――あなたはゲイツ財団の副ディレクターとして、中東、パキスタン、韓国と並んで、日本も担当しておられます。
日本はとても魅力的な国だと思っています。というのも18世紀の産業革命後、圧倒的な技術的優位性を持つヨーロッパ諸国に対峙した国のなかで、日本だけがそのショックと試練をうまく乗り越えることができたからです。日本は非西欧で唯一、G7に入る国になった。
またぼくのようなイギリス人から見ても、日本とイギリスには共通点が多いんです。両国が似ている理由は二つ。(1)どちらも島国だということ。(2)1万5000年前に「農業の発明」という人類史上のビッグイベントが起きたとき、その「近く」にはいたけれど、「中心」にはいなかったことです。
日本は農業発祥の地である中国のすぐそばにあり、イギリスは中東、のちに古代ローマ、ギリシャへと連なる地域の近くにありました。日本とイギリスは世界の中心でもなければ辺境でもなかった。この「微妙に遅れた」状態にあった両国が、自分たちを「中心」から隔ててきた海に守られ、歴史上のある時点でそれぞれ大英帝国、大日本帝国が誕生します。
これらの結果として、日本とイギリスには、「出遅れにともなう不安」と「強烈なプライド」がないまぜになった「島国アイデンティティ」があると思っています。それが強いプライドと同時にシャイな部分を併せ持つ文化につながっているんじゃないでしょうか。
――ダムルジさんは1982年生まれの37歳。その若さでビル&メリンダ・ゲイツ財団の副ディレクターであり、グローバリズムの新マニフェストを世に送り出すことを、ご自身はどう思っていますか。
若いと言ってもらえるのは嬉しいですが、ご存知の通りぼくよりずっと若くて、ずっと成功していて、社会で重要な役割を果たしている人はたくさんいます。オーストリアの首相だって1986年生まれですからぼくより若いですしね。
大きな課題に、財団の同僚のような最高の仲間とともに挑める自分はとても恵まれていると思います。ぼくはイギリスに生まれ、教育を受けられたことを本当に幸運だったと思っています。ぼくの父の母国はイラクで、いとこがバグダッドで生まれ育っているからなおさらです。日本やイギリスのパスポートを持っていれば世界中どこにでも行けますが、イラクのパスポートではそうはいきません。幸運を手にしていながら金儲けだけに一生を費やすのは、あまりに利己的ですよね。
ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/