『在日外国「特派員」の背信』
産経新聞コラム【緯度経度】 ワシントン・古森義久
東京発の欧米マスコミ特派員の報道には偏向した内容が少なくないとは以前から思っていた。欧米のどの国でも政治指導者が国への愛とか誇り、さらには安全保障の重要性などを説くのはごく普通だろう。だが安倍晋三氏のような日本の指導者がそれを説くと、とたんに「タカ派のナショナリスト」とか「危険な軍国主義者」とまでののしる。明らかな二重基準、そして政治的偏向である。
東京在住の外国記者のそんな政治偏向の毒気をいやというほどかがされる体験をした。偏向だけでなく取材のルールを守らない欺瞞(ぎまん)だった。みごとにだまされてしまった。記者だか政治活動家だかもわからないその手口を報告しよう。
所用で一時帰国していた8月下旬、英国のインディペンデント紙の東京特派員だというディビッド・マクニールという人物から取材の申し込みがあった。産経新聞を通じての連絡で「靖国参拝についてのいろいろな人の意見をまとめる記事を書くため」私にインタビューしたいということだった。ワシントンに戻る直前の多忙の時期だったが、有力紙での報道なら、ということで応じた。ただ電話での会話でなにかが変ではあった。マクニール氏は靖国以外のことに関心を抱いている感じなのだ。
8月23日、約束どおりに有楽町の外国特派員協会に出向くと、現れたマクニール氏は中年の細身、そったような頭の人物だった。
日本語がかなり上手だったが、英語での会話となった。「靖国問題についてインディペンデント紙に記事を書くためのインタビュー」という基本を相互に再確認し、同氏は録音を始めた。同紙に記事を書くためのノートテーキングとしての録音というのが当然の前提だった。
ところがマクニール氏の質問が奇妙なのである。肝心の靖国よりも日本国際問題研究所の英文発信についてばかり問いたがるのだ。
この英文発信について私は8月中旬のこのコラムで取り上げ、政府からの資金で運営される研究所がなぜ政府の政策を非難し、あざける内容の論文を継続して外国向けに送るのか、という疑問を呈した。同研究所は意外なほどの速度で反応し、非を認めて、その発信を中断してしまった。自主的な是正措置だった。
ところがこの私のコラムを「言論弾圧」と非難する声が米欧の左派の学者やジャーナリストの間で起きていた。私のただ問いかけだけのコラムが「右翼による威嚇」だというのだ。マクニール氏も明らかにそういう態度で私の認識を批判し、「あなたが研究所に手紙を書き、英文発信の再開を求めたら」とまで勧めるのだ。
そのうえで同氏は私をリトマス試験にかけて裁くように南京事件、慰安婦、東京裁判などについて見解の表明を迫ってきた。自国を愛するというテーマでは同氏が否定的な発言をしたので奇妙に感じた。なんとも異様な気分で50分ほどのインタビューを終えた。
その2週間後、ワシントンで米国の友人から私の歴史認識などに関するコメントが、なまの形で延々とインターネット論壇に出ていると知らされた。米側の日本研究者主体のNBRというネット・フォーラムである。自分でみると、びっくり、ディビッド・マクニール氏による「産経新聞の古森義久と日本国際問題研究所論議」と題されたリポートふうの記述の転載だった。掲載元は「ジャパン・フォーカス」というネット論壇だった。
調べてみると、マクニール氏は私のインタビューをインディペンデント紙にはまったく使わず、「ジャパン・フォーカス」用にみな使っていることが判明した。しかも単にメモをとる記録用のはずだった録音を私にひと言の断りもなく、そのまますべて活字にしていた。主題も靖国ではなく国際問題研究所の出来事にしぼり、とにかく私を非難しようという姿勢があらわだった。私の発言も気軽に語ったために配慮が足りないような部分をことさら拡大していた。そして全体を「修正主義の見解」と決めつけ、欧米左派の多い複数のネット論壇にアップして、私を攻撃させる意図なのだ。
完全にだまされたと感じた。在日歴の長い米国人の学者に聞くと、マクニール氏はかなり知られた左翼の研究者・活動家で報道はその活動の一部に過ぎず、インディペンデントへの執筆はときおりの寄稿なのだという。政治見解も言論活動も自由だが、約束を破り、他者をはめる自由というのはないだろう。同じ記者の、しかも外国特派員を長年、務めた私が在日外国人「記者」の取材でこんなひどい目にあうとは、つい「みなさん、ご用心を」と訴えたくなる。
【参考1】文中に登場するマクニールの記事
September, 2006
By David McNeill
【参考2】 『産経古森記者が言論弾圧?』 by ajnaさん
人気ブログランキングへ