自民党総裁選への立候補を表明している高市早苗前総務相が9月13日、BS11の番組に出演し、首相に就任した場合、経済産業省が公表した第6次エネルギー基本計画の改定案を修正したうえで、電力供給のリスク対応に向け、「小型核融合炉開発を国家プロジェクトとする」との持論を展開した。
高市氏は、新たな経済政策として「サナエノミクス」を提唱し、「金融緩和」、「緊急時の機動的な財政出動」、そして「大胆な危機管理投資・成長投資」を3本の矢として、経済を立て直し、成長軌道に乗せると強調している。その中で最も重視するのが、「大胆な危機管理投資・成長投資」だ。
なかでも、高市氏は電力の安定供給に対するリスク低減には、小型核融合炉の実用化が欠かせないという政策を打ち出している。
核融合炉とは、太陽で起きている「核融合反応」を地上で再現させようという原子炉の一種だ。太陽は、水素原子同士の核融合反応によって生じた熱によって燃え続けている。この「核融合反応」を再現できれば、CO2を排出せずに膨大なエネルギーをつくり出すことができる。しかも、核融合炉は高レベル放射性廃棄物を発生させず、海の中にある重水素といった資源だけで発電できるとされている。
核融合炉に関しては、国際機関であるITER(イーター)が国際熱核融合実験炉をフランスに建設し、2025年に運転開始し、2035年の核融合反応を目指している。イーターには日本はじめ、EU、アメリカ、中国、ロシア、インドが参画している。
さらに2000年ごろから欧米を中心に核融合炉の開発を目指すスタートアップが立ち上がっており、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が出資したGeneral Fusion社、また、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資しているCommonwealth Fusion Systems社など、数百億円規模の資金調達を実現した企業も登場している。
日本でも2021年1月、京都大学発のスタートアップ、京都フュージョニアリングがベンチャーキャピタルなどから資金調達に成功したが、その調達額は5億円程度。小型核融合炉の開発に関して、日本は欧米に比べて資金調達力で劣っている状況だ。
こうした中、番組内で、危機管理投資の具体例を問われた高市氏は、「2030年までに情報通信関連の消費電力量が約30倍になる」とした、文部科学省所管の国立研究開発法人の提言書に触れ、「経済安全保障の観点から、データセンターを海外に置いておくのではなく、日本に持ってこよう、戻そうという動きがある。ただし、データセンターは非常に電力をくう。AIもいろんなものに搭載されていくが、大変な電力をくう。そうするとやはり今のうちに省電力化研究をとことん進めておくということと、電力の安定供給、これを確立していくこと」が重要だと指摘した。
そのうえで、「もし首相に就任したら、エネルギー基本計画の素案を書き直す。日本の産業は成り立たない」と述べ、2030年の日本の産業や生活に必要なエネルギー供給をまかなうためには、核融合炉の開発が必要だとして、「国家プロジェクトとしてやるべきだ」と強調した。
しかし、核融合反応を起こすには、燃料となる重水素や三重水素(トリチウム)をプラズマ状態にしたうえで衝突させなければならず、このプラズマを安定して制御する技術は現状、存在しない。そもそも商業炉を開発できるのか、といった課題もある。さらに、先のイーターの総建設費は約2.5兆円と見積もられるなど、莫大な投資額に対する批判も出ている。そのため、数百億規模で建設できる小型核融合炉をいち早く開発しようと、世界的な技術競争が起こっている。
小型核融合炉の国産化を目指し、国家プロジェクトと発言した高市氏の念頭には、先の京都フュージョニアリングがあるようだ。
別のメディアに対し、総裁選に勝利し首相に就いた場合、「国産の核融合炉を一刻も早く実現するために、京都フュージョニアリングを国家プロジェクトにして、3年で3,000億円といった規模で投資する」「2020年代に必ず実現する」などと語っており、核融合炉の国産化をスーパーコンピューター「富岳」に代わる国家プロジェクトに位置づける考えだ。
一方、経産省が今年7月に公表した第6次エネルギー基本計画の修正案では、原子力政策について、「安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」という表記にとどまり、新設や増設、建て替えなどは盛り込まれていない。
核融合炉の国産化および、エネルギー基本計画の修正を言及した候補者は、今のところ高市氏ただひとりだが、総裁選のゆくえによっては、日本の原子力、脱炭素政策が大きく転換する可能性も出てきた。総裁選の投開票は9月29日に行われる。
ヘッダー写真:首相官邸ホームページ, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
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前田達哉
「今や「核融合炉」関連のスタートアップは、欧米で約50社」 「既に世界中で74機の実験炉が存在し、15機が計画されている。」 「核融合炉の開発に成功した国が、21世紀以降の世界の覇権を握れる」 以上は高市早苗氏の著書「美しく、強く、成長する国へ」の核融合の文面の一部です。スタートアップの乱立から、核融合の実現が近く、ゲームチェンジャーの可能性を強く感じるのです。Energy Shiftの本命は核融合ではないのかとも考える次第です。ぜひEnergyShift編集部様でも核融合の最新情報を扱って頂けると有難い。
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仁熊義則
"地上に太陽を・核融合発電実用化"よりは先に、"宇宙から核融合由来電力を”が、2050年に、ほんの少しは現実味。 空想技術、夢想技術で、妄想のエネルギー基本計画修正となり、日本エネルギーの危機・投機ですね。(笑)
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