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音MADの「前振り」について
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音MADの「前振り」について

2013-04-02 02:05
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 私は音MADの前振りが大好きだ。嵐の前の静けさみたいで、「ここからどんな感じで本編が始まるんだろう」とワクワクする感じがたまらない。「友香『アッサムで良かったですか?』美幸『アーリーモーニング・・・』」や「【東方MAD】ゲイティブフェイス~兄貴発狂ver.~」のようなユーモラスな導入には溜め息が出る。そこで前振りを含んだ音MADの「出だし」について、どのようにすれば視聴者を引きこむことができるのか、考えてみた。

■前振りはどんな種類があるか?
 私が把握している範囲では

・本編垂れ流し
H.M.スズは会計なのか?最終鬼畜生徒会役員共」のようなやり方。本編を垂れ流して油断させることで意表をつくことができる。またちょっとしたストーリー性を作ることもできる。

・ネタ挟み
黒ボンババアマン」の超電磁砲風のエア本さんのようなやり方。しょっぱなでネタを配置して一気に視聴者の心を掴む。

・釣り
行列のできるマイレボリュー所」のようなやり方。一点攻勢的な展開でどんでん返す。意外性や整合性が問われる。

の三パターンに分けることができるのではないかと考えている。



■前振りは何秒までなら許されるのか?
 アメリカの営業講師・コンサルタントであるエルマー・ホイラーは「最初の10秒で聞き手をつかめ。もしつかみ損なうと後の10分かけても挽回は難しい」と語った。youtubeアナリティクスの視聴者維持率ページには「どの動画でも最初の 15 秒間に注意する必要があります。この間に再生をやめる視聴者が最も多くなります」との記述がある。私の個人的な経験則から言うと、5秒くらいで特に引き付けるものがないと思った動画はさっさとページを閉じてしまう。
 従って、遅くても15秒以内に動画の魅力を示すか、視聴者を引き付ける演出を行うべきである。特に面白みのない前振りならばさっさと済まし、長くなるようであれば後述の『ネコだまし型』などを利用し視聴者を引き付ける工夫を凝らすべきである。

 ちなみに15秒まで退屈なMADとそうでないMADではどれだけ差がつくのか。私がyoutubeにアップロードした『【MAD】とあるBGMの初春飾利(ニコ動タイトル:「とある花瓶のぬるっとハンド)』と『Despairing signal(ニコ動タイトル:「絶望信号機(巴マミ)」)』をアナリティクスで調べてみた。私のyoutubeへの投稿動画数が少ないために微妙なサンプルしか用意できなかったが、おおよその違いは把握できるだろう。縦軸が絶対視聴者維持率(※1)で横軸が動画の経過時間である。



図1 【MAD】とあるBGMの初春飾利
アップロード日: 2010/03/30-長さ: 2:26-全期間の再生回数: 48,466
27秒まで退屈な映像が続く。15秒時点での絶対視聴者維持率は67%。




図2 Despairing signal
アップロード日: 2011/07/03-長さ: 0:41-全期間の再生回数: 5,479
動画開始と同時にマミさんの狂気的な声が響く。15秒時点での絶対視聴者維持率は81%。

 図1では開始から0:20付近までに4割以上の視聴者がページを閉じているのに対し、図2では2割程度である。図1は0:20以降どんな面白いネタを挟んでも元の6割以下の視聴者にしか披露できないということを示しており、非常に勿体無いことをしていることがわかる(※2)。

※1 絶対視聴者維持率とは
「絶対的な視聴者維持率として、動画の各時点での再生回数を、動画の再生が開始された回数で割った割合が表示されます。 視聴者が動画をある時点で巻き戻して再生し直したり、途中の時点から再生を開始したりすると、その時点で維持率のグラフが上昇します(100% を超えることもあります)。一方、動画を早送りしたり再生を中止したりするとグラフが下降します。」


※2 どちらの動画も日本人の視聴者の平均再生時間が短く、日本人が開始数秒での絶対視聴者維持率を下げる主要因になっていることが推測できる。初春動画の全体の日本人割合は55%なのに対し、マミさん動画は87%である(こっちは英名なのに日本人が殆ど。意外である)。従って単純に考えれば日本人が殆どであろうニコ動では上記の差がさらに開くことが予想されるが、ニコ動のコメントの効果とが如何ほどか不明であることと、同じ日本人でも視聴層がyoutube派とニコ動派で異なることから、ニコ動において2つの動画の絶対視聴者維持率はどのように変化するのか予測が付かないため、上記のデータはあくまで参考程度にしかならない。




■映画、ドラマの出だしは参考になるか?
 では、視聴者にページバックされないためにはどのようにして気を引けばいいのか?私は映画やドラマでの出だしの手法を応用することができると考えている。もちろん、MADは映画やドラマとは異なり、「舞台を自由に設定できるか」「ストーリーの連続性を考慮する必要があるか」などの点において別の力学を有するため、同列に語ることができないのは明らかだ。だが映画やドラマのシナリオ作成では客の興味を引くためのテクニックが体系化されて存在し、MADの出だしにも応用できる部分がある。特にドラマにおいてはチャンネルを回されないように冒頭から視聴者の気を引く必要があり、つまらなかったら即ページバックされるMADとの類似性が高く、参考になる要素が多い。

