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ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 作者:篠崎芳
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二手


 前回更新後、新しくレビューを2件いただきました。ありがとうございました。


 そして気づけば「ハズレ枠」にもう100件以上レビューをいただいていたのですね……当然まったく同じレビューというものはなく、読んでくださっている方それぞれに少しずつ違った「ハズレ枠」の楽しみ方を見つけてくださっている気がして、嬉しく思いました。重ね重ね、ありがとうございます。ご期待にそえられるかはわかりませんが、今後ともがんばって書いてまいりたいと思います。


 ちなみに一部、過去の騎兵隊の隊番表記について修正を行う予定でおります。特に読み返していただかなくとも、今後本筋を読む分にはさほど問題ないかとは思うのですが……アライオン十三騎兵隊の設定は書きながらちょこちょこいじっていたので、過去に書いた描写と合わない描写がございましたね……。



 それから先にまえがきでの予告となりますが、次話更新は9/22(水)21:00頃を予定しております。










 綾香たちは、聖の提案通りに動くことになった。


 周防班。

 二瓶班。

 室田班。


 この三班の指示役は、周防カヤ子。

 高雄樹は自由に動く。

 役目としては、他の勇者では相手をするのが厳しそうな魔物を倒す。


 聖がてきぱきと指示を出していく。


「大魔帝とおぼしき敵を見つけたらすぐに逃げて――それから、これを」

「これは?」

「音玉という魔導具よ。実は前々から少しずつ集めていたの。貴重品なのだけれど――貴族から譲り受けたり、王都の裏路地の市なんかでも手に入ったわ。まあ、大半は……ちょっとした伝手で手に入れたのだけれど」


 音玉の存在は閉架書庫の書物で知ったそうだ。

 一定以上の魔素を込めると音を発するらしい。

 この世界ではスマートフォンが使えない。

 が、これを使えば即座に遠くの誰かへ合図を送れる。

 それにしても、と綾香は思った。


(ちょっとした伝手って……何かしら?)


 聖が、説明を続ける。


「色によって音が違うから……事前に合図の内容を色別に決めておけば、ある程度は音の違いで各自の状況を判別できる。たとえば”ピンチだから助けに来てほしい”とかね。音の発生方向や耳に届いた大きさで、大体の位置もわかるわ」


「ん? てことは”大魔帝発見”の色なんかを決めとけば……遠くにいる姉貴たちに、すぐその発見の合図とか送れるわけか」


「角笛より音の聞き分けが簡単だし、狼煙の本数で判別するやり方は時間がかかりすぎる。旗を掲げる手もあるけど、角度や高低差で見えなかったりするから。暴風雨やひっきりなしの落雷でも来ない限りは、この音玉の方がかなり使いやすいはず」


 色による音の違いで、いくつか合図を決めた。


「それじゃあ、健闘を祈るわ」

「あの、聖さんたちも――き、気をつけてね!」

「ありがとう、南野さん」


 萌絵がぽかんとする。


「聖さんが……わ、笑った?」


 分かれる前に、綾香も声をかける。


「みんなも、気をつけて。それと……この王城にいる人たちのこと、お願いします」


 樹が両腕で後頭部を抱え、鼻を鳴らす。


「ま、やれるだけのことはやってみるぜ。委員長も、しっかりな」

「ええ、全力を尽くすわ」

「姉貴は――まあ、大丈夫だとは思うけど一応気をつけてな」

「あなたもね。彼らを頼んだわよ、樹」

「絶対ってほどの確約はできねーけど……姉貴がそう言うならアタシは全力でやる――任せとけ、姉貴」

「それじゃあ行きましょう、十河さん」

「ええ、じゃあみんな――必ず全員、無事に再会しましょう!」


 こうして綾香は聖と二人、王城の敷地内を再び駆け始めた。

 振り返る。

 カヤ子たちは、もう見えない。


「今は、彼らの力を信じましょう。樹もついてる」

「え、ええ……っ」


(みんな、どうか無事で……っ)


