直接販売証明書による随意契約についての解説です。官公庁がメーカーと契約するときに、直接販売証明書による随意契約が多いようです。しかしメーカーと直接契約することと、競争性の有無は全く関係ありません。直接販売証明書は適正ではないです。
直接販売証明書は随意契約の理由にならない
2013年頃から、WEB上の官公庁向け広告や営業案内で、直接販売証明書の発行が可能です、と宣伝している民間企業が増えています。どうやら、簡単に随意契約できますよ、という意味で直接販売証明書を使っているようです。
直接販売証明書とは、官公庁との契約を希望するメーカーや販売店などが、官公庁の契約担当者へ提出する書類です。直接販売をアピールする目的は、一般競争入札や見積もり合わせを行わずに、契約手続きが簡単になりますよ、という宣伝で使っているようです。
直接販売証明書が意味すること
直接販売証明書は、契約した事実を証明するだけの書類です。官公庁が契約した相手方から提出される書類なので、当然のことながら仲介業者は存在しません。官公庁と直接契約しているので、直接販売証明書が発行されているだけです。
つまり、誰とどのように契約しても直接販売です。
直接販売証明書は、競争性の有無を証明する書類にはならないのです。
随意契約に直接販売証明書が必要?
官公庁の契約担当者が直接販売証明書を必要としている理由を解説します。(間違った考え方なので注意してください。)
官公庁が物品などを購入する場合は、一般競争入札が原則です。例外として指名競争入札、少額随意契約、競争性のない随意契約を認めています。地方自治体も、地方自治法に同様の規定があります。
会計法
第二十九条の三 第一項
契約担当官等は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項及び第四項に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。
上記の会計法では一般競争入札の例外として、指名競争契約(第三項)、競争性のない随意契約(第四項)、少額随意契約(第五項)を認めています。
直接販売証明書は、これらの契約方式のうち、競争性のない随意契約の証明書類と考えられているようです。競争性のない随意契約の根拠法令を確認します。
第二十九条の三 第四項(競争性のない随意契約)
契約の性質又は目的が競争を許さない場合(略)においては、(略)随意契約によるものとする。
性質又は目的とは、契約の内容という意味です。つまり契約の内容が競争を許さなければ随意契約という規定です。
競争を許さない場合とは
それでは、競争を許さない場合とは具体的にどのような状況を指すのでしょうか?
理解しやすいように単純な状況で解説します。
あるメーカーが、特殊な技術を用いた製品を完成させ、日本だけでなく世界中で特許を得たとします。そして、その特殊な特許製品を自社で生産し、代理店や販売店を設けずに直接販売するとします。
この状況下では、官公庁が契約できる相手方は、世界中で1社しか存在しません。特許によって市場での独占販売が許されているからです。これが競争を許さない場合の典型例です。
独占的な販売が法律で認められているので、競争を許さない場合に該当します。随意契約を締結するのに必要な書類として、特許権を証明する資料や、生産・販売体制を確認する資料などを取り寄せ、随意契約理由書と一緒に契約関係資料とします。
メーカーが直接販売する、直販の意味
メーカーから直接購入する場合、直接販売証明書があれば随意契約できるのか考えてみます。
メーカーから直接購入するのですから、代理店などを経由しません。手数料などの中間マージンが発生しないので、契約金額が安くなると思うかもしれません。しかし官公庁の契約手続きでは、安いから随意契約するという考え方は間違っています。安いかどうかは競争入札を行った結果でしかわかりません。もし他社より安いという理由であれば、一般競争入札や見積もり合わせを実施しなければなりません。他社より、ということはライバル企業があるということです。競争性があると判断しているわけですから、競争性のない随意契約はできません。
つまりメーカーから直接購入するという理由は、他に販売店がない、競争性がないという理由とは全く別のものです。
