鍵をなくして家に入れないなどのトラブルが起きた時、インターネット上で検索すると、数多くの鍵の専門業者がヒットする。依頼するとすぐに来て鍵を開けてくれるものだが、今回、鍵の解錠で『74万円を請求していた』という被害者を取材。そして業者が摘発された。その手口に迫る。
逮捕の鍵修理業者 “正反対”の謳い文句と口コミ
特定商取引法違反の疑いで9月8日に逮捕された佐野精希容疑者(26)。警察によると、佐野容疑者は鍵の修理業などを展開する会社の社長で、客から依頼を受けて玄関の鍵などを修理した際に、虚偽の会社名や住所が記載された契約書を客に渡した疑いが持たれている。なぜ住所などを偽る必要があったのか?
佐野容疑者が運営していたとされる「マッハ鍵サポート」のホームページには以下のような言葉が書かれている。
『鍵の緊急トラブルはお任せください!』
『大阪府下 スピード出張サービス』
『鍵開け5000円から対応します』
ホームページによると、鍵をなくすなどのトラブルが起きた際に、鍵を開けてくれるサービスを行っているようだ。「安心のリーズナブルな価格設定」「修理内容をわかりやすく伝える」などとも書かれている。しかし、この業者について調べてみると…。
(記者リポート)
「マッハ鍵サポートの口コミを検索します。“悪質な業者”など悪い口コミが多く出てきます」
口コミには「詐欺会社」や「高額な料金を請求してくる」などと書かれていた。一体、どのような業者なのか?
74万円請求された被害者が語る手口
取材班は「被害を受けた」と訴えるAさんに話を聞くことができた。
(「マッハ鍵サポート」の被害者 Aさん)
「最初はベランダのロックの解錠依頼で母が頼んでいたんです。ホームセンターで3万円くらいで頼んでロックを設置していたんですけれども…」
Aさんが設置したのはベランダのドアを内側からロックできる鍵。Aさんの母親はマンションで一人暮らし、病気による転落防止などの理由からベランダが開かないように設置していた。しかし去年11月、母親が「マッハ鍵サポート」に鍵の解錠を依頼したという。
(「マッハ鍵サポート」の被害者 Aさん)
「依頼していない方の玄関の鍵も全部換えられて、総額約70万円という請求をされていて、ショックというより怒りの方が強かったです」
Aさんによると「マッハ鍵サポート」による手口は以下のような流れだ。
母親がホームページを見て電話をかけると、すぐに2人の男がやってきたという。母親がベランダ2か所の解錠を依頼。料金を尋ねると「やってみないとわからない」と話したという。そして2人はドアに設置されていた鍵を取り外した。
これで終わりと思いきや、2人は玄関へ行き、依頼していないにもかかわらず、玄関の上下の鍵も取り換え、さらにドアガードも設置したという。
実際に取り付けられていたドアガード。母親にとっては全く必要のないモノだった。
作業後に母親が受け取った「作業依頼書」。そこには、ベランダの鍵の解錠に「39万2000円」。玄関の鍵の取り換えとドアガードの設置に「25万3000円」。計74万円が請求されていた。
男らは作業を終えるとその場で全額の支払いを求め、現金を所持していなかった母親を近くのATMまで行かせ金を引き出させたという。
(「マッハ鍵サポート」の被害者 Aさん)
「私が領収書を見てびっくりしたので。問い合わせても偽名で住所もなく全部ウソの領収書だと確認したので。電話してもつながらないし…」
請求書には会社名が書かれ、住所や電話番号などが記されているが、電話は通じなかったという。
請求書に書かれた住所を記者が訪れると…
取材班が請求書に書かれていた住所に向かってみた。
(記者リポート)
「住所はここですね。ただ事務所や会社のようなものは無くて、ガレージですね」
ガレージにいた人に話を聞いた。
(ガレージを利用する人)
「私はもうここは30年くらいかな。(ガレージが建ったのは)その前だから40年くらい前かな。(Q鍵の修理の会社なんですけれども全く知らないですか?)いや、知らないですね」
この場所は数十年前からガレージになっていて「鍵の業者は知らない」と話した。請求書に書かれた電話番号に取材班も何度も電話をかけたがつながらなかった。
電話で取材「高額請求の認識は?」
「マッハ鍵サポート」の被害を訴える人が相次ぎ、警察の捜査が続く中、取材班は運営会社とされる「株式会社キセキ」という会社を割り出した。その社長が今回逮捕された佐野精希容疑者だった。9月3日、会社に電話をかけてみると、担当者が電話に出た。
(担当者)「もしもし」
(記者)「株式会社キセキさんでしょうか?」
(担当者)「はい、そうです」
(記者)「代表の佐野精希さんですか?」
(担当者)「いえ、違います」
(記者)「代表の佐野精希さんはどちらにおられますか?」
(担当者)「基本的に僕らが電話を受けて対応するので、直接社長が受けて対応することはないと思います」
(記者)「『マッハ鍵サポート』を運営しているのは『キセキ』さんですか?」
(担当者)「一応、フランチャイズ契約とかしていて、他の業者さんも入っていますけれども」
(記者)「高額請求をされているという認識はありますか?」
(担当者)「何の案件かも、フランチャイズ先の業者が行ったのかもしれないので、その辺は全くわからないので」
会社側は取材に対して「わからない」などと繰り返し、佐野容疑者に取材を申し込んだが結局応じることはなかった。
捜査関係者によると、「高額請求をされた」などの被害相談が数十件寄せられていて、追及から免れるために虚偽の住所などを記載していたとみられている。
被害にあわないために…気を付けるポイントは?
取材班は今回、別の鍵の専門業者にAさんの74万円の請求書を見てもらった。
(カギの救急車・近鉄八尾駅前店 店長)
「えー、扉を換えたわけじゃないですよね。絶対頼んじゃだめですよね。それにしてもちょっとひどすぎる金額なんですけれども…」
カギの救急車によると、ベランダの鍵を解錠する相場は1か所当たり1万円程度で、玄関の鍵も1か所当たり2万円~3万円程だという。
(カギの救急車・近鉄八尾駅前店 店長)
「お店をかまえて、できればある程度年数やっているところの方が安心度は高いと思うんですよね。できれば数社に値段を聞いてみる。こういった業者に依頼する確率は減らしていけるかな」
誰でも陥る可能性のある「鍵トラブル」につけ込んだ今回の事件。警察は詐欺容疑も視野に捜査を進めている。
(9月9日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特命取材班スクープ』より)