ヒストールのブログ

リバティとライツの下準備

【ウィッチャー3】「森の貴婦人」とゲラルトの会話が呪術合戦

 
 クニや領主から見捨てられた沼地に「森の貴婦人たち」がいる。
 
 ハロー、ガイズ。
 わたし聖書ヴィヴリア北欧神話ノアス・ミサラズィとリヴィアのゲラルト好きのヒストール、よろしくね。
 これは『ウィッチャー3』の「森の貴婦人たち」関連話。少しネタバレ注意。
 

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森の貴婦人たちのタペストリ
  
 少し古めの魔女観ではまともな物語が成立しない。「魔女はいなかった」「魔女は豊穣祭祀だった」では話にならない。『ウィッチャー3』の「森の貴婦人(Ladies of the Wood)」は謎めいた存在で、魔女を踏まえつつ得体が知れない。あるシーンを見たプレイヤーたちは「妖婆たち(crones)」と呼ぶだろう。彼女たち三名はとりあえず名づけられているが、本名は不明で、誰も彼女たちをコントロールできない。彼女たちはエルフやドワーフより古い存在で、不死で、実質的にクルックバック湿原を支配している。『指輪物語』のトム・ボンバディルを大人向けにした感じ。 興味深いのは、彼女たちが「ブラザーとブラザーが敵対する時代」を嘆き、自分たちを「悪と闇を倒す側」「幸運の知らせを告げる側」「糸をほどく側」に位置づけることだ。主役リヴィアのゲラルトは彼女たちを「呪われて封印されたのか?」と聞くが、彼女たちは嘲笑し、自分たちは呪いを「投げる(cast)」側で、呪われる側ではないと言う。よく聞くと、彼女たちの言葉は呪術的で罠だらけ。ゲラルトが不敵な態度で、スマートかしこいな言葉遣いだから安心感があるが、ゲラルトが少し言葉を間違えれば彼女たちにたぶらかされる。たとえば、彼女たちの言葉

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おどけてからかう語調

 

貴婦人たち「痛い所を突いてしまったみたい…よく発酵したパンみたいに、感情が膨らんでいくわ」
英語版「I believe we've hit a nerve! He's bubbling like well-fed yeast.」

 

これは妖婆たちがゲラルトをからかっているだけに見える。しかし、これは呪詛だ。「パン種(yeast)」はキリストがマタイ13章33節で「天国」に似ていると言った言葉、「よく(well-fed)」はヤコブ(James)2章16節の「十分(well-fed)食べなさい」と言うだけで何も与えない事、「膨らんでいく(bubbling)」はヨハネ4章16節で「永遠の生命に至る水が湧き出る(bubbling)」。キリストが語る天国の「発酵」と与える永遠に渇くことがない水の表現を使い【言うだけで何も与えない】で落としている。しかもヤコブの手紙(James)は英語訳聖書の古典「ジェイムズ王訳(King James Version)」で、タイトルのヤコブをジェイムズ(James)に改ざんしてしまった書だ。このセリフの前、ゲラルトが追いかけてるシリについて「俺の娘のような存在」と言うが、彼女たちは「美しい若い娘なら、そんなの関係ある?」と煽る。これは旧約聖書『創世記』19章で、ロトが娘と子作りしたことにかけている。高学歴の人はこういう知的な皮肉を言えるカルトやオカルトにはまりやすい。知性と善意悪意は関係ない。世界に知的な悪人は大勢いるし、無知性の悪人も大勢いる。ヒストールが知的だから善意の人とは限らない。元ネタは英語訳や日本語訳の版違いのため紙の本で調べにくく、ネットで調べやすい。少し教養あるクリスチャンなら調べずに気づく。わたしは妖婆たちの語をもっと細かく解説できるが省略する。彼女たちがやり手の詐欺師やカルトと明確に違うのは、土地に根ざした支配者なこと、実際におそろしい呪術を使うこと、不死なこと、■■じ■■くを食べていることだ。彼女たちは「かわいそうな魔女」でなく「ただ悪い魔女」とも言えない。とりあえず彼女たちは沼地の住人を守ってもいる。おぞましい事もしているが。
  

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最初の酒場
 
 『ウィッチャー3』は難しいことがわからなくても、デザインを見てるだけでも楽しい。中世的な世界観を壊さない風俗が見栄えする。たとえば、最初の酒場では草花で編んだ飾り、木の壁に書かれた色鮮やかな花の絵、各職業ごとの服装や鎧を見ることができる。「ひょっとしたら、こういうモノが中世にあったかも」と想像力を刺激する。
 

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商人(?)
 
 商人が世界に触れる情報源が詩人の歌だったり。
 

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近代史が専門の助教
 
 学者が書を捨て、知識を渇望して前線に来たり。
 

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ウィッチャーらしい
 
 そんな学者に戦場では「靴を取るために(一般人や学者を)殺す」から帰れと忠告するゲラルトがカッコいい。書を拾い、学院に戻れ。とは言え、原作のゲラルトは学者と知的なトークをしつつ用語をすり合わせる人で、学者を馬鹿にしてるわけじゃない。
  

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愛は許す
 
 シリーズが知らない人でも『ウィッチャー3』を見て、すぐにその世界観と色に引き込まれるだろう。一人一人に人生と人格があり、個人にあらががたい時代の流れや戦争があり、戦争のせいで化物(生物の範疇はんちゅう)が街道に出てくる。人ではないエルフやドワーフがいて、戦争で勢力図が変わる。クニやヒトや土地に色がある。あとゲラルトが探してる女の子シリが超強く、女魔術師たちが怖くて強くて美しい。
 
 『ウィッチャー3』はすでに2800万本売れた。原作者のアンドレイ・サプコフスキのやりたい事と一致してるかは知らないが、『ウィッチャー3』がもたらした波はRPGの質を変えた。わたし的にはNetflixのドラマ版もウィッチャーも面白かった 。わたしウィッチャーを日本の問題として見ている丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶が、日本国内では『ウィッチャー3』の売上50万本と低めで、もう少しブーム的な火付けが要るかも知れない。

 


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 11:23〜「森の貴婦人たち」との会話
 13:50〜「よく発酵したパン」シーン