 まずは映画の起承転結の「起」にあたる出だしについて考える。映画の出だしには『張り手型』と『撫で型』という2つの有名な様式が存在する。簡単に説明すると以下のとおりである。

・『張り手型』……いきなり事故や事件等のショッキングな場面に入る。意表をついて「これからどうなるのだろう」と思わせる。
・『撫で型』……順序良く淡々と説明していくという、説得型の入り方。じっくりと視聴者を引きこませていく。迫力に欠けるのが欠点。

 前振りから音MAD本編に切り替わるときの落差によって視聴者を楽しませたいのであれば、それは『張り手型』と分類できるかもしれない。例えば、手前味噌で恐縮だが「ボンバルクホルン」の前振りは一触即発感のある戒告シーンが用いられ、曲の開始と同時にインパクトのあるスパンキングが始まる。前振りで緊張感を高め、スパンキングが文字通り『張り手』の役割を担っている。インパクトのあるシーンを序盤に持ってくることで視聴者を容易に引き込むことができるため、この手法は非常に有用だ。
 そう考えると前振りありの音MADはおおよそ全て『張り手型』として分類されるのかもしれない。前振りから音MAD本編への切り替わりが一つのネタとなっている音MADが殆どだからだ。仮に音MADで『撫で型』を作るのであれば、しっとりとした曲を使い、イントロAメロBメロにキャラクター紹介やあらすじ説明を済ませ、サビに盛り上がるシーンを持ってくる、といったところだろうが、音MADは兎にも角にも迫力重視にならざるを得ない傾向があるためこの型は向いていないと言えるだろう。あるいは機動戦士ガンダムUCのBGM「UNICORN」のような曲を用いて音MADを作れば魅力的な『撫で肩』音MADを作成することができるかもしれない。
 また、映画の出だしの切り口で視聴者を引きつけるためによく使用されるのが、喧嘩とラブシーンだ。これは、人間に他人の感情にすぐに乗ることができるという性質を利用したもので、感情が最も昂ぶるシーンを出だしに持ってくることによって視聴者を引きつける、という算段だ。この切り口は音MADの出だしにおいても十分に活用できるだろう。
 さらにもう一つ、視聴者は動きにも興味を持つ。刑事物の映画で犯人を追っかけているシーンから始まるのがこれだ。画面の中で何かしらの動きが続いていると視聴者はのめり込む。これも音MADの前振り部分でページバックさせないためのテクニックとして使えるだろう。

 次にドラマについてはどうか。ドラマにおいての手法として新井一氏は『シナリオ作法入門』(2010)で『ネコだまし型』という様式を挙げている。「こいつ何をやるかな」と疑問をもたせることによって視聴者をのせていく手法だ。例えば混んでいる電車から喪服姿の女性が一人降りてくるなど、日常生活ではなんてないことが画面内で行われると「何だろう?」と疑問が出てくる。小津安二郎氏がしばしば使った手らしいが、これが『ネコだまし型』という手法だそうだ。または、著者によれば登場人物の感情の象徴を出すという意味でドラマが始まる以前の話をセリフや行動を通じて表現することも『ネコだまし型』に含まれるとのことだ。
 これを音MAD的に噛み砕いて言えば、意味深な前振りから始まり視聴者に興味を持たせ、その流れで音MADパートに繋いでしまえばいいので、【USPDX】 お姉ちゃんたちの逆襲 vsマスクドセックス」なんかがこれに当てはまると考えられる。動画開始と同時に石川の後ろが右下にチラッと表れて消える。視聴者に「ここからどうエア本に繋がるのか」と考えさせ、セリフの関連性という答え合わせに入る。この例のように視聴者に疑問をもたせ、かつ整合性のある音MADパートへの導入が作られていればつかみは上出来だと言える。



■むすびに
 本記事のまとめとしては以下の通り。

・前振りには色んな種類がある
・退屈な前振りならさっさと終わらせるが吉
・インパクトある導入か意味深な前フリで視聴者を引き込め

 と、ここまで出だしについて掘り下げて考えたのだが、正直、前振りはあってもなくてもいい部分であるし、音MADの本筋は音楽性だったり詰め込まれたネタだったりキャラの可愛らしさや修造的な熱さだったりするので、開始数秒のわずかなパートにそれほど熟考する必要はない。しかし本筋とはたいして関係ない細かなところにアホみたいに拘るのは、創作者の特権であり、なんといっても楽しい。枝葉末節にとらわれて本質を見失わない程度にこの楽しさを追求したいものだ。

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エア本の「開幕悪たれシリーズ」みたいに導入をテンプレにしてシリーズ化させたのすごく好きですね。膳はサムネ統一だけじゃなくて本編でもその傾向があるかも。これはどの膳だ?
103ヶ月前
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導入のシリーズ化は見落としてました。テンプレによって様式美を作るという強みがありますね。
103ヶ月前
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これは興味深い記事ですね
自分も動画を作ってた過程で、掴みは遅くても25秒までって結論に達しました。
なのでMADを作る際に選ぶBGMは始めの25秒までにガッと掴んでくる曲の方がやりやすいし
逆にスローテンポは難しいですねぇ
あとは今敏監督のパーフェクトブルーのブルーレイに付いてる講座が役に立ちましてここでは
出だしで作品全体のテーマを伝えることが大切だと伝えられるのですが
動画作り際には必ずテーマを序盤に入れることを意識してますね
99ヶ月前
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