の主役である「ワラント」(現在の日本では「新株予約権」という言葉に統一されているようです)にしても、この言葉の意味が分かる人すらあまりいないのではないでしょうか(私は知りませんでした)。
しかし、日本の投資家である私たちにとっても、転換証券の入門書あるいは研究書として、本書は何かしら役に立つところがあるはずです。また、科学的な必勝法が実在するという事実は、投資家にとって大いに励みになります。しかも、(しつこいですが)読み物として最高に面白い。
誤訳の指摘、感想、コメントなどあれば、ぜひお願い致します。
じつは私は本書を最初から最後まで訳し終わっているのですが、出版社が見つからず原稿がお蔵入りしています。興味のある編集者の方はご一報いただけますと幸いです…
●表題について
原題 Beat the Market は、直訳すると「市場を打ち負かす」であり、これは具体的には、「市場平均よりもよい収益をあげる」という意味で用いられます。つまりたとえば、日本のある投資家が、市場平均のベンチマーク(日経平均やTOPIX)の上昇率が10%であった年に、10%以上の収益を上げたら、その人は「市場を打ち負かした」ことになります(その人が損をした場合でも、市場平均の方が大きく落ち込んでいたなら、「市場を打ち負かした」と言えます)。
ソープの前著 Beat the Dealer は、「ラスヴェガスをぶっつぶせ」とか「ディーラーをやっつけろ」と訳されているので、本書の表題も勢いのよさを出すために「市場をぶっとばせ」とか「市場をやっつけろ」と訳したい気もします。しかし、カジノのディーラーは遠慮なくやっつけてよい存在ですが、株式市場そのものをやっつけるというのはあまり意味をなしません。beat the market という言い方には、「市場平均=ほかの投資家たちに勝つ」という意味がすでにあるので、やはり原題により忠実に、他の投資家たちに圧倒的な差をつけて勝て = マーケットをぶっちぎれ! と訳してみました。
〔おわり〕
・エドワード・ソープといえば、ブラックジャックの数学的必勝法を公開した本『ディーラーをやっつけろ!』が有名です。そのソープが次に挑んだのが株式市場。ここでも科学的な必勝法を編み出し、大成功を収めます。いえ、大成功というのでは足りません。金融の世界をこの一冊によって革命したのです。そのノウハウを惜しみなく公開したのが本書です。
・来週(2017年1月24日)、エドワード・ソープの新著自伝が発売されます。『全ての市場で勝ちまくった男――いかにして私はラスヴェガスを潰し、ウォール街を攻略したか A Man for All Markets: From Las Vegas to Wall Street, How I Beat the Dealer and the Market』。楽しみですね。記念に(?)、1967年刊の画期的名著である本書の序文(と、一章と二章の冒頭)を翻訳してみました。
・原文は こちら です。著者によって無料で全文公開されています。
・〔四角いカッコの中〕は訳者による補足です。
・【訳者より】を最後に置きました。
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マーケットをぶっちぎれ! 株式市場の科学的必勝システム
BEAT THE MARKET A Scientific Stock Market System
1967年刊
エドワード・O・ソープ博士 Edward O. Thorp, Ph.D.
数学教授、カリフォルニア大学アーバイン校
シーン・T・カスーフ博士 Sheen T. Kassouf, Ph.D.
