帝高陽之苗裔兮朕皇考曰伯庸━━『楚辞』離騒
むかし、皆が《朕》の一人称を使っていた。
エルフがゴブリン…?
ハロー、ガイズ。
朕は聖書( と北欧神話( とトールキン好きのヒストール、よろしくね。
むかし、エルフはゴブリンだった。これは英語語源の「elf(エルフ)」の小話。エルフは、トールキンの影響で「金髪碧眼で魔法に秀でた長命種族」として定着した。しかし、トールキン前のエルフはどうだったのだろう?
『エルフの町の消滅(1894年)』のエルフ
elf (n.)
"one of a race of powerful supernatural beings in Germanic folklore," Old English elf (Mercian, Kentish), ælf (Northumbrian), ylfe (plural, West Saxon) "sprite, fairy, goblin, incubus," from Proto-Germanic *albiz (source also of Old Saxon alf, Old Norse alfr, German alp "evil spirit, goblin, incubus"), origin unknown; according to Watkins, possibly from PIE *albho- "white." Used figuratively for "mischievous person" from 1550s.
Etymology(語( 源( 詞( )によると、古英語(Old English)のエルフは「スプライト、フェアリー、ゴブリン、インキュバス」とある。英語圏で最古の英雄叙事詩『Beowulf(ベオウルフ)』ではエルフは罪人カインの末裔とされ、巨人や悪霊と並ぶバケモノの類に数えられている(この記事からは遠いが『ベオウルフ』は北欧神話やゾロアスターと深くつながる)。さらに元のゲルマン祖語においても、やはり「悪霊、ゴブリン、インキュバス」とある。
ベオウルフとグレンデル
Nonetheless a popular component in Anglo-Saxon names, many of which survive as modern given names and surnames, such as Ælfræd "Elf-counsel" (Alfred), Ælfwine "Elf-friend" (Alvin), Ælfric "Elf-ruler" (Eldridge), also women's names such as Ælfflæd "Elf-beauty." Elf Lock hair tangled, especially by Queen Mab, "which it was not fortunate to disentangle" [according to Robert Nares' glossary of Shakespeare] is from 1592.
というのは表向きの話。アングロサクソンの名前、現代人の名、姓には
「アルフレッド(エルフの助言)」名
「アルヴィン(エルフの友)」名
「エルドリッジ(エルフの統治者)」姓
とあり、古代の王妃名には
「エルフフェド(エルフの美)」名
とある。王妃名や現代名や姓に組み込まれるエルフが、ただのゴブリンや罪人の末裔なわけがない。先に挙げた『ベオウルフ』で罪人カインが出てくるように、最古典すら聖書化が始まっている。『ベオウルフ』は文書化されていない口承教養の厚みがあり、現代翻訳でちょっと読んでも内容がわからない。
八岐大蛇と八握剣持つ魔虚羅(摩虎羅)
聖書がエルフをゴブリンに貶めた━━と書くと“( 一神教が排他的、多神教が寛容”と勘違いする人が出てくるだろう。日本神話は高貴な側をたくさん貶めている。たとえば、天皇位を保証する天叢雲剣は八岐大蛇の中から出てきたとされる。日本国や天皇位を保証する側が、ただのモンスターのはずはない。八岐大蛇はのちに伊吹大明神として崇められ、龍宮城の竜王(乙姫のパパ)となり、仏法側に属する神仏なる蛇、十二神将の摩虎羅として崇敬の対象になっていた。また、『平家物語』の八岐大蛇は「千尋の海の底、【神竜】の宝になりしかば、【再び人間に返らざるも理】とこそ覚えけれ」「素戔嗚尊に斬り殺され奉りし大蛇…八歳の帝となつて【霊剣を取り返して、海底に沈み給ふ】」とある。八岐大蛇は、八歳の帝となって霊剣を取り返す理を持つ神竜で、敬語で尊ばれる方だ。八岐大蛇は、ただ強いモンスターではない。八岐大蛇(伊吹大明神)の子とされる酒呑童子もまた、天叢雲剣の正当所有者という含みがある。
『蒼天航路』での正しい“残賊”
『古事記』『日本書紀』は政治色が濃く、ぼんやり翻訳を読んでも内容や裏がさっぱりわからない。たとえば、 「ちはやぶる(残賊強暴)」は、日本国の天皇にまつろわぬ星神の天津甕星( が「殷の紂王」側、日本が「周の武王」側なこと。これは日本国こそ反逆者で、日本国の敵こそ宗主国だと中華の古典で表している。が、中華の古典のキーワード「残賊」「強暴」に明るくないと何を言ってるか全然わからない。ただ、本当に太陽神でなく星神こそ主で、天照と日本国が反逆者なら、天皇と日の丸ごと日本のポジションそのものがあやしくなる。大蛇や星神の他にも、土雲(土蜘蛛)や鬼などは日本国より高貴な国側だったから、いや、高貴な者だからこそ貶めなければならない、というのが日本国の裏事情だ。
渡辺綱と土蜘蛛
建国から300年近く経っても、渡辺綱(953-1025)が鬼を斬って「髭切」を「鬼丸」に改称、源頼光(948-1021)は土蜘蛛を斬って「膝丸」を「蜘蛛切」に改称しければならなかった。鬼や土蜘蛛は、天皇を守る源氏にとって邪魔な「やんごとなき方々」で、現代に至るまで鬼や土蜘蛛を貶めてもまだ消えていない。日本人が1300年も忘れられない大蛇や土蜘蛛や鬼は、ただの空想や呪いではない。
とまあ、話がエルフから大幅にそれた。エルフが古英語でゴブリンや罪人の末裔とされていても、それらはうのみにできない。大蛇や星神や土蜘蛛や鬼が千年以上悪者にされても、それらはうのみできない。トールキンが「エルフ」の地位を向上、あるいは復帰させたのはすごい偉業だ。しかし、トールキンは英語圏でも傑出したライターで、彼の作品内容を覚えるだけでは背景を理解できない。日本でも『泣いた赤鬼』のような単発的な作品はあるが、大蛇や鬼や土蜘蛛の地位そのものを復帰させた作品はまだない。日本の作者にとって、エルフ、ゴブリン、フェアリーの理解、大蛇、鬼、土蜘蛛の理解と再解釈はこれからの課題になる。
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