第3講のまとめ
DVとは、自己保身の病。加害の正当化は、加害者の特質。被害者は自責してしまい、渦中にあるとDVに気づけないことも多い。
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【第4講】DVが子どもに与える影響
共同親権推進派の国会議員や弁護士のDVの認識があまりに低レベルなので、急遽、このような連載をしていますが、最も、誤っているのは、「DVという夫婦の問題を親子の関係に持ち込むな」という考えです。DVと子どもは切っても切り離せない関係にあります。
2018年3月の東京都目黒区の船戸結愛ちゃん(当時5才)の虐待死の事件でも、2019年1月の千葉県野田市の栗原心愛さん(当時10才)の虐待死の事件でも、母親が父親の支配下にあり、母親はコントロールされ、自分の意志で動けなかったことが明らかになっています。虐待の背景として、ドメスティックバイオレンス(DV)があるのではないかという視点は非常に重要です。DV家庭で、子どもを置き去りに母親だけが家を出ることなんてできないし、家をでなければ加害に加担したことになりかねません。DV家庭の子連れ避難を攻撃するようなことだけは絶対にあってはならないと私は思います。
DVと児童虐待の関係については、内閣府の政府広報で、非常にわかりやすく説明されています。「DVが起きている家庭では、子どもに対する虐待が同時に行われている場合があります。また、DVを受けている人は、加害者に対する恐怖心などから、子どもに対する虐待を制止できなくなる場合があります。」
DVが子どもに与える影響としては
・空想の世界への避難
・激しい怒り
・常に緊張を強いられ、安全感や安心感が育たない
・他者を信頼できない
・楽しいときがいつ崩れるか分からない不安で楽しめない
・自分がDVの原因だと思う
・罪悪感やDVをとめられない無力感を感じる
・自己評価が低くなる
・強者が弱者を支配するのが当然、「弱いこと」が悪いことと考えるようになる
が挙げられていますが、そのどれもに痛いほど心当たりがあります。
児童虐待防止法は、2004年の改正で、子どもの面前で配偶者に対して暴力をふるうことは、心理的虐待にあたると規定しています。福井大学教授の友田明美先生は、面前DVが子どもの脳に与える影響について研究し、身体的暴力の目撃したときよりも、言葉の暴力の目撃の方が深刻だと仰っておられます。DV事案の中に、別居後に回復が早い子どもと遅い子どもがいて、身体的暴力の事案よりも、精神的暴力の事案の方が回復が遅いことをずっと不思議に感じてきたので、友田先生の研究を知ったときは、なるほどそういうことなのかと合点がいきました。「無視する」ということを見せることも深刻な虐待です。
2017年12月17日のクローズアップ現代をたまたま観ていたのですが、観ていて悲鳴をあげたくなるほど当てはまる事案を知っていました。身体的暴力や怒鳴るなどの威圧はないものの、配偶者を見下して、嫌みを言って、無視をつづける、いわば、「静かなモラハラ事案」から別居して、数ヶ月後、感情のコントロールができなくなった兄が、母と弟に殴る蹴るの暴力をふるい、部屋は穴ぼこだらけ、弟は不登校になり、すべてが悪い方向へ加速していきました。
この国では、精神的DVが軽視されていて、面前DVも軽視されているから、精神的DVの面前DVのことを正しく理解している人は少ないけれど、私は、離婚後に心を壊して回復できない子どもたちをたくさんみてきたから、精神的DVの面前DVの深刻さについて確信をもってお伝えできます。子どもが寝てから話せば良いなどという人がいますが、子どもは両親の間に流れるおかしな空気に敏感に気付きます。持ち帰り残業をして早く寝て欲しいときに限って不思議に寝てくれないという経験をした人も多いでしょう。子どもの直感や感覚は鋭いのです。
別居後に、安全な環境で安心できた子どもは、心身共に回復していきますが、子どもに問題行動が噴出するケースもあります。それは、別居による環境の変化とか別居親との別れによる寂しさなどというものというよりは、苛酷な虐待の後遺症であることがほとんどです。重篤事案ほど、子どもの症状は時間差で表れるのです。学校のいじめの場合も、いじめのあるクラスにいる間には病むこともできずに頑張って、転校後にようやく不登校になることができた子どもが多くいます。時間はかかるけど、そこから回復への道が始まります。傷ついた心は、安心安全な環境で癒やすしかない。家庭でも同じです。DV加害者と同居中には病むこともできず、別居後にようやく問題症状が起こります。
先に挙げた例でも、絶望的な状況にありながら、私の依頼者はDVが与える子どもへの影響に関して専門的に学び、頑張ってきました。事件として終わっているけれど、毎年近況報告をしてくださる方で、一進一退を繰り返して、去年より少しだけ前に進んでいたねという確認しかできないけれど、つながっています。別居したことに後悔はない。後悔するとしたら、もっと早く避難すれば良かった・・・。壊れてしまった家族を表面上取り繕うことの有害さは、もっと知られてよいと思います。家族は時として危険なので・・・この話は、別の講で触れます。
「DVはあるけど虐待はない」は「DVも虐待もある」よりも深刻な事態です。「自分のクラスにいじめはあるけど、私には関係ない」ってことですから。事件活動で見ていても、そういう場合ほど、子どもに加害思考が連鎖していきます。
なお、イギリスでは、DVを家庭内虐待(Domestic Abuse=DA)と改称し、身体的・心理的・情緒的・性的・経済的な形態の暴力とその傾向、及び支配・威圧・脅す態度を広く定義に含め、刑事罰を科して被害者保護を図った上で、児童法で、「危害」を、ひどい扱いや健康ないし発達を害することと定義し、「ひどい扱い」にはそれを受けるだけでなく、それを見たり聞いたりして落ち込むことを含め、非身体的な考慮事項を広くカバーしているそうです。それでも、共同親責任が推奨される制度の下で、子どもの安全が軽視されてしまう問題点が指摘されているとのこと。 今の日本で離婚後共同親権を導入することは、子どものためになると思えません。
安全第一!
今日は、ここまで。
次回は、DVと児童虐待が同時に行われている事例について、もう少し細かくみていきたいと思います。
(参考文献)
長谷川京子 『第7回 先進諸国は子どもと家族への安全危害から「離婚後共同」を見直し始めている』(戸籍995・令3.4)
弁護士の方は、ランディ・バンクロフト/ジェイ・G・シルバーマン著『DVにさらされる子どもたち 加害者としての親が家族機能に及ぼす影響』は、必ず買ってお手元に置くことおすすめします。DVと子どもに関することのほとんどは、ここに書いてあります。書証にも何度も出しています。尊敬する先輩から教えてもらって新人の頃に買いましたが、中堅の先生にこそおすすめです。事件で経験して、もやっと思っていたこと、なんだ、この本に書いてあるじゃんってなります。