経済学助教授、カリフォルニア大学アーバイン校
序文 Introduction
我々はここに披露する――投資家が一貫して大きな利益を得られる手法を。
この手法を用いて著者らは、過去五年間にわたり年率25%を稼ぎ出した。
株式市場で今世紀最大級の暴落が二度あったとき、我々は儲かった。
株式市場が急上昇したとき、儲かった。
横ばいのときも、乱高下のときも儲かった。
数学と経済学、そして電子計算機を用いて、この理論は証明され完成した。
我々は何十冊もの本を読み、さまざまな投資顧問サービスや投資信託を調べ上げた。そして数十ものシステムを検証して却下した。我々の理論こそ、株式市場で一貫して利益を上げる方法を、初めて科学的に証明したものと信ずるのである。
本書が分析するのは、転換証券 convertible securities と、それに結びついた普通株だ。
〔転換証券とは、一定条件のもとで他の証券へと転換できる証券のこと。ワラント、コール、プット、転換社債など〕
〔一般に「株」といえば普通株のこと。それ以外の株は「種類株」と総称される。種類株には優先株、無議決権株などがあり、発行時の意図により多様な設計がなされる〕
転換証券というものは、いま既に何百万人もの投資家のポートフォリオに組み込まれている。
〈ニューヨーク証券取引所〉と〈アメリカン証券取引所〉で取引されている3500種の証券のうち、300種以上が転換証券だ。
我々の手法は、この転換証券と、それに結びついた200種以上の普通株を扱う。(我々の利益は多くの場合、普通株と転換証券の両方から生じたことを強調しておこう。)
合わせて500種以上の証券ということは、上場されている証券の約15%であり、その時価総額はおそらく500億ドルにも相当する。
※原注 本書の元となった研究の一部は、空軍助成金(AF-AFOSR 1113-66)を含み支援された数学研究に基づくものである。
転換証券(ワラント、転換社債、転換優先株、プット、コール)と、それに結びついた普通株のあいだにある関係を、我々は予測し分析する。
すると、将来の価格の関係と、我々の利益が予見できる。
個々の証券の価格そのものを予測すること――それは、我々が勝つためには不要なのだ。
このシステムの運用に必要な最低額は、信用口座 margin account を開設するときに要求される最低額があればよい。この額は変更されることもあるが、本書執筆時点では2000ドルだ。
我々の手法は、あなたの資金すべての投入を求めたりはしない――ほとんどの読者はそうしたくなるだろうけれども。
たとえば、試しに小さく投資してみて、慣れてきて自信や成功体験を深めるに従って額を増やすのが自然なやり方だ。
証券口座にある純資産が、合計で最低2000ドルあれば、お好きな割合を我々のシステムに投じることができる。数ドルでもいいし、全額でもいい。
本書ではまず始めに、我々がどうやってこのシステムを発見したかをお話しする。
次いで、必要とな背景知識を論じる。ワラント、空売り、ヘッジについてだ。
第五章では、このシステムを具体的に解説するために、著者の一人〔カスーフ〕が五年間にわたって実行した投資をお見せする。
第六章では、 読者自身が投資対象を選ぶやり方を示す。我々の手法の「基本システム」と呼ぶ部分を使ってもらうつもりだ。
そして次に、かりにずっと過去から「基本システム」を使用していた場合の成績を示す。この投資法は、17年間にわたって年率25%以上を叩き出したはずであることがわかる。
読者は最初の九章を読めば、株式市場での投資を成功裏に運用できるようになる。
第十章では、転換証券というものの全域へと、我々の分析を拡張する方法を提示する。
結論部は、会計と月次決算、ポートフォリオ管理の話をして締めくくり、我々の手法の未来についても論じる。
科学的に証明した、と冒頭で述べたわけだが、「基本システム」の科学的証明は、四つの部分からなる。
(一) 基本システムが17年間にわたって年率25%以上(手数料支払後、税引前)を稼げたはずであることの提示(第七章)。また、1929年9月から1930年にかけて株式が大暴落したときでさえ、基本システムなら投資額を倍増できたであろうことを示す。
(二) 統計分析。 1946年から1966年のあいだに、基本システムを使う機会はどれだけあったか。
(三) 実際の現金収支。この投資法による、五年間に渡る、損失なし、年率25%の平均リターンの記録。著者の一人〔カスーフ〕が、10万ドルをたった4年で2倍以上にしたのである。
(四) 理論の欠陥の有無。我々は同僚たちに密かに打ち明けたが、納得してもらうことができた。(付録C)
本書の表や図は、我々の戦略を使いやすくするために付されている。
我々の手法の学術的な基礎も、付録に示した。興味を深めた読者にはご覧いただきたい。この資料は補足であって、我々の必勝手法を成功裏に運用するにあたって必読というわけではない。
この本を一読さえすれば、あとは金のなる木を揺するだけ――とは言わない。
本書は精読を要する。
とはいえ我々は、本書『株式市場の必勝法』が、プロから初心者まで、投資するすべての人にとって有用有益であることを期するのである。
第一章 システムの誕生
A SYSTEM IS BORN
1961年10月5日。この日、シーン・カスーフ〔著者の一人〕が開始した一連の投資が、以後五年間にわたり、年平均25%を叩き出す。
カスーフは語る――通常の投資手法をどのように試行し、廃棄したか。そして、どのように我々のシステムの土台を発見したのかを。
初めて市場に挑む First Venture into the Market
1957年。ぼくは投資をしたくなった。証券会社や投資顧問業者の広告はこう仄めかしていた――我々の言う通りに売買するだけで株は儲かるんですよ、と。
ぼくは、高名な投資顧問サービスと契約し、数百ページもの財務データやチャートの載った投資助言を受け取り始めた。
〈エマーソン・ラジオ社〉〔電気機器〕は「間違い無し」との評価。ぼくは100株を購入した。
そのとき、株式市況は下落基調だった。この全体的な下落が急速化した。
アナリストや金融記者たちの言うことはチグハグで一致しない。やれスプートニク〔露の人工衛星成功で米国が自信喪失に陥った〕のせいだ。いや経済が悪い。信用制度と銀行の惨状をみよ。外人の株売り。保有ポジションの「テクニカルな〔実体経済ではなく相場内的要因による〕」劣化。株価平均に示現された「くさび形」…。
〔くさび形 wedge チャートのバターンの一つ。相場の転換点に現れるとされる〕
ぼくはエマーソン社を買い続けた。するとブローカーに訊かれた。「あなたの口座ですが、明日も下落したらどうしましょうね?」
※原注 ほとんどの投資家は登録業者を通じて売買注文を出す。これは顧客係とか執行者と呼ばれる。本書では、やや不正確だが一般的な呼称「ブローカー〔仲買人〕」を用いることにする。
ぼくは動揺した。1500ドルもの含み損だ。いったい、あとどれだけ下がるのだろうか?
