いわゆる「ちょんちょん」*1は日本語の引用符である*2。
DTPの普及以降、誤用が急増している。
「ちょんちょん」がフォントのキャラクタに存在しているかどうかという問題はさておくとしても、では、正しい使い方(使われ方)をまとめて記述した資料があるかというと、意外にも見あたらない。校正や組版の解説書でもほとんど無視されているのである。
そこで、以下にちょんちょんの使い方(使われ方)をまとめておく。典拠となるものがあまりないので、個人的見解みたいなものだが、多くの書籍や雑誌がこのようなルールに則って作られていることは間違いない。これが正解と信じてもらっていいはずである。
縦組みの本では。
まず、縦組みの本を前提として、「ちょんちょん」の表記は1である。2のようなものは間違いである*3。2は広告などではよく見かけるが、マネする必要はまったくない。
縦組みの本の中の横組み部分(キャプションとかコラムとか)では、3となり*4。4は使わない。縦組みの本の中の横組み部分は縦組みルールに準ずる。ここ重要*5。
欧文の引用符は5となる*6。つまり、縦組みの本の中で、1と5は共存し、1に統一する必要はない*7。
横組みの本では。
横組みの本では4のダブルクォーテーションマークを使用する。必ず「起こし」と「受け」を区別する。Fのような形は論外。
原則として3は使用しないが、もし3を使用する場合は縦組みルールに準ずることになる*8。
テレビのテロップではEの形をよく見かけるが(NHKだけらしい)、何故わざわざこうするかわからない*9。印刷物には不要だろう。
デザイン差について。
同じちょんちょんでも、書体により多少のデザイン差がある。
横組みのちょんちょんには、縦に並ぶものAと横に並ぶものBがあり、Bには、上上に付くタイプと上下に付くタイプがある。混在させたくないところだ。
写植の文字盤を見ると*10、縦に並ぶAがモリサワ系、横に並び、上上と上下があるBが写研系と言えそうである*11。Aはあまり見映えが良くない気がするが、縦組みと横組みで同じ字形デザインになるのが利点ではあるだろう。ところが、モリサワの書体でもOTFではCのような斜め45度の形が採用*12されている(Bの上上キャラクタもある)。
また、ダブルクォーテーションマークも、Dのように書体によるデザイン差があり、必ずしも66 99な形になっているわけではない。
追補1:書き漏らしたが、プログラミング等で使われる半角の「" "」はまた別物で、「起こし」と「受け」の区別はないし、それで構わない。ただ、これを通常の欧文組版に使うのは間違いである*13。
追補2:ここではあくまで「出版物」「本」の話をしている。チラシや広告などは「縦組みの本」でも「横組みの本」でもないので、当該ルールは一概に当てはめられないのかもしれない(まあ、広告にははずかしい間違いが多いのだけど)。
以下、注釈部は蛇足的説明。
*1:「ダブルミニュート」という呼び方があるが、意味不明である。和製英語みたいだし。この呼び名もDTP以降広まってきている気がするが、できれば印刷業界内だけの用語にしておきたい。個人的には「ノノカギ」という呼び方が間違いがなさそうで良いと思っている。「二重引用符」とも言う。ちなみにユニコードでは「ダブルプライムクォーテーションマーク」という名前になっているようだ。
*2:「引用符」とは言うものの、引用部に使われているかというとそうでもない。単に強調に使う場合もある。文中に「自分の言葉でない言葉」や「本来の意味とは違う(かもしれない)言葉」を挿入するときに使われている感じがある。「」をセリフ、『』を書名に使うと、意味を「括弧に入れる」ための記号が「ちょんちょん」しかない、ということなのかもしれない。
*3:と断言してみたが、2の右の形は結構古い文献にも登場するので、あながち間違いとも言いづらいところはある。が、それは昔は表記法が確立していなかったからだということにしておこう。つまりは「退行」である。写植の登場で表記法は確立し、DTPでやや逆行した。とりあえずそういう理解でいいと思う。明確な「デザイン処理」としてであればアリかもしれない。さらにあえて言えば横組みの本の縦組み部分で使うのはアリなのかもしれないわけだが、そこまでして使う必要もないだろう。
*4:上上タイプと上下タイプがあり、出版社ごとに?違っていた。上上タイプのほうが多数派だったが、今は混沌としている。OTFでは上下タイプがデフォルトなので、今後はこちらが主流になると思う。
*5:ただし、版元によっては、縦組みの本の中でも横組み部分は横組み組版のルール(アラビア数字使用、カンマ・ピリオドなど)を厳格に適用することもある。これを否定するものではない。
*6:欧文というか英文だな。
*7:欧文組版において複数の言語が混在する場合、それぞれの言語の引用符を使い分けるという。日本語組版でも同じである。ただし、文中に頻出する場合は、使い分けをしないで1の和文用引用符に揃えることも考えられる。
*8:何故3を使わず4なのか。これは横組みの本(特に理工系の本)で「、。」の代わりに「,.」を使うのと同じだと考えれば理屈に合う。では、横組みで「、。」方式ならば3が良いのではないか。まあそう言う理屈になるかも知れないが……。理工系でない普通の本でも横組みが採用されるようになってから、まだ歴史が浅いということだろう。
*9:TVは解像度が低いため濁点と見分けられるように配慮した、との説があるようだ。
*10:もちろん所有してるわけじゃないので、朗文堂の見本帳から。
*11:だからしてヒラギノは写研系、小塚はモリサワ系なわけである。
*12:意図は不明。まるでデザインを放棄したかのよう。明らかに改悪だと思えるのだが。