直接販売証明書が適正でない理由
官公庁が競争性のない随意契約を締結しようとするときに、なぜ直接販売証明書を求めるのか、それは適正な手続きなのか考えてみます。
直接販売証明書は、代理店などを経由せずに、直接契約するという証明書です。メーカーから見れば、官公庁と直接契約するわけですから、当然、事実どおりの証明書です。証明書の発行は全く問題ありません。
メーカーでなくとも、多数ある代理店や販売店から恣意的に1社を選んだとしても、その販売会社は直接販売証明書を提出します。官公庁と契約する会社は、全て直接販売証明書を提出できるのです。
またメーカーが直接販売する場合でも、加えて代理店や販売店、小売店で販売しているケースが多いのが実際の社会です。
例えば、パソコンなどは、インターネット上でメーカーサイトが直接販売してます。大手家電量販店でも購入できます。秋葉原などでは多数の店が販売しています。数え切れないほど多数の競合する販売店が実在するわけです。多数ある販売店を排除して、直接、メーカーと随意契約することは、競争性を確保するという契約方式の原則から逸脱した手続きです。メーカーからすれば、自社と随意契約してもらえるなら、直接販売証明書を提出します。実際に直接販売するわけですから。
販売店が複数実在するのに、直接販売証明書を理由にして、随意契約を行うのは会計法令に違反しています。
おそらく、メーカーと直接契約すれば安い、という誤った考え方と、そもそも競争契約を原則としている意味を誤解しています。
現実に、メーカー直販よりも代理店や販売店の方が安価なケースは、数え切れないほどあります。仮にメーカーと代理店が競争するなら、通常はメーカーが辞退します。そうでなければ代理店が育たず、販路を広げることができないからです。
直接販売証明書の中に、他の代理店を通さず直接販売する、あるいは他に販売店はなく、という文面が加えられていたとしても、競争性がないという証明にはなりません。なぜなら、今回の契約をメーカーと直接契約する時点で、事実として代理店などを経由していないからです。今回の契約は、代理店や販売店を経由せずに直接契約しているわけです。
会計検査院による実地検査で、メーカーとの直接契約について、直接販売証明書を取り寄せれば随意契約は問題ない、との誤った指導をする調査官が一部に存在するようです。これらの指導が原因で、直接販売証明書があれば随意契約できるという、誤った考え方が広まっています。
直接販売証明書という書類は、発注者である官公庁側から見れば、あってもなくても、全く意味のない書類です。
また、競争性のない随意契約を締結しようとして、官公庁側の契約担当者が直接販売証明書の提出を依頼し、他の代理店を経由せず、という文面を加えるよう強制すれば悲惨なことになります。
代理店を排除するということは、メーカーが代理店などへ商品を卸さないよう、独占禁止法に違反するような行政指導を行っていることになり、大きな問題になってしまうのです。
一般社会では、自社製品の販路を広げたいと考えるのが自然です。自由競争が日本の市場経済の大原則です。メーカーは販売店を拡大したいですし、それを阻害するような行為を公的組織が行うべきではありません。
メーカーと代理店の競争
仮に一般競争入札で、メーカーと代理店が競争に参加したとしましょう。
入札結果はどうなるでしょうか。
メーカーが落札するとしたら、独占禁止法違反の可能性があります。自社が落札するために代理店への卸価格を制限している可能性があるからです。
メーカーと代理店が入札を行えば、代理店が落札するのが自然です。メーカーは、自社製品を売ってくれる代理店を育てるため、代理店よりも有利な金額を提示しません。そうでなければ代理店がつぶれてしまいます。メーカーが身を引くのが一般社会です。
最初の方で解説した、メーカーとの直接契約なら代理店の中間マージンが必要ないので安く契約できる、という考え方も間違っています。一般的には、メーカーとの直接契約の方が高くなることの方が多いです。
直接販売証明書自体が意味のない不要な書類ですし、直接販売証明書を理由とした随意契約は、不適切な契約手続きの疑いが濃厚です。
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