 不意に聖が足を止め、城壁の物見塔を見上げた。


「あの物見塔からなら、高さと位置的に広範囲を見渡せそうね」

「ええ、無闇に駆け回るより早いかも……」

「降りる時はまた、私の固有スキルを使って降りましょう」


 物見塔へ入り、二人で階段を駆け上がる。

 塔の中にも邪王素で苦しむ兵たちがいた。

 が、ここは心苦しさを押さえつけて駆け抜けるしかない。


 最上階に到達。


 確かにここからなら見通せる範囲が広い。

 二人で身を隠しつつ、窓の外を窺う。

 綾香はそこでハッとした。

 無意識的に、声を押し殺す。


「聖さん、あそこ」

「ええ」


 人の大きさくらいの黒い霧のようなものが、いる。

 ゆらゆらと、移動している。

 距離はこの物見塔から300メートルくらいか。

 噴水のある広場の辺りだ。


「!」


 突然、黒い霧が膨れ上がった。


 膨張した今ならはっきり目視できる。

 巨大な口。

 白い歯や歯茎が、しっかり見える。

 よく目を凝らしてみると、口内に金眼らしき球体が確認できた。

 まるで、口の中に潜んでいるような金眼である。

 が、すぐにその金眼は口の奥へ引っ込んだ。

 奇妙な光景だった。

 霧の中に、人間に酷似した口だけが存在している……。

 そしてその口が――


 魔物を、吐いた。


 漁獲網から漁獲物が、ドバっと出てくるみたいに。

 大魔帝はああやって――吐き出し、産むのだ。

 金眼の魔物を。


「あなたから聞いた話だと……大魔帝の他に金眼の魔物を生み出せるのは、その力を分け与えられた側近級の第一誓だけだったわね?」

「え、ええ……あの第一誓の口ぶりだと、その力を分け与えられるのは特別なことみたいだった。これまでの歴史でも通常、ありえないことみたいだし……」

「そして、あの黒い霧のような姿……東軍に参加していた時に大魔帝として現れた巨大な生物要塞の”コア”の部分にいたものと――同じ」

「つまり、あれが……」


 綾香はそこで言葉を切り、唾をのむ。

 魔物を吐き出し終え萎んでいく黒い霧。

 聖はそれを眺めながら――


「ええ」


 確信した調子で、言った。


「決まりね」



     ▽



 綾香と聖は物見塔の階段を駆け降りる。


 当初は最上階から飛び降りる予定だった。

 が、この距離だと大魔帝に気づかれる危険性がある。

 聖がそう判断した。


 そうして物見塔を出た二人は、アーチ状の大きな通路の前まで来ていた。


 通路の扉は、最初から開け放たれた状態。


「…………」


 この先の広場に……


(大魔帝が、いる)


 壁に背をつけ、通路の向こうの様子をそっと窺う。


(……いた)


 幽霊のようにゆらゆら移動している。

 その周りには五体の金眼の魔物。

 この距離で見るとわかる。

 大魔帝は多分、地に足をつけて歩いている。

 二足歩行で移動しているのだ。


(あの霧の中に、人型の本体がいる……?)


 とすれば――朗報と言える。

 肉体があるなら、物理的に斬り伏せられる。

 聖と視線を交わす。


「どう攻めるべきかしら、聖さん」

「最大攻撃力を持つ固有スキルによる奇襲。それがベストだとは、思うのだけれど……」


 聖はそこで口をつぐむ。

 そう――彼女はずっと、何か考えている感じだった。

 綾香は言った。


「私も、そう思う。どの道、倒さなくてはならない相手だし……何よりあの大魔帝をここで倒せれば――私たちは、元の世界に帰れる」

「……そうね」


 聖から何か、いまいち踏み切れない空気を感じた。


「聖さん、何か……気にかかることでも?」


「大魔帝がここで、死んでしまうと……、――いえ、ここで大魔帝を倒せれば大きいのも確か……何より、あの生物要塞と戦わなくていいと考えれば……見方によっては、大きなチャンスなのかもしれない。ベストなタイミングを測っての、奇襲……そうね――やりましょう、十河さん」