1958年の始め、エマーソン株はようやく上昇し、ぼくは500ドルの利益を得て売却した。その一年後、エマーソン株の価格は三倍になった。
取り逃がした巨大な利益と、激しい価格変動。ぼくはひどく苛まれた。
似たような経験を1961年まで繰り返した。そしてぼくは事業〔カスーフは大学卒業後、技術説明図作成業で起業し成功していた〕を売り払い、激動の金融市場へと身を投じた。
市場の誘惑。立会場とチャート主義者 The Market Calls: Boardrooms and Chartists
ぼくは色々なサービスや出版物と契約した。図書館の本棚という本棚を漁り尽くして、夜と週末の読書にあてた。そして朝10時から午後3時半までは、街の各所の株価掲示室 boardroom〔株価表示板の備わった証券会社の顧客接待室〕で過ごした。「株価掲示室にたむろする相場狂い」への仲間入りというわけだ…
〔以下略〕
第二章 ワラント: 普通株へと転換する権利
WARRANTS: Options on the Future
〔ワラント=新株予約権とは「事業会社自身によって発行されたコールオプション」のこと〕
〔日本語で「ワラント」を検索すると、「eワラント」のヒットが多い。だがこれは、特定の一社が運営する特殊な金融商品であり、本書で扱われる一般的なワラントとはあまり関係がないので、注意されたい〕
システムの再発見。木陰のエド・ソープ
Rediscovery of the System: Ed Thorp Under a Tree
炒りつけるような陽の光。雲一つない砂漠の空。ニューメキシコ州の夏の午後は静かで、このうえない読書日和。ポプラの樹の下で、庭椅子にくつろぐ私。届いたばかりの本を開く。ワラントについての薄い冊子だ。私の運命を変えることになる数時間。その始まりを予感させるものとてなき、静かな夏の午後。
ワラントとは? What Is a Warrant?
読んですぐに分かった。ワラントというのは、普通株を買う〈オプション〔選び取る権利〕〉のことだ。つまりワラントは、一定の条件のもとで、普通株に転換することができる。つまり、ABC社のワラントの所有者が、そのワラントをABC社の普通株に換えたくなったときは、一株あたり幾らという、事前に決められた額を支払えば、その転換ができるのだ。
例えば、スペリーランド社〔電気製品〕のワラントは、その保有者にこういう権利を与える――〈このワラント1つにつき、1958年5月17日から1963年9月17日(当日含む)までの期間、普通株1株を25ドルで購入できます〉…
〔以下略〕
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【訳者より】
第一章は、カスーフが相場で勝てるようになるまでの実体験が語られます。
第二章では、ソープが転換証券について読書したのをきっかけに、カスーフと同じ手法を頭のなかで完成させた経緯が語られます。
そしてこの二人が偶然に出会います。理論と実践、最強タッグの完成です。
それ以降の諸章では、二人が完成させた必勝投資法が詳しく解説されていますが、実際の具体例と二人の経験談を交えながらなので、読み物としての面白さ、読みやすさは失われません。
投資にかんする本は数あれど、歴史的画期性という点では、本書こそが随一であると思います。なにしろ、人類史上初めて、相場で勝つ方法を科学的に確立し、証明した本なのです。
しかも、少額から誰にでも実行できる。相場の上げ下げが関係ない。ストレスとは無縁。毎日朝から晩まで相場に張り付く必要もない。資産が一時的に減ることすらほとんどなく、着実に増えてゆく。それでいて年率25%の利益を叩き出す――投資で世界一の富豪〔ランキングは年々変化しますが〕になったバフェットにも匹敵する驚異的な投資成績。安全に簡単にお金持ちになれる!
