少し古めの魔女観ではまともな物語が成立しない。「魔女はいなかった」「魔女は豊穣祭祀だった」では話にならない。『ウィッチャー3』の「森の貴婦人(Ladies of the Wood)」は謎めいた存在で、魔女を踏まえつつ得体が知れない。あるシーンを見たプレイヤーたちは「妖婆たち(crones)」と呼ぶだろう。彼女たち三名はとりあえず名づけられているが、本名は不明で、誰も彼女たちをコントロールできない。彼女たちはエルフやドワーフより古い存在で、不死で、実質的にクルックバック湿原を支配している。『指輪物語』のトム・ボンバディルを大人向けにした感じ。 興味深いのは、彼女たちが「ブラザーとブラザーが敵対する時代」を嘆き、自分たちを「悪と闇を倒す側」「幸運の知らせを告げる側」「糸をほどく側」に位置づけることだ。主役リヴィアのゲラルトは彼女たちを「呪われて封印されたのか?」と聞くが、彼女たちは嘲笑し、自分たちは呪いを「投げる(cast)」側で、呪われる側ではないと言う。よく聞くと、彼女たちの言葉は呪術的で罠だらけ。ゲラルトが不敵な態度で、スマート(な言葉遣いだから安心感があるが、ゲラルトが少し言葉を間違えれば彼女たちに誑かされる。たとえば、彼女たちの言葉
おどけてからかう語調
貴婦人たち「痛い所を突いてしまったみたい…よく発酵したパンみたいに、感情が膨らんでいくわ」
英語版「I believe we've hit a nerve! He's bubbling like well-fedyeast.」
これは妖婆たちがゲラルトをからかっているだけに見える。しかし、これは呪詛だ。「パン種(yeast)」はキリストがマタイ13章33節で「天国」に似ていると言った言葉、「よく(well-fed)」はヤコブ(James)2章16節の「十分(well-fed)食べなさい」と言うだけで何も与えない事、「膨らんでいく(bubbling)」はヨハネ4章16節で「永遠の生命に至る水が湧き出る(bubbling)」。キリストが語る天国の「発酵」と与える永遠に渇くことがない水の表現を使い【言うだけで何も与えない】で落としている。しかもヤコブの手紙(James)は英語訳聖書の古典「ジェイムズ王訳(King James Version)」で、タイトルのヤコブをジェイムズ(James)に改ざんしてしまった書だ。このセリフの前、ゲラルトが追いかけてるシリについて「俺の娘のような存在」と言うが、彼女たちは「美しい若い娘なら、そんなの関係ある?」と煽る。これは旧約聖書『創世記』19章で、ロトが娘と子作りしたことにかけている。高学歴の人はこういう知的な皮肉を言えるカルトやオカルトに嵌りやすい。知性と善意悪意は関係ない。世界に知的な悪人は大勢いるし、無知性の悪人も大勢いる。ヒストールが知的だから善意の人とは限らない。元ネタは英語訳や日本語訳の版違いのため紙の本で調べにくく、ネットで調べやすい。少し教養あるクリスチャンなら調べずに気づく。我は妖婆たちの語をもっと細かく解説できるが省略する。彼女たちがやり手の詐欺師やカルトと明確に違うのは、土地に根ざした支配者なこと、実際におそろしい呪術を使うこと、不死なこと、■■を食べていることだ。彼女たちは「かわいそうな魔女」でなく「ただ悪い魔女」とも言えない。とりあえず彼女たちは沼地の住人を守ってもいる。おぞましい事もしているが。