「ええ。やりましょう、聖さん」


 綾香はより表情を引き締め、槍を強く握り締めた。

 次いで聖に向き直り、


「私たちなら、必ず勝てるわ」

「そうね。互いの力を、信じましょう」

「ところで聖さん……あの周りの金眼の魔物は、どっちが……、――ッ!」


 その瞬間、綾香は思わず大きな声を出しそうになった。

 一方の聖は、ほんのわずか――眉を顰めたように見えた。


「……どうしたもの、かしらね」







「――――結局おまえに、行き着くわけだ――――」







 ゆらり、と。


「…………」


 大魔帝が”そちら”を、向いた。



「東軍の時に見たあのでかいのは所詮、乗り物にすぎなかったってことか……そして、やはり……あの時見たおまえが本体だった、と。やれやれ……結局はこの異世界でのすべても――このオレに行き着く。行き着かざるを、えない」



 熱を逃がすみたいに”彼”が、息を吐いた。


 そのまま髪を撫でつけ、あごを上げると――


 彼は不遜とも言える仕草で、黒い霧を、静かに見据えた。


「やはり最後にはどうしようもなく、このオレに帰結する……。どう足掻こうと……帰結、しちまう。神はサイコロを振らないとか言うが――そもそもこのオレには、サイコロという概念自体存在していない。サイコロとかいうザコ概念に足を掴まれた時点でもはや……神はオレ以下と、言わざるをえない」


 小さな金波龍を纏った、桐原拓斗。

 彼が現れたのは、今の綾香の位置から見て北東の方角だった。


「……前の世界と同じだ。強者には必ずその素質にふさわしい機会が巡ってくる……巡って、きちまう。ま、ウマい儲け話ってのも強者にしか回ってこねーって話だしな。とどのつまり、世の中ってのは勝つやつが勝ち続ける仕組み……ああ、自己紹介が必要か? オレは――強者だ」


 大魔帝は、喋らない。

 人間のものと遜色のない口がある。

 けれど大魔帝は、一度も言葉を発していない。

 側近級などの”魔族”と分類される者たちを思い出す。

 彼らは人語を介した。

 が、大魔帝は喋らない存在なのだろうか?

 コミュニケーションが取れない。

 理解し合えない。

 綾香はそこに、ある種の不気味さを覚える。


 ゆらり、と。


 大魔帝の霧が、妖しく揺らいだ。

 他の五体の金眼は戦闘態勢に入っている。

 が、まだ動く気配はない。


「――ちっ、急ぐしかねーか。ネズミが、いやがる……」


 聖の目が細まった。


「彼、おそらく私たちの存在に気づいたわ。そして今の目の動きで――私たちがここにいるのが、大魔帝に気づかれたかもしれない」

「! な、ならっ――行きましょう、聖さんっ」

「…………」

「今の私たちと桐原君なら、互いの位置的に挟み撃ちが可能だわっ。桐原君の攻撃に合わせて、私たちも――」

「いえ、それはだめ」

「ひ、聖さん!?」

「焦って気づいていないようね……それとも”そんなことはありえない”と思っているからかしら」

「え?」

「彼を、よく見て」

「? 桐原君が一体……、――ッ!」


 改めて桐原を見て、綾香は驚愕した。

 言葉を失った綾香を一瞥し、聖は視線を彼へと戻す。





 そう。

 桐原の左腕が、こちらを向いているのだ。

 多分、獲物を――


 獲物を、横取りされると思って。


 この期に、及んで。

 綾香たちを協力者ではなく、


「私たちを”競争相手”と、見なしているのよ」

「そん、な……」

「私たちが大魔帝に攻撃を仕掛ければ、おそらく彼は躊躇なく固有スキルを私たちへ向けて発動させる」


 綾香は強く唇を噛んだ。


(今こそ三人で、協力すべき時なのに……ッ)


 そして、


 桐原のもう一方の腕は当然、大魔帝へと向けられている。


 と、黒い霧の中から――


「……………………」


 黒い鎌のようなものが、のびてきた。

 どこか、カマキリの腕を連想させる形だった。



 大魔帝の圧が、増した。



 急激な威圧感の膨張。


 肌を刺すような強烈なプレッシャー( 重圧 )



 アイングランツの比ではない。



(なんて、重圧……これが……大魔帝――ッ)



「目にものってやつを、見せざるをえない時が……ついに、来ちまったらしい。ってわけで……ここからが目にものの最終決戦……――――」



 桐原の纏う金波龍たちが輝きを増し、気勢を上げる。









          「キリハラだ(王の戦いだ)











  ――――――【 金 色 龍 鳴 波(ドラゴニックバスター) 】――――――













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