投資家の欲望を余すところなく叶える、まさに夢の投資法です。それが実際に発見され、科学的に証明され、誰にでも読める本として出版されたのです。しかも、読み物としても最高に面白い!
そしてまた本書は、金融の世界を革命しました。それまでは勘と経験と抜け目なさが支配する世界だった金融市場が、数学を制するものが利益を制する支配する世界に一挙に転換したのです。じっさい、現在のヘッジファンド業界の超大物たち、たとえばシタデルのケネス・グリフィン、AQRキャピタル・マネジメントのクリフォード・アスネス、債券王ビル・グロスらは、青年時代に本書を貪り読んだことをきっかけに相場の世界に足を踏み入れたことを明らかにしています。
私がこれまでに読んできた数千冊の投資関連書のなかで、間違いなく一番面白く、熱中して読んだのだか、この一冊です。
みなさんがただちに知りたいのは、「それは今でもで使えるのか?」という点だと思います。ネット上の書評をざっと見てみると、「昔はオプション価格が不合理だったから」との声が多いものの、応用すれば使える、市場によっては使える、などとも評されています。
ちなみに、J・シュワッガー『続マーケットの魔術師』には、「〔ソープは〕一九九〇~一九九二年に、大きく適正価格から外れていた日本のワラントに主として焦点を合わせた。しかし、最終的にはこの戦略を放棄せざるを得なかった。ディーラーが急激にスプレッドを広げたために、トレードの含み益のおよそ半分が消えたからだ」〔邦訳394頁〕との記述があります。
日本にも、「日経先物オプション」、「個別株オプション(かぶオプ)」、「転換社債」などの形で転換証券の市場が存在し、個人でも取引できます。しかし、本書の手法がそのまま適用できるかといえば、少し難しいかもしれません。
現在においてはオプション価格はすでに合理化され、収益機会は消失している、という可能性は言うまでもありません。それに加えて、日本の転換証券の市場は、活発に取引されている銘柄が少ない、板がスカスカ、残存数ヶ月以上のオプションがほとんど取引されていない、という三重苦があります。
とはいえ、訳者がきちんと検証したわけではありません。きちんと精査すれば、日本市場にもチャンスが残っている可能性は大いにあります。
本書が日本語へと翻訳されてないのは、ひとえに、転換証券の取引が日本(の個人投資家の間)ではあまり活発ではないためでしょう。日経先物オプションの売買をする人は一定数いるものの、少数派。それ以外の転換証券にいたっては、売買経験のある人はきわめて少ないと思われます。本書の主役である「ワラント」(現在の日本では「新株予約権」という言葉に統一されているようです)にしても、この言葉の意味が分かる人すらあまりいないのではないでしょうか(私は知りませんでした)。
しかし、日本の投資家である私たちにとっても、転換証券の入門書あるいは研究書として、本書は何かしら役に立つところがあるはずです。また、科学的な必勝法が実在するという事実は、投資家にとって大いに励みになります。しかも、(しつこいですが)読み物として最高に面白い。
誤訳の指摘、感想、コメントなどあれば、ぜひお願い致します。
じつは私は本書を最初から最後まで訳し終わっているのですが、出版社が見つからず原稿がお蔵入りしています。興味のある編集者の方はご一報いただけますと幸いです…
●表題について
原題 Beat the Market は、直訳すると「市場を打ち負かす」であり、これは具体的には、「市場平均よりもよい収益をあげる」という意味で用いられます。つまりたとえば、日本のある投資家が、市場平均のベンチマーク(日経平均やTOPIX)の上昇率が10%であった年に、10%以上の収益を上げたら、その人は「市場を打ち負かした」ことになります(その人が損をした場合でも、市場平均の方が大きく落ち込んでいたなら、「市場を打ち負かした」と言えます)。
ソープの前著 Beat the Dealer は、「ラスヴェガスをぶっつぶせ」とか「ディーラーをやっつけろ」と訳されているので、本書の表題も勢いのよさを出すために「市場をぶっとばせ」とか「市場をやっつけろ」と訳したい気もします。しかし、カジノのディーラーは遠慮なくやっつけてよい存在ですが、株式市場そのものをやっつけるというのはあまり意味をなしません。beat the market という言い方には、「市場平均=ほかの投資家たちに勝つ」という意味がすでにあるので、やはり原題により忠実に、他の投資家たちに圧倒的な差をつけて勝て = マーケットをぶっちぎれ! と訳してみました。
〔おわり〕
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